ホーム :第1章 高岡漆器についての導入的説明 :第2節 工程と分業 (坂田 美紀) :

塗り

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 「漆」というと高級なイメージだが、高岡漆器ではどのように扱われているのだろうか。
 漆は、漆の木から採取した樹液が原料で、もともとは乳白色をしている。色がない状態だ。現在では加工されたものが市販されている。色がない状態に鉄分などを入れて色を作り出すのである。また、漆は塗ってからしばらくすると色が少し変わり、本当に色が定着するには3年から5年ほどかかる。しかし、何年も何年も経つうちにいい色が出てくるそうだ。
 塗った漆は乾燥させるが、これが難しく、職人の技と経験が発揮されるところである。25度付近の温度と70〜85%の湿度が必要。それに、使用する漆の種類や塗りの厚さなども加わって、塗るたびに乾燥状態が微妙に異なってくるという。
塗りは数回に分けて行い、塗って、乾かして、磨いて、塗って…の繰り返しだそうだ。
 やはり漆は新しい塗料に比べ、時間がかかるらしく、また、直射日光がいちばんよくないという。

<カシュ塗料>
 塗料はもちろん漆も使われるのだが、他にもカシュ塗料(※南米やアフリカなどで産出されるカシュ樹の果実から採取される油、カシュナッツオイルにフェノール樹脂を合成したもの)やポリエステル塗料などがある。しかし、本物の漆とは照りが違うそうだ。
 昭和26年頃、漆の入手が困難になり、昭和33年に日中貿易の中断によって漆の輸入が途絶えたこで、高岡では漆からカシュへの転換を余儀なくされた。
 カシュ塗りの特徴としては、塗料の安定供給、安価、乾燥が大気条件にそれほど左右されないなどが挙げられる。漆の欠点を補う魅力があるそうで、高岡ではカシュ塗料は漆の伝統技法そのものの中に組み入れられている。

<道具について>
 塗りに使用する道具はへら、太さが様々の筆など50〜60種ぐらいがある。作品を作るにはにはこれらのたくさんの種類の道具を使わなければならないという。
例えば、ハケだと幅が違うことで塗る回数も違ってくる。それに、作るものによっても作業に使う道具は違ってくる。UAさんは、ハケがたくさんもっているが、使いきれない物もたくさんあると言っている。
 UAさんは髪の毛で作ったハケを持っているそうだ。人間の髪の毛で作ったハケである。どんな髪の毛でもいいかといえばそうではないらしく、海の近くで潜ってアワビなどを採っている海女さんの髪の毛がいいのだという。海女さんの髪の毛は、海水がしみこんで折れにくくなっているからだ。

 ある職人さんによれば、塗りだけでも4回ほどするそうだ。黒色で木の目をなくすように塗ったりしているという。塗った後はある程度の時間をおいて乾かさないと品物になってから木の目が見えてしまうらしい。塗りの工程は、塗って磨いて乾かし、塗って磨いて乾かし…の繰り返しなのである。
 もちろん、時間をかけた方が良いものができるけど、お客さん側の都合もあるのでその辺は難しいそうだ。あわててした仕事には必ずしわ寄せがきて、支障が起こるという。また、機械でできない仕事ばかりで細かい部分は人間の手がないとできないのでそういったところも難しいところのひとつのようだ。
 塗師の方はやはりそれぞれにこだわりがあるようだ。MKさんのところでは、昔はカシュ塗料を使っていた磁器もあったそうだが、今は漆一本でやっているという。科学塗料は使わないそうだ。漆に関しては、「天然塗料を使っている」という意識があると言っている。


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