報告書の概要(伊藤 智樹)

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 本報告書は、2003年度後期「社会調査法」の成果である。この授業では、富山大学人文学部社会学コースの2・3年生が、前期でレクチャーされた社会調査の基礎を応用する能力を身につけるため、実際の社会調査を企画・遂行する。
 まず、前期「社会調査法」履修者のうち、この後期の調査実習にも関心を持つ学生とあらかじめ何度かミーティングを持ち、調査テーマの確定を行った。そのテーマとは、伝統工芸職人へのインタヴューによる生活史(ライフ・ヒストリー)研究である。つまり、職人個人に対して、どのようにしてその職を選び、技を習得し、現在に至っているのかを直接聞き取ってゆくスタイルの社会調査を採用することにした。
 夏季休暇中、学生には「実際にどのような伝統工芸があるのか、情報を集めよ」という課題を出した。その際「伝統工芸」という言葉はルーズにとらえ、芸能や食品などを含め、地域に伝わる「技」を含むものであれば調査対象の候補として考えることにした。後期開始早々には調査対象の絞り込みを行った結果、高岡漆器を選ぶことにした。その理由は、第3章第5節の冒頭で述べられているように、ちょうどその頃掲載された新聞記事から、時代に応答し適応しようとする高岡漆器の姿が垣間見えたからであり、そうした中で生きる職人たちはどのようなことを考えているのだろうか、という好奇心を学生たちが持てたからである。もちろん、学生が授業期間中に調査を行うことを考えて、富山市からの交通の便がよい高岡を選んだ、という理由もある。
 10月20日に、伝統工芸高岡漆器共同組合に伊藤が協力を要請し、8人の職人を推挙してもらった。推挙にあたっては、年齢的なヴァリエーションを加味してほしいというお願いをしており、それが後に、この報告書に重要な視点を与えてくれた。文献講読など最低限の準備作業を大急ぎで行い、11月にはインタヴューを実施した。受講学生15名が2人ずつ8つの調査チームを組んで、それぞれの調査にあたった。インタヴューは、すべて協力者の許可のもと録音され、文字に起こされた。このトランスクリプト作成作業は、学生にとっては相当な負担だったようだが、インタヴュー調査では「録音→トランスクリプト作成」が基本なのだということを身に染みて理解してもらうのが、この授業の主要なねらいであったといってよい。
 12月に入って、データ分析と報告書執筆分担を行い、翌2004年1月から2月にかけて草稿作成とフィードバックを繰り返した。ここでは、やはり時間が足りず、計15回の授業の他に研究会を1回行った。それでも、考察を練ってデータへ再度踏み込んでゆく試行錯誤の過程は充分とはいえず、研究としては多々不足があると思われる。しかし、第3章では興味深い視点をいくつか提出することもできたため、教育的研究の成果として、ここに公開することにした。
 最後に、調査にご協力いただいた伝統工芸高岡漆器共同組合および職人の皆様に、改めて御礼申し上げたい。