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調査を終えて

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――調査に携わった学生たちの声から――

 

伝統工芸は時代に左右されずに作品を作り出せるものだと私は思っていた。だから時代に作品を適合させなければならないことには正直驚いた。そして私のインタヴュイーが時代に適合させるために、シンプルな作品を作らなければならず、持てる技術を発揮できないことを嘆いていた事が何よりも印象深い。伝統工芸がこれからも廃れないためには、その伝統工芸が持つ特色を、それを作る職人の業の巧みさを認めるとともに、それを見る側の我々の意識を変革しなければならないのかもしれない。

伝統産業というと、昔から作っているものを変えずにそのまま伝えていくものだと思っていたけれど、高岡漆器のように、今の時代に合わせて作品をつくろうとしているものもあるのだということを知った。

おそらくこの授業で取り上げなかったら、「高岡漆器」という名前は知っていてもそれだけで終わっていたと思います。私の中で「職人さん」というと「頑固で筋が通っている」といったイメージがありました(それに関しては今もそう思うのですが)。後継者問題について話しておられる職人さんが印象的でした。他の伝統工芸と同様、高岡漆器でも後継者問題は大きな問題のひとつだと思われますが、漆器のことがどんなに好きでこの先ずっと守っていきたくても、現実は厳しいようです。時代の流れで、高岡漆器も変換を余儀なくされるのかもしれませんが、私たちが実際に作品を見て感動したような、「いいな〜」と感じられる作品がたくさん生まれてほしいと思います。

機械では絶対に出せない風合い、完成度の高さ、そして何よりも一つ一つの作品に職人の生き方そのものが凝縮されている。漆器も変ってきているが、漆器の良さや日本独自の文化の中で築き上げられた漆器の持つ歴史をこれかも途絶えることなく後世につなげていけるように、消費者である私たちも漆器の貴重さを再認識していかねばならないと思う。

インタヴュー調査ということで緊張した部分もありましたが、インタヴューによってでしか分からない職人さんの高岡漆器に対する思いなどを聞けたような気がします。伝統工芸いうものに対して自ら危機感を感じていることや、世代によって考え方が変ってきているということはとても興味深かったです。

今回の調査法の授業を通して、漆器と職人の実情に触れることができました。一般的に「伝統」というものにカテゴライズされている種類の品物であり、業種であるために抱えるもの―古い、敷居が高い―などの、自分がこれまで抱いていたイメージが少し変わった気がしました。時代の変化に対応する、伝統を守るなどの、職人や団体のそれぞれの生き残り戦略を知り、これからこういった伝統産業の行く末についての興味も持つようになりました。現代社会は大量生産大量消費の時代から変わりつつある、と言われてはいるものの、その実情は機械化による大量流通が主体であることは明白です。時代の変遷に伴い、かつての精神文化は物質文化に席巻され、西洋文明の流入による生活様式、意識の変化は著しいものがあります。しかし、人と時代は常に変化し続けます。これから時代はどう変化し、漆器や、伝統産業もどのように変わっていくのでしょうか。時代の変化というものに肩まで浸かっていてはそれを見失うこともありますが、時に時代を振り返り、その変化を捉えていきたいと思います。

職人さんの作ったものを間近でみて、機械では作れない細かさ、柔らかさ、暖かさがあと思った。その素晴らしさに多くの人が気づけばいいなと僕も思った。

地道な作業をやって、あんまり目立たなくて、華やかでもかっこよくもないけど、それでも「職人」を続けている人にはそれなりにわけがあって、時代が時代なので、「職人」を離れていく人がいてもしかたないわけで、そんな中で自分で納得して「職人」を続けている、ということを素敵なことだなあと思いました。少し自分の将来の参考にもしたいと思います(職人になるわけではありませんが)。

今回の調査は、インタヴューが中心だったわけですが、「語り」を分析することはとても興味深いものでした。分析というと、どうしても内容、つまり質問に対する「答え」が重要になってしまう。もちろん、重要なのは確かだけど、答えそのものというよりも、その人その人の「答え方」、つまり「語り」は本当に人それぞれで、「答え」以上に伝わってくるものがあったように思います。実際に顔を見ながら、同じ空間を共有しながら、というインタヴューのおかげなのでしょう。また、親しく話したからこそ、トランスクリプトも実際の会話に忠実だったように思います。言語というのは文字にすると一辺倒で、表現の違いくらいにしか思わないものですが、今回のトランスクリプトからは、インタヴューの人柄まで感じることがでました。テーマ別分析としては、必ずしも端的な答えが明確ではなく、苦労もあったと思いますが、8人の「語り」から高岡漆器という全体像を見るというのは、とてもおもしろかったのではないでしょうか。

インタヴューはとても難しいものだと再確認しました。とにかく穴がありすぎた!インタヴュー項目の確認を若干疎かにしてしまったせいか、なかなか突っ込んだ話が聞けなかったような気がします。また基本情報の確認など、基礎的な部分が欠けてしまったところも反省点の一つです。「行けばなんとか聞けるだろう」と思ってました。たぶん「なんとかなるだろう」っていう気持ちで行かなければ聞けなかった、という部分もあったかもしれません。でもやっぱり事前の調査なり心積もりなんかはしっかりしといた方がいいと心から思いました。

せっかく高岡漆器について知ることができたので、なんか、日常的に使えるものとかほしいです。箸とかほしいのですがいくらくらいかかるのでしょうか??箸欲しい〜。

私は職人さんたちの「漆器への思い」を調査の中ですごく感じました。高岡漆器の将来を心配している声がインタヴューの中で聞かれたのも事実ですが、それでも消費者に何とか高岡漆器の良さを分かってもらおうとアピールしたり、活動を続けられている職人さんの姿には心に訴えるものがあったと思います。しかし、衰退していっていると職人さんたちが嘆いていたように、高岡漆器の職人も高齢化が進み、産業の構造自体が変わっていってしまうのかもしれないなぁと思わされる部分もありました。どちらにしろ、これから高岡漆器がどのように変わっていくのかとても興味が持てました。そして、伝統産業や手仕事といったようなものがこの先どのように生き残っていくのかなぁ・・・とちょっと考えさせられてしまいました。日本の文化の一部でもあることですし、時代に取り残されずに残っていってほしいです。インタヴューにご協力いただいた職人さんたちには本当に感謝します。特に、私は三章担当でしたが、いろいろなデータがなかったら完成できなかったと思うので、本当にインタヴュイーが多くて助かりました。この場を借りて、ありがとうございましたとお礼を言わせていただきます。


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