近年の社会学的試みは、非常に魅力的な展開を見せているように思われる。そしてそれは社会学が、「社会」の学であるということから出発し、そもそも自己を位置付けているところの「学」そのものの在り方を深く問い直してきた結果として導かれてきたものである。しかし残念ながら、この魅力に対して充分な評価を与えられているとはいい難いのが現状である。このことは一方では、社会学内部に諸潮流(注1)が乱立しており、これらが充分に整理されていないことにも依るであろう(注2)。しかしそれ以上に、この新たな「学問」としての在り方が従来の学問的探求の方法を大きく揺るがすものである故に、そう簡単には受け入れられるものでないということも見逃せない。そこで以下本論においては、社会学内部の諸潮流を概観しながらこの魅力を再確認し、新たな「学問」の方向性をより明確に位置付けることを目指す。ここでは便宜的に、「新しい学問」と「従来の学問」という表現を用いることにする。
 そこで先ず中心的に問い直さなければならないのが、「決定不可能性」の問題である。これは第一にこの問題が、「学」の自己反省を行った場合に必ずその向こう側に待ち受けているということに、そして第二に、「従来の学問」と「新しい学問」がこの問題をめぐって、もっとも明確な対立を示しているということによるものである。
 具体的には先ず第I章で、本論の鍵概念である「決定不可能性」の問題を再確認し、続く第II章、第III章においてはそれぞれに個別のトピックをとりあげて「従来の学問」との差異を語るかたちで「新しい学問」の魅力を明らかにしていくことになる。これは「新しい学問」が、「従来の学問」の自己反省を経て登場してきたという点においても有効な方法である。この際特に、ルーマンのシステム理論と社会構築主義を中心的に採り上げることにする。これはこの両者がこの、学問の新たな潮流を中心的に担っているものと考えられるからである。最後に第IV章においては、この新しい流れをよりラディカルに進めていくために、ルーマンのシステム理論及び社会構築主義のいずれとも異なるもう一つの研究の方向性を具体的に提案することになる。

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