第3章 質問紙調査の概要

第1節 質問紙調査の目的

これまでやおいについての言説は、2章までで述べてきたように、幾つか挙げられるが、実際の、やおいを消費する読み手、つまりやおい少女からの視点というようなものに関しては、若干弱いものがあるといえよう。そこで、実際に同人誌の即売会会場で、会場に同人誌を買いに来ている女性を対象に質問紙調査を行うことにした。

調査日は8月14日(東京)と8月23日(大阪)での2日間。東京は夏のコミックマーケット、大阪はそれに次ぐ規模の即売会である。両日とも同じ2サークル(注・1)に協力していただき、そのサークルの同人誌を買いに来た女性に手渡しで配布し、郵送を依頼した。配布総数は東京1300部、大阪700部の合計2000部。有効解答数は255部であった。

第2節 質問紙の内容

(質問紙と単純集計は論末に資料として添付)
調査内容は、大きく分けて3つの分野に分かれている。
まず、同人誌ややおいについての質問では、予備調査として、富山大学の学生で実際にやおいを含む同人誌を描いている女子学生6名に口頭で簡単な質問をして、それを基に、質問を作成した。

次に恋愛に関してである。やおいで描かれるストーリーは紛れもなく恋愛である。さらに、そこでは、性描写の存在というのは大変重要なものである。第2章でもやおい少女の恋愛や性について触れた言説もあった。そこで、実際にやおい少女の恋愛観、性意識というのはどのようなものであるのだろうか。今回恋愛に関しては、「恋愛の主観的構成」(山田昌弘、1991)において1991年7月、首都圏3大学の学生を対象に行われた調査を参考に質問作成し、やおい少女の意識の特徴を調べるために大学生の調査結果と比較することにした。同人誌即売会に参加するやおい少女群と大学生は年齢層は極めて近いものと予想され、比較に値すると考えた。

最後に、ジェンダー意識についてである。第2章で繰り返されてきたのは、ほとんどがジェンダー意識にかかわることである。そこで、実際にやおい少女にジェンダー意識について質問を試みた。これらも、やおい少女と、非やおい女性を比較する目的で、内容を、「性表現の主体としての女性」(岩井,1995)において1991年5月から10月にかけて行われた調査を参考に質問を作成した。

次に質問紙中の各設問について、紹介し説明する。

問1から問5までは回答者自身についての質問である。年齢、家族構成、職業、学歴、結婚経験の有無である。

問6から問11は同人誌について訊ねてみた。同人誌を読み始めた時期、どのような同人誌が好きか、パロディについてなど。特に問8はパロディ同人誌の特徴のひとつとして、描き手と読み手の垣根が低いことが予想されたため、同人誌を作ることへの関わりかたについて聞いてみた。

問12はやおいとは何かと、直接質問した。これは第1章でやおいの定義を試みたが、そこでも述べたように、やおいという言葉の持つ意味は言葉が使われるようになってから20年近く経っていることもあり、極めて混沌としているといえる。実際に、同人誌を読む側ではどのように受け取っているのかを訊ねてみた。

問13から問18はやおいについての質問である。問13でやおいを読むと解答した人を対象に、読み始めた時期、きっかけ、性描写について質問した。そして問18では全員にこれまで好きだったジャンル、キャラクター、カップリングについて、具体的に書いてもらった。これは、第2章で述べた、やおい少女の視点が、どちらに置かれているのかの手がかりになると考え、特に、カップリング内における、好きなキャラクターの位置について注目した。

問19はやおいや同人誌について、回答者の意見を自由に書いてもらった。やおいや、同人誌に関する考えと恋愛観や、ジェンダー意識との相関があると面白い。
問20は女性性の受容についての質問。
問21、問22は恋人や異性の友人の有無についての質問。

問23、問24は恋愛についての質問。恋愛の価値付け、恋愛と結婚、性関係の関わりかたについて、欲求上の結びつき、意識上の結びつき、排除規範についてそれぞれ5段階で訊ねた。

問25、問26は結婚を含めた、人生設計についての質問。
問27はジェンダー意識についての質問である。ジェンダー意識に関わるとわかりやすい質問は質問によるバイヤスがかかりやすいと思われたため、一番最後に持ってきた。ここでは、特に社会と女性の関係の在り方に付いての質問18項目について、5段階で質問した。

(注・1)協力していただいたサークルは「Crocodile−Ave.」と「OKUMOK RECORDS」の2つ。前者は、現在プロとしても活動中の村上真紀さんのサークル。オリジナル作品を中心に、ゲームや芸能などのパロディ作品も多く、幅広い活動をしている。同人誌上においては、割と激しい性描写がある作品が多い。後者は社会人で同人誌活動も行っている奥ゲン子さんのサークル。小室哲哉系の芸能パロディサークル。作品中にはやおいはほとんどない。2サークルの傾向は違うが、共に行列ができるほどの人気サークル(コミックマーケットほどの即売会でも、男性向けサークルは違うのだが、女性向けサークルで行列ができるほどのサークルは一部である)であり、様々な読み手が集まることが予想された。