宋本『山海経伝』(現存最古の『山海経』版本)


『山海経』について

 『山海経』は中国最古の空想的地理書と目されるが、その内容は山川の地理、動植物や鉱物、山岳祭祀、辺遠の国々と異形の民、伝説上の帝王の系譜など多岐にわたる。その中には奇怪な姿の動植物や神々が多く記されるため、後世には専ら怪物事典として娯楽の用に供されるようになり、現在でも「山海経」でサイトを検索すると、怪物マニアの作った興味本位なサイトが多数引っ掛かる。しかし「魑魅魍魎の跋扈する世界」はあくまで『山海経』の一部にすぎない。

 では誰がいつ、何のためにこの書を作ったのか。私自身はこの書の主要な部分は戦国末期までに成立し、成立場所は従来言われている戦国の楚国だけではなく、斉国の稷下学士も関与していると考えているが、この根本的な問題についてさえ、今もって定説はない。ただ諸説が一致するのは、「一人の人が一度に書いたものではない」ということだけである。全十八巻のこの書は五蔵山経(巻一~巻五)・海外四経(巻六~巻九)・海内四経(巻十~巻十三)・大荒海内経(巻十四~巻十八)に分かれ、それぞれで内容も文体も異なり、同時に同じ人の手で成立したものでないことは容易にわかる。

 しかしそれぞれの部分はまとまった世界を構成しており、単なる断片の寄せ集めではない。大勢の人々によって書き継がれてきた記事がもとになっているとしても、それをまとめたのは少数の人物だったはずである。そして四つの部分が『山海経』という書物にまとまったのも、単なる偶然と片付けるには不安がある。考えるべき問題はまだまだ多い。

 知識人の思想や行動の規範となった経書、より良い政治を目指して論争が繰り広げられた諸子の書とは、全く違うところにこの『山海経』がある。この書を通じて中国人の知られざる一面を明らかにできる日が、いつか来ることを願うものである。

『山海経』の構成

『山海経』の諸注釈

『山海経』の研究書

日本国内『山海経』論著目録

『山海経』郭璞注電子テキスト

改版履歴
2002.5.6   Ver1.2 西山経5「符禺之山」里程の誤りを修正.
2002.2.12  Ver.1.1 五蔵山経末尾の「禹曰」や、海内南経・大荒南経の表題が前の段落に続いていたのを修正
2001.12.26  Ver.1.0 公開
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