テーマ部会1 「差別問題と権力」
「差別−被差別」という関係性を理解するうえで、「権力」という視点は必要欠くべからざるものであるし、最も重要な視点であるとさえ言えるでしょう。
しかしながら、「権力」という概念は社会学にとって根本的な概念であるにもかかわらず(「だからこそ」と言うべきか?)、それほど単純なものではありません。とりわけ、フーコー以来の「新しい権力論」は、権力関係について重要な知見を与えてくれただけでなく、解決すべき多くの課題も提起しているように思います。
そこで、このテーマ部会では、「新しい権力論」を差別問題に適用したときに、どのようなことが見えてくるのか、どのような課題が提起されるのかを、二人の会員の最近の研究を叩き台にして検討したいと思います。
報告者の一人、佐藤裕は、「三者関係論」という枠組によって、差別問題を理解するためには「差別−被差別」の関係性だけでなく「差別−共犯」という視点も必要であると論じています。従って、差別問題に関る「権力関係」も「差別−被差別」という軸と「差別−共犯」という軸が絡み合ったものとして捉えています。
もう一人の報告者、山田富秋は、フーコーの権力論とエスノメソドロジーを下敷きにして、「差別−被差別」関係の権力作用を、両者の関係とそれぞれのアイデンティティを規定するカテゴリー化の実践であると捉えています。
両者の共通点は、差別問題に関る権力関係を、差別する側からされる側へと向かう一方的な暴力としてではなく、(被差別者も取り込む形で)共有化された「知識」の達成こそが権力関係を生み出していると考えている点です。
しかし、山田が「差別−被差別」の非対称性についての「知識」を重視するのに対して、佐藤は「差別−共犯」の同質性についての「知識」を重視しているという違いがあります。
また、もうひとつの共通点として両者ともに「カテゴリー化」を権力作用の鍵として捉えていることがあげられますが、カテゴリー化と権力作用の関りについての見解には微妙な違いがあるようにも思われます。
当日は、以上のような二人の報告者の発表をもとに、またコメンテータによる異なった視点からの問題提起も受けながら、「差別−被差別」の権力関係、共犯関係、カテゴリー化と権力などの問題について、突っ込んだ議論がなされることを期待しています。
(文責:佐藤 裕)
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