第3章
女性雑誌分析概要
第1節 分析目的
メディアは女性に対し「あるべき女性像」を提示し、「美しくあるべきである」というメッセージを絶えず送っている。
特に受け手が女性に限定されるメディアである女性雑誌には「化粧品」「ダイエット」「エステ」「整形」といった「美容」に関する記事や広告が多数見られ、女性たちに対して様々な形で「身体の加工」によって「美しさ」がつくり得るものであると提示している。 そして女性たち自身も「身体加工」を自然と受け入れているのではないだろうか。
また「身体加工」に関する情報はとりわけ「美しさ」を求められると考えられる若い女性に向けられたものが多く、身体に対する加工の度合いは年齢によって異なったものが提示されているのではないだろうか。このことについて女性雑誌を数量的、内容的に分析していくことにより検証していきたい。
そして女性たちを「身体加工」へと走らせる役割を果たすと考えられる女性雑誌の送るメッセージを分析することから、女性たちがなぜ「美しさ」を求めて「身体加工」に走るのか考察していきたい。
第2節
「身体の加工度」
女性雑誌に多く見られる『おしゃれ』に関する広告記事や広告は『ファッション』、『美容』の二つの内容に大きく分けられる。また『美容』の内容は『化粧品』と『痩身・整形』に細かく分類することができる。またこれらは「美しさ」をつくり出す手段であり、身体に対し何らかの形で加工を行っている。
そしてそれらの「身体加工」はその身体に対してどの程度手を加えたかという度合いに応じて「身体の加工度」という観点から、順序付けて考えることができる。実際に『おしゃれ』の内容をその「身体の加工度」でとらえてみてみると『ファッション』→『化粧品』→『痩身・整形』という順序が付けられる。
『ファッション』においては、衣服やアクセサリーによって「身体を着飾る」ことで「美しさ」を追求している。また『化粧品』も身体に何かを塗ることによって「身体を着飾る」という要素が強い。(身体に直接何かを塗るといったことから、『化粧品』のほうが『ファッション』よりも「身体の加工度」は高い。)それに対し、『痩身・整形』においては、「身体そのものを改造する」ことが「美しさ」を追求する手段として用いられる。このことから『痩身・整形』は「身体の加工度」が最も高いといえる。
また今回の分析では詳しく言及しないが、『痩身・整形』の中には『ダイエット』『エステ』『整形』といった「身体加工」の要素があり、その中でも一度加工してしまうと元に戻すことが非常に困難であるということから『整形』が最も「身体の加工度」が高いといえる。(図3−1参照)
図3−1 身体の加工度
<身体の加工度> (低)
おしゃれ 化粧品
ダイエット 痩身・整形 エステ 整形 (高) |
分析はこの「身体の加工度」を踏まえて進めていきたい。
第3節
分析概要
第4章そして第5章において分析を行っていく。その内容を以下に記す。
第4章 女性雑誌分析
第1節
ファッション誌分析
第2節
ファッション誌・女性週刊誌 比較分析
第3節
先行研究比較分析
第5章 広告分析
第1節 コピー分析
第2節 体験談分析
第3節 身体加工の問題点
第4章の「女性雑誌分析」では女性雑誌をページ数といった数量的な側面から分析していく。
第1節では年齢ごとに分類した「ファッション誌」を、それぞれの属性の雑誌における言及分野を数量的にカウントし、年齢ごとに『美容』に関する情報がどの程度の比率を占めているのか、内容的にどのように変化しているか分析していくことから、年齢ごとに「身体加工」はどのような形で提示されているのか見ていく。
第2節では第1節と同様の分析を「女性週刊誌」で行い、第1節で分析した「ファッション誌」との違いを考察する。
第3節では「ファッション誌」「女性週刊誌」両方について言及分野における先行研究(1)との比較を行い、『美容』に関する比率が誌面においてどう変化しているか見ていき、「身体加工」に関する情報が増えてきているのか、減ってきているのか考察する。
第5章の「広告分析」では女性雑誌に多く見られる『美容』に関する広告を取り上げ、そのなかでも広告における表現について内容的な側面から分析していき、「美しくありべき」というメッセージがどのように提示され、女性たちが「身体加工」へと走っていく意識の背景を探る。
第1節「コピー分析」では女性雑誌の『美容』全般(『化粧品』『痩身・整形』など)に関する広告中に見られた特徴的なコピーを抜き出し、そこから分析していく。
第2節「体験談分析」では『美容』の中でもとりわけ「身体の加工度」が高い『痩身・整形』の広告を取り上げ、そこに多く見られるそれらの商品、サービスの推奨者の体験談をもとにその内容を分析する。
第3節「身体加工の問題点」では「身体加工」を女性たちに促す広告の問題性、それに対する規制について考察する。
第4節 分析対象
女性雑誌の中で一番発行部数の多く、読者の年齢や属性に応じてそれぞれ発行されている「ファッション誌」を中心に分析を進めていきたい。(第4章、第1節)
また「ファッション誌」に次いで発行部数の多い「女性週刊誌」についても「ファッション誌」との比較をする。(第4章、第2節)
表3−1に記すように分析の中心となる「ファッション誌」は「中高生向け」・「若い女性向け」・「働く女性向」・「主婦向け」と読者を年齢、属性ごとに4つに分け、それぞれ1〜2冊を用いる。
今回、分析に用いる対象サンプルは「ファッション誌」が、1999年6月号〜11月号の計36冊である。(隔週発売のものは月に2回発売されるものの内1冊を使用。)また「女性週刊誌」についても、「ファッション誌」と同じく1999年6月号〜11月号を分析対象サンプルとし、月に4回発行されるうちの1冊、計6冊を用いる。
表3−1 分析対象
雑誌の種類 |
|
対象者 |
年齢 |
対象サンプル誌 |
ファッション誌 |
@ |
中・高生向け |
15〜18歳 |
mcSistre,プチセブン |
A |
若い女性向け |
19〜24歳 |
non.no,JJ |
|
B |
働く女性向け |
25〜30歳前後 |
||
C |
主婦向け |
30歳〜 |
VERY |
|
女性週刊誌 |
D |
30〜50代を中心とした主婦(2) |
これらの対象サンプル誌を選んだ基準は、それぞれ該当するジャンルにおいて発行部数が最も多いものとし、年間発行部数はそれぞれ以下のようになっている。
mcSister−38.5万部、プチセブン−60万部/non.no−108万部、JJ−70.6万部/
Oggi−28万部/VERY−30.2万部/女性自身−77万部(日本雑誌協会、1998年調べ)
また「中高生向け」「若い女性向け」において2誌づつ分析対象とした理由は、この2つのジャンルには多くの銘柄の雑誌が存在し、1誌だけでは傾向に偏りがあり、正確に判断できないと考えたからである。
第5節 分析方法
第4章において女性雑誌言及分野の比率を調べる際の言及分野の分類方法は、先行研究(1986)の分類方法(3)を参考にし、雑誌のページごとの情報内容を細かく分類・カウントし、その言及分野ごとに総ページ数を100%としたパーセンテージで表す。
またページ数を分析するにあって1ページ中に複数の言及項目が混じっている場合、10分の1ページ単位まで分割してカウントしていく。
注釈
(1)『女性雑誌を解読するCOMPAREPOLITAN−日・米・メキシコ比較研究』(1989)において井上輝子と女性雑誌研究会が女性雑誌を分析した研究(1986年に発行された雑誌について)。この研究が行われるまで女性雑誌の内容を数量的に分析されたことはなく、マスメディアと女性研究の草分け的存在とされる。今回の卒論における分析においてもこの先行研究と照らし合わせながら進めていく。(分析の中で「先行研究」と述べたものは全てこの研究のことを指す。)
(2)『読書世論調査1999年版』によると「女性自身」は女性の最も多く読まれている週刊誌で、読者の9割が女性で、性・年代別では女性20〜60代に好まれ、特に50代では3人に1人、30代〜40代そして60台では4人に1人が読んでいるとされる。また職業別では主婦が最も多く、4人に1人が読者である。
(3)(1)の井上輝子と女性雑誌研究会によって考案された分類方法。