やおい少女の来し方行く末（概要）

「男(少年）同士の恋愛もの」というジャンルは、現在の少女マンガ、少女小説の中の一大勢力といえる。商業誌の中には専門雑誌（『小説ＪＵＮＥ』など）もいくつかある。

（女性向け）同人誌においては主流といってよい。同人誌の即売会の中で国内最大規模で東京ビックサイトで年２回行われるコミックマーケット（１９７５〜開催、現在は８月に３日間、１２月に２日間行われている）の参加サークルは１日１万１千サークル。参加者は延べ３０万人を超すといわれている。

もちろん参加者の目的のすべてが「やおい」な訳ではない。しかし、１９９８年１２月２９、３０日に行なわれたコミックマーケットにおいてやおいを含むジャンルの割合は全体の約６割であり女性向けのジャンルの中では９割に近い。女性自身が当事者となることのできない物語を何故このように大勢の女性が求めるのか、これらの女性はどの様な存在なのかを考える。

＜章立て＞

• はじめに

• 第１章　やおいの実際
  第１節　やおいとは何か？
  第２節　同人誌界におけるやおい

• 第２章　先行研究とそれらに対する考察
  第１節　少女マンガから少年愛、やおいへ
  第２節　パロディであるということ

• 第３章　質問紙調査の概要
  第１節　質問紙調査の目的
  第２節　質問紙の概要

• 第４章 調査分析結果
  第１節　同人誌に関する単純集計
  第２節　やおい少女のジェンダー意識
  第３節　やおい少女の恋愛観
  第４節　恋愛観・ジェンダー意識とのクロス

• 第５章　まとめ（やおい少女の行方）

I．やおいとはなにか

「男（少年）同士の恋愛モノ」には様々な呼び方があり、混在している。

１：「少年愛」
　　　　７０年代〜の２４年組の作品群。
　　　（美）少年同士の恋愛など。　→　ここから「男性同性愛」という手法が生まれる

２：耽美系，ＪＵＮＥ，ボーイズラブ
　　　　「男（少年）同士の恋愛モノ」の中の少女趣味
　　　　少女マンガの多様化と共に変化→ボーイズラブ（イメージの変化）

３：やおい
　　　　７０年代後半同人誌において「ガンダム」の男性同性愛パロディの流行
　　　　自嘲をこめた「ヤマなし、オチなし、イミなし、」の略
　　　　８０年代中頃「キャプテン翼」パロディの流行によって広まる
　　　　やおい同人誌出身の描き手のプロデビュー

II．やおいに関する諸言説

少女マンガのファンタジーの核心主人公である「普通の」女の子が理想的な異性によって自己肯定する。

では、主人公に自己投影できない読者はどうしたらいいのか？ここに現れたのが「少年愛」「男（少年）同士の恋愛モノ」

• 「拒絶される愛」というモチーフ
  • 「他者による自己肯定への欲求」そのものを描き出した→「究極の対」
  • 双方が同じ性であるため性による差別が存在しない、対等な関係
  • やおい少女群と一般女性群のジェンダー意識の違い「個人にとって望ましい特性」と「世間一般に女性にとって望ましいと思われる特性」のギャップ

• 女性嫌悪
  • 少女の成長する性への拒否、欲望の社会的抑制
    • 主人公に自己投影「できない」ではなく「したくない」
    • 伝統的女性像「女制」への拒否

• さらに・・・
  • 「少年」の姿をかりることによってタブーであった「性」に踏み込むことを可能にした

• 犯（や）る側、視る側の視線を獲得
  • キャラクターへの愛情，カップリングへのこだわり
  • 好きなキャラは「受け」
  • 愛する主体としての自分さらにはその欲望
• 欲望の積極性を獲得することによって「女制」をも越えられる？
• やおいのセックスシーンは男女関係のなぞりでしかない
  • 必ずと言っていいほどアナルセックスが描かれるのは作者も読者も「挿入される体」を持った女性
  • 自分が「女」であることに実は捕らわれている？

• 描き手と読み手の境界線が曖昧
• 最大公約数的な喜び
  • 「子供向けアニメ」→大人になって好みが細分化する前の段階
  • やおい少女というマイノリティが多数派であるという安心感
• 「子供向け」ではなく「少年向け」
  • 登場する少年たちの「性的側面」が描かれない、不能である
  • →人気のあるパロディの元ネタ
  • やおい少女と同じである

III.質問紙調査について

• 実際にやおいを読んでいる女性とはどの様な人たちで，どんな考えを持っているのか
• 調査は８月１４日（東京：１３００部）２３日（大阪：７００部）
• 同人誌即売会に来ている女性に手渡しで配布し郵送してもらった
• 有効回答数は２５５部

• 同人誌や「やおい」についての質問
  • 予備調査として、富山大学の学生で実際にやおいを含む同人誌を描いている女子学生６名に口頭で簡単な質問
    • いつ頃から、どの様な同人誌を読んでいるのか
    • やおいとは何だと思うか

• 恋愛に関しての質問
  • やおいで描かれるストーリーは紛れもなく恋愛
    • 「恋愛の主観的構成」（山田昌弘、１９９１）において行われた調査を参考に質問作成し、大学生の調査結果と比較
    • 恋愛・結婚・性関係の結びつき

• ジェンダー意識についての質問
  • 「性表現の主体としての女性」（岩井，１９９５）において行われた調査を参考に質問を作成
  • 性役割意識、職業観、女性性の受容

• 平均的なやおい少女は２０歳前後の未婚女性
• 同人誌を読み始めた時期は中学生が最も多く、やおいを読み始めた時期もほぼ同じ
  • 第二次性徴の時期と重なる？→女性嫌悪の意識
• 「同人誌を読むこと」と「パロディ同人誌を読むこと」「やおいを読むこと」は非常に近い関係
• パロディ同人誌の魅力は、自分が物語に積極的に関わっていくことができること
  • ９４．７％の人が同人誌を作る側として何らかの関わりを持っている
• 「やおい」を決定付ける要素は「男性同性愛的要素」や「性描写の有無」
  • しかし、同人誌を選ぶ基準として「性描写の有無」はほとんど重要ではない
• やおいで性描写が描かれるのは「セックスをすることによってキャラクター同士の結びつきが強調されるから」→「究極の対」を求める傾向
  • 次に多いのが「好きなキャラとの擬似恋愛を楽し」んで「恋愛の結果としてのセックス」
• 約半数の人が受けキャラクターが好きな傾向
  • 攻めキャラクターが好きな傾向の人の倍以上
  • 恋愛（性愛）においても能動的でありたいと考える傾向
• やおい少女のジェンダー意識を非やおい少女群と比較
  • 「女制」への拒否という姿勢
• やおい少女の恋愛観は同年代の大学生との比較
  • 女子学生群とも、男子学生群とも違った特徴
  • 恋愛の価値付けや、異性との関わり方に対して積極的とはいえない
  • 恋愛、結婚、性関係に関わる事柄に関して非常に欲求が低い、もしくは自分自身の性行動に対して関心が薄い
• やおい少女の恋愛観の特徴はやおいが性的なものであるということとは矛盾？
  • （恋愛における）男女の関係のあり方を否定しながらも「人間関係の深さ」に対する欲求も恋愛や性描写といったことでしか表すことができない
  • 恋愛経験の有無と恋愛観のクロス集計→女子学生群の特徴と同じ
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• 「女制」へのとらわれ
  • やおい少女を決定する要素は、客観的なものではなく、その意識の上での特徴である

IV．最後に

• やおいの流行から１０年以上、かつてのやおい少女はどうしたのか
  • 「女制」を捨ててしまう、もしくは受け入れる
  • 恋愛経験とやおいが好きかどうかのクロス集計
• やおいや同人誌の広まり
  • 「選び取ったもの」から「既にあるもの」
  • イメージの変化、友人との関わり

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今、やおいを支える少女たちが１０年後にどうしているのだろうか？