第二章:現代社会のシステムにおける広告の定義と社会・経済的機能


第一節: 広告コミュニケーションの定義

 その世界一の広告先進国であるアメリカでは、広告は、「広告主の名前を明らかにして、アイデア、製品、そしてサービスを、有料の形で、人を介さずに示し、また勧めるもの」(アメリカ・マーケティング協会<AMA>)と定義されている。特徴をあげると、次の4点となる。
  1. 有料であること
  2. 人を介さないこと
  3. 広告の範囲こと
  4. 広告主の名前を明らかにすること
 「広告」の定義にもさまざまなものがある。日本の企業や広告・宣伝の専門家の多くは、このAMAの定義と、その底辺に流れている考え方を受け入れているようです。

第二節: 広告コミュニケーションの社会・経済的機能

 アメリカの歴史学者、ポッター(DAVID M.POTTER)は彼の著書"PEOPLE OF PLENTY"のなかで「広告は、社会的影響の大きさにおいて、学校や教会などのような伝統的な制度に匹敵する。広告はメディアを支配し、流行を作り出す巨大な力を持っているという意味で、社会をコントロールする有数な制度の一つである。」と述べている。この見方は当たっているといえよう。今日のような消費社会では、われわれは商品やサービスを購入することによってそれなりに生活水準を維持している。このような社会では誰もが消費者であり、誰もが商品やサービスを購入するが、その際すでに広告によって知らされているブランドの中から選択するか、あるいは広告によってさらに情報を収集してから購入する場合が多いであろう。
 現代は広告社会といわれており広告と関わりなしに生活している人はほとんどいないといってよい。ある平均的なサラリーマン家庭の一日を取り上げ、その家族の構成員が広告とどのように関わっているか考えて見る。例えば、主人が朝、新聞を広げようとすると多くの新聞折り込み広告が出てくるであろうし、新聞を開けば新聞広告が掲載されている。通勤電車に乗るとそこにも車内広告が掲出されている。一方、主婦が掃除、洗濯を終えて雑誌を開くと中には色鮮やかな雑誌広告が現れてこよう。また、買い物に街に出ると、さまざまな形態の屋外広告が目に入るであろう。店に入ると今度は壁や陳列棚やショーケースなどにディスプレイされているPOP広告が目に入るであろう。子どもが夕食にテレビのアニメーションを見ているとそこからもテレビCMが飛び出してくる。また、学生が深夜にラジオを付けると、そこからもラジオCMが流れて来る。
 このように私たちは広告に取り囲まれて生活をしており、普通に生活してると毎日必ず自然に広告に接することになり、それから逃れようとすると、むしろ執拗な努力をしなければならないであろう。
 しかし、現代の人々は広告から逃れようとするよりもむしろ、広告を積極的に生活に利用しようという人のほうが多いという調査結果が出ている。( 第4章の調査結果に詳しく説明する )

2.1 広告の機能(1)
 広告はまず「商品」に関する知識、情報の伝達ということを、もっとも基本的な機能として持つことになる。そして、こうした広告が歴史に現われるのは、当然商品経済を前提にしている。広告のもっとも始源的な形態は、15世紀の地理上の発見の結果、ヨーロッパに集まった富に関する情報を伝達するというものであったと言われている。

2.2 広告の機能(2)
 広告は大量販売、大量消費を可能にし、大量生産によって、コストを引き下げることになるので、ますます消費を拡大させ、経済を活性化させるということだ。広告もマスコミ媒体や広告産業を支えている。これらの産業は、今日の経済にとって重要なものなにである。

2.3 広告の機能(3)
 社会的な変革を推進する機能であり、生活価値基準の変化を推し進めていく機能がある。また、生活環境の形成、改善機能を挙げることができる。生活モデルの提示、多様な生活様式の推奨などを教えてくれる。それらの変化の一端を広告が担っていく。これは両方が相互に影響を及ぼし合うものである。実例を挙げてみよう。戦後以来、日本人の食生活は非常に変わったと言われている。その変化は簡単にいえば、米を中心にした食事から、パン食を中心にしたものへ移行するという形で進行している。このような食生活の変化から、従来なかったような需要が生まれてきている。食生活の変化が、一部の食品メーカーが広告を通じて積極的におしすすめた結果であるとは早急に断言できないとはいえ、部分的には広告の果たした役割があることは否定できない。のみならず、食品メーカーが主観的に意図していたのは、みずからの商品の購買ということであって、生活の変革などが意図されていたわけではないことは明らかである。しかし、さまざまのメーカー広告が、結果として生活の複合的な効果が、個々の広告の主観的意図を越えて現われたといえよう。
 このように、いくつかの広告の複合的効果が、生活の変革のひとつの原因となり、そしてそれが、新しい欲望を生み出し、購買行動を促す作用を持つことは明らかである。これを広告の第3の機能と考えておこう。

2.4 広告の機能(4)
 広告は流行や文化を創り、生活に潤いをもたらすということである。広告は都市の繁華街を飾って、街の一部を構成している。ファッションはそのような都会から生まれる。そのような都会の雰囲気が好きだと思う人は広告が生活に潤いをもたらすと感じるであろう。広告によって好きなテレビ番組が見られると思っているもまた広告が生活に潤いをもたらすと考えるであろう。(これも第四章の調査結果に現われる。)

2.5 広告の機能(5)
 社会的平準化とか、共通的価値観を形成していく機能がある。つまり、広告は同時に大衆に働きかけるので、消費の画一化、嗜好の均一化などをもたらすということだ。一つ例を挙げて見よう。日本テレビの『ズームイン!!朝』という番組で、どの市の人も、どの町の人も、服装は同じである。服装を見ているかぎり、地方差は不明瞭である。現代日本社会にとって、テレビはライフスタイルである。テレビは全社会的規模において、同じ理解水準と感覚水準で、お互いの生活を了解することのできる地盤を用意した。

2.6 広告の機能(6)
 社会の民主化の推進・強化である。これ意見広告に代表される制度的広告の展開が情報的な平準かの実現、あるいは広告出稿を通じての社会的コミュニケーションの活発化をもたらし、それが情報民主化の推進につながっていくのではないかと考えられるものである。

2.7 広告の機能(7)
 倫理あるいは倫理観の推進・確立である。これは広告の領域で言うと公共広告を中心とする社会的広告の出稿展開である。日本の場合は例の阪神大震災のときに、直接被害を受けられた方々からは批判などがあったと伺っているが、公共広告が日本で非常に大きく認知される活発な活動が展開されたと思う。

2.8 広告の機能(8)
 社会的基盤・維持あるいはそれを発展させていく機能である。広告が機能する社会そのもの基盤を形成していくという包括的な機能、いわゆる社会的なインキュベーターとしての機能を広告が果たし得るのではないかと見ている。あるいは広告の文化的機能もある。
 また、広告と広報との接点がある。いわば、PRコミュニケーションの一形態としてのインスティテューショナル・アドバタイジングである。制度体の中で企業が展開する広告として企業広告があるという形になるわけだが、これが商品広告、いわゆるマーケティング・コミュニケーションの中の広告以上に、近年非常に大きな比重を占めてきている。
 公共広告、社会広告については触れたが、それに加えて、政府・自治体の広報を含めて、企業広告のさらに外側にある制度体広告が、今後コミュニケーションの展開という点で非常に注目に値する領域であることは明らかである。

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