<第3章 学歴志向化のエイジェントたち>


 さて、1章、2章においては、主に進路を選択する「本人」の側からの視点で、学歴獲得競争を考えてきたのだが、ここでは少し視点を変えて、「親」や「教師」や「友達」といった彼らを「とりまく人々」のほうに目を向けてみようと思う。なぜなら彼らは、「学歴志向化のエイジェント」(竹内、1981、p76)として、本人たちの勉強に対する意識や進路選択の判断に、すくなからぬ影響を与えていると考えられるからである。
 ここ3章においても上の2章と同様、竹内洋氏の「競争の社会学 学歴と昇進」の中の「学歴志向の論理と心理」からの内容を主体にして話を進めていく。竹内氏はこの中で、「親」の側の視点から、学歴獲得競争の加熱化を説明している。(教師や友人についての意見特に述べられてはいない。)
 氏は、テストの点数やどんな学校に進学するかは親の側からみれば、麻生誠氏の指摘するように、まるで持ち馬の「ダ−ビ−」に等しく(麻生、1977、p169)、「情動的コミットメント」(注9)を高めるものだとしている。つまり「おもしろい」のである。
 またそういった「情動的」なものであると同時に、親の学歴志向は、「教育熱心な親」という道徳的理想にもかなうから「道徳的コミットメント」を高めるものである。こういったコミットメントの仕方は、「子供の勉強なためなら親はいくらでもお金を惜しまない。」といった言葉によくあらわれているように思われる。このような「子供の勉強のためには、いくらでも自分のことは犠牲にする。(したい)。」という気持ちは、世の道徳的理想にかない、そのため親達は大手をふって学歴獲得競争にコミットメントしていけるのであると思われる。
 そして言うまでもなく、親の学歴志向は「安定、昇進、出世」といった実利面にもつながっているから「実利的コミットメント」も当然高めるものである。つまりこのように、親の学歴志向教育熱は、「おもしろくて、崇高で、かつ、ためになる」ところからきているのである。
 竹内氏は「親の学歴志向」が根強い原因を、このように、単にそれが「実利的コミットメント」の産物にとどまらず、「情動的コミットメント」や「道徳的コミットメント」とも連動しているからであるとしている。
 こういった「親の学歴志向」、あるいは「親の考え方」などが、子供たち本人の進路決定に、少なからぬ影響を与えているのではという思いから、その影響を確かめるべく(また他の様々な諸要因の影響を調べるべく)私は、質問紙による調査を実施してみた。(その結果については、次の4章において詳しく紹介する。)
 例えば、親(家庭)の影響力について調べるためには、主に勉強や受験のことについて親から話しかけられる「頻度」や、その「内容」について聞き、それらの要因と子供の進路決定や意識、行動にどのような相関関係があるかを調べる。
 同時に本人の進路決定や学歴獲得熱に影響を与えるのは「親」だけではなく、勉強ということに1番深く関わっている「学校の先生」や、いつもまわりにいて、お互いを刺激しあう面も多分にあると思われる「ともだち」などといったものも、彼ら本人の勉強や受験といったものに対する意識に、何らかの影響を及ぼすであろうと思われたので、「彼ら」(学校の先生、ともだち)についても、その関わる「頻度」や「内容」についての質問を用意し、本人の意識との相関関係を調べてみた。また、本人の「パ−ソナリティ−的なもの」や、「成績」との関連からも、彼らの「行動」や「意識」を分析してみる。
 調査は富山県内のある中学校でおこなわさせていただいた。

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