3章 調査概要

 

 

1節 調査対象

今回の研究では、動物病院とペット葬儀社のペットロスに関するサービスを提供している側と、ペットロスを経験しており、そのサービスを受けている飼い主側の両方にインタビュー調査を実施し、分析を行った。以下は調査対象についての情報である。なお、個々の飼い主の経歴については第2節で紹介する。

 

◎吉田動物病院

動物病院の中で、主にペットの終末期において、どのようなペットロスに関することが行われているのか調査するために、吉田動物病院を調査対象とした。そして、吉田動物病院の副院長である吉田理栄子先生に計3回のインタビューを実施した。また、飼い主のペットロスの事情を知るために、現在吉田動物病院に通っており、過去にペットロスを経験したことのある飼い主であるDさんとTさんにもインタビューを行った。

 

◎ペットセレモニーおおぞら

福井県鯖江市にある「どうぶつセレモニー おおぞら」(以下おおぞら)の斎場長である坂川逸海さんにインタビュー調査を行った。また、以前に猫を飼っており、ペットロスを経験したという塚崎真弓さんに計3回インタビュー調査を行った。塚崎さんはおおぞらの利用者である。

 

 

2節 飼い主の基本情報

この節では、今回インタビューを行った飼い主について詳しい情報を記述していく。

 

Dさん 女性 既婚

4年前に、11年間飼っていた犬のハナを亡くしている。ある日突然ハナの食欲が無くなり、吉田動物病院ではなく他の病院に診てもらうが、結局原因が分からず1週間から2週間の間に病死してしまう。なお、Dさんは自宅でハナの最期を看取っている。最期を看取った事についてDさんは「目の前で看取れてよかった」「よく頑張ってくれた」と語っている。

また、Dさんは認知症の母親と同居しており、その母親がハナの死をきっかけに徘徊が始まってしまったため、ハナが亡くなった4か月後に同じ犬種で同じ名前を引き継いだ犬を飼っている。

 

Tさん 女性 既婚

3年前に、20年飼っていた猫のシマを腎不全で亡くしている。亡くなる1年前に吉田動物病院に訪れ病状が深刻であることを知り、それから終末期治療を開始する。亡くなる前の半年間はほぼ毎日病院に通い排泄をさせたり、また家でも手ずから点滴を施したり、壮絶な闘病生活だったと語っている。Tさんはシマが治療や亡くなる時に苦しまないように心配していて、発作を止める座薬などを貰っていたそうだ。また、亡くなる直前に入院させるか自宅に戻るかの選択肢を提示されたが、Tさんは自宅で看取ることを選択し、シマはTさんの傍で眠るように息を引き取った。

現在Tさんはチワワを3頭飼っており、1頭はシマが亡くなる5年前に、もう1頭は半年前に、最後の1頭は亡くなった1年後に飼い始めている。

 

・塚崎真弓さん 女性 既婚

3年前に、17年間飼っていた猫のたぁが悪性リンパ腫で亡くなっている。発見が遅く既に末期段階だったが、1か月ほど延命治療を行った。まもなく、たぁは塚崎さんの腕の中で息を引き取った。その後、ボランティア団体からかんたとふうたという2匹の兄弟猫を貰い、飼い始める。しかし、その1年後にかんたが行方不明になり、1か月ほど探すが見つからなかったところに、「1か月前に野犬に猫が襲われている」という連絡を役場にしたという情報を受けた。そして、役場に連絡したものの、首輪や名札を付けていたにも関わらず、「そのような報告はない」と言われ、結局かんたの遺体を引き取ることはできなかった。次いで、家の周りをうろついていたふうたが野犬に襲われ重傷を負う。その時はすぐに発見することができたが、深夜だったために開いている病院がなく、病院が開くまで待っている間にふうたは塚崎さんの腕の中で息を引き取った。

塚崎さんは3匹ともおおぞらで葬儀を行っている。遺体の無いかんたについては小さい頃に使っていた首輪を代わりにお骨入れに入れているそうだ。なお、塚崎さんが葬儀を行う際におおぞらを選んだ理由として「葬儀費用が明瞭だったから」と述べている。ボランティア団体や福井県にある地域猫を保護している御誕生寺からもらい受けたりなどして、現在9匹の猫を飼育している。

そして、塚崎さんはかんたとふうたが野犬に襲われるという事件をきっかけに「かんたとふうた〜そしてゆかいな仲間たち〜」というブースを開いて運営している。以下、そのブースについての詳しい説明である。

 

◎「かんたとふうた〜そしてゆかいな仲間たち〜」について

「かんたとふうた〜そしてゆかいな仲間たち〜」というブースは、ペット関連の本や情報誌、グッズを置いており、塚崎さんは、他の飼い主の依頼で、ペットの似顔絵を描いている。グッズは、塚崎さんのオリジナルグッズや、このブースに訪れた人が趣味で作ったものを塚崎さんが買い取り、販売しているものもある。また、グッズについてはネット販売も行っている。塚崎さんがこのブースを始める事になったきっかけは、かんたとふうたが野犬に襲われて亡くなった事であると語っていた。この出来事から、一般の人々に正しい飼い方や、飼った以上は最期まで責任を持ってほしいという事を伝えたいと思い、このブースを開くようになったそうだ。今後も様々なイベントに参加することを通してその思いを伝えたいと考えていると語っていた。また、ペットの似顔絵を描くようになったきっかけは、おおぞらに自分の猫の似顔絵を置いておいたところ、他のおおぞらの利用者から自分のペットも描いてほしいという要望があったことから始めた。似顔絵の原画は額縁に入れて飼い主に渡し、コピーはブースに飾っている。このブースには様々な人が訪れ、グッズを買いに来たり、似顔絵を依頼したりする他にも、保護猫についてなど、ペットの相談をしに訪れる人や、ただ単に喋りに来るというだけの人も来られるそうだ。福井県外の人も、Facebookやブログなどで知って訪れることも多いと語っていた。

また、主催として、20161015()16()SIPYで第1回「ペットDE女子博」というイベントを開催した。「ねこ様王国」(注1)など、ペット関連の保護活動や啓発活動している団体が集まり、ペット撮影会や、ワークショップなど14の店内ブースが展開された。今後のイベントについては、11月や、12月にもワークショップに参加する予定だそうだ。