第五章 運営の影響力およびYouTuberの動画の特徴

第一節 調査方法

この第五章では投稿者のプログラム実践状況を明らかにするために、筆者はクリエイター支援の1つであるクリエイターハンドブックのなかから調査可能な項目を選定し、投稿者の項目ごとの実践度合いを調査した。その際、調査対象となる投稿者は、YouTubeで活動している投稿者のうち、チャンネル登録者数の多い上位20人である。また今回、調査を行うにあたりニコニコ動画で活動している投稿者のうち、お気に入りユーザー数の多い上位20人を比較対象として、同様の調査を行った。

 ハンドブックのなかから選んだ項目は、「定期的なアップロード・スケジュールの設定」、「ビッグイベント」、「行動を促すフレーズ」、「顔出し」、「サムネイルの最適化」、「コラボレーション」である。なお「顔出し」については項目としてハンドブック内に明示されているわけではないが、「顔出し」を前提としてハンドブック全体が構成されていたため、今回項目の1つとして選んだ。以下は各項目についての説明である。

「定期的なアップロード」とは、動画の更新頻度を一定させることをいう。「スケジュールの設定」とは、何曜日の何時に投稿といったように、事前に投稿予定を決めておき、かつ視聴者にそのスケジュールを公開しておくことをいう。「定期的なアップロード」に関しては、最終更新日から過去1週間に何本の動画が投稿されたかを、「スケジュールの設定」に関しては、自身のチャンネル内でスケジュールが設定されているかを調査する。

 「ビッグイベント」とは、大型連休、大規模なスポーツイベント、映画のリリースなど、その文化圏の人々の視聴行動を決定付ける年中行事やイベントのことをいう。ハンドブックではこの「ビックイベント」に関連する動画を制作することがすすめられていた。ここではタイトルやサムネイルから、年中行事やイベントに関する動画であるかどうかを判断し、動画100本(投稿日が新しい順)を調査する。

「行動を促すフレーズ」とは、視聴者になんらかの「行動」を促すために投稿者が動画内外で呼びかけるものをいう。「行動を促すフレーズ」の中でも主要な「1、視聴者に直接語りかける(投稿者が動画内で直接、視聴者に対してチャンネル登録、高評価、コメントなどの行動を呼びかける)」、「2、アノテーション(動画内でオーバーレイとして表示されるクリック可能なテキスト)」、「3、エンドカード(動画の最後に決まって流れる短い映像)」、「4、動画の説明(動画概要欄に、動画の詳細な説明や関連サイト、ソーシャルメディアへのリンクの記入)」の4つを基準に、その有無を調べる。ここでは動画23本(投稿日が新しい順)を調査する。

 「顔出し」とは、動画内で投稿者自身が出演することをいう。ここでは動画10本(投稿日が新しい順)を調査する。

 「サムネイルの最適化」とは、サムネイルに文字や顔のアップなど、なんらかの加工を施すことをいう。最適化することで、視聴者の注目を集め、インパクトを与える。ここではサムネイルiとAに分け、iではサムネイルに加工が施されているかを、Aではサムネイルに投稿者の顔が入っているかを基準に、動画100本(投稿日が新しい順)を調査する。

 「コラボレーション」とは、他の投稿者と協力し、チャンネル同士で動画の作成を行うことをいう。ここでは、動画100本(投稿日が新しい順)を調査する。基本的にサムネイルやタイトルから判断する。

第二節 分析

5-1、表5-2が今回の調査で得られたデータをまとめたものである。以下では表に基づいて分析を行っていく。

 表から、YouTubeで活動する投稿者は、定期的なアップロードを行っている者が多く、ほとんど毎日更新している者も多く見られる。また、週当たりの投稿本数が明らかに多く、中には40本を超える者もいる。YouTubeとニコニコ動画の投稿者の週当たりの動画本数の中央値を算出したところ、YouTube7本であったのに対し、ニコニコ動画は2本という結果になった。数字で見ても、よりYouTubeの投稿者が頻繁に動画をあげていることが分かる。

 「ビッグイベント」の欄に注目すると、YouTubeの投稿者は「ビッグイベント」に関する動画をある程度、投稿しているとこが分かる。ハロウィンや、クリスマス、正月といった時期にはそれに関連する動画を投稿していた。一方で、ニコニコ動画の投稿者には全く見られなかった。

 「行動を促すフレーズ」は表を見ると分かるように、YouTubeの投稿者は多く行っており、1から4まで全て行っている投稿者も少なくなかった。ニコニコ動画の投稿者は4の動画の説明は全員が行っていたが、それ以外はほとんど見られなかった。

YouTubeの投稿者は20人中14人が顔出ししているのに対し、ニコニコ動画の投稿者は20人中1人だけであった。YouTubeの投稿者の多くが顔出しを行っており、逆にニコニコ動画の投稿者はほとんど顔出しを行っていないことが分かった。そのため、サムネイルA(投稿者の顔がサムネイルに入っているかどうか)に関しても、YouTubeとニコニコ動画の投稿者では大きな開きがあった。

 サムネイルiの平均値を算出したところ、YouTubeの投稿者は動画100本あたり62.4本であるのに対し、ニコニコ動画の投稿者は6.1本という結果が得られた。YouTubeの投稿者は、サムネイルに文字や顔のアップなどを取り入れ、積極的に加工を行っていることが分かる。ニコニコ動画の投稿者はサムネイルに特に加工は施さず、動画の一場面をそのまま使っている人が多かった。

 コラボレーションに関しては、YouTubeとニコニコ動画、双方で比較的よく確認することができた。

                                                       5-1 項目ごとの実践状況(YouTube)

5-2 項目ごとの実践状況(ニコニコ動画)

 

 

第三節 まとめ

 今回、YouTubeの投稿者のクリエイターハンドブックの実践状況を知るために、いくつかの項目を選定し調査を行った。すると、YouTubeの投稿者はクリエイターハンドブックに基づきながら、動画投稿を行っていることが明らかになった。

前節では、YouTuberは更新頻度を一定させている者が多く、投稿本数も多いということを述べた。ではYouTubeの運営側は、投稿者にクリエイターハンドブックやクリエイターアカデミーといった資料を提供し、投稿者にコンスタントに動画投稿を行うよう推奨している理由は何だろうか。

それはチャンネル全体を運営、統括できるようにYouTuberを育成させたいという運営の狙いがあるからではないだろうか。更新頻度や投稿本数から、運営はYouTuberに自身のチャンネルを運営させることを重視しているのは明らかである。運営にとってYouTuberが質の高い動画を制作することはもちろん重要であるが、それ以上に運営はチャンネルの活発な運営を重視しているように思われる。チャンネルの活発な運営によりチャンネル登録者数を増やし、それと比例して再生回数を伸ばすことができる。そして投稿者は安定して広告収益をあげることができ、継続的に動画投稿を行うことができる。人気の投稿者を多く抱えることができれば、運営側の最大の目的であろうYouTubeの利用者拡大につなげることができる。

顔出し以外の項目はチャンネル運営を行うための技術であるが、顔出しは必ずしもそうではない。ではなぜ顔出しは推奨されているのだろうか。顔出しにはどのような効果があるのか考えていきたい。前節において、YouTuberは動画内で顔出しを積極的に行っており、サムネイルに自身の顔を追加するケースがよく見られるということを確認した。YouTubeで顔出しをするメリットとして、視覚的に視聴者に伝えられる情報が増えるということが挙げられる。表情や仕草など、投稿者の声以外の情報が伝えられることになり、視聴者に親近感や「この人の動画は面白い」といった信頼感を与えることができる。YouTubeチャンネル「KazuChannel」を運営している勝村さんのブログに以下のような記述があった。


 

初めて会った気がしない、会ったその日に仲良くなれる。

これは「YouTuberあるある」なんですが、初めて会っても初めてな感じがしません。それは会う前に何度もその人の動画を見ているからなのかもしれません。…他にも去年、今年と有名YouTuberにはいっぱいあったけど、どの人もよく見ているチャンネルだから、初めてな感じがしないんだ。またこれってテレビに出ている芸能人と会う感じとは違うと思う。やっぱりYouTubeっていい意味で素人感が出ているから素が出ちゃうわけなんですよ。たぶんそこが初めてとは感じない理由じゃないのかな。

YouTuberって毎日のように動画を上げている人が多いわけですよ。…するとねそのYouTuberが最近何をかったのか、何をしているのかがすぐわかるんです。それって、よく考えると普段仲のいい友人の顔や声を聴くより、そっちの方が頻度的に多いわけ。決して会話できるわけじゃないけど、すごい親密な感じがしちゃって−

…動画って自分を偽るのが難しいと思うんです。一流の役者でも何でもないから、隠そうと思ってもいろんなものが節々に出てきちゃうわけですよ。…気になっているYouTuberがいる時は、その人の動画を何本も見るとその人がどういう人間なのか、何となくわかってくるはずです。この人は強気だなとか、あれっ実は喋り苦手なのかなとかね、いろんなものが伝わってきちゃう、それが動画なのです。

Kazuch 2013314日の記事より)

 

この記事では、YouTuberとして活動する勝村さんが感じている「顔出し」の効果について述べられている。「初めて会った気がしない、会ったその日に仲良くなれる。」と語っており、顔出しにある種の親近感を与える効果があると理解できる。勝村さんはこの親近感について、実際に顔を合わせていなくても、日々動画を通じて、その人の日々の様子や、出来事を共有しているからであると考えている。

またYouTuberの「素人感」が親近感につながっていると述べている。この「素人感」はYouTuber独自のもので、テレビで見かける芸能人には感じないものであるという。この「素人感」によって、その人の素をリアルに感じることができ、結果的にその人を身近に感じることができるようになっていると述べている。この「素人感」がYouTuberに見られる理由として、YouTuberは撮影から投稿までの過程を一人で行っているからであると考えられる。すべての過程をプロと同じようにこなすことは難しいため、結果的に「素人感」が生じてしまうのではないかと考えられる。

第二章で確認したように、宮向(2014)はニコニコ動画ではコンテンツ面で、視聴者が投稿者に注目するという現象が引き起こされていると述べていた。そして、YouTubeではチャンネル登録という形で視聴者に登録されるため、「個人としての像」が想起されにくいと主張していた。この点について、YouTubeでは、コンテンツ面で視聴者に投稿者を注目させるのではなく、投稿者自身が顔出しを行うことによって、直接的に「個人としての像」を浮かび上がりやすくしていると考えられる。つまり、ニコニコ動画ではコンテンツ面で投稿者のブランド化を引き起こしているのに対し、YouTubeでは顔出しによって投稿者のブランド化を引き起こしている。

ブランド化により、長期的に動画を見てくれる固定したファンを獲得しやすくなる。広告収入で生計を立てている投稿者にとって、1本の動画の再生回数よりも、平均で見た場合の再生回数が重要であるため、ブランド化は欠かせないものとなっていると考えられる。