第5章 男性保育者の会X

男性保育者の会Xの概要については第3章第1節で述べた。

 

第1節 イベント内での男性性

イベントの開催の目的は、男性保育者を知ってもらう・魅力を伝えたいというものであった。しかしイベントの内容に関しては、男性性を全面に押し出すものではない。

 

A:子どもとのふれあいはすごく大切で。例えば胴上げは楽しそうだなって、パッと思いついたときがあった。結構子どもたちって高い高いとか「わあー」ってするの好きだから。

 

B:単純にそのイベントだけで知り合った初対面の子どもたちとも、楽しめることっていう視点なんじゃないですかね。

 

上記のようにイベントの内容は男性性を意識して決めているわけではなく、初対面の子どもたちともすぐに楽しめるように、子どもたちが好きなことや喜びそうなことを取り入れている。遊びに関しては、女性も同じく行えるため男性性を発揮しにくい。

また保護者にまずアピールしたい部分は、必ずしも男性性ではないことが以下からわかる。

 

D:楽しんでもらうっていうのが一番のアピールなんじゃないかなって思う。男性保育者の集まっているところに子どもを連れてきてみたら、「子どもが喜んでよかったね」「楽しかったね、男の先生っていいよね」っていう流れが(男性保育者の)アピールになるんじゃないかなって思う。

 

このように保護者にまず見てもらいたいのは、子どもが楽しんでいる姿である。イベントの内容で男性の特徴を出そうしているわけではないことがわかった。

しかし、イベント中に男性性を全く出していないわけではない。以下の語りからそのことがうかがえる。

 

B:保護者ってことは、お父さんもお母さんもっていうことですよね。最近僕が意識しているのは、父親目線の男性保育者みたいな。同じ父親としても、そういう目線で話をするとかっていうことは意識をしています。

 

B:男性保育者の認知度を高めるっていう意味では、参加者(保護者)の方とやりとりをしています。例えば今、県内でどれくらいの男性保育士がいるか知っていますかっていうようなやりとりをしています。それで、具体的な数字をあげることによって、現状を知ってもらうっていうこと。

 

Bさんはイベント中での保護者との会話の中で“男性らしさ”を出し、男性保育者をアピールしている。しかし、インタビュイーの語りから“男性性”にそれほど重点を置いているようには見えない。特にイベントの内容という点では、子どもたちが楽しめることを重視しているため、“男性性”を強調しているわけではない。

 


 

第2節 保育技術の向上の2つの側面

イベント開催の目的の一つとして保育技術向上が挙げられ、特に会長であるAさんによって強調されている。これには、2つの側面がある。1つ目は保育技術を全体的に向上し、       保育の幅を広げることである。それは以下から読み取れる。

 

A:男性保育者のイベントは、自分たちの資質向上という目的もあります。場を経験するってすごく大切。子どもの前で体操したり、歌ったり、手遊びしたりっていうのは、誰でもすごく緊張する。そういう風に人前でやる経験というのは、自分の中で慣れになっていきます。イベントするにも最初は誰がして誰がして誰がして…とか担当を決めて、なるべく同じ人が全部やるんじゃなくて、いろんな人が受け持ちしようっていうようなことを経験してもらって、自分の資質向上につなげる。

 

A:(イベントで)面白い踊りがあったら普段の保育にいただいてる。すごくおもしろい踊りは、ものすごく好評で。あとは、ストローや牛乳パックなどの廃材使った竹とんぼや笛とか。イベントで知ったものを保育で活かせるものは活かしています。あと手遊びを(Bさんが)考えているから、その手遊びを保育で使わせてもらっています。

 

1つ目の語りでは、体操や歌、手遊びなどの様々な場面を経験し、保育技術を向上しようとしている。苦手なことも経験することは、このようなイベントがなければ自ら行わないだろう。また他のメンバーがどのようにその場を盛り上げているか参考でき、見て学ぶことができる。

2つ目の語りでは、メンバー内で遊びを教えあうことで保育の幅を広げていることがわかる。他の保育施設に勤めている保育者との交流がなければ、ワンパターンな保育となってしまう。お互いの保育を教えあうことで、多様な保育を行なうことができ、子どもたちも楽しめるだろう。

保育技術向上が持つ、もう一つの側面として考えられるのは、自信をつけるということである。以下の語りからそれが見られる。

 

B:子どもたちの前にちらっと出た時でも、ステージパフォーマンス(どうその場を楽しませるか)は、普段の保育でもできるようになってきたので、こういうところで鍛えられたかなと思います。

 

C:もともとあがり症みたいなところがあったので、何回かやってみたら、だいぶ自信を持ってできるようになったかな。

 

保育技術がついてきても、それをきちんと出さなければ意味がない。保育者は子どもたちの前で踊ったり、歌ったりする場面が多いだろう。特にイベントでは、子どもだけでなく、保護者も参加しているので、より緊張しやすい。そのような場面を多く経験することで、BさんやCさんのように鍛えられ、自らの保育に自信を持てるようになるのだ。


 

第3節 この章のまとめと考察

 男性保育者の会Xのイベントの内容は、男性保育者の存在の周知を目的としているが、その内容は全面的に“男性性”を強調するものではない。保護者への周知よりも、彼ら自身の保育技術向上に力を入れているように感じられる。このことは、彼らのトークンとしての性質とどのように関わっているのだろうか。

それは、@トークンであるが故に遅れがちな保育技術を補うことにつながる、A職場での不可視化戦略につながりやすい、の2つだと考えられる。@について、第4章でも述べたように、新人の男性保育者は職場の女性保育者と距離をとってしまうことが多い。そのため保育に関する相談ができず、保育技術が遅れがちになってしまうと考えられる。またその保育技術にも2つの側面がある。足りない技術や知識を補うことと、身に付けた保育技術に自信をつけるという側面である。イベントを開催することによって、他の保育者を見ることができ、自身の保育になかったものを取りこみ、保育の幅を広げている。さらに人前に出ることで、緊張をすることも少なくなり、自信につながる。この2つの保育技術を補い、普段の保育に活用している。そして保育技術が向上することで、新人の抱えやすい孤立感の軽減につながっていると考えられる。

またAの理由について、イベント内では全面的に“男性性”を強調しておらず、個人個人の資質向上に努めている。個人の技術を上げることによって“女性保育者と同じように仕事ができる”という男性性の不可視化戦略を強化しているように思われる。しかし、会の活動自体は不可視化戦略とはいえない。2つの戦略はあくまで職場でのふるまいややりとりに照準した概念である。男性のみで集まったイベントでは、不可視化と可視化は両方の側面が入り混じる。こうした中で、「保育技術」の強調において、問題はジェンダー差ではなく個人差であるとする点で、不可視化戦略に親和的であるといえる。