第四章 分析
第一節 ふれiTV事業参加のきっかけ
第三章第一項で述べたように、事業開始当初は集落単位での募集だったので、多くの利用者は、集落がこの事業に参加することになったため加入している。
利賀地域は限界集落が多いため、申し込む集落もそれなりにあったが、上平地域は限界集落は少ないため当初申し込んだ集落はなかった。そこでNさんは、市役所の事業担当者が困っておられるから、それなら自分の集落が参加しようと決めたと語った。また、Sさんは、事業参加について以下のように語っている。
このテレビ電話自体が、わしら欲してつけたものじゃないですよね。あの、市の政策の一部で。(中略)この集落でも一人暮らしの家はもちろん、ほとんどはいっとるがです。12,3台はいっとるかな。中には、みんなが入れたから、なんや入れな格好悪いいうがで入れて全然使わん人もあるし、私も今ほとんど使っとらんがですね。
導入当初は、「みんな入ったから」と仕方なく加入した人も中にはおり、事業参加に対して否定的だった利用者もいた。
しかし一方、Tさんは個人的にこの事業に申し込んだ。Tさんは、申し込んだ経緯について以下のように語っている。
区長さんのほうから、こういう遠方とテレビ電話で繋がるっていうシステムがあるから、希望の方を募ってたらしいんですけど、私お父さんと二人でいるときは、そんな淋しいこともないし、「ふーん」っていう感じで、そんなに気にも留めなくて、「うちはいいよね」って感じだったし、うん。全然入る気はなかったんですよ。で、あの、突然にお父さんが死んで、淋しいのと不安なので、なんか心が、なんかいろいろと追い詰められていって、体調のほうが、自分が崩れて、なんかいろいろと救急車で運ばれたりみたいな状態になったときに、子どものほうが、娘たちのほうが、「お母さん、テレビ電話っていうが、私らいつでも繋がる状態になっているけど、そういうのに入ったら淋しいときに、いつでも電話できていいんじゃない」っていう。2人が言ったもんで、どうしよっかなぁと思って、うちのオーナーにも相談したら、あれはいいよって。
当初Tさんは、ふれiTV事業に関心や必要性を感じていなかったが、旦那さんが亡くなるという出来事をきっかけに興味を持ち、参加に至った。現在はまだ少ないが、Tさんのように要望があって自分から参加した利用者もいる。
第二節 利用の現状
今回インタビュー調査させていただいた利用者は、ふれiTV端末を全員、生活の拠点である居間に設置している。
しかし、現状としては、ふれiTV端末を利用していない高齢者がとても多い。
特に、テレビ電話に抵抗感を持っている高齢者が多いことが分かった。2012年10月に「声掛け事業」として、ネイトピア喜楽が8軒の高齢者宅にテレビ電話をかけたところ、応答があったのは3軒のみだった。原因として、ネイトピア喜楽の職員のAさんは、高齢者が電気を使うからもったいないとコンセントを抜いてしまうこと、テレビ電話が鳴っていても出ないことを挙げている。また、Sさんは、鳴っていても出ない理由として、以下のように語っている。
今はあの呼び出し音がピンポンパンポンみたいなチャイムの音になったがですけ
ど、前はまた違う呼び出しで・・・。だから、普通の電話なら、ベルとかその家
独特のメロディってあるでしょう。それがこれの場合違う音なもんやで、もう、
電話としての働きっていうものを自覚しとらんっていうか。
「音に馴染みがない」ことにより、テレビ電話をかけても相手が呼び出し音に気付かないことでテレビ電話が成立しないことがある。それによって、利用者は、繋がりにくいテレビ電話よりも、従来の方法である固定電話の利用を選択してしまう。つまり、「スカイプ独特の呼び出し音=馴染みのない音」が原因でテレビ電話を使う機会がなくなり、ひいては、テレビ電話の良さを感じてもらう機会、慣れてもらう機会を失ってしまっている。
対して、お知らせ機能などのタッチパネル機能のサービスは比較的利用されていることが分かった。TさんとSさんは、パソコンは全く使えないが、端末のタッチパネルの操作は使いやすく、テレビ電話やお知らせを見るなどの簡単な操作に困ることはないと語っている。端末の高齢者向けの工夫のおかげで、コンピュータリテラシーを持っていない高齢者にも利用してもらえる。
第三節 テレビ電話機能(スカイプ)
インタビューの結果、現在テレビ電話はあまり利用されていないことが分かった。
しかし、導入当初にテレビ電話を使ってみたと語っていた利用者が多かった。当時は、画面が「砂嵐」になってしまうことが多く、あまりよい印象を持たなかったという。
また、テレビ電話を利用しない理由として、前述したように、テレビ電話の呼び出し音に馴染がなく、かかって来ても電話として認識できないことのほかに、「プライベート空間(家の中)が相手に見えてしまう」ことが挙げられた。
横山:(テレビ電話に対して)やっぱり少し抵抗ありますか。
N:あるある。うちの奥さん方も。だって、そうでしょ。話している時に、その
後ろ、もしも変な格好で・・・(笑)自分だけ見えればいいけど、後ろの風景が全部
見えたら嫌や。
Nさんは、この他にも「顔が見えるのは恥ずかしい」、「よその家のプライベートを覗いているようで気が引ける」とも語っていた。
しかし一方で、Sさんは「プライベート空間(家の中)が相手に見えてしまう」ことについて、その点は抵抗がないと語っている。
(お祭りでまわったりするから)どこのうちの座敷がどこにあって、流しがどこにあってとかみんなわかっとるもんで、その点は、うちの中が映ってどうのこうのっていうプライバシーなんて、そんなケチなこと言っとらん。
これは、集落の習慣や繋がりと深い関係があると感じたため、集落以外の第三者とテレビ電話する時はどうかと尋ねたら、そんなこと考えたことも無かったと言っていたが、Sさん家の端末は棚の上に置いてあるため、丁度自分の顔しか映らないので気にならないと語った。
個人の受け取り方にもよるが、テレビ電話のメリットである顔を見て話せることが、親族など一定の相手以外には、テレビ電話の利用を阻害する原因となりうることが分かった。
第四節 お知らせ機能
今回、インタビューさせて頂いた利用者は、全員毎日お知らせを見ている。
明日の天気予報や道路の通行止めなどの交通情報など、地域に密着した詳しい情報が、となみ衛星通信と提携していることにより、いち早く、手軽に、さらに確実に知ることが出来るため、便利で生活の役に立っていると多くの利用者が語っている。また、クマの出没情報は、以前はテレビや翌日の新聞でしか知りようがなかったので、早く知ることが出来るようになった点、生活の安全性も高まった。
また、端末に文字として残るので忘れにくいし、写真が載せることが出来るので、高齢者にとっては理解しやすい。
しかし、お知らせは、1つの記事に内容の説明が、大体5行くらいの概要しか載っていない。そのため、以前、通行規制の記事で、規制の期間は載っているが、時間帯が載っておらず困った経験があると語っていた。また、市のホームページと連動しているお知らせもタイトルと概要のみで、詳しく内容を知りたいと思っても、それにはパソコンが必要になる。今、端末で記事の内容をすべて流すのは難しいことだろうが、パソコンを使えない高齢者が多いので、パソコンが必要となってしまうのは、非常に不便であるので、対策が必要である。
また、Nさんは集落マネージャーで区長であるので、集落の寄合や、集落のBBQなどのイベントのお知らせの記事を最低でも月に1度は必ず発信している。市役所の市川さんから、全集落マネージャーの中でNさんが最も熱心にお知らせを発信するなどの活動をしてくれていると伺っていたので、その理由を尋ねてみたところ以下のように語っている。
N:要はこれを使ってほしい。やっぱりいいと思うよ。良さを分かってもらえるためにはどうすればいいかやないけど。ただ、今ほら、今年無料で使わしてもらっとるでしょ。来年になったらどうなるか分からん。そのときのこと考えると。今度月1000円とか取られる。そうしたときにお年寄りたちがどう思うかなぁ。
横山:そうですね、1000・・お金かかるとなったら、もしかしたら返そうと思う方も出てこられるかも。今は、Nさんは、お年寄りの生活の中にいかに自然に・・・
N:そうそうそう、自然に。お年寄りが機械を怖がらずに使える・・・
横山:・・使えるようになるように、身近な存在になるために、記事などを発信されて
いるという・・・
N:そういう集落になればいいんやけど、まだね。
Nさんは集落内の利用者にイベントのお知らせを発信することで、端末を使うきっかけを提供している。そうすることで、利用者に端末を使う習慣を作り、抵抗感を無くすことで、今後の利用の継続に繋がっていきやすいと考えている。
第五節 サービス
第一項 買い物支援
NさんとSさんが住んでいる地区の買い物事情としては、まず、スーパーは町の方に行かなければ無い。以前は、近くに農協があったが、それもなくなってしまい、今はコンビニほどの大きさの商店があるだけである。そのため、Nさん宅は、買い物に出かけるのは、だいたい1週間に1度くらいなので、買いだめをする。Nさんは、現在の買い物事情に関して以下のように語っている。
食い物にはそんな不自由ないよ。ただ、欲しい時にないっていうのはやっぱり・・・。子どもが今日アイスクリーム食べたいと思ってもない。そういうときに良いなと思います。買い物支援あれば。
Nさんは、買い物支援に対して、肯定的であり、かつ期待している。また、高齢者は買い物支援のような新しいサービスは、なかなか手を出しづらいので、まず自分から利用して、みんなに広めていきたいと語っていた。
Sさんの奥さんは、タッチパネルの買い物支援(ネットスーパー)を1度だけ利用したことがある。操作は息子さんを呼びながら、これでいいのかと相談しながら行った。利用したきっかけは、お盆で自宅に人が集まるのに、自分が家を空けられないため、町のスーパーに行く余裕がなかったからだ。Sさん宅に来た配達業者さんの話によると、買い物支援は山間部である利賀地域での利用が多く、上平地域での利用は少ない。代金の支払いは、配達時の即払いであるため、取引に困ったことはなかった。しかし、注文した商品(お惣菜)が想像と少し違ったそうだ。高齢者の買い物に対して、デイサービス喜楽の所長は以下のように語っている。
横山:じゃあ、この端末はどの方向やったらうまく活用されるんですかね。やっぱり買
い物とかお知らせとかですかね。
所長:せいぜいお知らせじゃないかなと思う。買い物はまだね、ちょっと難しいと思う。
それから見て買う。品物を見て買うっていうのが、やっぱりみんなさんの思いな
がですよ。希望ながですよ。見て買いたい、だから移動販売がいいっていうよう
な感じ。品物を選べる。
「ネットショッピング」に慣れていない高齢者にとって、買い物は、自分の目で見て買うという意識が強いため、抵抗感を持っている高齢者が中にはいるだろう。確かに、生鮮食品など、吟味して選びたい商品には向かないかもしれないが、日用品など、いつも使っているものなら実物を見なくてもよいので、買い物支援を利用することによって、商品を持ち運びする負担がなくなる。また、利賀地域など山間部などに住んでいて買い物が不便な人や、Sさんの奥さんのように都合が合わなくて欲しいものを買いに行けない人にとっては、自宅まで配達してくれる買い物支援は非常に便利なサービスである。また、以前から農協のふれあいサービスや生協などの買い物支援はあったが、注文・配達は週に1度のみである。対して、この事業の買い物支援は、毎日注文・配達してくれることも、利用者のニーズにより対応しやすいサービスとなっている。
第二項 見守り
利賀地域にある「ネイトピア喜楽」は利賀地域の見守りサービスを担当しているが、現在、テレビ電話による見守りは、ほとんど行われていない。最近では、前述したように「声掛け事業」として8軒にテレビ電話をしたが、3軒しか応答がなかった。その3軒の利用者とテレビ電話した時の印象についてAさんは以下のように語っている。
まぁ出られた方が実際その、役をもっとられる方とか、他から連絡が掛かって来てよく出られるような方なもんで、まぁ、そんなに抵抗はなかったようなんですけど、ただ、電話がかかって来てビックリしたというか、何の用?というような印象は受けましたね。
テレビ電話による見守りは、現状ではあまり使われていない。ただし、2012年の冬に10軒の高齢者宅に見守りのテレビ電話をかけた際、応答があったのはゼロ軒だった。それに比べると、応答してくれる世帯は増えている。
また、現在はテレビ電話による見守りがあまり活発に行われていないため、ネイトピア喜楽からのテレビ電話が初めてで、いきなり電話がかかってきたことに対して困惑しただけではないかと思う。ネイトピア喜楽は、高齢者向けの講座を開いているので、職員のAさんと顔見知りの高齢者も多いため、継続的にテレビ電話をかければ、徐々に抵抗もなくなり、応答してくれる高齢者も増えるのではないだろうか。また、テレビ電話を通して、高齢者向けの講座のお知らせもしているので、高齢者の行動のきっかけにもなりうると思う。
第六節 遠方の親族・隣人との関係
今回の事業は、遠方に住んでいる親族や、隣人とのテレビ電話をウリに整備されてきた。しかし、このような用途でテレビ電話を使っている利用者は少ないことが分かった。
例えば、Sさんのように、遠方に住んでいる親族がいても、相手がテレビ電話が出来る機器を持っていなかったり、また、携帯のメールや電話で普段連絡をとっていて、定期的に必ず会っているので、顔を見て話すテレビ電話の必要性を感じていない利用者もいる。
また、隣人の方とも、Sさんの地区では毎日、「火の用心」で朝・夕方・夜と3回拍子木を持って各家を回る習慣があり、また、畑や外を歩いているだけでも、隣人の方と顔を合わせることが多い。
横山:皆さん集落の方との交流は盛んていうか、わかっとられるがですね。集落の方の状況を。
S:そうです。せやからまぁ、3日か4日で、大体集落の皆さんに知れ渡るちゃね。
誰にも言われんぞ言うとっても。
横山:やっぱそうなりますよね。
S:うん。だから逆に言うたら、あの、町の方と生活の仕方が全然違うっていうか、やっぱ顔見にゃ心配になるっていうか。町の方やとこの頃、いろんな事件なるけど、そういやぁ1カ月や2カ月見なんだって、そんなような事件結構あるわね。ここらでは、そんなことっちゃないです。特に私、診療所の患者送迎用のマイクロバスを運転しとるがですけど、やっぱ何日も乗られんと、あれこの人どんなんがかなぁ思って聞いてみたら、いやぁちょっと重症になって町の方へ行かれたとかそんなようなもんで。
Sさんの地区だけでなく、多くの地区が隣近所の付き合いをしており、お互いがお互いに関心を持ち、気にかけながら生活している。つまり、無意識のうちに地域ぐるみの見守りが行われているといえる。そのため、現在、テレビ電話は、集落内ではあまり必要とされていない。
しかし、遠方の親族間とのテレビ電話で以下のような利用例がある。
Tさんは、遠方の親族とテレビ電話をするために自らこの事業に参加したので、週に2回ほど娘さんとテレビ電話している。最近の連絡は、急ぎの用事以外はテレビ電話を使うことが多くなってきており、Tさんの親族間の連絡手段としてテレビ電話が定着してきている。Tさんはテレビ電話に対しての印象を以下のように語った。
孫たちと一緒に暮らしてないんだけど、孫ちゃんと一緒にいるっていうような気持ちに、錯覚になるような。うん。そんな気持ちになるときもあるんですよ。
これは、テレビ電話ならではのメリットである。一人暮らしは、やはり淋しさを感じやすいので、そんなときに「一人じゃない」と思えることがあるのは、心強い。また、スカイプによって、雛祭りなど一人暮らしではなかなか感じることのできない季節を画面越しにも体験できるのは、生活の中でいい刺激になる。
また、テレビ電話するようになってから、孫たちとの関係が変化したという。
孫といいながらも、親しみがあんまり、あのー、わかないっていうか、孫だから可愛いけど、孫もおばあちゃんとは言うけれど、なんかこうたまにしか会わんから。
以前は、娘さんたちと電話することはあっても、二人だけで携帯で話す事が多く、また孫たちも電話だと、不気味がって上手く話せなかった。たまに会いに来ても、たまにしか「おばあちゃーん」と言ってくれなかったという。お互いにどこかよそよそしさがあった。
しかし、テレビ電話で会話するようになってからの、祖母と孫の関係の変化をTさんと娘のIさんは以下のように語っている。
<Tさん>
テレビ電話のおかげでね「おばあちゃーん」って言うし、「ほら、これ買ってもらったよー」、とかそういうのを言ったりね、「今日どんな遊びしたが?」って言うとね、一緒にテレビ電話の前で歌ってくれたり、それこそほんとに「あぁ、いいもんやな」って。
<Iさん>
今こんなことにハマってるよとか、今保育所でこんな歌習ってきたよっていうのも、おばあちゃんの前でやってあげて、やって見せてって子どもに言ったら、子ども喜んで、おばあちゃんが向こうでこう「きゃあーー」って喜ぶもんで、子どもたちも喜んでそういうのもするし。ただ、今こんなんやってるとか口で言うだけじゃなくて、こう視覚に訴えるっていうのは、すごく良いなと思いますね。
テレビ電話をするようになってから、孫たちと話す機会が格段に増えた。顔が見られるので、孫たちも普段どおりに話せ、孫たちからテレビ電話したいと言うようになった。高齢者だけではなく、子どもにとっても顔を見て話せるスタイルは有効なものだと分かる。また、孫たちの姿が見えるので、本来なら見ることが出来ない踊っている姿や歌っている姿を見て、成長を感じることもできるのもテレビ電話ならではのメリットだ。
また、娘さんは、以前、遠方に住んでいるので、なかなか実家に帰れず、孫の顔を見せてあげられないことを気にしていた。しかし、テレビ電話を通して孫の姿を見せてあげられ、また、母の様子も確認でき、安心することが出来ると語っていた。親族間のテレビ電話によるコミュニケーションは、高齢者を支援する側にとっても同様に有効である。