第一章 問題関心
近年、日本では児童虐待が深刻な社会問題となっている。テレビや新聞など様々なメディアで児童虐待に関連したニュースはたびたび報道されており、それだけ人々の関心が高いテーマだと言えるだろう。では、人々はどのような関心を示しているのだろうか。
児童虐待に関する研究や論文はすでに多く発表されている。しかし、虐待の防止や対策に関して、国や地域、団体の活動に言及したり啓蒙を図るものがほとんどであり、虐待への視線そのものが議論の対象となっているものは少ない。
この研究では、児童虐待の報道にどのような傾向が見られるかを調査する。
まなざしが向けられ、報道される事実があるということは、裏を返せば目の向けられていない側面があるということである。報道傾向の調査を通じて、これらの側面にはどのようなものがあるかを考えるとともに、児童虐待問題と照らし合わせて論じたい。
本稿では児童虐待に関する報道を主なテーマとするので、先に児童虐待問題について触れておきたい。
現代の日本において、児童虐待という社会問題は多くの人々が関心を示す事柄であり、そのことは、テレビニュースや新聞などのメディアでよく話題にされることからもうかがえる。児童虐待が社会問題として世間に浸透し始めたのはいつごろからだろうか。内田 (2009)を主な参考として、90年代から現在までの児童虐待問題についてまとめたい。
実際に児童虐待が社会問題として台頭してきたのは、1990年代に入ってからのことだった。それまではアメリカ社会における関心事という認識であったが、90年代に入ってからは児童虐待に関する報道や議論が急速に拡大することとなった。
こうした経緯から「児童虐待の防止等に関する法律」(以下、虐待防止法と略記)が成立し、これによって人々の児童虐待に対する認識が大いに喚起されることになった。2000年には同法が施行され、2004年には第一回目の改正が行われた。2007年には再び改正が重ねられるなど、国内の虐待防止活動が進められていった。
その他の取り組みとしては、厚生労働省は1990年度から、児童相談所が関わった虐待相談の対応件数を計上・公表している。相談件数は1990年に厚生省が統計を取り始めた時の1,101件から、その後一貫して増加し、2005年度はその約31倍にあたる34,472件に達している。(厚生労働省 平成18年度 児童相談所における児童虐待相談対応件数等より)