第2章 先行研究
この章では、第1節で新聞の分類、第2節でこれまでの新聞社のウェブ展開について、第3節ではSNSについてと地域新聞社のSNSについて述べる。
第1節 新聞の分類
今回の調査では、小寺と竹村(2010)の新聞の区分を用いる。小寺と竹村は、国内の新聞社ウェブサイトに着目し、そこにはどれだけのコンテンツやテクノロジーが設けられているのかについて調査している。国内には専門性が異なる新聞社ウェブサイトが数多あるが、小寺と竹村の調査では、一般紙(通信社・専門紙・スポーツ紙等を除いた新聞)で、かつウェブサイトを開設している新聞社123社を対象としている。またこれらの一般紙は、全国紙や地方紙、ローカル紙など規模も異なるが、小寺と竹村の調査では、1日の購読者数を基にこれらの新聞を50万部と5万部を基準にして3分類し、「広域紙」「地方紙」「ローカル紙」として、新聞社の規模によってコンテンツやテクノロジーがどのように異なるのかについても調査している。小寺と竹村に倣い、私もこの1日の購読部数50万部と5万部を基準に3分類した新聞の区分を用いて調査や考察を行う。
表 2−1 小寺と竹村の新聞の分類
小寺と竹村の区分 |
説明 |
一般的な呼び方 |
広域紙 |
1日の購買者数が50万部を超える新聞 |
全国紙及びブロック紙 |
地方紙 |
1日の購買者数が5万部以上50万部未満の新聞 |
県紙 |
ローカル紙 |
1日の購買者数が5万部未満の新聞 |
ローカル紙 |
第2節 新聞社のウェブ展開について
新聞社は、1995年頃からウェブサイトでニュース速報を提供するようになった。現在では新聞社が自身のウェブサイトを持ち、サイト上で情報提供することは当たり前になりつつある。
しかしながら、新聞社のウェブサイト展開は未だ多くの課題を抱えている。新聞社ウェブサイトのアクセス数は大手ポータルサイト等と比べて充分なものとは言い難い。またウェブサイトとして収益力が低く、現状ではビジネスモデルとして確立出来ていないところが多い。これまで新聞社は、無料でニュースを提供してサイトのクセス数を稼ぎ、インターネット広告で収益を上げるというビジネスモデルを適用してきた。しかし、インターネット広告の単価は紙媒体と比べて低く、ポータルサイトなどとの競争もあるため、実際にはビジネスモデルとしてあまり機能していなかった。さらに近年では、景気の低迷がそれを後押ししている。
このような状況により、新聞社のウェブサイト展開は、現在より良い情報サービスの提供やビジネスモデルの確立を目指して試行錯誤が繰り広げられている最中である。今回の調査では、そのような試行錯誤の一例として、新聞社が運営するSNSについて取り上げる。
第3節 新聞社SNSについて
IT用語辞典e-Wordsによると、SNS(Social Networking Service)とは、「人と人とのつながりを促進・サポートする、コミュニティ型のWebサイト」(IT用語辞典e-Words)とされている。人と人との交流の場を提供する会員制のサービスであり、現在の友人とのコミュニケーションの促進や、新たな友人の構築に利用されている。参加者からの招待で登録できるSNSが多いが、一方で参加者からの招待が不要の自由登録のSNSも増えてきている。
このようなSNSであるが地域新聞社とSNSとの関わりについて、佐藤(2009)は地域新聞社にとって地域SNSが有効である点を以下のように整理している。
1 地域発の情報発信の支援
2 情報発信に意欲的な個人や団体との協業。ネット利用者とのチャンネルづくり
3 コミュニケーションの場の提供
4 地域課題の設定と解決に向けた議論の場の提供
5 ネットを活用した地域プロジェクトの拠点機能の提供
6 新聞社のPR媒体としての機能
7 ネートワーク型の記者の育成
8 他のサイトとの連携によるプロジェクト
9 プロの記者の取材が及ばない範囲にリサーチする環境としての活用
(佐藤 2009: 42)
この佐藤(2009)の論文では、新聞社がSNSを運用する際のデメリットが書かれていない。そのため、私自身で考えた新聞社がSNSを運用する際の課題は以下の通りである。
1 誹謗中傷・荒らし・炎上への対策をとる必要性がある
2 運営に費やす労力や時間に見合った収益が得られるかどうか検討の必要がある
3 情報の信憑性についての疑問にどのようにこたえるのか
第一に、誹謗中傷・荒らし・炎上への対策をどうするのかという課題がある。誹謗中傷や荒らしに対する対策は確実に行う必要がある。行わない場合、誹謗中傷や荒らしに見舞われた際、SNSとして機能しなくなるばかりか、新聞社の信用に関わりかねないからである。第二に、SNSの運営に費やす労力や時間に見合った収益をどのように得るのかという課題がある。新聞社が慈善事業でない以上、労力や時間をかけてSNSを運営するならば、それに見合った収益が求められる。SNSを利用したビジネスモデルについては十分に検討の必要がある。第三に、SNSに書き込まれる情報の信憑性についての課題がある。SNSに情報を書き込むのが一般の住民である以上、その情報が正しいのか間違いなのかの疑問は付き纏う。SNSを運営するならば、その疑問に応じる必要がある。
新聞社がSNSを運用する際のメリット・デメリットについては、以上の点が考えられる。今回の調査では、これらのメリット・デメリットを考慮し、新聞社が運営するSNSの可能性と課題を考察する