第二章 先行研究

 第一節 メディアにおける女性像

井上(2009)によれば、メディアの描く女性像には、その時代のその社会が期待する、女性の姿形や生き方や、あるいは「女らしさ」といった、女についての規範が表現されており、「あるべき」「あるはずの」女性像を提示する。女性たちは、メディアにすべて依存するわけではないが、多少ともメディアを参考にしつつ自分の生き方や物の見方をつくっていくため、メディアの描く女性像は、「あるべき」「あるはずの」ものにとどまらず、「現実」の女性像にもなっていく。もちろん、メディアが一方的に女性を操作するわけではなく、メディア産業が営利企業として成立している以上、あまりに読者・視聴者の実感や期待から離れた女性像は見捨てられてしまうから、メディアの送り手たちは、常に現実の女性たちの動向に敏感に対応せざるを得ない、と井上(2009)は述べている。

 また、井上(2009)は、規範として期待される女性像と、女性自身の現実や希望とが、ある時は妥協し、ある時は拮抗する。両者の綱引きの場として、メディアは存在するわけであると述べている。

 

 第二節 鬼嫁ブームについて

200410月から、理不尽な嫁の仕打ちに耐えるサラリーマン、カズマ氏が、日々の思いをつづったブログ「実録鬼嫁日記」がアメーバブログに掲載され、3カ月連続でアクセスランキング1位を記録した。またこれをベースとして漫画、テレビドラマ、ゲームが制作され、ブログを超えた「鬼嫁」ブームとなった。2005年のユーキャン新語・流行語大賞で「ブログ」という言葉が選ばれた際には、代表して「実録鬼嫁日記」のブロガーであるカズマ氏が受賞している。また、芸能界では北斗晶やジャガー横田が「鬼嫁」と呼ばれキャラクターを確立し、テレビ番組に出演している。バラエティ番組では「恐妻家スペシャル」などの特集が頻繁に組まれ、「鬼嫁」の実態を語る芸能人の夫も多い。

また、藤巻(2002)は、昔に比べ強い妻を理想とする夫が増えていて、家族新時代、または家族多様化時代へと動き出している、と述べている。これに基づけば、現代「強い妻」が肯定的にとらえられるようになってきているのではないか、またそれによって「鬼嫁」というキャラクターがブレイクし、受け入れられるようになってきたのではないだろうか。