第二章 先行研究
第一節 育児不安とは
三沢(1989:16-34)によると、「育児不安」とは「子供や子育てに対する蓄積された漠然とした恐れを含む情緒の状態」のことを指し、これは子育てをする母親であれば誰にでも起こり得るものであるという。また、人の注意を深刻に受け止めすぎることが育児不安、及び育児ノイローゼの引き金となっている例が目立ち、育児ノイローゼというと、特別になりやすい性格の人がなるもののように考えられがちだが、必ずしもそうではなく、条件次第でだれでも育児不安を抱え込み、育児ノイローゼに陥る可能性があるという。
第二節 家事専業の母親への危惧
三沢(1989:16-34)によると、就業している母親と家事専業の母親では、後者で育児不安が高まる傾向にあるという。その理由として、現代は核家族化や少子化が進み、両親との同居世帯が減少し、近隣との結び付きも希薄化した結果、夫婦2人で子育てを行う家庭が増加していることが考えられている。そうした家庭においては、家事専業の母親は、夫が仕事で外に出ている間、だれにも頼れず、一人で子どもの世話を担う可能性が高い。それに加え、現代という時期は、「二人っ子第二世代」が生み出されている時代であることも育児不安に関係していると指摘している。つまり現代は、親の側もまた二人っ子世代である。よって、弟妹がいない親世代は育児経験や知識が乏しい状態で育児をすることになるため、そのことが、育児不安が高まる原因の一つとも考えられるというのである。
第三節 『育児援助』という概念
この卒業論文では、『子育て支援』『育児援助』を同義と考える。以下では落合恵美子(1989:109-131)に従って『育児援助』の概念をまとめたい。落合は『育児援助』を母親に対して育児役割の遂行を容易にするために与えられる、直接・間接の助力と定義しておいる。また育児援助をその内容によりいくつかの種類で区別している。「直接的援助」は育児労働そのものの一部あるいは全部を代行するもの。「間接的援助」は母親の育児役割遂行を側面から支えるものと定義している。このうち、「間接的援助」の内訳を、母親を情緒的に支える「情緒的育児援助」、そして育児に必要な金銭や物品を与える「経済的育児援助」に二分している。この卒業論文では、「情緒的育児援助」に着目し、子育てサークルの意義や『親を学び伝える学習プログラム』の活用効果について考える際、母親を情緒的に支える「情緒的育児援助」としての効果があるのかという視点で分析・考察を進めていきたい。
また落合は、「核家族の育児援助に関する調査研究」の過程において、核家族であるなしに関わらず、現代の育児は一般に各種のサポート・システムに支えられており、それなしには成り立たないという実態が浮かび上がったという。そして母親が一人で育児役割を遂行するという育児や母子関係についての近代家族的な理念は、現代日本社会の現実から外れているという問題提起を行なった。そして精神的困難を抱えた母親が持つ育児援助への要望を調査したところ、家族類型や母親の社会的活動如何に関わらず、すべての母親に対し情緒的育児援助の充実が必要だという考察に至ったという。
また落合は、「機関による育児援助」を考えるにあたり、幼児教育センターや幼稚園・公民館・児童館などで開かれる育児についての講座や、親子で参加する共同子育てグループの試み、また体験学習などの、『情報的育児援助やそれと付随する情緒的育児援助』を主たる任務とする機関を活用することによって、育児ノイローゼから救われたケースにインタビュー調査で多く出会ったことを受け、機関による育児援助は規則的な直接的育児援助が主であったが、近年の情報的・情緒的育児援助の比重も高まっているという結論を導いている。
第四節 子育てサークルの意義
丹羽(2004:41)によると、子育てに問題を抱えた場合、最も大事なのは相談相手がいるかということであり、相談相手とされるのは配偶者が最も多く、次いで同年齢の子どもをもつ母親であるという。同年齢の子どもを持つ母親たちは、抱えている悩みの内容が近く、気持ちを共有できる相手であり、お互いに相談できる間柄になっていくものと考えられる。またこの論文の調査では、未収園児保護者は、幼稚園の地域開放を利用しているものが対象となっている。このことから、自宅で子育てをしている保護者たちにとって、幼稚園が子育ての仲間作りの場となっていることが窺える。母親は、このような仲間と過ごすことで「ストレスが発散できる」「同じ悩みがあることが分かって共感できる」「子育ての情報が得られる」「子育てで困っていることの解決策が分かる」「子供に遊び相手ができる」というような精神的なメリットが得られるという。このことから、子育てに悩みつつ、日々奮闘している者同士、同じ立場で相談しあえる仲間の存在は、重要な精神的支えであることが分かる。一方、この調査では、相談相手がいないと答えた人が、全体の2.5%と、全体的に多くはないものの、決して無視できないポイントである。そのような母親は、育児の悩みを「自分で調べたり考えたりする」と回答する場合がほとんどであったという。しかし、その中で、「結局解決できないでいる」「問題を抱えたままでいる」と回答する人が14.6%であり、懸念すべき問題であることも確かである。そしてそのような人たちは、子育てに対する満足度も低いことが分かっており、このことから、身近な相談相手がおらず、子育ての問題が解決できないことが、子育ての満足度を下げていることが言えるのではないかと主張している。[i]