第3節 仮説3のデータ検証
仮説3ではファッションについての排除意識を探る。まずMHとHTのインタビューからのデータである。
MFとHTのインタビュー
【会話A】
MF:話すよ。(HT:はは。)話すけど、なんかあんまなんかあれなのかなって思うと、興味がわかないっていうか、こない。なんていうんだろ。(t:うんうん。)あんま尊敬できないから、(t:うんうん。)でもほかに人間的にいいところがあればそこはたぶん、それはそれだと思うけど。(t:うん。)得るものがない。(HT:あははは。)(t:ふーん。)なんて言えばいいの。MF汚いからさ、そういうとこ。なんか一緒にいて恥ずかしい子とは一緒にいたくない。
【会話B】
MF:ダサい子は嫌だ。(HT:ふふふ。)だって得るものがないもん。
【会話C】
MF:わかんない。別に一緒にいたいと思わない。
HT:やっぱり外見で入ってるんじゃない。
MF:見下しちゃうってか、嫌な言い方だけど、興味がそれ以上わかないから、それ以上知りたいと思わない。
HT:そうなんだ。MFちゃんはすごい極端だけど、あたしもわかる。
会話A〜会話Cにおいて、MFは「一緒にいて恥ずかしい子とは一緒にいたくない。」「ダサい子は嫌だ。」などの排除意識を伺わせている。この点で筆者が「人間的な部分は関係ないのか」と掘り下げると、MFはここに抜き出していない他の会話の部分で「ダサい子はいい子」であるが、「自分の欲しい世界をくれる人間ではないと判断する」いう意味の返答をした。排除意識は顕著である。
【会話D】
HT:普通集団にいたい。
t:あー。普通かあ。
HT:なんかこう、可もなく不可もなくな集団で生きていきたい。(t:ふーん。)
MF:hちゃんは人生に波風立てたくないタイプ。ははは。
HT:実際波風立ってるかも分かんないけど、波風たてたくない。(t:へえー。)なんでそういうこと、なんでそうなるんだろうみたいな人とあんまり関わりたくない。
t:あそう。
HT:かもしれない。それが(t:うん。)なんだろ、その人の性格とかも知った うえで、ものすごい興味がわく人だったら別だけど、(f:うんうん。)友人として付き合う分に、(t:うん。)なんか、ちょっと目立つ人とかはなんか避けてる気がする。
HTの最後の発言に注目したい。「その人の性格とかも知ったうえで、ものすごい興味がわく人だったら別だけど、友人として付き合う分に、なんか、ちょっと目立つ人とかはなんか避けてる気がする。」と言っている。「ちょっと目立つ人」は自分と合わない人だと判断していると伺える。
【会話E】
MF:ギャル男は無理だよ。中身ないもん、ギャル男。中身ないからあーなってる
(中略)
MF:甘い。ちゃんとした仕事とかさ、できないしさ。
「ギャル」や「ギャル男[i]」について、「中身ない」「甘い。ちゃんとした仕事とかさ、できない」などというイメージを話し、冒頭でギャル男については無理だと話す。しかし、ギャルについては「純粋に、あーなりたいなって思う。あの顔とあの体になりたいなって思う。」容姿への憧れをあらわにしている。
次のMNのインタビューはストリートスナップを見ながら話した会話から抽出した。ここではかなり具体的なファッションイメージが出現し、「ゴスロリ[ii]」と言われる格好をしてる者や長髪の男性、ヤンキー風の格好をしている者に対しての排除意識が語られている。
MNのインタビュー
【会話A】
MN:=その人の世界観、が出ちゃうのかな、服に。めちゃめちゃゴスロリだったら、(t:うん。)もうそれじゃん。だからあたしはこの人と話合わないなって思う。
(中略)
MN:ちょっと大げさに言うと、その人と自分が横で歩けるか歩けないか。(t:ふーん。)うん。
【会話B】
MN:男の人のロン毛が許せないから。(t:へえー。)汚らしい。ここまで伸びちゃうと。汚いって思う。
【会話C】
MN:ヤンキー。
t:男の子のってこと?
MN:女の子も。
【会話D】
MN:ちょっと世界があり過ぎ、自分の。自分の世界が濃すぎる。
t:そう。
MN:うん。
t:自分の世界を持ちすぎてる人は嫌なの?
MN:うん。
t:声かけようと思わないってこと?
MN:思わない。
t:なんで?
MN:あたしが興味無いから。その世界に。
MNは「この人と話合わないなって思う。」と語り、自分の興味のない世界の世界観を色濃く出ているものについては排除意識が生まれることを示唆した。MNの排除の基準は「の人と自分が横で歩けるか歩けないか。」とも話している。
AWのインタビューからは、具体的なジャンルやテイストは語られなかったが、ファッションに関心がない人に対しての排除意識が伺える。
AWのインタビュー
【会話A】
AW:えーなんだろう。(t:うふふ。)なんだろうなあ。まず、なんか(t:うん。)おとなしめな子とは、まずなんか、(t:うん。)話が違うじゃん。(t:んー、うん、わかるわかる。)キャピキャピしてる、キャピキャピってか△△△わかんないけど、(t:うん。)いうつもキャーキャー言ってる女の子たちはやっぱり話題が、男の子の話であったりとか、(t:うん。)なんか、今時の大学生、女子大生みたいな会話?おいしいお店とか、エステとか、(t:うん。)そういう話題が結構多い気がして。(t:うん。)かと言って、あその、おとなしい子たちの話をすごい仲良く聞いたわけではないんだけど、(t:うんうん。)仲良く話ししてるとかではないけど、たぶんエステとかそういう話はしないんだろうなっていう感じはする。(t:ふーん。)男の話はよく聞くけど、やってるけど。
【会話B】
AW:だからすごい無頓着な子っているじゃん。(t:うんうん。)そういう子とは普通に話するし、別に友人じゃないしそういうんじゃないんだけど、(t:うん。)遊びに誘ったり遊んだこととかない。学校では行動してるけど、じゃあ何々曜日に行こうよみたいな、そういのはないかな。
【会話C】
AW:んー…あまりにも気を遣ってない人は、男女問わずあんまり。すんごい究極な話、しっかりした服、ピシッとした服を着なきゃいけないのにサンダルで来ちゃったみたいな、(t:あー。)そういうのは、△△だと思えばいいかもしれないけど、それが第一印象だって言っちゃうと、えってひいちゃうかも。(t:うーん。)でもそのぐらいかもしれない。ファッション、服装でいうと。
会話Aで「おとなしめな子とは、まずなんか、話が違うじゃん。」と語っている。会話Bでは「ファッションに対して無頓着な子とは改めて個人的に遊んだりはしない」という意味の内容を話し、会話Cでは「あまりにも気を遣ってない人は、男女問わずあんまり」と話している。つまりAWはファッションに気を遣えているか遣えていないかが排除の基準となっていることがわかる。
しかし、一般的に排除意識を持たれやすいとされるファッションについて、自分自身は特別排除意識を持たなかったという事例もある。
次の会話は、AWがゴスロリファッションをした友人と遊びに行ったときの写真を見ながら話したエピソードである。その友人と一緒に街を歩くたびに、通りがかりに驚かれたり、指をさされたりするが、それすらも気にならなかったという話である。
【会話D】
AW:あたしね、バイトの後輩にね、ロリータ系[iii]、ごりっごりのロリータがいて。(t:うんうん。)下妻物語[iv]、深キョンの。(t:うんうん。)傘持っちゃったり。(t:うんうん。)あういう子とかと一緒に歩いたり話したりして、そういうので免疫っていうか、別に普通の子じゃんていうのもある。
t:あ、そのゴスロリの子は、(AW:うん。)えとー、最初はさあ、そうだね、バイトで知り合ったから、最初からさゴスロリとは知らなかったんだよね?
AW:知らなかった。普通のほら、かわいい子だなあって思ってて、(t:うん。)で、帰る時になってなんですかその服みたいな。(笑)
t:うふふふ。(笑)でも別に、それを知ったからって=
AW:=引かない引かない。びっくりしたけどね。びっくりはするよ?え、そんな格好どこで売ってんのみたいな。(t:うーん。)そういうのはあるけど。あと店長とかと、ほかのバイトのメンバーとすごいよねえくらいの話をして、一応びっくりはするけど、だからって言って、あー、一線を置くとかではない。一緒に遊びに行ったりしたしね。
(中略)
AW:ピンクとか。一緒に歩くと指差されて見られて、ちょっと面白かったけどね、そん時は。
t:あ、そういうのは別に嫌だと思わなかった?
AW:嫌だとは思わなかった。見られてるよみたいなそんくらいだった。
(中略)
AW:普通の子だからっていうのもあったかも。性格がちょっと曲がってたりしたらやっぱ引く部分は、引くものはあったけど。
t:別に服装がどうだからってっていう感じ?
AW:うん。この子の場合は性格が良かったからだと思う。
t:でも本物。
AW:だってこの子が道を歩いてたらすごいよ、ほんとに。みんな見てた。ちょっと注目されてるよ、とか言ってたもん。
まず、ゴスロリの友人との出会いはアルバイト先であり、初めはゴスロリのファッションをしていることは知らなかったという点に着目する。そして、2つ目の中略後で、待ちゆく人の視線も気にならなかったと話すが、性格が良い子だったからその友人の服装を気にしなかったと話している。これらのことより、この友人とAWの友人関係は、どのようなファッションであるかを知る以前に、すでに存在しており、性格を知り合った仲であったことがわかる。
ここから、既存の友人関係においてはファッションの排除意識は問題にされていないことが明らかになった。
MNとAOとMIのインタビューからも排除意識が伺える。
MNとAOとMIのインタビュー
【会話A】
AO:例えば、あたしがすっごい地味で、(t:うん。)例えばね。(t:うん。)もう今どき、すごいなんか…もうなんか、色が褪せたようなジーパンと、なんかすごいなんかさあ、花柄のさあ、(t:うん。)よれたTシャツ着てる子だとするじゃん。(t:うん。)ここに1人でいてね。ふって見たときに、そんな茶色い髪の毛の人とか、なんか自分が普段そういう格好しない人がいたら、絶対あたし一緒に、ついていけないって思う。まず。(t:うーん。)だから固定概念があるさ。こういう格好してる人は、絶対性格が合わないとか。
どのような格好が苦手なのかという意識は語られていないが、「こういう格好してる人は、絶対性格が合わない」という固定概念があることを話してくれた。
排除意識は非常に具体的に語られている。排除の基準は個人でさまざまではあるが、たくさんのエピソードが語られたように思う。よって仮説Bは支持されると言っていいだろう。しかし排除意識が語られるエピソードでは、友人関係を構築する「きっかけ」の段階を想定して語られており、既存の友人関係を深める「強化」の段階においてはファッションによる排除意識は問題にされておらず、さらに内面について語られることもあった。
この結果から、第1節の仮説1について述べたように、関係を構築するきっかけとしてファッションの重要度は高いものの、既存の友人関係においては必ずしも最重要項目として置かれていないということが言えるだろう。
[ii] ゴシックファッションをロリータ・ファッションと組み合わせたゴシック・アンド・ロリータの略称である。西洋人形やお姫様風のロマンチックなロリータ(少女趣味
ファッションに、死や悪魔をほうふつさせるゴシックイメージを加えたものである。フリル、レース、リボンをあしらいパニエ(アンダースカート)で膨らませたスカート、姫袖と呼ばれるフリフリの袖、厚底のストラップシューズに、コルセット、十字架、ユリなどの魔界的な中世モチーフで退廃ムードをかもし出しているファッションを指している。