3章 仮説と調査

第1節 仮説の設定

福重清の「親しさの要件」(浅野 編、2006)と題された項の中で行われた調査結果から導き出されている「今日の若者の多くは、友人と親しくなるかどうかに関して、相手の内面的要素を重視していることがわかる」という見解に対して、私は実情とのズレを感じている。街中の若者やまわりの大学生を見渡すと、似たファッションの友人同士で歩いているのをよく見かける。これより、若者の友人関係において、外面的要素とくに「ファッション」というポイントは、その関係が構築されるプロセスで重要な位置を占めると予想する。これらのことをもとにこのズレを検証するべく、私は以下の仮説を設置した。

本論文では「ファッション」という言葉を多用するが、本論文で扱う「ファッション」という言葉の意味を、身につけているものの中で「自ら選択し得るもの」に限定して使用していく。したがって、体型や顔などあらかじめ与えられているものは含まない。

 

仮説1:ファッションを見ればどんな人かがわかるものとしてファッションが捉えられている。

ファッションは、「〜なファッションをしている人は自分と合う人間である」というような内面的な相性を判断する基準として重視されていると予想する。それは自分では内面を重視しているつもりでも、周りから見れば実際にはファッションを重視していることになるのではないだろうか。

 

仮説2:友人関係において、自分が似たり、相手が似たりと付き合う友人でファッションが変化する。

私は、仲の良さそうに見える集団が似たようなファッションをしていると前述した。このことから、友人関係とファッションが無関係であるとは思えない。ファッションを似たものにすることによって、友人関係が良好なものになっていっているのではないかと予想する。

 

仮説3:「〜なファッションをしている人とは仲良くなれない」という排除意識がある。

このような排除意識があるということは、ファッションによって友人になるかならないかという判別を行っていることにつながるのではないだろうか。

 

 

仮説4:友人と一緒に「服を買いに行く」という行為やファッションの話題を共有することが、友人関係の構築や関係を深めることにおいて重要である。

仲が良くない友人と買い物に行くという行為はあまりしないだろう。同じ好みを共有することが仲良くなることにつながり、「服を一緒に買いに行く」という行為が、お互いの関係を深める効果をもたらすものではないかと予想する。

 

この仮説をもとに調査・分析を進めていく。

 

第2節 調査

本論文では、福重の量的調査に対し、結果が生じるプロセスで実情の複雑さを把握するためにインタビュー調査を採用した。インタビューでの会話を録音させてもらい、その音源を文字におこしたものを調査データとして扱う。

対象者には、過去から現在までの写真やプリクラシールなどを無理がない程度に持ってきてもらい、それを見ながらフリートーク形式でファッションにまつわるエピソードを語ってもらう。これは、視覚的な資料を利用して実施することで、対象者から今までのファッションにまつわるエピソードを引き出しやすくするためである。

さらに、筆者は「東京グラフィティ」という雑誌を持参し、この雑誌のストリートスナップの部分を利用した。この雑誌は、様々な年齢層で様々なファッションをした人が載っている。したがって、ファッションによるターゲットを特定せずに参考にできると予想したため利用した。これを利用することで、排除意識の仮設に対してインタビューが円滑なものになることを期待して用いた。

 

インタビュー対象者[i]は、筆者の伝手でファッションに興味・関心のある学生を中心に選んだ。また、学生でない場合は25歳以下で大学・短期大学・専門学校に在学経験のある者とし、在学当時のことを思い出しながら語ってもらう。

今回の調査では、以下の7人にインタビュー調査を実施した。

下の(表1)は、7人のインタビュー対象者の属性とインタビューに持参してもらった持ち物を表したものである。

(表1)を見てわかるように、インタビュー対象者の性別がほとんど女性である。今回の調査は対象者を女性に焦点を当てて行ってきたが、男性のMKについては、分析の上で興味深いエピソードが語られていたために、例外的に紹介する目的で加えた。

 

 

(表1)

 

性別

年齢(調査時)

職業

持ち物

MNさん

21歳

会社員(福祉系)

  高3のときの写真

  プリクラ

AOさん

21歳

会社員(食品系)

  中学〜短大までの写真

  プリクラ

MIさん

21歳

看護士

・ 短大のときのプリクラ

MFさん

21歳

大学4年生

(看護系)

  中学〜大学までの写真

  プリクラ

HTさん

22歳

大学4年生

(看護系)

  高校〜大学までの写真

  プリクラ

AWさん

22歳

大学4年生

(食物系)

  デジタルカメラ画像

  小学〜大学までのプリクラ

MKさん

22歳

大学4年生

(教育系)

・高校のときの卒業アルバム

 



[i] 本論文を書くにあたって、インタビュー対象者を限定した。

25歳以下である理由として、在学当時のことを振り返るのに時間的に無理がない年齢の範囲と思われる。

大学・短期大学・専門学校に在学経験のある者とした理由として、私服通学が多くを占め、それによりファッションへの関心が強まり、第一印象を創りあげることにおいて、個々のファッションが大きな位置を占めると思われる。また、高校までよりも多くの人が通い、一人暮らしやアルバイト、サークル活動に参加するなど生活の自由度が高まることで出会いの自由度も高まると予想する。したがって、人間関係を結ぶ機会も増え、様々なエピソードが語られると予想するためである。

ファッションに興味・関心がある者、また、女性に焦点を当てた理由として、女性はファッションについて男性よりも関心の強さが顕著である。そしてファッションに興味・関心がある者は趣味嗜好も多様で、今回の調査テーマに関して興味深いエピソードが語られると予想したためである。