第二章 先行研究
第一節 過去の日本のいじめ
インターネットが今日の日本のように十二分に普及する前に学生間で起こっていたいじめ、学校で起こっていたいじめの傾向として森田・滝・秦・星野・若井(1999)らによれば(全国の小学5年生から中学3年生の児童生徒から得られたデータから)いじめ加害経験者の割合がいじめ被害経験者の割合に比べ高いことから、1人でいじめるケースは比較的少なく、集団でいじめる形態をとるケースが多い。としている。
また、いじめ被害経験を持つ小学生及び中学生が受けた、いじめの手口は「悪口・からかい」が最も多く、次いで「無視・仲間はずれ」となっており、破壊的ではなく精神的ないじめが過去の日本のいじめの大部分を占めている。破壊的ないじめは証拠が残るが、精神的ないじめは客観的な証拠が残らない場合が多く、いじめ自体をとらえるのが困難であり、いじめを受けた児童生徒がどれほどの精神的ダメージを被っているかも把握しにくい。そのため、日本のいじめは「厄介かつ陰湿」なものであると言える。
第二節 ネットいじめとは
ネットいじめが近年問題として大きくメディアで取り上げられる事件として、2007年兵庫県神戸市須磨区での高校生自殺事件などがあげられる。その事件ではいじめ加害者が脅迫メールの送信や学校裏サイト(いじめ加害者4人により開設)上での中傷、いじめ被害者の嫌がる写真の掲載などの行為によりいじめ被害者を自殺に追い込んだ。その事件が発端となり、インターネットを使ったいじめの危険性が叫ばれるようになった。渋井(2008)はそのいじめ自殺事件について、いじめ被害者は掲示板上で「あいつは嘘つき」だと書き込まれ、日常でも嘘つき呼ばわりされ、メールでも脅迫される。被害者はホームページにも嘘つきだと罵られ、コミュニケーションができる範囲で散々同じようなことを言われていたので、精神的逃げ場がなくなっていたのではないか。としている。
上記のようにネットいじめはかつての学校で起こるいじめと違い、学校と関係のない個々のプライベートな空間(=24時間)に及ぶものであり、いじめ被害者の精神的圧力は計り知れない。
また、メディアではよくウェブ自体がもともと持っている性質「匿名性」とネットいじめを関連付けて、匿名性であるからネットいじめは危険なものであり、匿名ゆえにネットいじめは悪質な傾向になりやすいという印象論で語られることが多い。「広がるネットいじめ 匿名で中傷悪質化」(「読売新聞」2007年11月16日)という新聞タイトルや、「「顔」の見えないネット社会の暴走が止まらない。文科省の調査で「学校裏サイト」は三万八〇〇〇件もあり、抽出した半数は他人を中傷する表現があった。現代の子どもたちの荒廃した「裏の顔」が透けて見える。」(「毎日新聞」2008年4月16日夕刊)の新聞記事(「顔」の見えない…の部分)など、匿名性がネットいじめに拍車をかけているかのようにメディアでは実際に論じられている。