第三章 調査概要
ネットいじめが頻発する学校裏サイトは、2008年3月に発表された文部科学省による調査では日本国内に3万8000以上あるとされ、その全てを闇雲に調べたとしても効率的にネットいじめ及びネットいじめにつながるような書き込みを発見・抽出するのが難しいと考えた。今回は渋谷(2008)がネットいじめの温床として取り上げていて、私自身も学生による中傷や暴言が頻繁に書き込まれていたと3年次調査で感じられたモバゲータウンと前略プロフィールについて見ていくことにする。(この2つのサイトは該当サイト内の検索でヒットしやすいため発見に至りやすいという利点もある。)実際の書き込みを抽出し、体系化させていくことで傾向や実態を浮き彫りにさせていく。
第一節 モバゲータウン上でのネットいじめ調査
本調査では株式会社Hディー・エヌ・エーH(DeNA)が運営するH携帯電話H向けのHポータルサイトH兼Hソーシャル・ネットワーキング・サービスHであるモバゲータウンを重点的に調査していった。モバゲータウンでは掲示板のくくりを「サークル」と呼び(ミクシィで言えばコミュニティのようなもので、同じ属性を持つネット上の共同体と言える)、学校別の掲示板のくくりで「○○高校」などのサークルも多数存在する。その学校別のサークルはモバゲータウン内で学校裏サイト的な役割を果たしており、学生間で頻繁に書き込みが行われている。その学校別のサークル内であればいじめ及びいじめに繋がる書き込みが多くあるのではないかと推測し、サークル内で該当する書き込みを抽出する。
個々の学校内の生徒で運営しているサークルでも学校に一切管理されることは基本的にはない(ただし事件や犯罪が起こった場合は例外)。学校別のサークルでは所属する学校の生徒(稀にそのOB)が管理人になり、同じ学校の生徒は加入申請なるものを管理人に出して承認されたのちに参加している。サークルに加入しなければ書き込みは見ることができない(もちろん加入しなければ書き込むこともできない)ため、学校別のサークルに加入した上で書き込みを閲覧していく。一度サークルに加入しても除名となるとその後一切書き込みが閲覧できなくなるということがあり、学校別のサークル管理人の一存で私自身がそのサークルに所属できるか決まるので、普段から管理人とは最低限必要なコミュニケーションは取るようにした。
サークルの書き込みはトピックと呼ばれるまとまりによって構成される。2ちゃんねるであればスレッドのようなものである。サークル内のトピック一覧を表示する際の順序は、各サークル内における最終投稿時間を用いる。投稿が行われた時点で、該当トピックが一覧の下位から上位に浮上していく仕組みになっている。このトピック内による書き込みが今回の調査の核となる。
モバゲータウンでは書き込みに対する管理の目が甘く、明らかな誹謗中傷の書き込みにも削除がなされていない点(モバゲーの監視要員は300人とも言われているが誹謗中傷やプライバシーの侵害に当たる写真掲載など見受けられた)や、加入申請が承認され、サークル内に入ってしまえばどんな書き込みであっても自由に閲覧することができるという点などから調査・分析しやすいと考え、多くの時間を割き調査し、ネットいじめの発見に尽力した。
モバゲータウン内で中部地方における各県の学校別(小学校・中学校・高校)のサークルをまず検索から探していき、最終的に把握できたのは、富山県内17件/石川県内11件/福井県内13件/新潟県内28件/長野県内15件/山梨県内17件/三重県内6件/岐阜県内14件/静岡県内10件/愛知県内25件の計156件となっている。
そのなかで管理人に加入申請を送信した結果、加入が承認されたサークル(=サークル内トピック閲覧可能になったもの)は、富山県内9件/石川県内9件/福井県内7件/新潟県内18件/長野県内8件/山梨県内9件/三重県内3件/岐阜県内6件/静岡県内5件/愛知県内7件
の計81件となった。
その81件のサークルのなかにあった全トピックを細かに見ていき、ネットいじめ及びネットいじめに繋がりそうな書き込みを精査していった。その全トピックのうち、ネットいじめだと思われる誹謗中傷やプライバシーの侵害を含むトピックは9件であった。その9件のトピックを材料にし(一部固有名詞などは変換して提示)、書き込みに込められた意味、誹謗中傷を行った者の心理、ネットいじめの傾向などを把握していく。
第二節 前略プロフィール上でのネットいじめ調査
楽天株式会社が提供しており、学生が主な利用者である前略プロフィールもモバゲータウンと並行して調査していった。小学生・中学生・高校生の前略プロフィールを入口とし、そこにリンクされているBBS(学校や学級、友達同士、部活、塾生仲間で作ったものなど)内の書き込みからネットいじめ及びネットいじめに繋がりそうなものを細かに探していった。
前略プロフィールは非常に簡単に自己紹介ページを作成でき、現在100万以上の各個人のプロフィールが存在するため検索キーワードによりある程度対象を絞り調査していった。キーワードは「各県名(○○県)」と「小学生」、「各県名(○○県)」と「中学生」、「各県名(○○県)」と「高校生」の3通りとする。そのキーワードで検索した結果上位100件ずつ調べていき、上記モバゲータウンと同様の中部地方の各県300件のプロフィール及びプロフィールにリンクされているBBSを見ていった。
しかし、鍵付き(パスワードが設定されており、そのパスワードを正しく入力しないとなかのページに進めないというシステム)のBBSが多いということと、掲示板に書き込まれた返答はその同じ掲示板内に続けて書き込まれるのではなく、返答したい相手が運営・参加している掲示板に行き書き込まれることが多いので1つの掲示板から見えるやりとりは断片的にしか理解できないという難しい条件のなか探していった。その条件によりネットいじめの全容が掴める形で載っている書き込みを発見することはできなかった。
そのなかでも明らかな誹謗中傷を含んでいたものを1件巻末資料として最後に載せておく(話が断片的でほとんど話が一連の流れとして理解できていない)。