第二章 同郷者集団とその関連の団体
第一節 同郷者集団
同郷者集団とは、故郷を同じとする人々によって組織される団体を総じて指すが、一般に出身地の範囲及び現在の居住地の範囲によって組織構成が決定される。同郷者集団は、各道府県を単位に組織される県人会や県人会連合会等、県以下の細かい自治体区分により組織する集団(京都利賀享友会等)、母校を基盤とする同窓会、会社単位の職域会等を含む集団であり、範囲が大きく広がるものまで様々でその一様な定義付けは難しい。同郷者集団は他にも同郷団体やふるさと会等の呼び名も見られ、規模や組織構成は多岐にわたる。既存研究に依れば、県人会や県人会連合会と自治体区分による集団等とは大きく大別することができ、本論もこれに倣い前者を「県人会」、後者を「同郷会」と称し区別して扱うことにする。
第一項 県人会
正式には県人会とは都道府県人会のことであり、出身都道府県から離れた地域で結成される各都道府県出身者単位の親睦会や親睦団体のことを示す。ほとんどが民間の任意団体で組織されており、全国各地あるいは海外にまで存在する。都道府県人会と全てをひと括りに呼ぶことは少なく、各都道府県別に県人会や府人会と呼ぶことが多い。
県人会の規模や活動は団体によって異なり、入会の規定も当該県出身者限定の会もあれば規定のない会もある。呼称はそれぞれ「在京富山県人会」(東京都在住の富山県出身者の会)や「石川富山県人会」(石川県在住の富山県出身者)などのように居住地と出身県を組み合わせて成り立っている。
県人会の活動として最も主だったものは総会であり、ほとんどの県人会に共通して行われている行事である。総会は各会一年に一度必ず行われ、会長や会の役員を発表し、県人会の会計報告を行うための大規模な会合である。総会にほとんどの会は懇親会という会合を付随させており、これは出身地にゆかりのあるゲストやイベントを行い、会員同士の交流を深める目的で行われている。
第二項 同郷会
同郷会とは、主に県より細かな市区町村の自治体区分で成り立っている同郷者集団のことを示し、県人会よりも細分化された同郷者集団である。呼称は県人会と同じ方式で成り立っているが、組織・構成単位が小さいことから県人会よりも現存する会は多く、また、基盤となる自治体の数から存立する会自体も非常に多岐にわたっている。同郷会は運営の面等で密接に県人会と関わりを維持しているケースが多く、同郷会等の集合体で県人会が組織されていることもある。同郷会会員となれば必然的に県人会の会員となるケースもあり、県人会の下部組織としての位置づけや役割も大きい。
活動としては県人会と同様、総会が各会必ず行われ、内容や懇親会の付随も県人会と同様である。
第二節 関連の団体
本調査では以下の3団体を主な調査対象として分析を進めてゆく。
第一項 東海地区県人会
東海地区に存在する県人会を示す。加盟団体は「東海〜県人会」「中部〜県人会」「中京〜県人会」「愛知〜県人会」のいずれかを称し、全国県人会東海地区連絡協議会(以下、連絡協議会)が主に運営している。連絡協議会は昭和53年、読売新聞の県人会会長を紹介する連載記事を見た当時の愛知県知事の発案で同年、組織される。読売新聞中部支社内に事務局を置き、現在、東海地区にある37道県人会(約20,000人)が加入、相互の情報交換や親睦を図る事業を行っている。名古屋のPR活動にも従事している。
今回東海地区の県人会に着目したのは各地の県人会が結集しひとつの大規模なイベントを作り上げているからである。イベントはふるさと全国県人会まつり(以下、県人会まつり)と称され、全国的にみても県人会が結集し大きなイベントを催すこのようなものは他に類を見ない。名古屋の中心街で各地の県人会が一同に会し、創意工夫を凝らして出身県をアピールする。多くの年齢層をターゲットとするため、近年各地で行われている県人会の活動の中でも最も活発であり、先進的なものであるように見受けられる。イベント会場は活気に溢れ、毎年多くの来場者を迎えている。全国的に見ても珍しいこのようなイベントを行っている東海地区の県人会を取り上げることにより県人会の新たな側面、現代に応じた県人会のかたちを見出せると感じたからである。
第二項 富山県人社
株式会社富山県人社(以下、富山県人社)とは、富山県高岡市にある全国各地の富山県人会を取りまとめる大正15年4月創業の株式会社である。事業内容としては月刊『富山県人』(以下、『富山県人』)の発行、 全国の富山県出身者に対するふるさと富山の情報提供、書籍の編集・出版などを行っている。また、全国各地にある富山県人会に興味を持った人、参加したい人を募り希望の会に取り次ぐ業務も担っている。
発行しているふるさとの雑誌『富山県人』は大正15年創刊、富山を離れた県人が故郷の様子を知る手段となるよう綴り続け、県人の心を潤してきたと謳っている。創刊精神「故郷と県人をつなぐ」を根幹として、ふるさとの発展のため、富山県人の幸せのため、発行し続けている。雑誌の内容としては、ふるさと富山の縁や自然、同郷人の活躍、各県人会の会合などの報告、故郷の様子を伝えるものになっている。
『富山県人』には、発行された年代の富山県人会の活動の内容や時代背景を如実に表しており、本稿では当時の県人会を知る貴重な資料として多くの部分で参考にしている。
第三項 acoico
近年、首都圏在住の富山県出身者を集め、結成された同郷者団体である。県知事からの提案により2008年に正式な発足に至っており、富山県人社もバックアップを行った経緯がある。
acoicoは東京富山県人会連合会とは連絡は取り合うが、運営方法や活動内容は全く異なる。構成員の年代が主に20代から40代までと、県人会及び同郷者集団の中でも比較的若いことが特徴である。
acoicoの活動内容としては、年に一度、首都圏在住の富山県民が一堂に集まる大交流会「フェス」、バーベキューや飲み会を開催し小規模の交流会を行う「カフェ」、カターレ富山など富山に関係のあるスポーツチームの応援やスポーツを通じて交流を行う「スポーツ」、そして富山県出身者の話を聞く、あるいは富山県ゆかりの地を訪れる「アカデミー」がある。また、インターネット上でのホームページの運営や活動を報告するブログ、メルマガなども積極的に行っている。富山県ゆかりのアーティストや芸能人の紹介や応援なども最近では活動の一環として行っている。
本稿では、活動内容や運営の方式、構成員の年代などの点から従来の県人会とは大きく異なるacoicoを新たな同郷者集団の代表として取り上げた。