非正規労働における労働組合
―コミュニティ・ユニオンの活動を通して―
第一章
問題関心 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
第二章
派遣労働の現状 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
第一節
派遣法の歴史 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
第一項 派遣法の誕生
・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
第二項 派遣法の改正 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
第二節
日雇い派遣労働に関して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
第一項 概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
第二項 日雇い派遣の問題点・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
第三節
「2009年問題」に関して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
第一項 概要・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
第二項 派遣期間制限を逃れる手法・ ・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第四節
「派遣切り」の発生 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
第三章
非正規労働者と労働組合 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
第一節
コミュニティ・ユニオンに関して
・・・・・・・・・・・・・・・・15
第二節
連合地域ユニオンに関して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
第一項 創設の経緯 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
第二項 連合富山「とやまユニオン」の活動 ・・・・・・・・・・・・・・17
第四章
インタビュー調査の概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・18
第五章
「派遣ユニオン」の活動 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
第一節
概要 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・19
第二節
活動内容 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第一項 「組合づくり 」・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第二項 労働相談 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第三項 団体交渉 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第四項 情報交換・学習会 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・20
第五項 その他 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
第三節
派遣ユニオンが組織する労働組合
・・・・・・・・・・・・・・・・22
第四節
人材派遣会社グッドウィルに関する問題
・・・・・・・・・・・・・23
第六章
インタビューイーが考えるコミュニティ・ユニオン 〜インタビューを基に〜
・・・・・・・・・26
第一節
コミュニティ・ユニオンに関して
・・・・・・・・・・・・・・・・26
第一項 コミュニティ・ユニオンのメリット ・・・・・・・・・・・・・26
第二項 コミュニティ・ユニオンの課題・・・ ・・・・・・・・・・・・・27
第二節
既存の労働組合の問題点 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
第一項 正社員中心主義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・28
第二項 労働組合の存在意義 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・29
第三節
連合との関係 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30
第四節
連合地域ユニオンに関して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・31
第五節
マスコミとの関係に関して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・32
第六節
労働協約に関して ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・33
第七章
考察
第一節
コミュニティ・ユニオンに対するマスコミが果たす役割 ・・・・・・35
第二節
労働組合のあり方 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・37
第三節
コミュニティ・ユニオンの活動のスタイル
・・・・・・・・・・・・39
1985年に労働者派遣法(以下派遣法)が制定されて以来、1999、2004、2006年と法改正を経て、現在の派遣法となっている。制定された目的は、岡田(2006)の言葉を借りれば、人材派遣は、「企業にとって「必要なとき」に「必要な人材」を「必要な期間」利用できることであり、労働者にとっては、自分の希望に合った仕事を様々な企業で追及し、しかも短期的に職業経験を積むことが出来る」(岡田 2006: 2‐3)というメリットがある。実際に私も3年次の社会学実習の授業では、「派遣労働者の実態」というテーマを掲げて、派遣労働者にインタビューをすることで派遣労働者の生活実態に迫っていった。当時、自分のライフスタイルに合わせて好きな時間に働くことができる派遣労働はとても魅力がある職業形態であると感じていた。
だが、蓋を開けてみると、大手人材派遣会社グッドウィルとフルキャストの違法派遣の実態、日雇い派遣労働者の急激な増加、ネットカフェ難民の出現、そして、追い討ちをかけるように現在では「派遣切り」といわれ、製造業の派遣労働者が景気の悪化を受けて派遣契約の期間終了を迎えている。個人的な見解としては、派遣法の制定は正しかったのであろうか、数回に渡る法改正はワーキングプアを拡大させてしまったのではないのであろうかという疑問が付きまとう。
しかし、そのような環境に置かれている派遣労働者を救うために、コミュニティ・ユニオンという労働組合が存在する。労働組合といえば、以前は正社員中心のものであったが、このコミュニティ・ユニオンは派遣労働者を含む非正規労働者が企業を問わずに1人でも入ることが出来る労働組合となっている。そのような存在であるコミュニティ・ユニオンはどのような活動をしているのであろうか。
本稿では、コミュニティ・ユニオンを代表して「派遣ユニオン」そして、コミュニティ・ユニオンの連合会である「全国コミュニティ・ユニオン連合会(以下全国ユニオン)(1)」の2団体。そして、日本労働組合総連合会(以下連合)を代表して地方連合会の連合富山にインタビュー調査を行なった。
第一節 派遣法の歴史
職業安定法では労働者供給事業を原則として禁止しているが、1985年に派遣法が制定され、労働者供給事業の禁止の例外として、労働者派遣事業が制度化された。そのことによって派遣労働という働き方が合法化されるようになり、派遣労働者が誕生した。そのため派遣法に派遣労働のすべてが反映されているといっても過言ではない。そのようなわけで、派遣法の歴史に関して、森(2008)を参考に言及していきたい。
第一項 派遣法の誕生
1985年は、日本にバブル景気をもたらす発端となった「プラザ合意」が行なわれた年でもあった。しかし、立法化の動きはその7年前1978年から始まっており、同年、旧労働省が「労働力需給システム研究会」を設置して研究活動に入ったときにさかのぼる。
当時、日本経済は、2度にわたるオイルショック後の低成長時代に突入しており、資本家は「減量経営」を合言葉に企業経営の再編合理化に乗り出していた。また、森(2008)は「日本型雇用慣行を担っている企業内の労働組合も、「企業あっての労働者」とばかりに、合理化に全面協力するようになった。」と述べている。そして、技術革新、OA・ME化が進む中で、専門的・臨時的な労働需要を生じる一方、人件費を節約して雇用責任を回避したい企業の要望に応えるように、派遣的形態の業務請負業(情報処理・事務処理)が増加していったが、このことは森(2008)では「これが職業安定法44条の禁止する労働者供給事業に該当することは明らかであった。」と述べている。
そこで、派遣的形態の業務請負業を一定要件の下に合法化することを目的として、前記のとおり研究活動が開始され、中央職業安定審議会の報告を経て、森(2008)では「野党の反対を押し切り、自公民三党の賛成多数で派遣法を成立させ、人材派遣業を合法化するに至ったのである。」と述べている。
このように、日本型雇用慣行を温存しつつ、不足する質の人材を、必要なときに、必要な量だけ、労働市場から調達することを可能にする、新たな労働力需給調節システムが法制度化されたわけであるが、そのことについて森(2008)は「経済社会において既に行なわれていた違法業態を合法化したに過ぎないものであった。」と述べている。しかも、資本家の求めていたものが、直接雇用を回避することができる間接雇用形態の導入であったことに留意しなければならない。すなわち、森(2008)では、「資本家にとっては、労働市場に存在している相対的過剰人口=産業予備軍を間接雇用形態において活用することにより、生産性の向上にこのうえなしに寄与してきた企業一家的な日本型雇用慣行を維持しつつ、これを補完することが可能になったのである。」と述べている。
第二項 派遣法の改正
派遣法は、特に派遣対象業務と派遣可能期間について、次々と改正を重ねてきた。その経過を以下(表2−1)にまとめた。
表2−1 労働者派遣法関連の制度改正の年表
1985年 |
・労働者派遣法制定。通訳、ソフトウエア開発など13の専門業務に限って派遣を認める。(施行後直ちに3業務追加し、16業務に) |
|
※制定以前は、職業安定法により労働者派遣事業は労働者供給事業として禁止 |
1996年 |
・適用対象業務を16業務から26業種に拡大 |
|
・無許可企業主からの派遣受け入れ等に対する派遣先への勧告・公表の制度化 |
1999年 |
・適用対象業務を原則自由化(禁止業務:建設、港湾運送、警備、医療、物の製造) |
|
※新たに対象となった26業務以外の業務については派遣受入れ期間を1年に制限 |
|
・派遣労働者の直接雇用の努力業務の創設 |
2004年 |
・26業務以外の業務について、派遣受入れ期間を1年から最大3年まで延長 |
|
・26業務について派遣受入れ期間を3年から無制限に延長 |
|
・物の製造業務への派遣を解禁。(改正法施行から3年間は派遣可能期間が1年) |
|
・派遣先による派遣労働者直接雇用の促進 |
|
・紹介予定派遣の法制化 |
|
・許可・届け出制の見直し |
|
・派遣元責任者・派遣先責任者の職務の見直し |
2009年 |
・物の製造業務の2006年以降に増えた派遣労働者が一斉に3年間の雇用期限を迎えることになる。(「2009年問題」の発生) |
(連合2008より作成)
派遣法の規制緩和は急ピッチで進められ、派遣労働者数(常用換算)は、対象業務のネガティブリスト化施行の2000年から2003年までの間、月平均30万〜50万人の微増傾向を示したが、製造業派遣が解禁されてからは、2004年85万人、2005年106万人、2006年128万人、2007年133万人と、目ざましい伸びを示すようになった(総務省統計局「労働力調査・長期時系列データ(詳細集計)・雇用形態別雇用者数」より)。その背景には、近時、コストダウンを図るため生産ラインを丸ごと請負会社に業務委託する製造請負が広範に行なわれるようになる一方、この方法では生産工程において生産会社が労働者を直接指揮命令できないので、品質管理に難点があるという事情があった。そこで、製造業派遣の解禁とともに請負形態から派遣形態へのシフトが始まり、派遣労働者数の伸びとなって現れたのである。
今日、ネットカフェ難民、蟹工船ブーム、グッドウィル事件、フルキャスト事件などがマスコミをにぎわしており、その元凶が日雇い派遣や二重派遣にあるかのような論じられ方をしているが、もっと大きな問題は製造業派遣の解禁にあり、これが「ワーキングプア」の増大に寄与しているのである。資本制生産体制下にある限り、労働力は商品化せざるを得ないが、正規労働は耐久商品であり、非正規労働も準耐久商品といえるのに対し、派遣労働は正規・非正規の差別雇用のさらに外部にある間接雇用であって、まさしく「使い捨て」商品というほかないものである。派遣法の本質的問題点をここにみることができるであろう。
第二節 日雇い派遣労働に関して
第一項 概要
派遣労働者数は、1999年度ののべ約107万人から、2005年度には同255万人に増えた。理由は、バブル経済崩壊後、企業が人件費を削減するために正社員を減らし、パートや派遣社員に置き換えていったことである。その結果、人材派遣会社は急成長し、業界の総売上高は1999年度の1兆4605億円から2005年度の4兆351億円に大きく膨らんだ。
日雇い派遣が生まれた背景には労働者派遣法の改正による規制緩和が根底となっている。専門性の高い分野に限られていた対象業務は1999年に原則自由化、2004年には製造業への派遣も解禁になった。この規制緩和により派遣できる職種が大幅に広がったのを機に、リストラされた人や就職難の若者が流入したことによる働く側のニーズと、携帯電話の普及で、派遣会社は多数の人を効率よく集められるようになったことが結びついて、倉庫作業や引っ越し、飲食店など多くの分野に一気に広がった。労働者が派遣会社と雇用契約を結び、派遣先企業で働く仕組みは一般の派遣と同じである。しかし、契約が3カ月や半年単位ではなく、1日単位であるのが大きな違いである。毎日新たに契約し、仕事がなければ失業となる。別名「スポット派遣」などとも呼ばれている。日雇い派遣は働きたいときに働けるというメリットが労働者側にあり、企業側にも労働力を柔軟に調達できるというメリットがある。イベント運営や引越し、街頭でのチラシ配布など日によって仕事量の差が激しい業種は、日雇い派遣に依存している。働きたい派遣先企業にとっては、仕事量に合わせて1日単位で労働力を調達できる「究極の調整弁」である(表2−2は日雇い派遣会社に登録してから実際に働くまでの流れである)。
表2−2 日雇い派遣の流れ
1 |
登録のための説明会に参加 |
|
(履歴書不要。作業着の購入を勧められることも) |
2 |
→ 仕事ができる日を支店に予約 |
3 |
→ メール、携帯などで仕事の紹介を受ける |
|
(繁忙期は夜に「明日どうですか?」と携帯が鳴る) |
4 |
→ 前日に作業確認 |
5 |
→ 集合時刻や派遣先などを知らせるメールが届く |
6 |
→ 仕事当日の自宅出発時、集合場所到着時には支店に連絡 |
7 |
→ 登録した支店で給料を受け取る(日払い可) |
(朝日新聞2007年7月10日 朝刊
より作成)
第二項 日雇い派遣の問題点
急激な勢いで労働者が増えていった日雇い派遣であるが、その日雇い派遣には働く上で多くの問題点が存在する。その問題点に関して、連合(2007)を参考に、以下の不安定雇用、低賃金、違法派遣や労災事故の多発の3点に分けて説明していきたい。
(1) 不安定雇用
派遣就労している間のみ派遣元との雇用関係があるものであり有期雇用契約であることがほとんどであることに加えて、派遣期間と派遣契約期間と雇用契約期間が一致せず、短期の細切れ契約も見られるなど、雇用が不安定である。
(2) 低賃金
専門26業務の常用型派遣は年収360万円程度である一方、登録型は年収250万円弱にとどまっている。また、勤続による昇給や一時金がないことや通勤費の取り扱いなどへの不満の声が強い。一般の雇用保険にも日雇い雇用保険にも入れない人がほとんどで、仕事が途切れても補償もない。拘束時間の割に低賃金の仕事も多く、漫画喫茶で寝起きする「ネットカフェ難民」など、ワーキングプア増加の一因だとの批判も強い。
(3) 違法派遣や労災事故の多発
文句も言いづらい立場につけこまれ、派遣会社に違法なピンハネをされたり、安全対策が不十分な職場で労災に遭ったりすることも少なくない。二重派遣され、禁止されている建設や港湾業務に送り込まれる例もある。
※派遣労働者の労災事故の増加
東京労働局の調査(2007)によれば、2006年度の派遣労働者(派遣元が東京都内)の死亡災害は2人(前年ゼロ)、死傷災害は401人(前年比49.6%増加)となっている。
以下では実際にあるフリーライターが日雇い派遣を体験したリポートである(中井2007)。
彼は、ある日雇い派遣会社(P社)の登録し、実際に働いてみることにした。その中では違法な厳罰システムが存在していた。P社では1回の仕事で「出発コール・集合時間・現場到着時間」と3つの遅刻ラインが設定されていて、それぞれ「500円・500円・1000円」のペナルティが科される。つまり、それぞれ1分ずつ遅れたとすると、ペナルティ計2000円が給与から天引きされてしまう。登録会後、すぐに紹介された仕事は、会場設営だった。時給1000円で、労働時間は正午(1時間前集合)から夜10時(解散)まで。集合場所の駅までの往復交通費は900円だが、規定により支払われるのは660円だけである。作業は、予定通り夜10時に終了した。レールを往復500回以上運び、強烈な疲労感に襲われる。給料の受け取りは「月水金の午後4〜7時の間にP社で」と決まっているため、受取日は働きにくくなる上、そこまでの交通費(往復520円)は自腹。手にした9660円から交通費を差し引くと、8240円が残った。
夜はネットカフェで一夜を過ごすことに。東京・蒲田駅周辺を訪れた。全国一安いという1時間100円の店をはじめ、駅から徒歩5分圏内に7件が林立するネットカフェスポット。今回は、シャワー室やソフトクリームバーもあるという最新の店を選んで入った。平日でも個室はほぼ満室の盛況ぶりである。薄い板で仕切られて個室の床には柔らかいマットが敷かれている。かろうじて足を伸ばして横になることができるが、パソコンデスクがあり、寝返りを打つことはできない。
もし、すべての遅刻ラインでペナルティを受けた場合に、給与から2000円が天引きされるわけであるが、労働基準法では、ペナルティによる減給額は賃金総額の10分の1までと定められているため、これは明らかな違法行為である。また、彼は1日だけの体験であったが、ネットカフェ難民の人たちは、このネットカフェの悪い生活環境で毎日生活しているため、体に変調をきたしてもおかしくはない話である。
このような違法行為が日常茶飯事に行なわれていて、なおかつ、家を借りることができず、ネットカフェで生活していかなければいけないほど、金銭の余裕がない人たちが大多数存在していることからも日雇い派遣の現状を物語っているのではなかろうか。
第三節 「2009年問題」に関して
第一項 概要
労働者派遣法の改正によって、2004年3月1日、製造業への労働者派遣事業が解禁された。当時、雇用期間は1年に制限されていたが、2007年3月1日より法改正により3年まで延長された。そのため、この期間延長を見越して、2006年以降に製造業の請負から労働者派遣への切り替えが進んだ。そして、2007年7月には、実態は派遣なのに雇用期限のない請負を装った「偽装請負」(2)が社会問題化し、派遣労働への切り替えを加速させた。一方で労働者派遣の雇用期間は最長3年であるため、それを超えると、メーカーは派遣労働者に直接雇用(期間工を含む正社員化)を申し込まなければならない。つまり、2006年以降に増えた大量の派遣労働者は、3年後の2009年に、いっせいに雇用期限を迎えることになる。労働者派遣は雇用終了の後、3ヶ月の契約解除期間があれば再契約できるのだが、その期間に労働者不足が発生、製造現場が機能不全に陥る。これが、心配されていた製造業の「2009年問題」であった。厚生省は「2009年問題」に関する基本的考えとして、以下のように示している
労働者派遣は、臨時的・一時的な労働力需給調整の仕組みである。派遣可能期間満了後も当該業務の処理が必要である場合は、基本的には、指揮命令が必要な場合は直接雇用に、指揮命令が必要でない場合は請負によることとすることとすべきものである。直接雇用又は請負は、いわゆるクーリング期間(3か月)(3)経過後再度の労働者派遣の受入れを予定することなく、適切に行われるべきものである。(厚生労働省2008)
以上のように、厚生省はこの「2009年問題」に関して、派遣労働は一時的なものであり、常用の労働者にとって代わらないように注意する見解を示している。
第二項 派遣期間制限を逃れる手法
経営側とって派遣労働は、安価な人件費、雇用調整が容易な労働力を得られるため、企業にとっては直接雇用をしたくないというのが本音である。そのため、実質的にクーリング期間中もそれまで派遣で働いていた労働者を同じように使用し続けるための、様々な違法・脱法行為が考えられている。期間制限違反を逃れるための手法を、派遣労働ネットワーク(2008)を参考にまとめると、以下の3つの手法が挙げられる。
(1)「偽装直接雇用」型
3カ月+1日以上、派遣先で直接雇用し、その後、派遣労働者に戻す方法で、もっともスタンダードな違法行為であると指摘されている。派遣先に直接雇用されている期間の労務管理を派遣会社が請け負っていることもある。
(2)「偽装異動」型
部署名や管理者の異なるラインで平行して同じ作業を行なわせ、それぞれの抵触日をずらしておく。あるラインに抵触日が来たら、そこのラインは「3ヶ月+1日」だけストップし、止めたラインの派遣労働者は残りのラインに異動して働いてもらう。あるいは、異動したかのように書面上で取り繕う方法である。
(3)「偽装直接雇用の申込み」型
派遣先が期間制限違反に基づく雇用申し込みをするが、それまで派遣で働いていたときを大幅に下回り、生活できない労働条件を提示することによって、労働者に雇用申し込みを拒否させる方法である。また、有期契約で雇い入れ、契約更新をしないことで職場から追い出す方法もある。この方法は、他の派遣労働者に対しても「直接雇用されても長く働くことはできない」という思いを植えつけるという効果がある。
以上のように、様々な違法・脱法行為が考えられていた「2009年問題」であるが、そんな「2009年問題」が懸念される中、世界的金融危機、景気同時減速で事態は一変したのである。
第三項 「派遣切り」の発生
2008年秋から、自動車、電機業界では、製品の販売数量の下方修正が相次ぎ、減産に入っている。工場の稼働率が下がれば、余剰人員が溢れ出す。メーカーにとって頭痛の種であったはずの製造業の「2009年問題」が、雇用の調整弁に変わってしまい、「2009年問題」のテーマは「人材不足」から「派遣切り」へと急速に変化している。
また、派遣労働の違法状態も次々と明らかになっていき、日雇い派遣大手のグッドウィルは2008年7月末に廃業。その後フルキャストも2度目の事業停止命令を受け、2009年9月を目処に日雇い派遣から撤退すると発表し、人材派遣大手2社が派遣労働から手を引いた(表2−3参照)。
表2−3 派遣大手2社に関する事件
2007年8月3日 |
・厚生労働省はフルキャストに対し、労働者派遣法で禁止されている港湾荷役業務に労働者を派遣したとして、全事業所に1カ月派遣事業停止命令(朝日新聞2007年8月3日 朝刊) |
10月16日 |
・フルキャストが労働者派遣法で禁じられた警備業務にスタッフを派遣していたとして、社員を同法違反の疑いで書類送検。警備業務への違法派遣容疑で派遣会社を立件したのは全国初 (朝日新聞2007年10月16日 朝刊) |
2008年1月11日 |
・厚生労働省は二重派遣(4)などの違法派遣で、グッドウィルの全事業所に2〜4カ月の事業停止命令 (朝日新聞2008年1月12日 朝刊) |
6月3日 |
・グッドウィル幹部3人が二重派遣をしていた問題で職業安定法違反(労働者供給事業)幇助などの疑いで逮捕 (朝日新聞2008年6月3日
夕刊) |
6月24日 |
・二重派遣事件で、グッドウィルなど4社と幹部ら計8人を職業安定法(労働者供給事業の禁止)違反幇助(ほうじょ)などの罪で略式起訴、グッドウィルは同日、罰金100万円を納付 (朝日新聞2008年6月25日
朝刊) |
6月25日 |
・グッドウィルは7月末で廃業すると正式発表 (朝日新聞2008年6月25日
朝刊) |
9月2日 |
・フルキャストが労災事故を届け出なかったとして、幹部と支店長が労働安全衛生法違反(労災隠し)の疑いで書類送検 (朝日新聞2008年9月2日 朝刊) |
10月3日 |
・厚生労働省は、フルキャストに対し、10月10日から2度目の事業停止命令。昨夏に事業停止命令を受けながら、停止期間中に新規の派遣を繰り返したためで、全事業所を対象に1カ月の処分 (朝日新聞2008年10月4日
朝刊) |
|
・フルキャストホールディングスは主力の日雇い派遣から来年9月末をめどに撤退すると発表 (朝日新聞2008年10月4日 朝刊) |
大手2社の立て続けの不祥事発覚と景気低迷を受け、日雇い派遣市場は大幅に縮小している。2007年夏には1日当たり約5万人が派遣されていたが、2008年夏は約1万人に減少。限られたパイの奪い合いとなり、労働条件は悪化の一途だ。セーフティネットが事実上存在しないのも条件悪化の一因だ。2007年9月に派遣労働者にも日雇い雇用保険が適用されるようになったが、使い勝手の悪さと周知不足でこれまでの利用者はわずか4人。明日の仕事がなければたちまち生活破綻となりかねない、そんな日雇い派遣の危うさは何ら解消されていない。
日雇い派遣の労働環境悪化の背景には、製造業の大減産がある。実際、製造業での派遣・期間従業員切りは一気に進んでいる。世界的な新車販売の落ち込みを受け、自動車メーカー各社による派遣・期間従業員の人減らしが止まらない。人員削減は、販売不振による減産強化に伴うもので、国内自動車メーカー12社による派遣・期間従業員の削減数は約1万3000人にのぼる(表2−4参照)。
厚生省は2008年11月末、2009年3月までに少なくとも3万人の非正規労働者が失業する見通しを示したが、下請けなどを含めれば「派遣切り」はさらに広がるという見方は多い。
切り捨てられた派遣労働者の境遇は悲惨なものである。派遣会社が別の派遣先を紹介することはほとんどなく、特に製造業への派遣は、工場近くに派遣会社が用意した寮やアパートに住むことが多い。メーカーが派遣契約を打ち切れば、職住を同時に失う。
さらに大きな問題として、日野、樋口(2009)では、そのセーフティーネットがほとんどないことを指摘している。雇用保険に加入するには「週20時間以上働き、1年以上の雇用見込み」という基準があるが、短期の契約労働者は「1年以上」の要件を満たさないとして、保険に加入できないケースが多い。
雇用情勢の悪化から、政府・与党は12月末、派遣労働者など非正規労働者の雇用保険適用基準を「6ヶ月以上」に緩和することなどを盛り込んだ2兆円規模の新雇用対策をまとめた。さらに、派遣労働者などが解雇に伴い寮の退去などを余儀なくされた場合、職業訓練のための賃貸住宅「雇用促進住宅」の空室1万3000室を有料開放するなど、住宅対策は前倒しで進める。12月15日には、全国の主要ハローワーク187ヶ所に相談窓口を設置し、雇用促進住宅の入居斡旋や、求人紹介、生活資金の融資手続きなどに応じている。
これを背景に、政府与党は1ヶ月以内の日雇い派遣を原則禁止する派遣法改正案を臨時国会に提出、継続審議となっている。しかし、日野、樋口(2009)では、「この改正案は、派遣先企業への規制強化は見送られ、足元での容赦ない「派遣切り」という問題にほとんど対応できない。」と指摘している。
「派遣切り」の横行は、派遣先が派遣契約を打ち切れば、派遣会社が新たな派遣先を紹介することはなく、即座に失業するという、派遣労働者の構造欠陥を改めて浮き彫るにしたといえる。日野、樋口(2009)では、「これは「使い捨て」にする仕組みにほかならない。」と指摘している。
表2−4 国内自動車12社の人員削減(今年度)2008年12月18日現在
メーカー |
国内の人員削減 |
トヨタ自動車 |
期間従業員 約3000人 |
ホンダ |
期間従業員 1210人 |
日産自動車 |
派遣社員 2000人すべて |
|
期間従業員 50人すべて |
スズキ |
派遣社員 600人 |
マツダ |
派遣社員 1500人 |
三菱自動車 |
派遣社員ら 1100人以上 |
ダイハツ工業 |
現時点ではなし |
富士重工業 |
期間従業員ら 800人 |
いすゞ自動車 |
期間従業員ら 1400人すべて |
日野自動車 |
期間従業員 700人 |
三菱ふそうトラック・バス |
期間従業員ら 500人 |
日産ディーゼル工業 |
派遣社員 約200人 |
合計 |
約1万3000人 |
(朝日新聞2008年12月18日 朝刊より作成)
第一節 コミュニティ・ユニオンに関して
人材派遣会社の数々の違法行為、派遣労働者の「派遣切り」の問題が社会問題化している中で、彼らの多くは労働組合が存在しない、または正社員のみを対象にした組合しか存在しない職場で働いていた。しかし、そんな彼らを支援する労働組合が存在していた。それが、コミュニティ・ユニオンである。コミュニティ・ユニオンの多くは1人からでも、企業、職業形態を問わず加入できることを謳い文句にしている労働組合である。この節では、非正規労働者を支援する労働組合、コミュニティ・ユニオンについて詳しく言及していく。
・コミュニティ・ユニオンとは
呉学殊(2008)は、「コミュニティ・ユニオンとは、地域社会に根をもった労働組合として、パートでも派遣でも、外国人でも、だれでも1人でもメンバーになれる労働組合のことを言う」(呉 2008: 18)と述べている。
また、「コミュニティ・ユニオン全国ネットワーク」(以下、略「全国ネット」)(5)(2008)では以下のように述べている。
1975 年頃からサービス業、卸・小売業、飲食店などでの雇用が急速に拡大していったが、その多くが不安定雇用・低賃金の主婦パートであった。1981年頃から労働組合の地域組織(地区労)を中心にして、「パート110番」などによる労働相談活動が広がりました。ある日、江戸川区労協の「パート110番」の相談に訪れたパート労働者が「私たちでも入れる組合があればいいのにね」と言ったのがきっかけとなり、1984年に「ふれ愛 友愛 たすけ愛」を合言葉にした江戸川ユニオンが結成された。これがコミュニティ・ユニオン運動のはじまりである。
「コミュニティ」とは社会、生活協同体、「ユニオン」は労働組合。これまでの日本の労働組合の多くが企業ごとに正社員だけを対象に組織されてきたものであった。その後、コミュニティ・ユニオンは全国各地で結成された。
また、呉学殊は、コミュニティ・ユニオンに関して以下のように述べている。
コミュニティ・ユニオンは、労働紛争を抱えている労働者の救世主のような存在であったが、それはユニオン幹部の温かくかつ丁重な対応に支えられている。また、コミュニティ・ユニオンは、企業内で解決できない労働紛争という社会的な問題を解決している。行政機関でも解決できない労働紛争を処理するケースもある。労働紛争の解決という面では、行政機関のような働きをしていると言っても過言ではなく、大多数の企業別労働組合とは異なる役割を果たしている。(呉 2008: 23‐24)
以上のように、労働組合というものは、これまで正社員のみを対象にしてきたものであったが、あるパート労働者の声をきっかけに、これまで組合というものが存在していなかった非正規労働者も加入することが出来るコミュニティ・ユニオンが誕生したのである。また、そのコミュニティ・ユニオンは、労働紛争を解決する面において言えば、これまでの組合とは違った役割を果たしているのである。
第二節 連合地域ユニオンに関して
コミュニティ・ユニオンは、これまで正社員を中心に組織してきた連合内の各地方連合会にも設置されるようになる。ここではその地方連合会にも設置を要請した連合地域ユニオンについて言及していく。
第一項 創設の経緯
日本の労働組合のナショナル・センター(中央労働団体)である連合は、主に正社員を中心に組織してきた団体であった。
しかし、江上寿美雄(2001)では以下のように述べている
1995年から連合の組合員数が急速に減るようになった。それ以前は、分子の組合員数は年によってわずかながら増減があるとはいえ、分母の雇用労働者数が増え続けたために、組織率が低下し続けた。それが変わってきており、特に2000年は前年よりも約28万6000人も減り、減少幅は過去最大を記録した。一方、就業時間が週35時間未満の短時間労働者は前年よりも約24万人増えた。バブル崩壊後、組合のある企業の人員削減が進行し、その代わり、パートなどの非正規従業員が増加した。一連の数字はこれらの層の組織化に労組が徹底的に立ち後れていることを物語る。ちなみにパート労働者の組織率は2.6%に過ぎない。1996年に連合は新たな組織化方針を決め、各産別に組合数の拡大や達成目標年次を盛り込んだ計画の作成を義務づけた。同時に連合の地方・地域組織の組織化に果たす役割を重視し、パート、派遣労働者を組織化する「地域ユニオン」、管理職、セールスペッシャリストなど職種ごとで構成する「クラフトユニオン」を地方・地域組織がつくるよう促した。
以上から連合本部も各都道府県にある地方連合会も、江上(2001)では、「お手伝いというこれまでの脇役から主役の一人になる。」と述べている。地域で、個人でも加入できる受皿として、あるいは当面産別の結集が困難な組合のために、地域ユニオンをつくる。地方連合会が主体になった地域ユニオンをつくるということに至ったのである。
第二項 連合富山「とやまユニオン」の活動
富山県にある連合の地方連合会の富山県連合会(以下連合富山)でも「とやまユニオン」という連合地域ユニオンをつくり活動している。連合富山 非正規労働センター(2008)では、「とやまユニオン」に関して以下のように述べている。
とやまユニオンでは、なんでも労働相談をキッカケに、2007年から2008年春にかけ、40名以上の人たちが労働組合=連合富山「とやまユニオン」に加入した。 連合富山では労働組合のない中で、働いている多くの労働者に向け、 一人でも入れる労働組合=「とやまユニオン」の活動を通じ、バックアップしている。 会社からの一方的な労働条件切り下げの強要に対する是正、そして理不尽な差別、扱いに対する労使交渉による解決などを通じ、働きがいのある職場をつくるため活動している。 「とやまユニオン」の組合費は一人月1000円だが、共済制度が適用になる。
今回は、労働者の立場からではなく、彼らを支援する労働組合の立場から問題を明らかにしていきたい。また、企業内の労働組合ではなく、派遣労働者(非正規労働者)を支援するコミュニティ・ユニオンの立場から労働組合の活動・あり方を中心に見ていきたい。そのため、コミュニティ・ユニオンである「派遣ユニオン」、コミュニティ・ユニオンの連合体である「全国ユニオン」の2団体にインタビュー調査をした。また、地方連合会の連合富山でも「とやまユニオン」を立ち上げている。片方では派遣労働者を中心に組織している組合であり、一方では、正社員中心の活動をしてきた連合組織の組合であるため、その2つを対比させていくこともしていきたい。
インタビュー調査は4回行った。インタビューイーと日時は以下の通りである。
・2008年7月29日 連合・富山連合・副事務局長 H.K.さん
・同年9月5日 同上
・同年9月20日 「派遣ユニオン」書記次長 M.I.さん
・同年11月13日 同上 と「派遣ユニオン」書記長 S.S.さん
・同年12月10日 「全国ユニオン」会長 M.K.さん
今回のインタビューは、それぞれのユニオンや連合会が結成された経緯、活動内容、既存の労働組合との相違点、現在の非正規労働の現状や非正規労働の課題について明らかにしていく目的である。
この章では、非正規労働者を支援するコミュニティ・ユニオンである「派遣ユニオン」にスポットをあて、その概要や詳しい活動内容に関して言及していく。
第一節 概要
「派遣ユニオン」は、派遣スタッフやパート、契約社員など非正規雇用で働く労働者を中心に、あらゆる雇用形態で働く労働者が加入する労働組合であり、一人でも誰でも加入できる労働組合である。
設立は2005年4月22日。設立の経緯として、「派遣ユニオン」のM.I.さんはインタビューでは以下のように説明している。
コミュニティ・ユニオンの「東京ユニオン」が、派遣労働者の集まりの場、情報交換の場として、月に1回のペースで「ハローユニオン」というものを開催している。かつては、主に事務職の女性が中心だった。その人達が解雇されたりして仕事が無い時期があり、それでも生活していかなければいけないため、日雇い派遣で働いているという話を聞いた。それで問題を洗い出していくと違法の固まりのようなひどい状況であった。例えば、1回仕事に行くと給料の中からデータ装備費や業務管理費などの名目で200円、250円、中には500円もの不当なピンはねが行われていた。これに合理的な根拠は存在しない。
そういった活動をしているうちに、労働者派遣法の問題は地域ではなく全国に広がっているため、きちんと横断的に捉えなくてはいけないと感じたため、そういう意味で横断的に作れる労働組合を作ろうという事で「派遣ユニオン」を立ち上げた。
「派遣ユニオン」のメンバーは約250名(2008年9月20日時点)。日雇い派遣労働者の人が約200人。他に50人前後が契約社員、パート社員。M.I.さんは、日雇い派遣の現状にすべての悪の根源が集約されているため、この状況を改善しない限り派遣労働がよくなっていかないため、日雇いの人達がメインになっていると述べていた。また、派遣ユニオンは連合傘下の全国ユニオンに加盟している。
「派遣ユニオン」では、組合費として、加入金2000円、 組合費を毎月2000円徴収している。加入時には組合費3ヶ月分を前納してもらい、それと加入金とあわせて合計8000円を支払ってもらっている。
第二節
活動内容
派遣ユニオンの主な活動内容としては、「組合づくり」、労働相談、団体交渉、情報交換・学習会、その他の5点が挙げられる。「派遣ユニオン」のM.I.さんのインタビュー、「派遣ユニオン」(2008)を基に、これらの活動内容について言及していきたい。
第一項 「組合づくり」
「組合づくり」に関しては、賃金カットや横暴な労務管理を跳ね返し、安心して働き続けられる職場環境をつくるため、企業内に組合をつくる手伝いを行っている。M.I.さんは、「最近になり、どんどん組合を作りたいという意見がとても増えてきている。」と述べていた。(「派遣ユニオン」が組織する主な労働組合は第三節を参照。)
第二項 労働相談
労働相談に関しては、職場のトラブル、不満、悩み、困っていることなど、様々な労働相談を、無料、秘密厳守で行っている。M.I.さんの話では、電話での相談はM.I.さんが事務所にいるときは随時受け付けていて、1日に約4、5件はかかってくる。グッドウィルが廃業したときには、1日に十数件もの電話がかかってきた。また、電話での相談を経て、「派遣ユニオン」に加入する場合が一番多いが、相談に来るということはとても勇気がいることであり、ほんの氷山の一角である、とM.I.さんは述べていた。
第三項 団体交渉
団体交渉に関しては、職場のトラブルの解決や労働条件の向上をめざして、会社と団体交渉を行っている。例えば、グッドウィルの問題では、数回にも及ぶ団体交渉、抗議活動、「データ装備費」(6)の問題に関して、返還を求めての集団訴訟を「グッドウィルユニオン」と「派遣ユニオン」のスタッフも協力して起こしたりもしている。
第四項 情報交換・学習会
情報交換・学習会に関しては、派遣や請負などで働く労働者が集まり、情報交換や学習会を行っている。学習会の例で言えば、日雇い雇用保険(7)の取得方法などが挙げられる。M.I.さんの話では、「1人ではなく、みんなが集まって知恵を出し合っていくべき。書記長のS.S.さんのような優秀な人が1人だけでやっていてもなかなか前に進まない。」と述べていた。
また、私が2008年9月20日に参加した「グッドウィルユニオン説明会兼日雇い派遣ユニオン交流会」では、「派遣ユニオン」が組織している労働組合の近況報告、例えば、グッドウィルの「データ装備費」返還訴訟時の予定などが話し合われていた。また、日雇い派遣業界の現状や派遣法改正の方向性についても話し合われていた。ちなみに、参加者は「派遣ユニオン」スタッフ、日雇い派遣労働者や私のような学生、総勢10名ほどで行なわれた。参加者の1人の話によると、マスコミが取材をしに来ることもあると話していた。
第五項 その他
その他にも、書記長のS.S.さんは、グッドウィル、フルキャストなどの派遣会社に実際に登録し、派遣労働者として働いてその実態を調査した。
以下は、2008年3月31日に行われた「第3回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」におけるS.S.さんの発言を引用したものである。
(資料を指し)これは日雇派遣会社としてはグッドウィルに次ぐ第2位のフルキャストという会社の個人情報である。これは、私が登録している個人情報を個人情報保護法に基づいて開示してもらったものだが、右半分の下側に風貌欄というものがある。長髪、金髪、茶髪、激茶髪、ひげ、スキンヘッド、爪難あり、不潔感、清潔感、ピアス(耳)、40歳超、言葉遣い悪、言葉遣い良、容姿優、容姿良、太め、虚弱体質、入れ墨、メガネといった、人を人とも思わない、物扱いするような取扱いが書かれている実態が発覚した。また、グッドウィルでは、ある日の仕事では、作業開始から終了時間は9時から18時、支払い給与は6784円となっていた。集合時間は7時20分となっていて、9時の作業開始より1時間40分も前に集合をかけられるというものであった。しかし、集合時間からの賃金は払われていない。作業内容については、その他倉庫と書いてあって、作業内容の詳細は書いていない。前日にグッドウィルに電話をしたときに、明日の仕事はないと言われてしまえば、収入の道は断たれてしまうという、非常に不安定な日雇の働き方である。また、給料をもらったときの明細では、提示賃金5784円、交通費1000円と分かれているが、合計のところでは6784円と、最初から明示された賃金になっている。明細の一番下に他支払いとあるが、これがいわゆるデータ装備費200円。これは一律で差し引かれて、結局手取りは6584円である。これは交通費込みの金額なので、私が集合場所まで行くのにかかった交通費は800円弱を差し引くと、私の手取り額は6000円未満だった。朝7時20分に集合をかけられて、午後7時10分に解散となったので、実際の拘束時間で割ってみると、1時間当たりの賃金は500円にも満たないという低賃金である。これだけきつい肉体労働をさせられて、時給で換算すると500円未満というのは、あまりにもひどいと思われる。6000円にも満たない賃金では、仮に月に21日程度働いたとしても、月収では12,3万円ぐらいにしかならない。これでは、とても独立した生計を営むことはできない。(派遣労働ネットワーク2008)
以上のように、S.S.さんは実際に派遣労働者として働き、派遣会社が違法行為を繰り返している実態を把握し、その問題を明らかにしたうえで、派遣会社と団体交渉などをし、業務改善を訴えている。
第三節 派遣ユニオンが組織する労働組合
ここでは「派遣ユニオン」が組織している主な労働組合を3つ紹介する。
(1)フルキャストユニオン(派遣ユニオン・フルキャスト支部)
フルキャストユニオンは、スポット派遣会社「フルキャスト」で働く派遣スタッフと内勤社員による労働組合である。2006年10月19日に結成され、「派遣ユニオン」が初めてつくった組合である。2007年2月26日に「フルキャストで働く派遣労働者派遣労働者の労働条件協定書」を締結。この協定では、スタッフの労働条件に関して「有給休暇の権利」「業務管理費の廃止」「集合時間を強制しないこと(強制したら賃金を支払うこと)」などを約束させるという画期的な締結をした。
(2)KDDIエボルバユニオン(派遣ユニオン・KDDIエボルバ支部)
KDDIエボルバユニオンは、KDDIの委託で国際電話のコールセンターを運営する「KDDIエボルバ」で働く契約社員による労働組合である。2006年11月に結成され、メンバーは22名である(2008年9月20日現在)。
パートとして働く片岡奈緒子さん(36)が2004年に勤め始めた当時は、1年の雇用契約が基本だった。数ランクの時給があって働きに応じて上昇し、交通費も支給されていた。ところが2006年9月、契約期間は3カ月か6カ月が基本になり、交通費は不支給に。時給も1350円のフルタイムと1300円のパートの二つが基準になった。会社側は「時給は個人ごとに能力に応じて上げる。契約の短期化で査定機会が増え、時給アップの可能性も高くなった」と説明する。だが、更新ごとに時給が上下しかねず不安定で、査定の基準も不明確だと労働者側は言う。組合員には、90年代末までKDDI(当時)の短時間正社員として同じ業務をしていた人がいる。その頃は時給で2千円を超えていたという。事業が外注化されると立場も正社員でなくなり、待遇の劣化が進んだ。(以上朝日新聞2008/2/18朝刊3)
正社員との格差是正などを求めて会社と交渉しているが、KDDIは国際オペレータ通話等のサービスを2010年3月31日をもって終了すると発表した。
「派遣ユニオン」のM.I.さんは、「非常にしわ寄せがいっている。国際オペレータやフライトアテンダントといった仕事はかつて女性の花形の仕事であった。しかし、今ではどんどん賃金が削られて、非正規雇用になり、ひどい目に遭っている。」と述べていた。
(3)グッドウィルユニオン(派遣ユニオン・グッドウィル支部)
グッドウィルユニオンは、大手人材会社「グッドウィル」で働く日雇い派遣を中心とする登録スタッフによる労働組合である。2007年3月9日に結成された。詳しくは第四節を参照。
以上の他にも、ベビーシッターの組合の「シェヴユニオン」や、「トルコ航空」で働く派遣社員のフライトアテンダント13名が立ち上げた「トルコ航空ユニオン」などが存在する。
第四節 人材派遣会社グッドウィルに関する問題
この節ではグッドウィルとそのグッドウィルで働く人達で結成された「グッドウィルユニオン」の活動を朝日新聞の記事と照らし合わせて示していく。下線は「派遣ユニオン」の「日雇い派遣派遣ユニオンの闘いの経過(2008年6月28日現在)」より抜粋。
2007年3月9日 グッドウィルにユニオン結成通告
大手人材会社グッドウィル(東京都港区)で働く日雇い派遣を中心とする登録スタッフが「派遣ユニオン・グッドウィル支部」(グッドウィルユニオン)を結成した。(朝日新聞2007年3月9日 夕刊)
同年5月28日 グッドウィルユニオン説明会
同年6月 1日 労働基準監督署一斉申告開始
日雇い派遣業界では、派遣会社が「データ装備費」や「業務管理費」などの名称で派遣1回あたり200〜250円程度給料から天引きをしてきた。グッドウィルユニオンは、事実上、強制的に天引きされ、使い道も極めて不透明だとして団体交渉で返還を要求。28日にスタッフ向けの説明会を開き、6月にも一斉請求する。労働基準監督署(8)にも調査を求める方針で、厚生労働省も調べる考えだ。(朝日新聞2007年5月25日 朝刊)
同年7月7日 データ装備費返還訴訟検討会−集団訴訟を決定
グッドウィルが給料から不透明な天引き(データ装備費)をしていた問題で、グッドウィルユニオンは7日、「法的根拠のない不当な徴収だった」として、過去の天引き分の全額返還を求めて、早ければ今月中にも集団訴訟を起こすことを決めた。(朝日新聞2007年月8日 朝刊)
同年8月6日 グッドウィル団体交渉拒否について不当労働行為救済命令申立
グッドウィルユニオンは6日、給料からの不透明な天引き(データ装備費)の返還問題などについての団体交渉を同社が拒否しているとして、東京都労働委員会(9)に不当労働行為の救済申し立てをした。(朝日新聞2007年8月7日 朝刊)
同年8月23日 データ装備費返還訴訟−提訴
同年9月10日 グッドウィルユニオン「監督署に訴えよう!」第2弾
グッドウィルユニオンの組合員26人が23日、過去の天引き分(データ装備費)の全額返還を求める集団訴訟を東京地裁に起こした。(省略)グッドウィルユニオンは9月から、6月に続いて2度目となる労働基準監督署への一斉申告行動をスタートさせる。(朝日新聞2007年8月24日 朝刊)
同年10月1日 データ装備費返還訴訟 第1回
グッドウィルに日雇い雇用された労働者26人が「賃金から不透明に天引き(データ装備費)をされた」と主張して計約450万円の返還を同社に求めた訴訟の第1回口頭弁論が1日、東京地裁であり、同社は全面的に争う内容の答弁書を提出した。(朝日新聞2007年10月1日 夕刊)
2008年1月11日 グッドウィル事業停止命令
厚生労働省は11日、日雇い派遣大手グッドウィルが違法派遣を繰り返したとして、事業停止命令を正式に出した。禁止業務への派遣や二重派遣と知りながら派遣を続けたと、組織的な関与を認めた。(朝日新聞2008年1月12日 朝刊)
同年6月3日 グッドウィル幹部ら逮捕
グッドウィルが派遣した労働者を港湾関連会社の東和リース(同)が二重派遣していたとされる事件で、警視庁は3日、グッドウィルの元北関東エリアマネージャーで企画管理部事業戦略課長上村泰輔容疑者(37)ら3人を職業安定法違反(労働者供給事業)幇助(ほうじょ)などの疑いで逮捕した。(朝日新聞2008年6月3日 夕刊)
同年6月25日 グッドウィル廃業(7月31日目処)を発表
人材派遣業などを展開するグッドウィル・グループ(GWG)は24日、7月末にも子会社の日雇い派遣大手グッドウィル(東京都港区)を廃業する方針を固めた。(朝日新聞2008年6月25日 朝刊)
第六章 インタビューイーが考えるコミュニティ・ユニオン 〜インタビューを基に〜
第一節 コミュニティ・ユニオンに関して
第一項 コミュニティ・ユニオンのメリット
コミュニティ・ユニオンの労働者側のメリットとして、「全国ユニオン」のM.K.さんは、1人で加入できること、雇用形態を問わないことの2点を挙げていた。
例えば、Aさんという人物がある会社にいた場合に、このAさんに何か問題が起きたときに、その会社の中に労働組合があれば、Aさんの問題を改善するための、取り組みができる。しかし、組合があっても、Aさんがパートだから、派遣だからということで、問題を取り上げないことが今まであった。その場合Aさんは、企業内に組合があっても、自分の問題を一緒に取り組んでくれる組合が無かったわけである。また、圧倒的多くの企業には、組合さえも無く、解雇、パワハラ、セクハラ等、自分だけの問題が起きたときに、どう解決していいかわからなかった。その場合に、労働組合法では、3人集まれば労働組合がつくれることになっている。Aさんが、BさんやCさんに呼びかけて、3人で労働組合立ち上げようした場合、会社との力関係が存在するのでなかなか大変なことである。今までの多くの労働者が組合を立ち上げて潰されたり、立ち上げた人が解雇させられたり、賃金を切り下げられたりなどの、不利益な扱いを受け、結果的に労働組合をつくらない方が良いというような雰囲気になってしまう。そういうことが長い間繰り返されてきた。
しかし、コミュニティ・ユニオンが出来たことによって、Aさんは、自分の職場の中でBさんやCさんに呼びかけ、企業内に労働組合をつくらなくても、Aさん1人でもこのコミュニティ・ユニオンに入ることにより、労働組合法で守られている労働組合としての権利を自分が働いている企業に対して、発揮することが出来る。つまり、組合が無い職場のAさんBさんCさんの問題は、コミュニティ・ユニオンに入ることによって、対等に会社と交渉して、問題を解決できるのである。
そして、「派遣ユニオン」のM.I.さん、連合富山のH.Kさんも、M.K.さんと同じ点をメリットとして挙げていた。M.I.さんは、組合が無い会社がたくさん存在し、そういったところで問題を抱えていた人にとって、ある意味「駆け込み寺」のような存在であるところ。ユニオンに入り、問題を1つずつ解決できる点がとても大きいと述べていた。
また、KDDIエボルバユニオンを例に挙げ、現在ユニオンにはメンバーは22名いるが、KDDIの本体には情報産業労働組合連合会(以下情報労連)という組合が存在している。しかし、情報労連はなかなか非正規労働者の悩みを把握するのは難しい。なので、自分達の悩みを解決するために、この派遣ユニオンに入って取り組むという流れになると述べていた。
H.K.さんは、もし、1人が職場で不当労働行為に遭った人達は、1人で声を上げても組合が作れない。そのため、そういう人達を保護するための「シェルター」のような目的で「とやまユニオン」というものをつくって、そこに入ってもらう。どこに勤めていてもこの組合には入れる。また、労働組合をつくるためには、結成大会をしたり、役員を決めたり、規約を整備しなければいけなかったりと非常に煩雑で大変である。私達はその事に関して手助けをするが、そういう決断が出来ない人達のために、地域ユニオンをつくって運営していると述べていた。
また、M.K.さんは、雇用形態を問わずに、正社員だけではなく、パート、派遣請負やいろんな働き方の人たちが誰でも入れるという点も挙げていた。
第二項 コミュニティ・ユニオンの課題
次に組織としての課題として、M.I.さんは、人数的な問題、財政的な問題、問題解決後にユニオンを辞める人の存在、という3点を挙げていた。
M.I.さんは、派遣ユニオンは組合員が250名であり、やはり数の力というものが存在する。その事が財政的な問題にも繋がっていく。世帯が小さいため、専従2人を支えていくのが大変であり、またIさんは交通費ももらわず全部自腹でやっていて、ユニオン活動はボランティア活動みたいなものと言われるように、大きな組合と違い財政的な問題が付きまとってしまうと述べていた。
M.K.さんは、財政的な問題に関して、1つに数の問題。もう1つにユニオンを辞める人の存在を挙げている。既存の労働組合の正社員率がどんどん下がってきているように、どこの組合も抱えている問題だが、特にコミュニティ・ユニオンの場合は、組合が企業の外にあり、問題があったときにユニオン入ってくる。しかし、その問題が解決した場合に、ユニオンを辞める人が存在する。そういった問題があり、数が増えないとも言えるし、財政的な安定感はない。しかし、辞めずに残る人もいる。それで、なぜユニオンが存在していられるのかと言えば組合員数がどんどんマイナスになっているわけではないため。組合員数のプラスマイナスはあっても、例えば、600なら600という数は、ずっと一定であるということ。その600が1万になる事はないが、600が200や300になることもない。そのため、存在はしていられるが、財政的に楽なのかと言えば、そういうわけではない実態があると述べていた。
また、M.I.さんも、自分の職場で問題点が1つあり、それを解決するためにユニオンに加入した場合に、問題解決後にユニオンを辞める人は数多く存在しているのが現状と述べていた。
次に、M.K.さんは、コミュニティ・ユニオンは、企業外の組合のため、企業の中でその全員を対象に労働組合をつくることはなかなか出来ない点を挙げていた。
例えば、Aさんがいた場合に、Aさんの問題から、一気にその企業内にいる全員の問題になるということはない。そもそも、全員の問題であるなら、すでにその企業内で労働組合が出来ている。1人から少しずつ広がっていくことはあるが、一気に何百人、何千人が入るという組織のつくり方ではない。だから、コミュニティ・ユニオンは、一気に数の大きな労働組合にはなかなかならない。20年やっているが、大きな組合をつくることはなかなか無理であると述べていた。
一方でM.I.さんは、人数的な問題のデメリットを補うために、例えばグッドウィルの日雇い派遣の問題に関して、グッドウィルユニオンは150人と少ない人数だが、それをマスコミ関係者などが様々なメディアを通じて社会に訴えてくれたことが大きな力になった。また、派遣ユニオンでは「サポーターズクラブ」というものを立ち上げ寄付を集めて、財政的にバックアップを出来ないかを検討していると述べていた。
第二節 既存の労働組合の問題点
第一項 正社員中心主義
「全国ユニオン」のM.K.さんは、連合は非正規センターを立ち上げたが、現在まで正社員のみを対象にして労働組合を組織してきた時間が長すぎたことを指摘していた。例えば、非正規労働者の組織化をすること、非正規労働者と正規労働者との均等待遇を実現すること、そのような具体的な方針は掲げている。これだけ非正規労働者が増えて、仕事の面において、非正規労働者がいなければ仕事が出来ないような状態になり、一方で正規労働者が減らされていく中にあって、正規労働者のみを対象としていたら、労働組合の存在はなくなっていく。例えば、残業をやる場合は、36協定(10)を結ばなければいけないが。36協定は従業員の過半数を超えてなければならないため、その36協定を結ぶことが組合であってもできなくなる。そうなった場合、労働組合としての健全な活動が出来ない。非正規労働者を労働組合に入れなければ、労働組合の存在感がなくなるため、非正規労働者の組織化を掲げたわけであるが、非正規労働者の問題を本気になってやるというところまでの具体的な取り組みまでは至っていない。
このことに言及して、「派遣ユニオン」のM.I.さんは、自動車業の場合を例に挙げて説明している。労働者の中に期間工や派遣労働者が存在する。彼らがいなければ正社員達は自分たちの生活が成り立たないことはわかってはいるが、彼らの悩みを聞いて、会社または工場全体をどうするという考え方に及ばない場合が多い。このことは、「正社員クラブ」(11)と言われている。このことに連合が気づき、非正規労働者の悩みも取り上げようと少しずつは動いているが、なかなか思いが至らないことが多い。また、自分達が動くと自分達の条件も下がる場合がある。例えば、不況になった場合に、自分達は辞めたくないが、非正規労働者を解雇すれば安泰になり、自分達の雇用は守られることになる。そうなると、非正規労働者は犠牲になってしまうが、そこで妥協してしまうことになってしまうと述べていた。
また、M.K.さんは、今までの労働組合は、規約の中で対象者を決めている。正社員のみである、など組合員規約で謳われている。しかし、これだけ非正規労働者が増えてきたために、労働組合も組合規約を変えて、非正規労働者を対象にし始めたとも言えるが、今の企業内の組合で、組合規約を変えたとしても、あらゆる雇用形態の人たちを組合の対象にすることにはなっていないと指摘していた。
第二項 労働組合の存在意義
また、M.K.さんは、現在進行形の問題である「派遣切り」に関して、多くの非正規労働者たちは契約を解除されていて、彼らの多くは連合の中でも大産別労働組合がある大手自動車会社、電気会社が派遣先である。彼らの職場には労働組合が存在している。しかし、この「派遣切り」の問題に関して、企業内の労働組合が労働者に対して、具体的な手を差し伸べているかと言った場合に、その取り組みが見えない。今回、派遣労働者は組合員ではないと労働組合としての反論はあるかもしれないが、目の前で働いている人が契約を切られている状況に対して、何もしていないということは、労働組合の存在意義が問われることでないかと述べている。
このことに関連して、M.I.さんは、グッドウィルにも社員が組織員として参加する「人材サービスゼネラルユニオン(以下JSGU)」という連合に加盟している労働組合が存在していたと述べていた。しかし、その組合は問題になったグッドウィルの「データ装備費」、「名ばかり管理職」の残業代に関して言及していない。M.I.さんは、この組合は企業を守るための組合であるため、労働者の労働条件などの向上を目指す組合とは観点が違うと述べていた。『週刊プレイボーイ』の記者が取材に行くと、「経営を大切にしたい」ということを言っていた(この件に関して『週刊プレイボーイ』2007年7月30日号に記事が掲載)。そのため、JSGUは、派遣法に関して何か規制をするような派遣法改正には反対だということを「派遣法のあり方研究会」では堂々と言っていたと述べていた(12)。M.I.さんは続けて、連合の中にはこのような組合が存在していて、私達は闘っている。組合というのは自分達の受け立つところによって主張が変わってきてしまうものである。現在では、会社の顔色を見てやっているところがほとんどである。もし、組合員の雇用を守る労働組合に就職した場合、今では組合活動がどんどん縮小してしまって会社と一体にならざるを得ない状況になっている。この状況が今の組合活動が落ち込んでしまった罠であると述べていた。
第三節 連合との関係
「全国ユニオン」のM.K.さんは、「全国ユニオン」が連合に加盟したことにより、連合に刺激は与えたと思われると述べていた。「全国ユニオン」は非正規労働者の立場で、いろいろな会議の場でものを言っている。今まではそういった存在が連合の中になかった。
例えば、2004年春闘に関する連合の中央集会があったとき、連合としては時給10円アップの要求であった。しかし、「全国ユニオン」は「どこでも誰でも時給1200円以上」という要求である。これは、1人の労働者が生活するために最低限必要な額だということで、春闘のときに毎年掲げている。その集会の場で、M.K.さんはパート代表であいさつをすることになっていたので、「ご参集のみなさんは、時給1200円以上は高いと思いますか」と言った。そうしたら、後にその一言で会場が凍りついたと聞かされた。そこに参集している産業別の組合員達は、「全国ユニオン」が掲げる時給1200円なんてとんでもない額であると。
連合内の労働組合の人達が、非正規労働者の問題に関して、やらなければいけないという思いはあるかもしれないが、非正規労働者がどんな実態にあって、何を具体的に求めているかということについては、非常に鈍感である。そこに対して「全国ユニオン」は、非正規労働者の立場から、連合の中でものを言っているわけである。それを連合の中の既存の労働組合の人達が、どういう受け止め方をしているのかわからないが、刺激にはなると思われる。今回、派遣法の改正などに関して、「全国ユニオン」は派遣労働者がいるため、その人達の思いを代表する立場で、派遣法の改正については、こうすべきではないかということを、自信を持って言った。その方針を連合の方針として、反映させた。そういうことで連合内で「全国ユニオン」としての参加はできていると思われる。
また、連合内では派遣労働者の実態に関して、実感的に受け止められていない。例えば、データ上で賃金が正規労働者の2分の1しかないということは知っている。しかし、その2分の1の労働者がどんな思いで日々過ごしているかということについて、実感としては受け止められていない。そのため、なかなか具体的に非正規のことについて本気になってやるということにならないのが運動の中で出てきてしまうことがあるとM.K.さんは指摘していた。
第四節 連合地域ユニオンに関して
「派遣ユニオン」のS.S.さんは、現在、連合地域ユニオンといくつか各地域ごとでは「派遣ユニオン」と連携をとっているところも存在している。連合地域ユニオンと言っても、連合の肝煎りでつくったという感じであり、各地域で温度差があって、相当熱心に個人加盟ユニオンとしてやっているところもあれば、一方では、一応作ったことは作ったけれどもというところもある。それは各県ごとのユニオンの性質によって、あるいは熱意によって相当違いがある。簡単に言うと、各地のユニオンに偶然熱心な人がいるか、いないかの違いといっていいと思われると述べていた。
一方で、「全国ユニオン」のM.K.さんは、連合地域ユニオンに関して、違う視点から述べていた。地域によって温度差はかなりある。温度差はあるが、例えば、「全国ユニオン」などのコミュニティ・ユニオンが、全部を網羅できるわけではなく、やはり限度がある。その意味では、非正規労働者の問題を取り上げることに言えば、温度差はあっても、各地域の連合が全部窓口を開けば、全国どの県でも相談窓口があるということになり、その存在が形式的だとしても、何もないよりは、それで一つの意味はあるのではないかと。「全国ユニオン」の場合では、まったくユニオンがないところから相談が来るケースがある。「全国ユニオン」の他に、「全国ネット」を70団体で全国を結んでいる。しかし、70団体が全都道府県を網羅していない。そうしたときに、「全国ネット」の中で当てはまるユニオンが探してなければ、「連合の中に相談窓口があるから行ってみて下さい」と言えるという意味はある。ただその先に、温度差が出てくるというのは、その問題をどれだけ取り上げるのか、取り上げないのかということになると述べていた。
また、連合地域ユニオンと「全国ユニオン」の連携に関しては、例えば、「連合福岡ユニオン」のように、連合地域ユニオンが「全国ネット」にも入っているという形はある。そういったところとは一緒にやれることは多い。しかし、全国の連合地域ユニオンと「全国ユニオン」が積極的に共闘する所まではいっていない。共闘できるとこがあれば共闘するということに関しては否定はしていない。
そして、連合の立場から連合富山のH.K.さんは、労働局や県の労働委員会など問題点を解決するためのルートはたくさんあるため、この「とやまユニオン」でやっていることがすべてではない。また、法廷で争うような事にもなるため、その前の水際の段階でお互いが納得できるように潤滑油的な役割を果たすために、「とやまユニオン」はあると述べていた。
第五節 マスコミとの関係に関して
第一項でも触れたように、「派遣ユニオン」のM.I.さんは、コミュニティ・ユニオンのデメリットを補うためにマスコミの力が大きな助けになったと述べている。マスコミ関係者は、派遣ユニオンから「非正規労働通信」というものを出しているため、自分達に興味がある問題であった場合に、「派遣ユニオン」で行われている集会などに取材をしに来ることもある。そして、その内容が幾度と無く記事になり、非正規労働者の実態が世間一般にも知られるようになった。「派遣ユニオン」がしている活動は本当にわずかな事しかなく、その事をマスコミ関係者が問題点を把握して、違法状況を、なんとかしなくちゃいけないということをメディアを通して伝えてくれる事が大きな力になると述べていた。
一方で、「全国ユニオン」のM.K.さんは、マスコミに助けられてというよりも、一緒にやろうというスタンスであると述べていた。どちらが助けて助けられてということではない。例えば、Aさんがグッドウィルで働く日雇い派遣である場合、Aさんの問題は、Aさん個人の問題ではなく、日雇い派遣の問題であるととらえる。Aさんの相談から社会的な問題として取り組む課題があるのかということをみる。日雇い派遣の問題は、今、取り組まなければいけない社会的問題だというときは、当然、マスコミの人達にもこういう問題が今ある、こう取り組むと記者会見を開いたり、個別で話をしたりする。
相談者は自分の問題で困って相談に来ているわけであるが、その相談内容の多くは、「社会の中でおきている、今を一番表している問題である」。例えば、日雇い派遣がそうであったように。「派遣切り」も、今の問題である。その今、進行している、最先端にある問題を何とかしなければということであるため、マスコミは、おもしろいと捉えるのではないかと思われる。いつも、同じ事をやっているというわけではなく、たえず新しい課題に飛びついて、具体的に動いているということで、そういう形でマスコミの人達とは連携していると述べていた。
また、日雇い派遣の場合、「派遣ユニオン」の人達は、実際に日雇い派遣の現場に入って、日雇い派遣の実態を自分たちでつかんだが、同じく新聞記者の何人かも、実際に日雇い派遣の現場に入っている。そういう中でこの問題は大きな問題だと、実体験を通して、記事で発信してくれた。コミュニティ・ユニオンは、小さなユニオンということもあって、マスコミの人達に助けられていると思うが、気持ちとして「お願いしてやってもらっている」ということではない。一緒に今ある理不尽な問題について、社会的な問題として発信をし、何とか改善したいという思いでやっている。マスコミの人達はマスコミの人達の問題意識がある。ユニオンはユニオンで自分達の運動がある。こういう問題をこれからやるという情報は、メールやネットで流す。それを見ているマスコミの人達の問題意識とフィットしたときは、ユニオンに取材も来るし、行動の現場にも取材に来ることになるとM.K.さんは述べていた。
第六節 労働協約に関して
「派遣ユニオン」のM.I.さんは、フルキャストと「フルキャストユニオン」の間で2007年2月26日に「フルキャストで働く派遣労働者派遣労働者の労働条件協定書」を締結した。その労働協定では、「業務管理費を徴収しない」、「有給休暇の権利」、「集合時間を強制しない(強制したら賃金を支払う)」など、画期的な締結をした。そして、協約を結んだ場合、ユニオンの中の人達だけでなく、フルキャストで働く全国の人達に適用されることを目的としていると述べていた。
このことに関連して、「全国ユニオン」のM.K.さんは次のようにも述べる。労働協約については、その労働組合員数が従業員の過半数を取っている場合は、結んだ協約の中身に関して、企業内の従業員全員に適用される。しかし、過半数をとってない場合は、法的には全員に適用しなくともよい。だから、ユニオンが、労働協約をとる場合には過半数をとっていなくても全員に適用することを目的としている。
また、労働組合に入った人には全員に適用されるので、例えば、グッドウィルの場合、データ装備費の返還問題で組合員のみに返還すると答えたので、「グッドウィルユニオン」に入ればデータ装備費が返還されると宣伝でき、「グッドウィルユニオン」に入り、返還しようということになったとM.K.さんは述べていた。
第一節 コミュニティ・ユニオンに対するマスコミが果たす役割
1つ1つのユニオンの構成人数が少なく、財政的面でも不安が存在するコミュニティ・ユニオンにとって、マスコミが様々なメディアを通して世間に訴えてくれる事は大きい。その一例として、週刊誌、『週刊プレイボーイ』では、13回にも渡り、グッドウィルに対して徹底追求の記事を掲載している。そこでは、「金返せ、グッドウィル!」(第2回)、「裁判官もあきれたグッドウィル矛盾だらけの主張」(第13回)、「グッドウィル絶体絶命!」(2008/1/28号)などとグッドウィルを悪者に見立てた見出しを大々的に掲げている。さらに、見出しだけに収まらず、グッドウィルの折口会長の似顔絵を面白おかしく掲載し、挑発しているようにも感じられる。
一方で、記事の内容はいたって真面目にグッドウィルが行ってきた違法行為に関して、鋭く指摘している。派遣労働者から不透明な天引きを行ってきたデータ装備費に関して、グッドウィルユニオンの活動に関して、その裁判の行方に関してなど、実際にグッドウィルで社員として働いている、働いていた社員の証言や、グッドウィルに登録して働いていた派遣労働者の証言を基にしたり、「派遣ユニオン」の話を織り交ぜたりして、構成されていた。この手の見出しにより、電車の中吊り広告や、新聞への広告を通じて、グッドウィルに対する記事を目にする人たちは多かったのではないだろうか。
一方で、『プレイボーイ』だけがすべてではなく、他の雑誌や朝日新聞などもこのグッドウィルの件に関しては、こぞって掲載していたし、テレビ報道もなされていた。このメディアでの露出を活かして、広くグッドウィルを中心とした人材派遣業に関してや、その人材派遣業と闘うグッドウィルユニオンの存在を知ることになった人は多いのではないか。わずか250名のメンバーで構成されている「派遣ユニオン」にとって自分達だけで活動をしているだけではやはり限界があり、なかなか世間に訴えることは難しい。しかし、マスコミの力を借りることにより、その活動が全国に知れ渡り、各地でも被害を受けていた労働者が立ち上がり、派遣ユニオンや地域のコミュニティ・ユニオンに加入するきっかけにもなるであろう。その点に関して、マスコミが与えた影響は計り知れない力になったと言えよう。
一方で、「全国ユニオン」のM.K.さんはインタビューで、「ユニオン活動は1人の労働者からの相談から始まる。例えば、Aさんがグッドウィルで働いていて、なおかつ、日雇い派遣である場合、Aさんの問題は、Aさん個人だけの問題ではなく、日雇い派遣の問題である(中略)常に、相談が来た場合、Aさんからどんな社会的な問題として取り組む課題があるのかということをみる。」述べている。このことから、ユニオン活動をしていて出てきた問題点は、単に一企業の問題に収まるものではなく、派遣労働というものを象徴している問題であることがわかる。それが派遣法に違反しているのであれば、その違法行為をメディアとして取り上げるのは当然の話であり、当たり前の事ではないかとM.K.さんは主張している。よって、コミュニティ・ユニオンは小さな組織ではあるが、彼らが取り組んでいる問題は、派遣労働という日本の中で当たり前の雇用形態になっていてそれを取り仕切る、派遣法というとても大きな存在に対して、中心となり日々闘っていることになる。
そして、この事だけがきっかけではないが、メディアが大きく日雇い派遣労働者の実態を示したことにより、派遣労働に対する関心の目が向けられ、労働者派遣法を改正しようという政治、国全体を巻き込む動きとなった。これはもちろん地道に活動を続けてきたコミュニティ・ユニオンの功績が認知されてきたことに他ならないが、メディアが果たした役割もかなり大きいと思われる。まさにこれは、小さな組織が大きな組織を変えていこうとしている典型的な例と言えるのではないだろうか。
第二節 労働組合のあり方
宋文洲(2008)は、「日本の会社には見せかけだけのものがたくさんあるが、春闘はその代表的なものだ。労働者と経営者は対立などしてはいない。(中略)両者はプロレスリングのショーのようなことをしているだけだ。春闘ができる大手企業の正社員は、経営者との利益共同体を構成している。(中略)春闘に登場する労働者は、現実の労働者の実態とはかけ離れたものになっているのではないだろうか。」(宋 2008: 46)と、日本の労働組合のあり方に関して痛烈に非難している。
実際に、「派遣ユニオン」のM.I.さんのインタビューからわかるように、グッドウィルも参加しているJSGUは労働者の雇用を向上させていくことなど何1つ言及せずに、会社を守ることだけに徹してきた。日雇い派遣禁止という事に関しても、反対の意思を示している。また、「全国ユニオン」のM.K.さんのインタビューからは、「「派遣切り」により、多くの派遣労働者が契約を切られていくことに関して、大手の産業別組合は何の具体策もあげていない。「派遣労働者は組合員ではない…」ということはあるかもしれないが、この問題を目の前にして、何もしない労働組合の存在意義が問われるのではないか。」と述べていた。
非正規労働の現状として、工藤(2008)では、今、日本の労働者の状態は、日本列島そのものが「蟹工船」の状態にある。小説・蟹工船は奴隷状態であったが、食事にありつくことはできた。しかし、「食事にもありつけないワーキングプア」、「働くルール」もない職場、「労働基準法などを知らない労働者」が地域にはあふれてしまっていると述べている。また、龍井(2008)では、非正規労働者の「プロフィール」も変わってきて、正社員と同じ職務を担う、自らが生計費の主たる部分を担う非正規労働者が急増している。そして、彼らは労働相談において、労働条件の訴えのみならず、働くことによって自分が認められる、働く者同士が人格として認め合うという「居場所」を求めていると述べている。
そこで、これからの労働組合の大きな課題に関して、工藤(2008)は2つ挙げている。1つは、8割を超す「無権利状態に置かれている非正規労働者」の組織化であり、2つ目は、資本主義社会において、職場と地域に「働くルール」を確立させる運動の強化である。また、龍井(2008)では、「剥き出しの資本と市場の原理が蔓延している」中で、労働組合の出発点である「相互扶助」が課題として浮上していると述べている。
現在までの組合の活動は組合員が組合費を払い、組合員のために活動をするものであった。お金を払った人のために活動をすることは当り前のことである。しかし、これからの活動はこれまでのいわゆる「会員制」(龍井2008)の活動ではなく、非正規労働者を含むすべての労働者のためのいわゆる「社会運動」(龍井2008)にシフトしていかなければいけない。連合が組合費を払っていない非正規労働者に対して非正規労働センター(13)をつくったことは、その一歩ともいえよう。しかし、その活動を、「全国ユニオン」側から見た場合に、まだまだ非正規労働者の立場に立って本気でやっていないという感想である。たしかに、これまで正社員を対象に活動をしてきた連合にとって、非正規労働者についての理解していない部分が多いと思われる。なぜ彼らは非正規労働を選んだのか、自ら好んでその職業形態を選んだのか、それとも仕方なしに選んだのか、などである。彼らの実情を知らずにただ非正規労働という大まかな括りで活動を進めた場合、必ずどこかで実情とのズレが生じてきてしまうと思われる。ただ、給料が少ない、契約期間があるなど、データだけを見て活動するのではなく、もっとその実態を知り、親身になり考え、把握した上で他人事ではない活動が求められる。彼らを肥大化させたのは、何者でもなく、連合に加盟している大手の産業別組合の企業であろう。彼らをこれからも使い続けるのであれば、もっと彼らの視点に立ち、働く上でのルールをきちんと確立するべきであろう。そうでなければ、これまでの状況となんの代わり映えのしないものになっていってしまう。
これからは、非正規労働者のためにただ活動をするのではなく、その活動において何をしたのかという実績、結果が必要になってくるし、これまでの企業中心であった社会のシステムを作り変えて、新しい支え合いと連帯の基盤を作り出していく必要がある。この非正規労働の問題を通じて、もう一度労働組合、労働組合の活動を見つめなおす良い機会ではないのであろうか。
第三節 コミュニティ・ユニオンの活動のスタイル
2008年11月13日、東京の総評会館の会議室では「まやかしの派遣法改定案国会上程弾劾!派遣労働者の雇いどめを許すな!派遣法抜本改正をめざす共同行動11/13出発集会」と題して、派遣法改正をめざし、様々な組織の人たちが各自の考えを訴えていた。そこには、政党から社民党、国民新党、共産党。弁護士団体からは日本労働弁護団、日本弁護士会連合会の代表者も参加していた。また、12月4日、東京の日々谷野外音楽堂では「労働者派遣法の抜本改正をめざす12/4野音集会」と題して、派遣労働者、労働組合、コミュニティ・ユニオン関係者が約2000人集まり、派遣法抜本改正へ共同行動を起こした。あらかじめ言っておくが、これは何かの機関を通して行われた集会ではない。「全国ユニオン」のM.K.さんのインタビューにおいて「ナショナルセンターに頼るのではなく、派遣法を抜本改正しなければいけないという一点で、まとまることが出来る団体や個人はみんなでまとまろうよ、というのが12月4日の集会だった。」と述べていた。ただ単に、現状の派遣法を改正しなければいけないという1つの共通意識を元にして様々な団体が手を繋ぎ、協力していこうという表れなのである。しかし、様々な団体が協力する中で、わだかまりがないとは言えない。M.K.さんは「わだかまりはある。しかし、ここでやることはやろうということ。労働組合にわだかまりがあると言ったのは、歴史がそれぞれあるから。共産党系、社民党系や民主党系などいろいろあるわけである。しかし、そんなこと言っているときではない。社会が、雇用が崩壊しようとしているときなのだから、みんなで一致できることはやろうということである。」と述べていた。この労働者派遣法を改正するという問題に関しては、様々なわだかまりを一時的に封印して協力していうことが重要なのである。
また、M.K.さんのインタビューでは、「派遣法の改正のためには法律を改正しなければいけない、国会が動かなければ実現できない。そのため、私たちは昨年の7月から民主党、社民党、共産党、国民新党に呼びかけて、ずっと院内集会を積み上げてきた。当然与党案がでるわけなので、それに対して、派遣労働者の立場に立った法案を野党が協力して出そうということで、7月から5回行った。政党と労働組合と派遣労働者が問題を解決するために知恵と力を結集する時である。」と述べていた。
すべてのはじまりは、1人の相談者がコミュニティ・ユニオンに派遣労働の実態を相談したことである。そのことが、ユニオンを通じて社会に訴えたことをきっかけに、マスコミも取り上げ広く知られる問題となった。そして、政党までもが協力する問題にまで発展し、派遣法改正が国会で審議されようとしている。ユニオン自体は小さいし、そのことを自分たちで自覚している。自覚しているがゆえに、うまく周りと連携しその小ささをうまくカバーしているように思える。また、既存の企業内の労働組合に見られるような会社との見せかけの労働組合ではなく、企業外の第三者が間に入り、問題に真正面から立ち向かっていく活動のスタンスはユニオンならではあると思われる。
本稿では、非正規労働者を中心に組織する労働組合、コミュニティ・ユニオンの活動を取り上げ、その活動内容、労働組合のあり方について言及していった。
コミュニティ・ユニオンの活動として、トラック・バスなどを製造する日産ディーゼルに派遣されている派遣労働者が、2008年12月18日付で解雇と即時退寮を通告されていた。そこで「派遣ユニオン」は、2008年12月8日、派遣先・日産ディーゼルと各派遣会社に対して、日産ディーゼルユニオン(派遣ユニオン・日産ディーゼル工業支部)の結成を通告するとともに、解雇撤回と雇用継続、退寮通告の撤回などを求める要求書を提出した。
「12月末までに派遣社員200人の削減を予定している日産ディーゼル工業(埼玉県上尾市)で働く派遣社員3人は8日、解雇通告と退寮通告の撤回を求めて「派遣ユニオン日産ディーゼル工業支部」を結成。」(朝日新聞2008年12月10日
朝刊)
「全国ユニオン」では、2008年12月22日、「とちぎ『派遣切り』ホットライン」を開設。解雇・退寮に伴う労働相談、生活相談、住まいの相談などを受けアドバイス・会社との交渉・生活保護申請同行などの対応を行なった。(派遣ユニオン
ブログ2008)
さらに、「全国ユニオン」が事務局となり、仕事と住まいを奪われる「派遣切り」被害者の労働相談、住居相談、生活相談の窓口を開設。それが「年越し派遣村」(村長、湯浅誠・NPO自立生活サポートセンターもやい事務局長)である。労働組合や市民団体、弁護士など約20組織が実行委員会を作り実施。2008年12月31日〜2009年1月5日の間で行われた。この「年越し派遣村」は連日、メディアでも大々的に取り上げられた。そして、1月17日、NHK「にっぽんの現場」で「派遣切りと闘う 〜東京「派遣ユニオン」の1ヵ月〜」と題して、「派遣ユニオン」の活動が取り上げられる。(NHK2009)
「派遣ユニオン」では、「派遣切り」の問題に関して「日産ディーゼルユニオン」を早速に結成した。この問題解決に向けた迅速な動きはコミュニティ・ユニオンならではあろう。また、「年越し派遣村」では、約20組織が協力し実行委員会を結成した。派遣労働者が窮地に追い込まれているときに、多くの組織と連携できるネットワークを持ち合わせていることもその魅力である。これからもそのコミュニティ・ユニオンの利点を活かして、非正規労働者を支援していって欲しい。
「派遣切り」は今にはじまった問題ではない。今までも行なわれてきたものだが、これまでは労働者が派遣契約を解除されても、他にいくらでも仕事があった。しかし、現在では仕事がない。ただこれだけの違いである。メディアでは、大きくこの問題を取り上げているが、派遣労働というものをもう一度見つめ直して、派遣法を抜本的に改正しない限りは、この「派遣切り」という問題は繰り返し行なわれてしまうものではないのであろうか。
最後に、お忙しい中インタビューに快く応じてくださったインタビューイーの皆さんに心より感謝いたします。
(1) 「全国ユニオン」とは、「全国ネット」で運動をすすめてきた11団体、オブザーバー加盟2団体が参加し、連合に加盟している団体である。全国ネットは結成以来13年間、労働相談を軸に、「誰でもひとりでも入れる労働組合」としての活動を定着化させ、正社員、パート、派遣など、雇用形態の如何を問わず、「あらゆる働き方の労働者に権利を」と訴え続けてきた。阪神大震災での雇用・労働ホットラインの開催と被災地ユニオンの結成、ILO175条約批准などに取り組んできた。(全国ユニオン2008)
(2) 偽装請負とは、メーカーなどの企業が、人材会社から事実上、労働者の派遣を受けているのに、形式的に「請負」と偽って、労働者の使用に伴うさまざまな責任を免れようとする行為。職業安定法や労働者派遣法に抵触する。職業安定法には懲役刑もあるが、適用されたことはほとんどない。製造業への労働者派遣は04年3月に解禁された。これ以降、メーカーが他社の労働者を指揮命令して使うには、労働者派遣法に基づいて使用者責任や労働安全上の義務を負う派遣契約を結ぶ必要があるが、こうした責任・義務を負わずに済む請負契約で請負労働者を使う「偽装」の事例が後を絶たない。本来の請負は、請負会社がメーカーから独立して仕事をする。自前のノウハウや設備を持ち、そこで生産した商品を発注元に納めるのが典型だ。しかし、偽装請負では、請負会社は労働者をメーカー側の工場に送り込むだけで、仕事の管理はメーカー側に任せている。メーカー側はこうした立場を利用し、自社の社員や派遣労働者と同じように仕事を指図したり、勤務状況を管理したりしている。(朝日新聞2006年7月31日 朝刊)
(3) クリーリング期間とは、専門の26業務以外の業務で3年間派遣労働者を受け入れた場合、その後、同じ部署で2度と派遣労働者を受け入れることができなくなるというわけではない。派遣期間終了後から3カ月を超えた期間の間を空ければ、同じ部署で派遣労働者を受け入れることができるとされている。これが「クーリング期間」と呼ばれているものである。(派遣労働ネットワーク2008)
(4) 二重派遣とは、派遣会社から労働者の派遣を受けた会社が、請負契約などを装い、別の会社労働者を派遣、その会社の指揮命令下で働かせること。労働者と派遣を受けた会社には雇用関係がなく、2度目の派遣は労働者供給とみなされる。労働者供給事業は、労働者の自由意志を無視して労働させる強制労働の弊害や中間搾取が生じる恐れがあり、一部を除き職業安定法で禁止されている。(北日本新聞2008年6月4日
朝刊)
(5) 「全国ネット」は、1989年に、初めてコミュニティ・ユニオン独自の全国交流集会が青森県弘前市で開かれ、翌1990年の第2回全国交流集会(大分市)で結成が確認された。各コミュニティ・ユニオンは、それぞれ地域で自立した労働組合であり、それが「ネットワーキング」しているのが「全国ネット」である。通常の労働組合全国組織(単産)のような中央本部はない。中央−地方、上部−下部という上下関係ではなく、横並びの組織である。各地方ごとにも、地方ネットワークをつくって運動を進めている。「全国ネット」には、北海道から鹿児島までの30都道府県の71ユニオン、約15000人が参加している。(全国ネット2008)
(6) データ装備費は、グッドウィルが派遣1回あたり200円を保険料という名目で給料から天引きしていた。グッドウィルはデータ装備費に、保険が含まれていると説明してきた。男性が渡されたスタッフマニュアルには安全共済の掛け金との記載がある。(週刊東洋経済2008年2月16日号)この数年、複数の日雇い派遣会社で働いてきた男性によると、天引きの名目は「保険料」「冠婚葬祭の積立金」など、同じ会社でも支店ごとにばらばらだった。会社は任意の支払いだと強調するが、拒否できたケースはほとんどない。(朝日新聞2007年5月25日
朝刊)
(7) 日雇い雇用保険は、派遣労働者がハローワークで被保険者手帳を受け取り、働いた日に派遣会社から専用の印紙をはってもらう。加入者は通常の雇用保険料のほか、印紙代(96〜176円)を労使折半で支払う。直前2カ月で印紙を26枚以上集め、仕事がない日に派遣会社から「派遣契約不成立証明書」を受け取り、ハローワークに持参すると、賃金額に応じて1日4100円〜7500円の失業手当を月13〜17回まで受給できる雇用保険である。(朝日新聞2008年12月12日
朝刊)日雇い雇用保険は建設作業員など、日替わりで複数の事業所に直接雇用される労働者の失業対策として始まり、派遣労働者には適用されていなかった。だが、労働者派遣法の緩和で、日々別の会社に派遣されて単純作業を行う日雇い派遣労働者が増加。「日雇い派遣にも安全網が必要だ」としてフルキャストの労働者らが保険適用を求め、同社が2007年2月、厚労省に適用事業所としての認可を申請していた。(朝日新聞2007年9月14日
朝刊)
(8) 労働基準監督署は、労働基準法をはじめ労働安全衛生法、労災保険法等の法律に基づき、事業場に対する監督指導、労働保険に関する加入手続き、労災保険の給付等の業務を行っている。簡単にまとめると、「労使関係の担当行政機関、労使トラブル・問題の相談窓口」。但し、証拠資料などが揃っていない限り、労働基準監督署が関与することは少ないのが実情である。(労働基準法・労働基準監督署ガイド2008)今回グッドウィルユニオンは、強制的なデータ装備費の徴収が不適切だとして労働基準監督署に申告をした。
(9) 労働委員会とは、労働組合と使用者間の労働条件や組合活動のルールをめぐる争いを解決したり、使用者による不当労働行為があった場合に労働組合や組合員を救済するなど、集団的労使関係を安定、正常化することを主な目的として、労働組合法に基づき設置された合議制の行政委員会である。 労働委員会では、労働組合や使用者からの申請により労働争議の「あっせん」、「調停」、「仲裁」を行うほか、労働組合等からの救済申立により「不当労働行為」の審査などを行っている。労働委員会には、各都道府県毎に設置されている都道府県労働委員会と、国に設置されている中央労働委員会がある。(東京都労働委員会2008)今回グッドウィルユニオンは、グッドウィルが団体交渉を拒否しているとして、東京労働委員会に不当労働行為の救済申し立てをした。
(10) 労働基準法では1週間に40時間・1日に8時間(法定労働時間)を超えて働かせてはいけないことになっている。法定労働時間を超えて働くためには、書面による協定、いわゆる「36協定」というものが必要で、これを労働基準監督署に届出ないといけない。(キノシタ社会保険労務士事務所2008)
(11) 「連合は「正社員クラブだ」とか、「大手企業の正社員と公務員の護送船団だ」とか批判されています。」(朝日新聞2006年11月17日 朝刊)「正社員クラブ」と批判され、組織率低下に悩む連合にとって、非正社員の取り込みは喫緊の課題。(朝日新聞
2008年2月18日 朝刊)と言われるように、連合は非正規労働者の問題に長い間取り組まずに、正社員中心の活動を行ってきたため、一方では非難をされている。
(12) 2008年3月1日に行われた「第3回今後の労働者派遣制度の在り方に関する研究会」において、JSGUが提出した資料には、「労働者派遣制度に関するJSGU
の考え方」ということで、「たしかに、労働者派遣制度にはいくつかの問題があるものの、@雇用契約2 ヶ月以下の登録型派遣の禁止、A日雇派遣の禁止については、JSGU
は反対します。」(第三回 人材サービスゼネラルユニオン提出資料)と明記してあった。
(13) 非正規労働センターとは、連合が2007年10月、非正規雇用で働く労働者の賃金・労働条件の改善やネットワークづくりなどに取り組む「非正規労働センター」を設置した。連合が決定した2009年10月までの「運動方針」では、今後2年間の運動の力点として、非正規雇用や中小零細企業の労働者への支援・連携の強化、組織化の推進に最優先で取り組むことになっている。この方針に基づいて設置したのが、このセンターである。センターでは、非正規労働者の労働条件・労働実態を把握した上で、問題点を明らかにし、労働条件底上げキャンペーンや、インターネットを活用した情報発信などに取り組んでいく。(連合2008)
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労働基準法・労働基準監督署ガイド,2008,「労働基準監督署とは」
(http://www.e-roudou.net/kantokusyo.html)