第1節 分析
第1項 遠距離恋愛
就職活動を終え、進路が決まり、当然その選択によっては現在の恋人と遠距離恋愛になる可能性が出てくる。以下に今回のインタビュイー7名の就職先場所と今後恋人と遠距離恋愛になるかどうかをまとめた。さらに今後遠距離恋愛になる人もならない人も、遠距離恋愛についてどのような意見を持っているのか、彼女たちの会話から抜き出した。
Aさん Bさん Cさん Dさん Eさん Fさん Gさん |
<遠距離> ならない なる なる 未定 ならない なる なる |
<就職先の場所> 未定(今のところ元恋人?と同県) 地元 東京(恋人とは別) 未定(希望は地元) 東京(恋人と一緒) 地元 地元 |
遠距離恋愛について
Aさん
「なんか金沢帰ることになっても、別に別れるわけじゃないやんとかいっとったん向こうは。そんなん私はそれが納得できんくて、だって金沢に帰るってことは私はずっと金沢におりたいから、何でそんな気楽に考えれるん?みたいな。」
「先が見えんもんね。(遠距離は)辛いいときにそばにおってくれんと何のための彼氏ねんろって。」
Bさん
「続けれるか不安やなって言うのはあるね。」
「最後は遠距離になって別れるっていうのは仕方ないって、就活の時期はかなりその辺のことで悩んだ。」
「そうやね、本当に将来の約束をしとってそれこそ遠距離をしとっても2年たったら迎えに来るよとか、を言ってくれとるんやったら、ある意味期間限定の・・それこそ(友達)みたいに1年だけとかわかっとれば全然いいんやけど、この先どうなるか分からんのが。」
Cさん
「ね!遠距離になるから自分的にはそうゆう目標があった方が、遠距離も続くなと思ってそうゆうけど、なんか全然それは考えれんみたいな。いつ結婚できるか分からんと思って続けとるのも・・いやだ。」
Dさん
「将来あからさまに離れる人とは付き合わないかも。」
Eさん
「一回離れて暮らしたりとかするとー、余計これからどうなるんだろーって感じるしそうなってくるとね、色々考えちゃうんだよね。」
ここまでの発言から共通していえる遠距離恋愛についてのイメージは、ほぼマイナスイメージである。遠距離になる=別れる可能性が高くなる、というイメージがあると思われる。ただ遠距離恋愛と一言でいってもそれぞれのカップルで距離は様々ではある。しかし確実に今までとお互いの生活環境が変わることには違いない。このことに不安を抱いているのだろう。遠距離恋愛はお互いが近くにいる現在の恋愛より確実にリスクが高いことは間違いないだろう。恋愛を第一に考えれば、遠距離恋愛になることは誰もが望む道ではないと思われる。ただそれが期間限定のという話であれば、そのリスクが多少軽減されると思われる。実際にFさんは遠距離恋愛も前向きに考えるような発言をしている。
↓
遠距離がリスクにはならない
Fさん
「自分が金沢に決めたのは、相手とずっと遠距離でもやっていけるっていうお互いにそういう自信みたいのがあったから決めれたんかなって!」
「逆に遠距離があるからそういう話も出るんかなって言うのはある。近くにおったらあんまそんな関係の話もでんかもだし、私もそれがあるから気持ち的にやっていける。」
Fさんは遠距離恋愛だからこそ、この先に結婚という目標を持って交際を続けていけるという。遠距離恋愛がお互いに結婚の意志を確認するいいチャンスであるという見方もある。
第2項 “安全策”という進路選択
遠距離恋愛が二人の関係においてリスクがあると分かりながらも、遠距離恋愛を選んだB、C、D、F、Gさんはどうしてそのような選択をしたのだろうか。インタビューの中では、そのような選択をした彼女たちにある共通点があることが分かった。またEさんは遠距離恋愛を選んだわけではないが、他の5人と共通する要素が彼女の会話の中にも見られる。彼女たちが選んだのは、いわば“安全策”と呼ばれる進路選択である。
Bさん
「あたし自身もその時点ではぶっちゃけ・・いつまで・・このさきどうなるかなんてわからんやん。たまたまこの就活の時期に静岡の人とつきあっとったからって静岡に行ってうまくいくとは限らんし、それも恐くて。」
「だからそれでもし出版社にうかっとったとしたら私は出版の仕事がやりたくて静岡にきたって言う目標があるというか、目的が持てるけど、それ以外の会社やったら、それこそ本当に彼氏がおるからいったんだみたいなあれになるから、別れたときのことを考えるとやっていけんかなって。」
Cさん
「でもいまは結婚より仕事を優先させたいんやね。」―「うんそう。」
Dさん
「自分がおる場所におってほしいみたいな、おるから富山がいいとかさ、そういう風に言って欲しいみたいに言ってたんだけど、私の中でやっぱり違うなっていう思いがあったから。」
Eさん
「何でこっちで一緒に暮らして行くのが嫌なの?って聞かれて、別に嫌なわけじゃないけど、不安もあるじゃん・・・」
「まだ理想では結婚してもいいかなみたいなこと言ってるけど、本当にこの人で大丈夫なんかなとかいうことあるし、余計そんな細かく考えられたら、就活のときじゃないけど、結構期待されて、自分の選択肢を縮めてっちゃうかも。不安になるかも逆に。」
Fさん
「彼氏が県外の遠いところにずっとおるからこの先があるなら、私はあっちにいかんなんとも思うわけで、結婚とかになったら私があっちに行かんなんって思うし、でも逆にそれやったら今から行くんじゃなくて好きな地元で就職してってそれが一番最適かなって思った。」
「私ももちろんそれは頭に入れてあの人のことも考えた上で、どっちが大きかったかって言われたら難しい、恋愛か自分かって。私は自分のしたいことを優先したんじゃなくて、本来そういうものがなかったから、けど金沢で就職しようっていうのが念頭にあったから。やっぱ自分のことすごい考えとったからね。」
「私にとって金沢に就職するのがたぶん安全だっていうのが、周りからの意見もあったし、私もおもっとったからたぶんそうしたんやと思う。目に見えてわかっとったぶん、自分の安全なほうにいったんかなあって言うのはある。全く(相手のこと)考えずに金沢に決めたわけじゃない、親とか友達も大事だし、その先は結局どうなるかわからんから。これで結局あっちに行かんかったってなったらそれはそれで自分的にもいいし、っていうやっぱ安全策にいったっていうのはあるかな。」
Gさん
「恋愛とはまた別で、自分は地元におりたいって思うからー。好きでもそっちいけるかって言われたら、びみょー。」
「恋に振り回されて決めてしまう自分もやだ。」
「でもいまは前に進むしかなくて、結婚なんてリアルじゃないし、ただやってみんとわからんし、でも別れたくないし、もうなんも今は無視しようってかんじだよね。」
このように彼女たちは、相手と離れた場所に就職することで遠距離恋愛になることが、交際にリスクが高まると感じながらも、進路選択においてはそれが安全策なのだという。安全策とはつまり、相手との関係をこれからも続けていく意志はあるが、自分たちの将来(仕事)よりも相手との交際を第一に考えるということはしないということである。その意志が現れたのが、就職において相手と離れることになっても地元で就職したり、自分のやりたい仕事を優先し就職先を決めるという行動に現れている。彼女たちの発言の中には“不安”という言葉が多く見られる。この不安が彼女たちを安全策へと向かわせるのだろう。この不安とは、一つは結婚がまだリアルではない(経済的な面など)不安、もう一つは別れるときが来たときの不安、さらに、自分のことより相手に合わせることで自分の将来の選択肢を縮めてしまうかもしれないというような不安あるようだ。
第3項 結婚願望
2項では、彼女たちの進路選択において恋愛を第一に考えることはリスクが高く、現時点で自分たちによりリスクの少ない”安全策”といわれるような進路を選ぼうとすることが分かった。しかし、そもそも彼女たちは結婚というものをどれくらい現実的に考え、自分たちの将来に位置づけているのだろうか。ここでは彼女たちの結婚願望について、会話の中から読み取れる<結婚願望が強い派>と<結婚願望が弱い派>に分類し、結婚についての考え方について取り上げてみた。
<結婚願望が強い派>
Aさん
「(何年後の約束)いってほしいよね、保証できんとかいらんから。」
Bさん
「結婚したいねー。」
「そう、なんていうかこういうこというのあれなんやけど、例えば今とかでも、そうできちゃえばいいのにって時々思うよ普通に、そしたらもう絶対結婚できるやん。」
Cさん
「遠距離になるから自分的にはそうゆう目標があった方が、遠距離も続くなと思ってそうゆうけど、なんか全然それは考えれんみたいな。いつ結婚できるか分からんと思って続けとるのも・・いやだ。」
Fさん
「結婚早めにしたいなってタイプやからー、25,6ぐらいにしたいなって、早いよね〜気持ち的にはね!そんぐらいにしたい。」
「少なくても2,3年してから(相手の県へ)いきたいなっていうのは今はあるけど。」
結婚の願望が強い4人の共通点は、遠距離恋愛になろうとも現在の恋人との交際を貫き、それをむしろ結婚へのステップにしたいということである。のちに結婚という目標があるからこそ遠距離でも関係を続けていく意味を見出せる。ただ、結婚願望が強いゆえに、遠距離という今の二人の関係が変わってしまう状況に不安を感じてしまうのである。結婚の意志が強い彼女たちにとって、後の結婚の約束があるかないかによって大きく気持ちの持ちようが変わってくると思われる。その例が、A、B、CさんとFさんの違いである。今の時点で、後に結婚の約束があるというFさんは遠距離恋愛を結婚のステップとして前向きにとらえるような発言をしている。同じ“安全策”という道を選んでも、両者は遠距離恋愛に対し全く違う思いを抱いているのかもしれない。
<願望が弱い派>
Dさん
「(相手と)同じ気持ちだと思う。ただ付き合ってる人って感じ。」
「(結婚の話)したくなーい、なんか傷つきそうだし。」
Eさん
「そうまあ、結婚・・ありえるかな?くらいの感じ。けどなんか前は結婚にすごい期待してたけど、今は結婚恐いもん、だって。今決めていいのかとか、なんか、ちょっと早まりすぎ?決断急ぎすぎじゃないかって思うし。」
「別に将来一緒になりたくないってわけじゃないけど、今はなんかよく考える時期だと思うんだよ。」
「あたしはいまは好きだけど、まだ二人のこの先のことを考えてる時期だから、まだ理想では結婚してもいいかなみたいなこと言ってるけど、本当にこの人で大丈夫なんかなとかいうことあるし・・」
「自分でもさめてるかなって思うけど、でもここまで二人の将来のことをちゃんと考えてるんだったら、別にまだ、やっぱ好きなのかなとも思うし。」
「今はまだフランクに付き合ってたい。もうちょっと。」
「でも結婚するなんて軽々しくいえないけどね!」
Gさん
「でも実際困るね!今結婚とか本当にいわれたら。願望でしかないからリアルに考えたらあんまり困る。」
結婚の願望が弱い3人の共通点は、まだ結婚にリアリティを見出せないということである。さらに自分の将来にもまだ不確定要素がありすぎるということも影響しているだろう。彼女たちの恋愛(遠距離恋愛)は現状を維持していくということに重点が置かれている。将来よりも現在を重視する彼女たちにとって、結婚の約束は不要なのである。たとえそれが遠距離になろうと同じである。彼女たちにとって結婚をリアルに考えられない要素や不安な要素はどこにあるのか。
↓
結婚がリアルじゃない要素(不安な要素)
Dさん
「家庭を持つことに対しての価値観が違いすぎて。」
「自分の家みたいにしたいって気持ちが強すぎて、そこは何があっても譲れなさすぎてっていうのがあるかも。」
「(相手が)今を一生懸命生きるって感じでしょ。」
Eさん
「それでなんか仕事も不安定なのに、一緒に暮らして、どうのこうのってどうなんだろうみたいな。そうおもって今は、相手との結婚をそんなに期待しているわけではない。」
「ちゃんと真剣に考えてくれてるんだなっていうのはあるけど、でも考えが及び足りないっていうか。ww夢見ごこちでまだいってるから。」
「仕事のこととか、一回離れて暮らしたりとかするとー、余計これからどうなるんだろーって感じるしそうなってくるとね、色々考えちゃうんだよね。」
「私は今の向こうの生活とかも心配だし、本当に(彼の)家に帰ると、いっつも足の踏み場がないし、一緒にここで(富山)半同棲とかしてたときは違う姿を見てたわけじゃん。そういうのとか考えると大変かなとか思うわけよ。」
「なんかまえ結婚は紙切れ一枚とかいってたけど、なんかあんまり家族のこととか考えてないんね。(省略)−うちはやっぱお父さんとかお母さんとか家って結構家族を大切にしてるから、そういう家族を大切にしたいんだよね、みたいなこといっても、なんか家族とか親族とか面倒くさいとか。」
Gさん
「まだやりたいことあるし、やってける自信もないし、お金もないから、お互いにしっかり働けることが分かってからじゃないと、やっぱり将来は・・・。真面目な人がいい。」
「働いてもない基盤もない状態で、無責任なことはいえんて。やっぱ昔の若い恋愛って結婚しようねって何にもないただの口約束でそんときは幸せやったかもしれんけど、今はリアルに現実的に考えなんから、この歳だから適当なこといえんて言うのはある。私も確かに、納得できるし、いわれたあとでやっぱあんときああいったんになんで別れたんみたいな感じで言うの嫌やし。彼の言い分も分かるし、いまはしゃーないって。」
「こわいもん、自分でまだ働けないし。」
ここから、彼女たちが結婚にリアリティを見出せない要素は、まず将来についての不安である。自分の仕事、相手の仕事、仕事と恋愛の両立ができるかなどまだ将来に不確定なことが多すぎるので、結婚はまだ夢のような話だと思ってしまうのだろう。だから、まだ不確定な未来について発言することも安易だと思ってしまったり、相手からのそのような話にも期待はできないと感じてしまうのだろう。まだ分からない将来について無責任なことはいえないという部分には彼女たちの真面目さや、繊細さが見られる。
また彼女たちに共通していたのは、家族についての価値観という点だ。将来の自分の家庭も、現在の自分の家庭のようにしたいと思う気持ちが強いため、自然と相手の家庭と自分の家庭を比較してしまうのである。そこで自分の家庭と相手の家庭があまりにも違いすぎると、またそこにも不安を感じてしまうのである。
第4項 男性からのアプローチ
3項では、彼女たちの結婚願望やそれぞれの結婚に対しての考え方を取り上げたが、相手側の男性は彼女たち同様、今後の二人の交際についてどのように考えているのだろうか。今回は相手側の男性にインタビューすることはできなかったので、それぞれのカップルで男性側からのアプローチ(将来についての意志表示など)があったかどうかを聞いてみた。
<アプローチがあった>
Eさん
「俺たち絶対結婚するんでー、とかいってたのね。」
「結婚するって言うのは断言してるけど・・。」
Fさん
「(就職に関して)将来的なことも見てほしいっていうのもあっちはいっとったし。」
<アプローチがなかった>
Aさん
「せんげん、それが。向こうがそんな人ねんて。約束・・なんか保証できんことは絶対にゆわんみたいな感じ。結婚とかもゆわん。」
Bさん
「でも向こうがそういうのいわんから(相手と一緒な県へ)いっていいんか、そこまで考えてくれとるのか。」
Cさん
「私はするけど、あっちはまだそんなの考えれんみたいな。だから結婚の約束とかもできんみたいな。」
Dさん
「ないない。むこうはたぶん、しばらく結婚とかするつもりなくて、付き合うって事に関しては取り合えず彼女って感じで、私とほぼおんなじで。」
Gさん
「そういう話し嫌いな人やからー。」
「働いてもない基盤もない状態で、無責任なことはいえんて。」
男性からのアプローチの有無を会話から抜き出してみたところ、交際相手の年齢によって違いがあることが分かった。年上の彼をもつ3人(D、E、Fさん)では違いがあったが、同年代の彼を持つ4人(A、B、C、Eさん)に共通していたのは、男性側からのアプローチ、つまり将来を見込んで一緒な土地に就職するようにしたり、相手からそう促すような発言はなかったことがわかった。この理由が女性と同じように、結婚にリアリティを見出せないことや将来について不安を感じているからなのかは、男性側の気持ちからはわからない。ただGさんの発言の中で「働いてもない基盤もない状態で無責任なことは言えんて。」という相手の気持ちを表す部分が一部ある。また、Aさんの「保証できんことは絶対にゆわんみたいな感じ」という発言や、Cさんの「男はー、恐いんかなと思って結婚とか。奥さんと子どもができたら養っていかんなんから、その勇気がないみたいな。」という発言があったことから、男性からのアプローチがない理由が、二人の将来の保証や責任が持てないからだろうと感じていることが分かった。このように男性側からのアプローチがないことに対して、結婚願望の強いAさん、Bさん、Cさんは不満や不安を感じているようだった。
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アプローチがないことの不安や不満
Aさん
「なんか金沢帰ることになっても、別に別れるわけじゃないやんとかいっとったん向こうは。そんなん私はそれが納得できんくて、だって金沢に帰るってことは私はずっと金沢におりたいから、何でそんな気楽に考えれるん?みたいな。」
Bさん
「なんか向こうの覚悟がどれくらいなのかって言うのがよくわからんくて、なんか聞いてもし私との将来も考えてないっていうことやったら、この先続いてもしょうがないやん。だから恐くて聞けん。」
Cさん
「なんか全然それは考えれんみたいな。いつ結婚できるか分からんと思って続けとるのも・・いやだ。」
「何のために付きあっとるん?てきかれて、その先に結婚ていう目標があるからつきあっとるっていったらそれはおかしいって。なんか好きやから付きあっとるんであって別に結婚するのが目的じゃないって。」
結婚願望の強い3人は、相手からのアプローチがないことに対して、不満を抱きつつも、相手が自分との将来を考えてくれているのかも恐くて聞けないという不安な気持ちが見える。この不安から彼女たちは、相手との結婚を考えた将来よりも、現在の“安全策”という道を選ばざるをえないのかもしれない。
第2節 考察
ここまで2章の先行研究で述べたような「恋愛と結婚の分離」や意識調査で指摘されていた若者の交際の真剣さや将来性などを3章のインタビュー調査によって分析を進めてきた。最後に、先行研究やインタビュー調査結果をもとに、「恋愛と結婚の分離」の本当の意味や現代の晩婚化要因などについても私なりの考察をしていきたいと思う。
若者の結婚意識
まず、分析の3項では彼女たちの今の交際相手との結婚について語ったセリフをとりあげた。この中で、結婚願望が強い、弱い、の差はみられるものの結婚について全く意識しない、別に考えているという要素は彼女たちの会話の中には見られない。<結婚願望が弱い派>の彼女たちの発言からは、一見そのような傾向が見られるように思うがそこには彼女たちなりの理由や、まだ見えない将来について無責任なことはいえない、などという現在の自分の立場を考えた真面目な姿勢がうかがえる。また、彼女たちのインタビューの中では、「この歳だから・・。」や「大学4年生は違う。」といった言葉が見られ、大学4年生は他の学年とは違うという意識が強い。学生でありながらも、将来のことを考えた付き合いをしなければならないという意識は彼女たちの中にある。ただ、意識調査の第1項で石川が指摘したような交際を真剣に考えているかどうかについては今回のインタビューからは断言することはできない。ただ、現在の交際を一時的なものとは考えてはいないようである。
究極の進路選択という葛藤
しかし、最終的に彼女たちの選んだ進路選択はどうだろうか。彼女たちの選択を見てみると恋愛を第一に考え、現実的に相手との将来を考え、二人の結婚を考えた土地に就職したという例は少ない。むしろ、相手との将来より自分の将来、いわゆる自分にとって安全な進路を選んでいる人が多数である。相手との交際を一時的なものと考えていないわけではないし、結婚についての考えも持っている。やはり彼女たちにとって、現在の相手との結婚は現実的ではないと感じているのだろうか。しかし、インタビューの中から読み取れた彼女たちの気持ちは、今の恋愛を結婚の過程としてとらえていないという意味ではないようだ。漠然とした将来の不安が彼女たちを結婚という、まだ不安定な非現実的な生活を考えることから、現在の安全な進路へと向かわせているようである。自分の就職に対する不安、結婚に関する様々な不安、相手からのアプローチがないことの不安など、この時期の彼女たちにとって、自分のことより相手のことに合わせるという覚悟をするには不安が多くありすぎるのである。ここに現在の恋愛が将来の結婚というものに結びつかなくなる理由がある。現在交際している相手と、いずれは結婚をしたいと思って付き合っているカップルは世間に大勢いるだろう。しかし、例えば大学4年生というこれから初めて社会に出る地を選ばなければならないとなれば、自分のやりたい仕事のある土地を選ぶか、結婚のことも考えた土地を選ぶか、という仕事と恋愛のまさに究極の選択をする立場に立たされる。このような立場に立たされたとき、彼女たちは本当に何もかも相手に委ね、ただ相手との結婚を考えた進路を選ぶことができるだろうか。そこには多くの不安と、大きな覚悟を必要とするのではないか。この選択において、「いずれは結婚したいと思っていたが、今相手との将来を考えるような進路を選ぶことが出来ない」といういわば“安全策”をとるとなれば、やはり恋愛と結婚が分離している、といわれてしまうことになる。これが果たして、若者の恋愛は一時的なもので、軽く考えている、といわれるような選択だといえるのだろうか。
“安全策” という進路
ここまで見てきたように、彼女たちが選んだ”安全策”という、結婚に不利な方向に向かうような進路選択からみれば、確かに山田が指摘したように、恋愛と結婚が分離しているように見える。しかしその意味は、山田が述べたような、「結婚を前提とせずに、恋愛そのものを楽しむという意識が強まり、人生にとって重要なのは、「結婚」と言う形式よりも男女のコミュニケーションがもたらす満足感である」といった意味ではなく、結婚を第一に考えるような進路をとるにはリスクが高すぎるため、現在は安全策をとらざるを得ないという葛藤がそこにはある。いくら、現在の自分たちの交際が真剣だと語ったとしても、進路選択において恋愛を第一に考えるのは相当な覚悟を必要とする。遠距離恋愛を選んだカップルの多くは、二人の将来についてお互いが悩みぬいた結果といえるのかもしれない。今回のインタビューは大学4年生という特殊な時期の女性に対するインタビューであったため、すべてを一般化し同じように考えることは難しい。だが、少なくとも女性にとって結婚を決める際に、自分の将来と言うもの再度見つめなおすことになるだろう。そのとき彼女たちが抱える多くの“不安”を解消するような何かがあるかどうかが、彼女たちを“安全策”に向かわせるか否かを決めることになるのだろう。自分が“安全”だと思える進路は相手に合わせていく進路ではなく、自分自身が納得し、切り開いた自分の居場所を見つけることで初めて、一番の“安全策”といえる道になるのではないか。
結婚意志の男女差
分析の4項では、女性が安全策を選ぶ理由のひとつに男性からのアプローチの有無も関係があるのではないかと指摘した。人口問題研究所が調査した「結婚と出産に関する全国調査」では、年々結婚を先のばしする意識は引き続き増加する傾向があるという結果を示している。そしてこれは特に25歳〜29歳という結婚適齢期において最も男女差が見られる結果となっている。この時期において、「まだ結婚するつもりはない」と考える人は男性の方が女性より2割ほど高くなっている。女性側が結婚したいという意志はあれども、男性側では女性よりその意志が低いため、男性側からのアプローチがなく、女性は不安や不満を感じているのかもしれない。
国立社会保障人口問題研究所「第13回出生動向基本調査 結婚と出産に関する全国調査」(2006)より作成
“不安”という晩婚化の一要因
今回のインタビューでは、大学4年生という特殊な時期の女性へのインタビューであったため、そこには学生から社会人になることに対する多くの不安が存在するに違いない。しかし、仕事や結婚に関してこのような不安を抱えるのは果たしてこの時期の女性に限ったことであろうか。この時期に限らず多くの女性が自分の将来を考えたとき、不安定な未来から現在の安全な道を選んできた人も多いのではないだろうか。先のグラフで示したとおり、25歳から29歳の女性では約7割の人が結婚したい、結婚してもよいと思っている。しかし、このような気持ちとは裏腹に晩婚化は年々深刻さを増している。昨今の晩婚化現象の一要因として、いずれは結婚するつもりだったとしても、安全策をとった結果、この安全策が結婚にマイナスの方向を示したという例もあるのではないか。晩婚化は、彼女たちが抱える多くの“不安”が安全な進路へと向かわせてしまった結果かもしれない。彼女たちには、恋愛と結婚は別だ、もっといい人がいるかもしれないなどといった余裕があるわけではない。結婚という大きな決断を迫られた時、結婚に対する漠然とした不安は彼女たちの選択に大きく影響するだろう。その不安を解消することによって、彼女たち自身が安全だと思える未来がそこに見出せるのかもしれない。