第1章 「14歳の挑戦」への関心
第1節 問題意識
近年「ニート」という教育も受けず、仕事もせず、職業訓練も受けていない若者が急増するという現象が起きている。このことに興味をもち、以前授業でニートについて調査したことがあった。そのときに参考にした玄田有史、曲沼恵美の共著である、文献「ニート〜フリーターでもなく失業者でもなく〜」の中に、
全国の公立中学校のうち、約9000校、87%の学校で職場体験は実施されているが、その多くは1日、2日の体験で終わってしまう。たった1日、2日で、一体何を得ることができるのだろうか。そのような短期間の体験で、生徒が働くということ、仕事について何かを感じることは難しいだろう。しかし、それが5日間だとしたらどうだろうか。月曜日から金曜日まで働くとなれば、得るものも違ってくる。5日間という長期間の職場体験は、中学生にどのような影響を与えるのだろうか。そして、どのような経緯でこの事業は始まったのだろうか、などと興味を持つようになり、調査してみることになった。
そのときの調査では「14歳の挑戦」が始まった経緯、趣旨、内容を調査した。調査を進めていくにつれて、だんだんこの事業に魅力を感じるようになった。また、教育的意義においても優れていると思わせるものであったので、さらに追跡調査を行うことにした。追跡調査では、「14歳の挑戦」の現場を実際に見学して、どのような状況でこの事業は実施されているのだろうか、そして5日間の仕事の中で、中学2年生にどのような変化が見られるのだろうかということを調査してみようと思った。
玄田有史、曲沼美恵(2004)によれば、初日、知らない大人たちのなかで、子どもたちは声もあまり出ないし、積極的に動くことも出来ず、今までにない疲労を感じる。しかし、それが3日目、4日目となると、少しずつだが、はっきりとした変化が現れるという。お店に来たお客様に心を込めてあいさつをすることで、その場の雰囲気がガラリと変わることも知るそうだ。そのようなとき、自分が社会に受け入れられる存在であることを実感するという。緊張と不安でこわばっていた中学生が、5日目にはほんの少し、自信をもった顔つきになるというが、実際はどうなのだろうか。第2章ではC保育所で実施された「14歳の挑戦」を見学し、調査した報告を行う。また、「14歳の挑戦」が体験者の将来にどのような影響を与えるのかということにも興味を持ち、過去に「14歳の挑戦」を体験した高校生や大学生にもインタビューし、調査をすることにした。「14歳の挑戦」の体験者たちは、この体験を通してどのように成長したのだろうか。その結果は第3章で述べる。そして第4章ではそれらの調査結果を踏まえ、「14歳の挑戦」が現代社会において若者に何をもたらすのかということを考えていく。
第2節 「14歳の挑戦」の概要
1.事業開始の経緯
この『社会に学ぶ「14歳の挑戦」』事業が始まったのは、1999年である。この事業開始の経緯としては、1998年に青少年による犯罪が多発し、そのことに危機感をもった
2.趣旨
この事業は、行動領域が広がり活動が活発になる中学2年生が、1週間、学校外で職場体験や福祉・ボランティア活動などに参加することにより、規範意識や社会性を高め、将来の自分の生き方を考えるなど、成長期の課題を乗り越えるたくましい力を身につけることをめざしている。
3.実施対象
実施対象は県内すべての公立中学校の2年生である。
4.実施時期及び期間
実施時期については、学校や地域の実情等を踏まえ、弾力的に実施する。実施期間は1週間(実際の活動は5日間)とする。
5.活動内容・方法等
活動内容には次のようなものがある。
・農作業や園芸の仕事 ・地域に伝承されている文化活動等の体験
・商店や工場での仕事 ・史跡めぐりと清掃
・公共施設での仕事 ・科学文化センター等での課題研究
・幼稚園や保育所などでの仕事 ・作品製作や調査活動
・老人介護補助、食事作り ・その他
活動内容については、生徒の興味・関心をもとに、地域や学校の実態に応じて設定している。
また、活動方法については、中学生は4名ほどの班単位で活動し、班ごとに指導ボランティア1名を充てる。活動時間は5日間の合計時間を30時間ほど
とし、1日あたりの活動時間は7時間を越えないようにする。活動場所の範囲は原則として校区内で受け入れ場所を探す。生徒は自宅から直接活動場所へ通う。また、万が一の事故に備えて、生徒及び指導ボランティアの方々は、保険に加入して活動を行う。
6.この事業の依頼について
この事業では、学校側から企業に生徒の受け入れを依頼していき、商工会などを通して受け入れてくれる企業を探していく。同時に生徒からどのようなところに体験に行きたいか希望を聞き、受け入れてくれる企業が決まったところで生徒を割り振っていく。しかし必ず生徒の希望通りに行くわけではない。希望通りにいかない場合は、生徒と先生の間で話し合い、どこに行くかを決めていく。