第4章 「ヤングジョブとやま」のエスノグラフィー
第1節 「ニートから脱出するための支援セミナー」
当節では、ヤングジョブとやまが提供する若者支援策の実態をみていくにあたって、その導入部分として、平成19年10月20日に富山市のサンフォルテ研修室303で開催された、第4回「ニートから脱出するための支援セミナー」の模様を紹介する。
このセミナーの趣旨は、ニート・ひきこもりの現状を捉え、親としてどう関わればよいかを一緒に考えるというもので、就職について悩みを持つ若者およびその保護者や、ニート・フリーター問題に関心のある方を聴衆の対象にしている。
このセミナーの目玉は、ニート・ひきこもりから脱出しようと思って行動している5人の若者たちに直接インタビューし、本音を聞かせてもらうというものである。この節では、パネラーとして話をした若者たちが抱える事情や心情に注目した。
また、セミナーが終わった後には、キャリアカウンセラーによる個別相談会が行われた。
主催は富山市商工労働部商業労政課で、ヤングジョブとやまのスタッフが運営、進行を担当した。
このセミナーには、私を含めて23名(うち若者と見られる人は3名)の聴衆が参加した。
セミナーのパネラーとして聴衆の前で話をした5人の若者は、全てひきこもり経験者で、そこから脱出する過程で、第4章第2節で詳しく紹介する「勤トレ」を経験し、現在は就職活動をしている。彼らはこのセミナーに出てほしいというヤングジョブからの要望に対し、快く引き受けたというわけではないが、自分の体験や気持ちを伝えたいという思いから、聴衆の前に出ることを決めた。
このコーナーは、進行を務める、県若者サポートステーションでインストラクターとカウンセラーを勤めているVさんがパネラーに質問し、その回答を踏まえた上で質問ごとにVさんが総括するという流れだった。Vさんからの質問が一通り終わると、セミナーの聴衆による質問の時間となった。
パネラーは、第4章第3節で詳しく紹介する「親・ぼく・会」と同じように、外国人風の仮名を名乗った。当節と第3節ではそれに倣い、実際に使われたものと同じ仮名を用いる。5人のプロフィールは次の通り。
ポール(30歳、男) ひきこもり歴10年、現在はヤングジョブで相談を重ねながら就職活動中。話に順序を立てているので、知性が感じられる。
ケビン(23歳、男) ひきこもり歴5年、現在は職業専門所に通っている。
サマンサ(25歳、女) ひきこもり歴4年弱、茶髪で眼鏡をかけている、声が小さい。
ウィリアム(28歳、男) ひきこもり歴4年、現在は職業体験をしながら就職活動中。よく喋る。
チャーリー(33歳、男) ひきこもり歴10年、現在は職業訓練をしながらハローワークに通う。声が小さく、あまり多くを語らない。太り気味。
まず、Vさんが5人に対して5点の質問をし、パネラーから回答を聞き出した。
Q1 ひきこもっていた当時、自分自身、その状況をどういうふうに考えていたか
チャーリー「ひきこもりをやめようとは思わなかった」
ウィリアム「状況を考える余裕がないというか、状況が理解できなかった。ひきこもりが2年ほど続いてから、何かを変えなくてはと思った」
サマンサ「焦りはあったが、働きたくはないと思っていた」
ケビン「自分が働いていないということで、ちゃんと働いている周りの人たちに対して劣等感があった」
ポール「自分がひきこもっているという感覚はなかった。働こうと思えば働けたと思っていたし、テレビの中で紹介されているようなひきこもりとは違うと思っていた。自分が今、働くことができないという状況がわかったことで、ひきこもりであることを自覚した。ひきこもり始めて以来、今に至るまで、親に対して申し訳ないと思っている」
Vさんの総括「ひきこもり始めて1、2年くらいは考える余裕がなくて、自分がひきこもりであることを気付けない。テレビなどを見て初めてひきこもっていることを自覚する」
Q2 ひきこもっている当時、親や家族に対して、何か要望はなかったか
ポール「家族に対しては特に要望はなかった。それよりも、自分自身、働こうとは思っていたが、対人恐怖症のため特に職場というところが怖く、会社がいい環境であれば……という要望があった」
ケビン「親は働けとは言わなかった。ただ申し訳ないと思っていた」
サマンサ「よく話し相手になってくれたが、仕事をすることについては何も言わないでほしかった」
ウィリアム「親がいろいろなことを考えてくれていることが少しずつわかってきたが、仕事に関することは何も言わないでほしかった。自分が働けないということをわかってほしかった」
チャーリー「特になかった」
Vさんの総括「家族との関係が良くない人は要望が多いものだから、この5人は家族関係が良かった方だと思う。こうしてほしいと言うよりも、あのときにこうしてほしくなかったという意見の方が多いと思う」
Q3 ひきこもりを脱出した理由やきっかけは
チャーリー「これから先のことを考えたから」
ウィリアム「自分の好きなことをするために外に出るようになった。その過程でヤングジョブにも行って人と話ができるようになって、プラス志向になれた」
サマンサ「ひきこもっていると、自分の体型や服装が気になってきて、引きこもっている理由がなくなってきた」
ケビン「勤トレの存在を親に教えられ、最初は嫌だったが親に連れ出されてやってみた。その勤トレで自分と同じような状況の人と出会ったのが大きかった」
ポール「ひきこもり始めた10年前も、どこかに就職しようという思いはあり、ハローワークに通っていたが、対人恐怖症のために、自分ひとりの力では就職できなかった。その克服のために何をすればいいのか相談できる人が周りにいなくて、時間だけがどんどん過ぎていった。何かヒントになることはないかと思い、NHK教育テレビや新聞、本をつぶさに読みあさっていたら、新聞で社会不安障害という病気の存在を知った。病院で診察を受けるとその病気にかかっていることがわかり、何か自分にとってプラスになる施設に行けと言われ、たどり着いたところがヤングジョブの勤トレだった」
Vさんの総括「女の子の場合は、ひきこもり中に服の流行がわからなくなって、流行遅れの服装で外に出られなくなることを気にすることがある。サマンサの場合は逆に、流行を知りたくなったことが外に出るきっかけになった」
Q4 この5人は、就職活動に踏み出しているかどうかはやや微妙なところがあるが、なぜそこに踏み出せないのか
ポール「人や社会や職場が怖いという症状は今も残っており、病院でもらった薬などを飲んで治している。なので、まだ職場には出られる状態ではなく、ヤングジョブなどで支援を受けながら助走をつけている段階」
ケビン「今は職業専門所に通っているので、それが終わったら就職活動をしようと思っている。ただ、自己アピールが苦手なので、面接が嫌という気持ちがある。そのために就職活動に踏み切れないかもしれない」
ウィリアム「以前にも何社か面接を受けたが、ひきこもりをしていた理由を質問されて、それに答えられなかった。そのことが引っかかっているので、今は就職活動をやめている。これではだめだとわかっているが、踏み出せないのが現状」
Vさんの総括「世間ではよく誤解されるが、ニートとひきこもりは同種ではない。みんな話すことが苦手なため、面接が怖いと感じている。今この場では上手に応答しているが、突っ込んだ質問、特にひきこもっていたことについて聞かれると、ひきこもりを始めた最初の頃は自分の状況がわからなかったから、答えられない」
Q5 3年前の自分は、家族に対してどんなことを思っていたか
ウィリアム「自分にできないことをやれと言われてもできないのだから、自分にできることをやりたいと思っていた」
ケビン「申し訳ない、の一言だった」
ポール「親が自分に対して設定したハードルと、自分で立てたハードルは同じだった。それは、働いてお金を稼ぐという目標だったが、自分にとってそのハードルは越えるのが難しいものだという感覚をわかってほしかった。親はいつも『将来どうするんだ』と心配するが、自分がそんな親の気持ちを理解しているということをわかってほしかった。親にわかってもらえることで、気分的に楽になりたかった」
Vさんの総括「子どもは『親の気持ちはわかっているが、こっちの気持ちもわかってほしい』と思っている。親には申し訳ない気持ちでいるが、自分でもどうしていいかわからないという状況を知ってほしいと考えている」
ここから先は、聴衆が手を挙げてパネラーに質問するという形式になった。()内は質問した人の年齢層、性別を表している。
Q6 今までどんなときに挫折を感じたか(老年男性)
ポール「私は昔から人が怖いので、物事にチャレンジしていくことができなかった。中学の頃は部活動が怖くて、何をやっても1〜3ヶ月で部活をやめていた。そのことで先生に情けない、根性がないと言われていた。自分自身、人が怖いという感覚は社会に出るようになってからよくわかるようになった。会社という場所が無理で、社会で生きていけないな、と感じたのが挫折だった」
ケビン「物事にがんばって取り組んだことがないので、挫折をしたことがない。挫折する前にやめていた」
サマンサ「周りに自分と合わない人がいるとイライラして、それで居心地が悪くなっていたが、あるとき、合わない人に思い切って『お前が嫌いだ』と言ったら、それ以来誰とでも話ができるようになった。今ではそれがいいきっかけになったと思う」
ウィリアム「嫌なことがあっても、それをぶつけられる人や物事がなくて、親に暴力まがいのことをしたこともあった。自分の感情をコントロールするためには、不満が残る結果になっても、安全な手段を選ぶしかなかった。今では反省している」
チャーリー「今のこういう状況自体が挫折だと思う」
Q7 どういう経緯で勤トレを始めることになったのか、家の中でどんなやりとりがあったのか(老年男性)
チャーリー「就職活動をしていたが、うまくいかず、ちゃんと働けるようになりたくて始めた。親にもやってみれば、と言われた」
ウィリアム「母親にむりやりヤングジョブに連れて行かれたが、初めはそこに入るのが怖かった。カウンセリングを続けても限界を感じていたところ、ある日突然思い立って、勤トレをやってみようと思った。その背景にあったのが、定年退職した父親が日中、家に居るようになって、自分が家に居づらくなったから」
サマンサ「本当は就職が決まるまで親には就職活動の状況については黙っておいて、決まったら報告したいと思っていたが、うまくいかなかった。そんな中、ヤングジョブで『親に相談してみたら』と言われて実際に相談したら、親に勤トレを勧められた」
ケビン「勤トレをやる以前にもハローワークには通っていたが、母親に連れて行かれて勤トレに行った」
ポール「何年か前に父親がヤングジョブについて書かれた新聞記事の切抜きを見せてくれてヤングジョブの存在を知ったが、初めはヤングジョブの勝手がわからなかった。そこで自分の相談を受け入れてくれるのだろうか、何か言ったら笑われてしまうのではないかと心配になって、ヤングジョブの入り口前まで来ては引き返したり、受付で少し話したけど逃げるように帰ったりを繰り返していた。だが、29歳になって、年齢的に追い込まれたときに、『エイヤッ』と思い切って相談しに行った」
Q8 引きこもりに対するアドバイスはあるか(Q6と同じ老年男性)
ポール「私は昔から母親に、弱音を吐かないのが日本男児のあるべき姿というようなことを教え込まれていて、自分の本音をずっと隠していた。だが、カウンセリングを受けていくうちに、ここでは自分の本音をさらけ出すことが許されることを知った。周りの人は、自分の弱点や引きこもりになった理由を本音で引き出せるような状況をつくってあげてほしい」
ケビン「自分が引きこもりになった理由を相談し、本音で話し合える人を見つけてほしい。僕にとってはヤングジョブがそれにあたった」
サマンサ「まず、勤トレは楽しいよ、ということを言いたい。参加者は人それぞれ事情が違うが、境遇の似た人と一緒になることで、一緒にがんばれるし、自信もつく」
ウィリアム「ひきこもりが長くなるほど一人で悩みを抱え込んでしまうので、話ができる人をみつけてほしい。自分と同じ悩みを持つ人と出会うことで励まされるし、苦しんでいるのは自分だけじゃないと思えば前向きになれる」
チャーリー「勤トレに行けば自分と同じような人に出会える」
Vさんの総括「勤トレには、仲間がいるという安心感や、お互いに何とかしようというエネルギーがある。勤トレが終わってからも、そこで一緒になった仲間同士で遊びに行ったりしている」
Q9 チャーリーはひきこもりから脱出した後に一時期、就職活動をしていたが、そのときの状況はどうだったのか(ヤングジョブでキャリアコンサルタントを務めるCMさんからの質問)
チャーリー「面接をする前に、職場側が自分を理解していてくれればやりやすかった。例えば、ハローワーク側が元ひきこもりであるという自分のプロフィールをあらかじめ紹介しておいてくれれば、こちらとしても面接に入り込みやすいと思う」
Q10 働こうという意欲を持つためのアドバイスはあるか(中年女性)
チャーリー「無理ではない程度に、自分自身に目標を立てる」
ウィリアム「親にいきなり『働きに出ろ』などという無理な目標を立てられたら辛いので、目標はちょっとずつ上げていくのがよいと思う。少しずつやれることを増やしていけば、自信がつく」
サマンサ「人と話ができるようになることが大事。私は人と関わりたくないとは言っていたものの、本心では話し相手がほしかった」
ケビン「例えば『なぜ働けないのか』と聞かれて、こっちが『面接が怖いから』と答えると、『甘えるな』と言われるが、そう厳しいことを言わずに、自分たちのことを理解してほしい」
ポール「親が仕事に関する話を持ち出したら、私はそれだけで身構えてしまう。私の場合は親に働けという話をされると、9割方けんかになった。『このままでお前どうするんだ』などと、不安をあおるようなことを言われるが、こっちとしてもそんなことはわかっていて、年金のことなどを心配しているので、つい感情を露にしてしまう。私は一度、父親に『じゃあ死ねばいいのか。こんな弱い人間にしやがって。生まれてこなきゃよかったのに』と暴言を吐くと、父親は悲しそうな口調で『お前の口からそんなことを聞きたくはなかった、このことは一生忘れないぞ』と言った。そのときのことは今も後悔している。親には、自分たちの不安をあおらないようにしてほしい」
Q11 最初のうちは、ヤングジョブに入りづらかったという声が上がったが、その理由は(Vさん)
ポール「中でどんなことが起こるのか、得体が知れなかった。ホームページなどで、右にはこんなものが、左にはこんなものがありますよと紹介する動画などが紹介されていれば、先に起こりうる事象を予測できて、不安を解消できた」
ケビン「僕の場合は入りづらいとは思わなかった」
サマンサ「転職を考えていた友人とヤングジョブについて話しているうちに、入りづらいというような不安はなくなっていた」
ウィリアム「入る直前に見えない壁がある感じがする。入ったら、声を掛けられるのが怖い。どう反応していいのかわからなくなるから」
チャーリー「ここで何をしていいのか、何を質問していいのかがわからなかった」
以上で、パネラーたちが語る時間が終わった。
その後、親に対するメッセージの意味も込めて、ニート・ひきこもりの現状についてセミナー全体の司会・進行を務める、キャリアコンサルタントのCMさんが話をした。その内容を、以下に述べる。
「引きこもりになると、あまり会話をしなくなる。その状態が続くと、声が小さくなる。小さい声には、自信のなさが表れている」
「本人が『この状況をなんとかしなくてはならない』と思っているとき、行動を起こす気になれるような支援が必要。その気持ちは自然とわいてくるのが理想的だが、家族が支援することも大切。本人をサポートしてあげられる力は、家族がいちばん持っている。ヤングジョブには、仕事に就く前段階のメンタル面の回復を果たすきっかけを与える役割がある」
「かつて、ヤングジョブに『仕事を辞めたいと』いう相談をしに来た人がいた。親と話をするように言うと、その3日後に仕事を続ける決意をしたと言いに来た。そう決意させたのは、母親の『あなたにはこの仕事しかないんだよ』という一言だった。その人にとっては、温かく見守る家族の存在が、仕事を続ける力になった」
「カウンセリングのときに、まっすぐ相手の目を見るのは、威圧しているのではなく、温かい目で見ているということを知ってほしい」
「親にとっては、うちの子どもはこういうふうに育てたという自負があるだろうが、視点を子どもに合わせることや、子どもの特徴を理解することが必要。コミュニケーションを図る際は、『これでいい?』という言葉でお互いに意思を確認し合うのがよい。相手の表情を見て話せば、ただ言葉を発する以上の思いが伝わる。恥ずかしいかもしれないが、表情という言語を感じてほしい」
続いてVさんが、パネラーの若者たちの話を踏まえて、自分が考えていることを聴衆に話した。その内容を以下に述べる。
「親は子どもと話し合いをすると、ハッパをかけたくなるが、子どもは自分がしなければいけないことはわかっている。一方で、子どもを甘やかしすぎることは良くない。厳しさと優しさのバランスをとらなければならない」
「親は子どもに本音を話すが、子どもは本音を言わない、というよりも言えない。その結果、親の思い込みが深まる危険性がある」
「親子で相談をしに来ることがあるが、ときどき、親に気になる行動が見られる。それは、私が子どもに対して質問しているのに、親がその質問に答えてしまうケースである。それが繰り返されると、私は親を引き離して子どもと1対1で面談をする。1対1なら、子どもが話をしてくれるようになる」
「質問に対して、子どもがなかなか返事をしてくれないことが多いが、じっと待つようにしている。待つということは大変なことで、沈黙に耐え切れずについ口を挟みたくなるが、本人の口から言葉を引き出し、それを聞くことが大事。子どもは私に問いかけられると、何も言わずに私の顔をちらちらっと見ながら、時間が経過していく。しかし、子どもからの返事は、7分間待てば、だいたい聞けることが多い。私は、子どもが人から自分の顔をまっすぐ見つめられて耐えられる限界が7分間と考えている」
「カウンセリングでは、本人が言葉を発しやすい環境を作ることが重要。例えば、回答に選択肢を与えて答えやすい状況にすれば、そこから話を発展させることができる。子どもが少しでも話せれば、次につながっていく」
CMさんとVさんの話が終わると、「富山市の若年者自立支援プログラム補助金について」という表題で、富山市に所在するNPO法人若者自立塾「ピースフルハウス はぐれ雲」が10日間の体験入寮を募集しており、条件つきで市から助成金が出るという説明があった。
最後にアンケートを記入して、セミナーは解散となった。
後日、Vさんにこのアンケートの結果の概要について話を伺った。
アンケートの回答結果は富山商工会議所が持っているので、ヤングジョブではおおまかなことしか把握していないが、参加者の多くはニートやひきこもりの子どもを持つ人であると予測される。子どもの立場の人の回答は、「いやいや来たけど、来てよかった」というものがあった。
このセミナーに関して、私は次のような感想を抱いた。
パネラーの人たちは4〜10年もの間、ひきこもり続けていたということが信じられないくらい、当たり前のように多くの人の前で話をしていたことがもっとも印象的だった。
この5人に共通していたことは、ひきこもりから脱却して、就職へと向かうプロセスの中で、状況が好転するのには時間がかかるということだった。5人はいずれも勤トレを経た今でも定職に就いておらず、その理由に「面接が怖いから」という声があったのは、まだ引きこもっていた頃の自分を払拭しきれないことを想像させた。自分自身の問題は、できることからゆっくりと解決していきたいという意見も共通していた。
印象に残ったことは、ウィリアムの、「引きこもり始めた当初は自分の状況が理解できず、そのときのことは今でもわからない」という語りだった。ポールも「働こうと思えば働けたし、自分は一般に言われるような引きこもりとは違う」という話をしていたが、これらの語りからは、当時の彼らが自分自身の現状が把握することは困難だったいうことに気づかされた。
また、同じくポールやウィリアムが、何度もヤングジョブの目の前まで来たものの、入りづらくて引き返したと言っていたが、この体験は、長い期間ひきこもっていたことが、いかに人と接するということへの意識や自信の衰えを引き起こすか、ということを想像させた。
そして、彼ら自身にとっては、自分がかつて考えていたことや、今の自分や仲間の立場を再確認することによって、次のステップに進む活力になったのではないだろうか。