第5章第2節 郵便局に求められる福祉的役割
少子高齢化や核家族化が進み高齢者のみの世帯が多い今の日本社会では、都市・地方に関わらず高齢者の孤独死が珍しくない。地域を統べる自治体にとっても高齢者の安否、生活・健康状況の把握は、高齢化率が高い山間地域ほど重要な課題であろう。
その中でほぼ毎日のように地域をくまなく回る郵便局の、特に山間部等の過疎地域での重要性は高い。ほとんど来客者などいないであろう高齢者にとって、週に幾日か、長くてもたった数分とはいえ人と触れ合える時間は貴重なものである。孤独で変化の少ないであろう日々の生活の中で、「人」と接することができるわずかな時間、その中で高齢者は「生」を改めて認識することもできるのではないか。
これはもともとひまわりサービスによって生み出されたものでは無い。山間・農村地域の郵便職員の多くはその地域に住む者で構成されているため、外務職員と地域住民との間に交流が生まれるのは必然であったのかもしれない。これは流動的な都市社会では成立し難い。郵便局が持つ全国的なネットワークではなく、一つの「個」としての郵便局がその地域に持つ、明治以来培った地域に根差す密着型のネットワークが生み出したものなのである。
ひまわりサービスの評価すべき点は、「個」の郵便ネットワークが生み出したメリットを全国津々浦々にネットワークを持つ郵便局が全国の過疎地域にある郵便局に広めたことである。制度化して全国約24,600局のネットワークで高齢者世帯の生活を見守ろうとしたことである。
この評価すべき部分をどうやって今後も残していかなければならないのか。
郵政民営化による環境の変化は決して小さいものではない。今までは公務員として利益抜きで考えていた施策は、平・生坂両郵便局に限らず全ての郵便局において多くあった。しかし民営化によって収益・損益を否が応でも考慮せざるを得ず、そうすると今までの考え・施策を必然的に見直さなければならなくなる。福祉サービスにおいては、無料のまま続けるのか、有料化するのか、自治体単位ではなく個人との個別契約とするのか等、見直さなければならない点がいつか出てくる。郵政公社本社は現行のひまわりサービス続行を打ち出してはいるものの、検討の必要があることは間違いない。
では何をどのように検討しなければならないのか。
介護が有料サービスとして定着し、介護サービスで生計を立てる人もいる中、元公的機関で巨大な民間企業となる郵便局の福祉事業への介入には否定的な意見もあるが、郵便局の持つネットワークは他の組織にはなかなか作り出せるものではない。インターネットが普及した現代、分社・民営化以降に郵便事業だけで生き残れるのか不安視されている。ネットワークを活かした福祉事業への本格参入は有り得ないことではない。
また前節でも軽く触れたが、ひまわりサービスによって業績が伸びる可能性もある。採算度外視としてひまわりサービスを縮小するのではなく、ひまわりサービスをきっかけとした、二次的な収益にも目を向けてはどうであろうか。
繰り返しになるが、郵便局の一番の魅力はネットワークである。このネットワークを残したまま福祉サービスとして活用することが、過疎地域にとって一番有効的な福祉サービスになるはずである。