第4章第2節第2項 長野県東筑摩郡生坂村 生坂郵便局
ひまわりサービスが制度化されたのは1997年8月だが、生坂郵便局及び近隣の集配郵便局では福祉的活動の一環として「はてな運動」という独自のサービスを1992年頃から展開しており、ひまわりサービスが実施されてからも「はてな運動」は現在も絶えることなく続いている。
「はてな運動」には具体的な内容や活動基準、明確な対象者基準等は無く、あるとすれば窓口に来局した利用者や集配先で聞いた利用者の声、職員が集配の際に気付いたことなどを基に、業務に支障が無く利用者の利便性の向上が望めることはやってみようというものである。地域住民への声掛けはもちろんだが、村の「御用聞き」「なんでも屋」としての色合いも強く、実際、集配中に落し物や迷い犬、更には徘徊老人の捜索を依頼された実例がある。
しかしすべて何でも引き受けていたわけではなく、前述の事例のような集配のついでにはできないようなことや緊急ではない場合、公務員が行っても問題の無い事案かどうか判断が難しい場合などには一職員や局長の判断ではなく、信越郵政局や郵政省など当時の上層機関に確認を取ってから実施していた。郵政干渉法の中の郵便局窓口での公営バスの回数券販売は、生坂郵便局に訪れた高齢者からの提案を制度として取り入れたものである。
このような土壌がすでにあった生坂郵便局で、ひまわりサービスが導入されるのに時間はかからなかった。通常業務の都合もあるため、郵便局は生坂村社会福祉協議会に20世帯に限定して対象世帯をピックアップし、選出された対象者候補には生坂郵便局の職員が直に訪問して、制度やサービスの説明をし、承諾を得た世帯をひまわりサービス実施対象世帯とした。郵便局員が説明に行ったところ「まだまだ元気だからそんなサービスはいらない」と断られることは多々あったが、「はてな運動」がより形式的な「ひまわりサービス」となったから、という理由で断られた例は無かった。
その後も二年置きに社会福祉協議会が候補者を選出し、対象者の追加・更新等を行っている。特に具体的な選定基準を設けてはいないが、基本的に遠方に一人で住んでいる65歳以上の高齢者が対象者となった。ひまわりサービス開始当初の対象者は16人、その後人数は上下し、最近までは9人いたが、そのうち8人は1999年にできた生坂村在宅介護支援センターに移り住み、残りの1人は生坂郵便局管内から引っ越したので、現在ひまわりサービス対象者はいない。
1、励ましの声かけ(安否の確認)
生坂村には簡易郵便局を含め4局あり、うち2局が集配業務を行っていたが、民営化による再編で2006年10月16日から広津郵便局が無集配局となった。このため広津郵便局管内の集配業務を生坂郵便局が行うこととなり、広津郵便局の外務職員が生坂郵便局に配属された。集配業務は元々生坂郵便局にいた3人、広津局から配属された3人、その他非常勤職員10人の計16人で行っている。
生坂郵便局のような山間の過疎地域にある郵便局は、仕事の忙しさが通数ではなく一本の配達ルートに集配物が有るか無いかに関わってくる。そのため集配物があれば例え一通でも配達に行き安否確認を行うが、一通もなければ配達に行かないので安否確認も行わない。
対象者は意思表示器具の掲示を気軽に行っていて、話し相手としてはもちろん、届いたはがき(税務関係)の内容が分からない時やテレビの映りが悪い時、切れた蛍光灯を交換して欲しい時などにも表示板を掲示するケースがある。
このため特に対象者やその家族の郵便局に対する評判は良く、中には生坂郵便局管外に引っ越した後も保険や貯金業務を生坂郵便局で行ったり、引っ越す際に家族が挨拶に来たりすることもあった。
2、郵便物の集荷サービス
基本的には意思表示器具が掲示されている対象世帯は必ず訪問するのだが、広津管内では5日以上意思表示器具が掲示されていなかったら、集配物の有無に関わらずその世帯を訪問するように改善した。しかし特に需要があるわけではない。
ひまわりサービスのサービス内容と直接は関係無いが、各家の郵便ポストに配達物を置いておけば外務職員が持って行ってくれる習慣がある。
3、生活用品等の受注・配達
ひまわりサービス開始当初は数件の利用があったが、注文品より郵送料の方が高かったり、生鮮品を取り扱う店が村内に一店しかなく受注当日の配達が困難であったりするなどの理由で衰退していった。
平地区同様、生坂村内にも個人経営の商店が数軒あり、また村の中心を走る国道(一部県道)に沿って隣町のショッピングセンターまで運行されている村営バス(日祝全面運休)が朝6:00頃から夜20:00頃の間に13本あり、村の中心部を発着地として村内を循環するコミュニティバスもある。更に隣接する市町村の公営バスが生坂村村内までつながっていることもあるため、交通の便は決して悪くは無く、多くの住民は自家用車が無くても村外のショッピングセンターに行き買い物をすることが可能である。
4、小学生等からの定期的な励ましメッセージのお届け
生坂小学校では毎年敬老の日に合わせて児童が近所や知り合いの老人宛に手紙を書く習慣が、ひまわりサービスが始まる以前の15年前には既に存在しており、現在も続いている。郵便局がひまわりサービスの一環として始めたものではないので、金銭的負担や必要な物の用意は教育委員会が行っており、郵便局は実質的には配達するだけであまり深く関与しているものではない。
5、ひまわりサービスのコスト
ひまわりサービスは業務に付したサービスなので特に外務職員への時間的負担は無いが、前述の通り2006年10月16日に広津郵便局の集配業務が生坂郵便局に統合されたことで集配距離が長くなり、新しい集配ルートを模索している段階なので現在自由に時間を割くことは難しい。
6、市町村合併による変化
郵便局は集配区域を市町村で区分けするわけではない。事実、広津郵便局は隣接する旧八坂村(現大町市)の集配業務も行っていた。しかしひまわりサービスは郵便局の他に自治体や社会福祉協議会等などの市町村単位の組織と連携するサービスである。今までひまわりサービスを行っていた旧八坂村がひまわりサービスを行っていなかった大町市に組み込まれたことで、旧八坂村のひまわりサービスを廃止するのか大町市と新たにひまわりサービスの導入を検討するのか等の課題も出てくる。