第4章第2節第1項 富山県南砺市平地区平郵便局

 

平郵便局がひまわりサービスを始めたのは1997年8月、北陸郵政局郵務部地域振興企画課(当時)からひまわりサービス導入に関する通達が届いた。平村(当時)との協議の結果、特に問題もなく実施に至った。対象者は、平社会福祉協議会が70歳以上の独居老人及び双方が70歳以上の高齢者夫婦世帯を対象に希望調査を行い選定された51世帯。ただし希望調査が行われたのはこの1997年のみで、その後はひまわりサービスの広報活動等も特にしておらず、平社会福祉協議会も希望調査も行っていないので新規に選定される対象者はいない。更に市町村合併により生活サポート協議会自体が開催・運営されていない状況で、死亡等で対象世帯数は減少しているため平郵便局では現在の詳しい対象者数は把握しておらず、概数で約35世帯だという。

 

1、励ましの声掛け(安否確認)

南砺市平地区には簡易郵便局を含めて郵便局は3局あるが、配達業務を行っているのは平郵便局だけであるため「励ましの声かけ(安否の確認)」は平郵便局の外務職員が行っている。平地区全域がひまわりサービス対象地域であるため、外務職員の4人全員が「励ましの声かけ(安否の確認)」を行っている。

郵便物を対象世帯に届ける際はもちろんだが、配達途中に高齢者と道端で出会った時や畑に出て作業をしている時などにも声をかけている。ただし本業に支障が出ない範囲でのサービス活動であるため、安否確認のためだけに対象世帯を訪れることは無く居座って話をすることもない。安否確認が前提なので配達のついでに声をかける程度であり、高齢者とゆっくり話をして励ますようなものではない。配達途中に高齢者の家を一軒一軒まわるだけの時間的余裕が無いため、配達物がない時は家を訪れることができない。そのためある世帯を訪れることが出来る頻度は3〜4日に一度程度だという。

家を訪れ対象者が見当たらない場合、その場で探し出したりすることはない。郵便物が溜まったままになっているなど職員が不審に思った場合には、平村役場(現平行政センター)に連絡を入れ、引き続き集配業務を行う。

もちろん対象者の生死に直結するような緊急事態であれば救急車を呼ぶなどの然るべき処置を施すが、平地区ではそのようなことが起きたことはまだ無い。

しかしながら、過疎地域のような山村の農村には独特の文化ともいうべき地域交流が存在する。平地区も例外ではなく、ひまわりサービス実施以前から外務職員は集配の際に村の人たちに声をかけるのは当然の行為であった。職員のほとんどが平地区の住民であるので、同じ地域に住んでいる知人に出会えば声をかけることは必然であった。励ましの声掛けは、もともと平地区にあった外務職員と地域住民の関わりが成文化され形になったものである、と平郵便局長は話していた。

 

2、郵便物の集荷サービス

集荷してほしい郵便物がある場合、制度上では電話で直に郵便局に連絡したり、意思表示器具を掲示したりすることによって外務職員に伝えるが、世間で「オレオレ詐欺」と称される高齢者を狙った詐欺が横行するようになり、意思表示器具が振り込め詐欺等の犯罪に悪用される恐れが大きくなったため意思表示器具は撤去されており、対象者が集荷物の有無を表示することが困難となっており、ほとんど機能していない。

 

3、生活用品等の受注・配達

ひまわりサービス開始当初は平地区内に3軒の協力店があった。しかし開始当初に数件の依頼があっただけで以後は需要が無く、現在ではほぼ自然消滅してしまっている。

平地区には個人経営の商店が数軒あり、更にJAが電話受注・無料配達を「顔パス」で行っているため、わざわざ専用葉書に記入して社会福祉協議会を経由するというシステムが受け入れられなかったのだろう。また村内には村営バスが通っており、また2006年9月からは市営のコミュニティバスが運行されている。郵便局による受注・配達が無ければ生活できないというほど交通の便は悪くない。

社会福祉協議会はこのサービス以外には実質的に関わっていないため、現在はひまわりサービスに関与していない。

 

4、小学生等からの定期的な励ましメッセージのお届け

平郵便局は年3回、春休み・夏休み・冬休みに実施している。ひまわりサービス対象者名簿とグリーディングカードを各長期休業前に平小学校へ届け依頼している。が、郵便局はあくまで小学校側への依頼までしか関与できない。

学校側が実施するかしないか、実施した場合、児童がメッセージをちゃんと出すか出さないか等は、ボランティアとして無償で行っているサービスだけに強制することはできない。そのため一回につき35通前後を小学校に届けるが、仮に学校側が実施したとしても、全てのグリーディングカードがポストに投函されるとは限らない。児童は自分が選んだ対象者に手紙を出すため、何通もグリーディングカードが届く対象者もいればまったく届かない対象者もいる。それでも対象者にとっては孫同然の子供たちからのメッセージであり、届いた対象者からは喜びの声が聞かれた。

しかし平小学校に確認したところ、2004年に5・6年生がグリーディングカードを出したのが最後で、今後行うかどうか2006年9月の時点では未定である。

 

5、ひまわりサービスのコスト

ひまわりサービスは本業に支障をきたさない範囲内で行っているため、配達にかかる時間や外務職員の労働時間に特別な変化はない。しかしひまわりサービスは営利目的で行われているのではなく、あくまで地域の高齢者のために無償で行われているボランティアなので、グリーティングカードや切手の購入など金銭面での出費が多少ある。

 

6、市町村合併・郵政民営化による環境の変化

サポート協議会が実質的に分解してしまった一因は市町村合併にあると考えてよい。

しかしながら市町村合併によって郵便局が果たす役割が大きくなる見込みはある。合併に伴って自治体自体の人員が削減され、それまでの行政サービスが維持できなくなって地域の要望に対応できなくなった場合、まずは郵便局が無償で行っているひまわりサービスに対する要望が増し、更に手が回らなければ郵政干渉法に基づく有料契約が結ばれる可能性もゼロではない。
 しかし世間の郵政民営化反対論者が危惧していたように、生田総裁を筆頭とする日本郵政公社は今後もひまわりサービスを変わらず続けていくとしてはいるが、実際に現場で働く郵便職員は採算が合わないという理由による郵便局の撤退やサービスの廃止という可能性を、自身の感想としてだけではなく、利用者の反応としても危惧していた。