第2章第1節 郵政民営化

 

郵政民営化の主たる目的は財政投融資の廃止を断行すること、つまり現在おもに公共事業に融資されている郵貯資金を民間企業に融資できるようにするため、また民営化を行うことで経営の効率化・合理化を目指すためである。国家公務員が行っている郵便局の仕事を民間の仕事に替え、国が郵便貯金・簡易保険で集めた、日本の大手4銀行と4大生命保険会社を合わせたものと同レベルの規模で、日本の個人金融資産の4分の1にもなる巨額の資金を縮小し、資金の流れを官業部門から民間に移すことを目的としたもので、第878889代内閣総理大臣小泉純一郎により推進された。

郵便、郵便貯金、簡易保険の郵政三事業を民営化することで、以下が利点として期待されている(以下、自由民主党・自民党政務調査会・公明党・民主党・首相官邸・ウィキペディア「郵政民営化」・橋本裕「文学人生world」・「政治経済の庵」各HPより参照)。

 

1、民間にできることは民間に委ね「小さくて効率的な政府」を実現することにより、経済の活性化を図る。

 

「大きな政府」は政府がさまざまな形で国民生活の面倒をみるため国民にとっては心地良いかもしれないが、「官」の関与が多ければ多いほど国家の運営はコスト高になり国民の税負担も多くなる。団塊世代の引退に伴い日本は本格的に少子高齢化社会を迎え、少ない働き手が多くの高齢者を支える構図となる。現在税収約40兆円に対し、国債発行などで約80兆円の国家予算を組んでいる。これまでの債務に加え、運営コストのかかる大きな政府路線を続けていては日本が持ちこたえることができないとされている。

小泉改革が「小さな政府」をめざすのにはこのような背景がある。国民の税金で行われている公的部門をスリム化する「小さな政府」論は単なる支出削減の効果だけではなく、官の関与をできるだけ少なくして民間の創意工夫を引き出し、それによる税収増も財政再建に大きく寄与する。

「小さな政府」は巨額の財政赤字を抱える財政を再建する道として期待できる。

 2、国の郵政事業への関与をできるだけ控え、民間企業と同一の条件で自由な経営を可能とすることにより、質の高い多様なサービスを国民に提供できるようになる。

 

郵政公社の4機能(窓口サービス・郵便・郵便貯金・簡易保険)が有する潜在力が十分に発揮され、同業民間企業とのサービス・価格競争などが期待でき、市場における経営の自由度の拡大を通じて良質で多様なサービスが安い料金で提供が可能になり、国民の利便性を向上させる。

 

3、約350兆円の郵便貯金と簡易保険の資金が民間向け資金として有効活用され、経済の活性化につながる。

 

郵便貯金や簡易保険の資金は、国の財政投融資制度を通じて特殊法人の事業資金として活用されてきた。しかし、かつては重要な役割を果たしていた事業であっても次第に使われ方が硬直化し、国鉄や道路公団などに見られたように大きな無駄を生じさせ、結局国民の税金で補填しなければならない例もある。郵政民営化が実現すれば、350兆円もの膨大な資金が官でなく民間に流れ、有効に活用されるようになる。

 

4、約26万人の郵政公社の常勤職員が民間人になるとともに、これまでは免除されていた法人税・法人事業税・固定資産税等の税金を支払うことになり、財政再建にも貢献する。

 

郵便貯金は銀行が、簡易保険は保険会社が同じようなサービスを提供している。また宅配便や信書便ができ、郵便同様もしくは郵便にないサービスも既に民間企業が提供している。このように郵政三事業(郵便貯金、簡易保険、郵便)は公務員でなくても行うことができる事業である。「民間にできることは民間に」任せることで前述の「小さな政府」を目指す。

また警察官約25万人、自衛隊員約24万人、外務省関係職員は世界各国の大使館員も含めて約6千人であるのに対し、郵政公社の常勤職員は約26万人、主婦や学生アルバイトなどの非常勤務者を合わせると、国家公務員法の適用下にある郵政職員は約38万人にものぼる。郵政民営化が実現すれば全国家公務員の約3割が民間人となる。

さらに、郵政公社はこれまで法人税も法人事業税も固定資産税も支払っていないが、民営化され税金を払うようになれば国や地方の財政に貢献するようになる。また政府が保有する株式が売却されれば、これも国庫を潤し財政再建にも貢献する。

 

このように「小さな政府」「民間の活力を生かした経済」を実現する、小泉改革の本丸として郵政民営化は推し進められた。