第5章 今後の展望
―学童保育と「全児童対策事業」の統廃合問題の視点から―
最後に、今後の展望について述べる。
まずは、第2章で触れた、学童保育と「全児童対策事業」との統廃合問題について詳しく説明しよう。川崎市では、学童保育が全廃され、2003年度より「全児童対策事業」である「わくわくプラザ」が開始された。吉田(2003)によれば、「わくわくプラザ」はもともと学童保育とは目的も性格も異なるため、「全校生徒を対象にし、非常勤とアルバイトの指導員数人がローテーションで対応し」、「その日ごとに子どもたちの顔ぶれが変わり、指導員も異なり」、「日によっては百数十人もの子どもたちが一堂に会することもありえ」る(吉田 2003: 24-26)という状況である。そのため、「2003年11月には、児童が二階の窓から転落するという大事故も起きているなど、最低限の安全すら保障されていないという実態も問題となっている」(真田 2004: 151)と、「わくわくプラザ」のそのあり方について危惧する声が挙がっている。
今、川崎市にならって、低予算で放課後児童対策をしようと、全国の自治体で「全児童対策事業」と「学童保育事業」の一元化が計画されている。しかし、日本共産党(2003)は、「目的も性格も異なるこれらの事業の統合はあまりにも弊害が多く、見直しが必要」としており、また、真田(2004)も、2004年度から文部科学省が大型予算を組んで始めた「地域子ども教室推進事業」により、市町村レベルで、この事業が「全児童対策事業に補助金が出る」との理解で、川崎市のように学童保育廃止とセットで実施される危険性を述べており(真田 2004: 151)、それぞれの事業の役割の区別化が必要とされてきている。
これらの事業を富山市のケースにあてはめてみると、放課後児童健全育成事業が「学童保育事業」、地域児童健全育成事業が「全児童対策事業」ということになる。もし仮に、富山市においてこういった統廃合が起こった場合、つまり、放課後児童健全育成事業が廃止されてすべて地域児童健全育成事業に一元化されてしまったら、川崎市同様、多くの弊害が出ることが予想される。今の放課後児童健全育成事業の指導員、定員、閉室時間、保育内容などを地域児童健全育成事業の基準に統一してしまえば、当然学童保育としては役割不十分なものになってしまうだろう。しかしながら、富山市役所こども福祉課によると、富山市では今後も、各事業はそれぞれ個別の役割を担うものという認識のもと、両事業の二本立てで子どもの放課後対策を行っていく体制を変えない予定だそうだ。
第4章で、各事業の子育て支援としての限界を挙げた。放課後児童健全育成事業では「運営形態の地域差」があったが、これについては、近いうちに富山市全体として公営、民営、いずれかの形態に統一されるという。私は、運営形態は公営に統一し、そこに延長保育などの、本論文で挙げられたような民営の良いところも取り入れて、幅広いサービスを無料で受けられるようになってほしいと思う。また、「施設数の少なさと分布の地域差」についても、富山地域における施設数を増やし、富山市全体で「1小学校区に1施設」という理想の状態を目指してほしい。地域児童健全育成事業の「閉室時間の早さ」については、開設時間をせめて18時以降までに延長するなどすれば、働いている親への負担も変わってくるだろう。
本論文では、学童期の子育て支援に注目し、富山市の2つの事業において、子育て支援としてのどのような有効性があるかを考察した。しかし私は、その有効性については、まだ完全に明らかにはできてはいないと考える。今回は、事業を実施する側を対象に調査を行ったため、それを利用する側の意見についてはあまりデータとして取り入れることができなかった。そのため、利用者である親たちは、これらの事業についてどう感じているのか、果たして本当に役に立っているのか、ということが課題として残された。利用者の声を聞くことについては、やはりお迎え時の調査がとても有効であったように思う。Z子供会では、お迎えの時間帯の調査が多かったため、その中でわずかながら、子どもを迎えに来たお母さんにも意見を聞くことができ、それが結果として、事業の有効性を考察する上でとても役立ったからだ。他の調査現場でもこうしたお迎え時の調査を繰り返すことにより、利用者の声を多く取り入れられていれば、各事業の利用者の意見も反映され、より明確な有効性として明らかにできただろう。しかしながら、各事業がそれぞれ性質の異なる有効性を持っており、それぞれが異なった面から親の子育てを支援している、ということを確認できたことは、今回の大きな収穫である。両事業とも、現状での限界点が改善され、今後もそれぞれの特色を活かしながら、子育て支援としてますます発展していってほしいと思う。そして、これらの事業の発展により、親が子育てに対して安心感の持てる社会が築かれていくことを願う。