第2節 富山市における公的支援事業
ここでは、放課後児童対策として富山市が行っている支援事業について紹介する。
富山市では、「地域児童健全育成事業(子ども会)」と「放課後児童健全育成事業(放課後児童クラブ)」という2つの事業が行われている。まずはそれぞれの事業について説明し、最後に今回私が行った調査についての概要を説明する。なお、事業の説明については、各事業の『利用のしおり』(注1)と富山市役所こども福祉課での情報をもとに行う。
(1)事業の目的
まずは、この2つの事業の目的等について紹介する。
『利用のしおり』によれば、「地域児童健全育成事業」、通称「子ども会」は、小学校の余裕教室等を利用して、子ども達の自主的な遊び場を提供するものであり、集団生活(異年齢の子どもや地域の大人との関わり)を通して得られる貴重な生活体験を支援・援助することを目的としている。この事業では、指導員について「地域のお母さんたちが、楽しく安全に遊べるように指導してくれます」とされている。
一方、「放課後児童健全育成事業」、通称「放課後児童クラブ」は、放課後、保護者が仕事などの理由で家庭にいない、いわゆる留守家庭の子ども達のために、保護者が帰宅するまでの間、私立保育所などで家庭に代わる生活の場を提供することを目的としており、「有資格指導者(保育士等)がお子さんを安全にお預かりします」とされている。
すなわち、放課後児童健全育成事業が「学童保育」であり、地域児童健全育成事業は、先ほど説明した「全児童対策事業」に似た性質をもつ事業である(注2)というのが、富山市における両事業の明確な違いである。
(2)事業概要
次に、『利用のしおり』をもとにそれぞれの事業概要を紹介する。まず、「地域児童健全育成事業」についての詳細は以下の通りである。
[対象児童]小学校に就学する全児童 ※利用施設の都合等により、対象を制限しているところもある。 [開設時間]小学校の登校日:放課後からおおむね3時間 土曜日および夏休み期間:1日3時間以上 ※開設時間は、地域によって異なる場合がある。 ※土曜日および夏休み期間は、地域によって開設していない場合がある。 [年間開設日数]200日程度 [利用料]無料(おやつ代などの実費を徴収する場合がある) [利用申込] 子ども会は、市の委託により各小学校区の運営協議会が運営している。子ども会を利用するときは、小学校等を通じて配布される「登録申込書」に必要事項を記入し、各運営協議会へ提出する。 登録できるのは、原則として各子ども会がある小学校区に在住している児童である。(登録は1年間有効) |
続いて、「放課後児童健全育成事業」は以下のようになっている。
[対象児童]保護者が労働等により、昼間家庭にいない小学校1〜3年に就学している児童 ※障害を持つ児童についても応相談。 [開設時間]小学校の登校日:放課後〜19時 土曜日および長期休暇期間:8時〜19時 ※施設によっては、開設時間を拡大して実施している場合もある。 [年間開設日数]291日以上 [利用料]有料(各実施施設により異なる) [利用申込]各実施施設へ直接申し込む。 |
ただし、(注1)でも示したように、これは旧富山市にあたる地域(以後「富山地域」と呼ぶ)のみにあてはまるものであり、他の旧町村(大沢野、大山、八尾、婦中、細入)にあたる地域については、別の実施基準がある。八尾総合行政センター地域福祉課によれば、旧八尾町にあたる地域(以後「八尾地域」と呼ぶ)の場合、富山地域と異なっているのは以下の点である。
[対象児童]保護者が労働等により、昼間家庭にいない小学校1〜6年に就学している 児童 [開設時間]小学校の登校日:13時〜18時 土曜日および長期休暇期間:8時30分〜18時 [利用料]無料(材料費として500円徴収) |
(3)事業実施施設
各事業の実施施設は、地域児童健全育成事業実施施設が40ヵ所、放課後児童健全育成事業実施施設が22ヵ所ある。(表1、2参照)
ここで注目すべきは、放課後児童健全育成事業の実施施設は、地域によって運営形態が異なっていることである。つまり、富山地域のみが民間による運営であり、その他の、大沢野、大山、八尾、婦中、細入地域は行政主導で運営を行っているのである。この差は、2005年4月の市町村合併によるものであり、民営の富山地域と公営のその他の地域が、合併前の形態をそのまま継続して行っているため、このような状況が起こってしまっている。もともと富山地域では地域児童健全育成事業が行われていたのだが、放課後児童健全育成事業という制度が国で定められたことにより、地域児童健全育成事業とは別に、学童保育としての施設を設けることとなった。このとき、富山地域にはもともと民間で学童保育を行っている施設があり、そこに委託することができたのだが、八尾を含むその他の地域では、こういった民間の施設がなかったために、行政主導で事業を行うことになった。しかし、市役所こども福祉課によれば、いずれはどちらかの形態に統一される予定だということである。
(4)調査概要
今回の調査では、各事業の実施施設の中から、3ヵ所をピックアップして調査対象とした。
まず、地域児童健全育成事業を行っている施設より1ヵ所。そして、放課後児童健全育成事業のほうは、富山地域(民営)と八尾地域(公営)、それぞれの施設から1ヵ所ずつ取り上げ、計3ヵ所を調査することとした。それらの調査対象については以下の通りである。
調査施設1.X放課後児童クラブ(放課後児童健全育成事業・公営)
調査日時 2005年8月4日 10:00〜
調査場所 某公民館
調査施設2.Y学級(放課後児童健全育成事業・民営)
調査日時 2005年10月13日 14:30〜、11月24日 17:00〜
調査場所 某保育園
調査施設3.Z子供会(地域児童健全育成事業)
調査日時 2005年10月6日 14:30〜、11月22日 14:30〜、12月16日 15:30〜
調査場所 某小学校
調査は、指導者へインタヴューと現場の状況観察をメインに行った。詳しくは、次章で事業の実態として、それぞれの施設の様子を紹介していく。