第1項 私の成功物語−理想へのシビアな見方−
インタビュイーたちにとっての「成功」とは一体何だろうか。
英語が有利になる可能性について次のように述べている。
30代女性会社員Cさんは「実際、もっと社内で英語を使う部署に移りたいという気持ちが大きくなってきて、本気で移りたいってなったときにある程度は有利だと思う」とCさんは語っている。
キャリアアップに結びつけるタイプのインタビュイーは今回の調査でも貴重な存在だったが、彼女たちは「成功」についてどう語るのか。
30代女性会社員Eさんは、職場で日常的に英語を使用するEさんは、英語の能力をもっと高めて、将来は「海外にある子会社の営業アシスタント」を目指したいと目標を語った。
30代女性会社員Fさんは、職場で外国人と電話やメールでのやり取りが必須というFさん。「会社で必要とされる人間になりたい」と英語のスキルアップを目指している。
長年勤めた会社を退職して留学することはなかなかできることではなく勇気のいることだが、30代女性会社員Dさんは、「でも、最近は仕事を辞めて留学することもいいかなって。もしかしたら向こうに行って何か仕事を見つけられるかな」と語っている。
40代女性会社員Iさんは、英語は自分を「ポジティブに進化させてくれるもの」だと語り、「趣味で終わりたくない。自分でそれなりのことをしてみたい。夢はパン職人」だそうだ。
現実的・シビアな人のタイプは以下の3名である。
英語ができてもキャリアアップにはならないと考えている20代女性会社員Aさんは「一年ぐらい向こう行ってペラペラに絶対になれないとは言わないけど、有り得ないでしょ?」と語っており、Aさんはあくまでもシビアなタイプだった。
多くのインタビュイーはネイティブスピーカーの域を目指したいといいながら、ぺらぺらになることは不可能だと分かっている。
20代女性研究職Sさんは「大変さが分かってきた」といい、「楽しいうちに身に付けば」と語っている。
30代女性会社員Cさんは「私は“ぺらぺら”になるよ」とネイティブスピーカーの域を目指しながらも、「英会話学校に通っているからといって、決してぺらぺらになれるとは思っていない」とあくまでも冷静である。
30代主婦Bさんは「昔は本当にペラペラになりたいと思ってたから。今、無理だから」と現実を直視している。
インタビュイーに見られた一つの傾向として、英会話学校と一つ距離を置いた語り方がなされていた点である。それは盲目的に女性が英会話学校にこぞって通う状態とも異なる。津田(1990,1993,2000)は、欧米のものは何でもありがたがる極端な欧米崇拝と過度の憧れによる「外的自己」が彼女たちを英会話学校に駆り立てており、女性は情動的な態度で英会話学校にこぞって通う傾向が男性のそれよりも顕著に見られると述べたが、それらは女性の行動形態の表面的な部分だけを切り取って見ているに過ぎず、どこか違和感を感じざるを得なかったのである。確かに、「とにかく楽しい」という言葉は多くのインタビュイーの常用句ともいえる言葉であったが、表面的に「ただ楽しい」から通い続けていることの他に彼女たちの中で比重をもって語られる何かがある。その“何か”というのが、何らかの意味で自分自身が内面から変わっていくという、まさに“変身”のストーリーである。インタビュイーは現実に対してシビアな自分を持ちつつ、適度な距離を保ちながら英会話学校に通い続けている。
彼女たちにとって、「成功」は決してキャリア上の成功だけを意味するものではない。女性と男性が置かれている社会的立場の違いから、女性は男性に比べて“出世”を描きにくいポジションにいるといわれている。
「英語ができて当たり前」というのは周知の事実である。成功物語りを信じている場合と成功は望めないだろうと現実的な場合とが、インタビュイーの中で共存しているケースも見られ、興味深い。