第4項 探求する自己
「探求する自己」にも多様性が見られる。
インタビュイーの中で、むしろ良い意味での劣等感というか、「頑張らないと!」「チャレンジ」という気持ちが英会話を続けていくエネルギーとなっているのではないかと考えられる。
結婚後、最初は習い事感覚で英会話学校に通い始めたというCさん(30代女性会社員)は、英会話を始めたきっかけは海外旅行の飛行機の中で「馬鹿にされたような感じがした」のが全ての始まりだと語っている。Cさんは自らを「凹みやすい性格」というが、Cさんの場合、その悔しさをバネに「もっと頑張ろう」と英語を学ぶエネルギーへと変えているところが素晴らしい。また、「社会人になって何かを真剣に学ぶこと自体、減っていた」というCさん。主体的な学習意欲により英会話学校に通い始めたCさんだが、「だんだん欲が出てきて、限りないかも」といつかは“ぺらぺら”になると意気込んでいる。「語学の勉強はそれで終わりというのがないと思うし、自分にとっては長くに続けていること自体に効果があることだ」とCさんはいう。Cさんはこの他にも市民プラザで英語講座を受講しており、まさに“ぺらぺら”になれることを目指して日々、英語の能力を高めている。「語学の勉強は限りがない」という意味で、Cさんにとって英会話学校に通い続けることは「終わりのない旅」のようでもある。
また、「キャリアには活かさないが、特技としてもちたい」(20代女性会社員Kさん、30代主婦Bさん)と語るインタビュイーもいた。
Cさん(30代女性会社員)の場合、仕事で英語を使う部署で試してみたい気持ちも少なからずあるようだ。ただ、やはりそれはCさんの中で“できれば”というような感覚である。一方、Kさん(20代女性会社員)は仕事上、外国人相手に接客することがあるというが、「一番は自分のため。仕事に活かすとかではなくて、特技として持てればいいかな」と語っており、「具体的な目標はない」という。Kさんは短期間の海外留学で「自分一人の力でいろんなことにチャレンジして成功させることができた」と語っており、Kさんにとって大きな意味を持っている。英会話学校に通っていなければ海外で何かやってみようという気は起こらなかったかもしれない。私はKさんの“成功”という言葉が印象的で、Kさんにとって海外体験を通じて自分を試して“成功”させることができたことは大きな自信となり、それは何ものにも代え難く、そのときの体験が現在のKさんの英会話学校に通い続ける原動力ともなっている。
「特技として持ちたい。これなら自分ができるといえるような何かを身に付けたかった」と語るBさん(30代主婦)は、学生時代より英語の他に中国語の語学の学習に興味を持って取り組みながらも仕事には全く活かすことができずにいた。ただ“憧れ”だけは結婚した現在も持ち続けており、今度こそ英語を仕事に活かせるように英検準一級の受験に向けた勉強も少しずつ始めている。
学生時代に英語に苦手意識を抱いていたという20代主婦Yさんは「特に目的もないし、使用する機会は英会話学校の場のみだが、目標はどんどん高くなっている」といい、ハードルを自分の中にいくつも設定することによってYさんは敢えて苦手意識を乗り越えようとしている。Yさんも具体的には何かに活かそうとは考えていないが、「ここまでつぎ込んでいるのに、まだ満足できないとなるとじゃあ今辞めるわけにはいかない」とさらに能力の向上を目指して英会話学校に通い続けている。
自分を高めるものとして英語を捉えているインタビュイーもいた。「単に組織の一員としてやるのは退屈。何か味気ない職業よりも、やっぱり自分でそれなりの仕事がしたい」とIさん(40代女性会社員)は語る。「英語はツールでしかなく、趣味では終わりたくない」とIさんはいう。Iさんは「自分でそれなりに何かしたい」と語っており、現在の職業にやりがいを感じられずに、「自分には何かできるかもしれない」と信じて、どこか別のところに自分の行き場を求めているような印象を受けた。
インタビュイーの英会話学校に通い続ける目的が「いつかは絶対にペラペラになる」とか「特技として身に付けたい」にせよ、「キャリアアップを目指す」といった道具として英会話を学び続けるにせよ、そこには“探求する自己”の提示が見られ、「ここまでしてOKというのがない」というEさん(30代女性会社員)やRさん(40代女性団体職員)の語りからも分かるように、到着点の見えない旅路を行くかのようであり、まさにこの語りの中には“旅”のモチーフがみられる。