第3節 講座見学(2)

1項 気功法講座

・「らくらく気功法で“やすらぎ・くつろぎ・夢ごこち”」

 

「らくらく気功法で“やすらぎ・くつろぎ・夢ごこち”」

県民カレッジにおいて今年で2年目の講座

講師:B先生(気功健康塾 とやま練功の会主宰)

受講者数:32名(8割ほどが女性)いつも20名強ほどが出席している

年齢層:5060代の人が圧倒的に多い

曜日:隔週木曜日の全8回講座(今年度は63日〜930日)

時間:14:0016:00

場所:県教育文化会館

費用:自由塾運営費1,500円、講座運営費1,500円(茶菓、ファイル代含)、実費1,500円(レッスンビデオと資料代)

 

ここで普段どのように行われているのか、見学の様子をもとに講座を紹介する。

 

講座は、時間前から既に始まっていると言ってもよい。時間ギリギリにくる人はあまりいない。

廊下から講座が行われる部屋の様子をチラチラ見ていると、窓際で足首を回して、準備運動らしきことをしている人がいた。(中略)慣れた感じで足首を回したり、周りの人と話をしている。(9月2日の講座より)

 始まる前から、B先生は持参してきたカセットテープを流す。すぐに気功に入り込めるようにという計らいだろうか、ゆったりとした音楽は時の流れをゆったりとさせる。異世界にいるようだ。例えば小鳥のさえずりの入ったテープが流れると、草原で追いかけっこをしているような気分になる。私は音楽に合わせていろいろと想像している。もしかすると、この想像力が気功には大切なのかと思ってみたりする。(916日の講座より)

 

講座は先生の話もあるが、もちろん実際に気功も行う。

その後、講義の形が一変し、実践となった。呼吸法の練習である。気功の基本は「鼻から吸って口から吐く」のだという。とりあえずそのことを意識してやってみる。しかし、少し意識が飛ぶと間違えてしまうのである。間違える度に、心の中で焦っていた。(9月2日の講座より)

 呼吸をしながら、手の振りもつけるのだが、「大木を抱くように」とか「お星様をつかむように」というB先生の例えが分かりやすい。(9月16日の講座より)

 

10月に行われる学遊祭が近いので、そこで発表する「連功十八法」の練習も行う。

中国語の入ったカセットテープに合わせて、練習をする。おそらく上級者の方だと思うが、2人の方がB先生に呼ばれて前に出て、私たちに背中を向けている。K先生はその2人に挟まれるようにして私たちの方を向いている。

 他の方は、長かれ短かれこの講座を受講されているので、慣れた感じだ。一方で私は気功に触れることも初めてなので、見よう見まねで、自分が発表するわけでもないのだが、「間違えないように」と考えていた。私はふと、「これは中国の公園で朝繰り広げられている光景だ」と思った。その中で自分も一緒にやっていると思うと、不思議でならなかった。気功は鼻から息を吸って、口から吐くのだが、私はたびたび呼吸法を間違えていた。受講者は真剣そのものだ。

ずっとやっていると、体が温かくなってくる。軽く運動した感じで、気功は疲れないと思っていた私の考え覆された。(9月2日の講座より)

 

2時間の講座中に何回か休憩が入る。

 B先生が「お茶飲んでくださいねー」と言った。みなさん持ってきているようだ。水筒持参である。B先生は受講者と話をする。受講者同士では、数人で輪になって話をしている人が多い。ある受講者は「家の畑がどうこう」などという他愛ない話をしていると話してくれた。(9月2日の講座より)

 

気功の実技が終わっても、まだやることがあるようだ。

実技が終わると、手を軽くさすったりする。血の流れをよくするのだろうか、気功ならではの意味を持つのだろうか。私もやってみる。見よう見まねだが…。もちろん受講者もやっている。そして、再び床に座る。私は近くにいた人に勧められて、バスタオルに座らせてもらった。やはり直接床に座るよりも、負担が少ない。敷物を持参することにも深い意味があるのだろう。あぐらをかき、体を揺らす。部屋の電気が消えて暗くなる。目をつぶるとこのまま眠ってしまいそうな気持ちよさだ。それを必死に抑え、体を揺らしつづける。これをやると、少し体が楽になったような気がする。(9月16日の講座より)

 

第2項       インタビュー調査

 気功法講座では2人の方が協力してくださった。以下に示す。

 

気功法講座受講者一覧

 

Gさん

Hさん

性別

女性

女性

年齢

57

62

住まい

富山県内在住

富山県内在住

職業

無職

無職

参加講座

気功法講座

気功法講座

県民カレッジ講座受講歴

2年目

2年目

 

 

1、Gさんの場合

Gさん

富山県内在住の女性。主婦。無職。

去年から受講。

 

 
 

 

 

 

 


(1)  気功との出会い

 Gさんは、「健康に関することがしたい」と考えていた。それで、県民カレッジの講座が掲載されているパンフレットを見ていて、この講座を選んだという。もうひとつ健康に関するものをという意味だろう、ツボの講座にも受講の申し込みをしたが、定員があるために受講できなかったそうだ。

 十数年前から腰が悪いというGさん。長い間鍼灸治療をしていて、「もう人にばっかり頼るのは駄目だなって思って、自分でも少ししなくちゃいけないかなって」思って気功をすることにしたと語る。また、パンフレットに書いてあったB先生の言葉にも惹かれるものがあったそうだ。

 

(2)これまでの受講講座

 気功法講座以外にもGさんはいくつか県民カレッジの講座を受講してきている。主に話を聞く講義タイプのものだ。

 例えば、八尾高校で八尾に関することを勉強する講座だ。高校との連携講座で、八尾の和紙やおわらについてを学ぶという。Gさんはその昔八尾に住んでいたことがあるそうだ。

 

(3)受講者との交流

 気功法の講座には全部で32名が受講している。他の受講者との交流はあるのかと尋ねると「ない」のだという。Gさんは、自分自身の性格も含めてこう語る。

 

G:私もそんな社交的じゃないから、自分そんなにね、話してく方じゃないんですよ。だからもう、自分でしゃべるより聞く方が好きだから、名前も分からないじゃないですか、全然知らない方同士で。そういう感じで、あそこにポンと来て、だからなかなかしゃべれないですね。

 

それでも、去年から共に受講しているHさんとは話ができるそうだ。この講座は去年から始まったが、去年、今年と継続して受講しているのはわずかに3人だ。だからもしかすると、交流するとなるとなかなか難しいのかもしれない。

 

(4)「自分だけの都合では出られない」

 Gさんは、講座に参加することについてこのように語っている。

 

G:去年も何か申し込まれたけど、私たちの年代になると、やっぱり自分だけの都合では出られなくなってくるのね。病人、家族に病人を抱えたりしてね、辞めていらした方が何人かいらっしゃる。すごく張り切って来てらしたのに、お姉様がちょっと都合悪くなって、駄目になったとか。

坂田:介護とかですか。

G :お父さんがなんか都合悪くなったって、何人かお聞きしてるから。

 

 自分では講座に参加したいという気持ちがあっても、家のことや家族のことは避けて通れない。事実、家族の誰かが病気になって講座を辞めざるを得ない人もいたというのだから。Gさんの母親は今、一人暮らしをしているのだが、一人で身の回りのことをできる状態にあるそうなので、Gさんは「私自身今、自分で時間使える、いちばんいい時期だと思っているの。」という。何かあれば心のゆとりもなくなるから、講座に行っても気になってしまうだろう。だから、今は気功の講座に参加していても楽しんでいるようだ。

 

(5)気功の効果

 気功の講座のB先生が言われるには、気功は3年しないと効果が表れないのだという。Gさんは気功を始めて今年で2年目。効果が出るまで続けたいそうだ。

 ちなみに、B先生が開いている教室に何年も通っている人は腰が痛かったのが治ったとか、肩凝りが治ったとか、効果が出ているそうだ。また、B先生が今年から「いきいき長寿財団」で気功のサークルを開いており、先生に誘われて今年からそちらの方にも参加しているという。県民カレッジの講座は半年で終わってしまうので、いきいき長寿財団でも気功ができるとあってうれしいだろう。

 

(6)単位のこと

 単位の話と一緒に、県民カレッジのシステムである出欠カードの話をした。講座に来るたびに自分の出欠カードにはんこを押していく。このカードの存在が自分に影響を与えているかと尋ねるとこんな答えが返ってきた。

 

G:あれ(出欠カード)が、あるから来るとかそんなのじゃなくて、あれはねえ、カレッジの単位になってるんですよ。もうとってらっしゃる方は、3000単位以上とってらして。今学遊祭のときに、何か認定証もらわれる方もいらっしゃるんですよ。一応やっぱり申し込んで始めたからには、休まずに来たいなという感じはある。たとえあれがなくても、やっぱり来るでしょうね。だからシールをもらうためにというのじゃなくて。でも一応あれは単位にはありますしね。

 

単位になるという仕組みは知っていても、それを意識することはない。

そして、

G:楽しいから行くんじゃないですか。(中略)でも、やっぱりそこにどんなあれだろうが楽しみなり、「ああ、行ってよかった」っていうのがあると思うから足運ぶんじゃないんですか。何にもなしに単位だけで行ってたら苦しいですもん。

と、あくまでも「自分がやっていてどうか」ということに重点を置いているように感じられた。やはりそうだろう。単位目的となると、「私はこんなところに行ってこんなに勉強してきたんです」という肩書きほしさのために行くことになる。「体を良くしたい」「こんなことやってみたい」という自分の願望のようなものが先にあることで、自分なりの目標に近付こうとするのではないだろうか。

 

 

(7)「経済と暇」の連動

 「経済と暇」この言葉がインタビュー中に何度か出てきた。経済というと私はただ単純にお金があるかどうか」だと思っていたが、そうではなかった。Gさんは「経済と暇は連動している」と言っている。私は最初ピンとこなかったのだが、話を聞いているうちにその意味が少し分かってきた。

 

G:お金というかね、もう食べてくのにいっぱいっぱいで、働いて、仕事してなくちゃならなかったらこんなとこに来れませんもの。経済と暇っていうことって連動してるじゃないですか。だってある程度余裕なかったら、暇を見つけて日中来れないでしょ。

 

つまり、食べていくのに必死だと働かないといけない。そうすると、こうやって講座に参加することも難しいということだ。講座にお金がかかるとかそういったことにこだわるのではない。しかし、Gさんとしてはまずは時間なのだという。自分で講座へ出向く時間を持てるかどうかが大切だと語っている。そして、「心のゆとり」である。

 

G:心の余裕というかさっき言ったようにね、やっぱり、心配しながら、来てそこでリフレッシュしてくって方法もあるのかもしれないけれど。勤めていたらこういう日中なんてほんとにできないことですもん。ほんとに何か習い事するのだったら、夜の時間よね。その夜の時間だって、仕事が残業でもついてまわるような仕事だったらいけないじゃないですか。(中略)勤めていたときにも夏の講座があるんですよ、カレッジの。「この人の話聞きたいな」って思うけど、やっぱりそれだけ心のゆとりなかったです。もうそして、逃してきてるので。そういう意味で、私にとって時間と、精神的なゆとり。

 

そう考えると、時間的にも余裕があり、家族の心配もいらないという今の状態はGさんにとって気功に限らず、何かに取り組むにはいい環境なのではないだろうか。

 

2、Hさんの場合

Hさん

富山県内在住の女性。無職。

去年から受講。

 

 
 

 

 

 

 


(1)気功との出会い

 Hさんはお茶を習っている。そのお茶の友達が水橋にあるB先生の気功の教室に通っており、Hさんに「行きませんか?」と県民カレッジのパンフレットを渡されたのがきっかけだ。そもそも退職し、時間ができたこともあり、何か体を動かすことをやってみたいと思っていたそうだ。

 以前から膝が悪いので、何とかしないといけないという思いがあったと語る。「気功なんて自分にできるのだろうか」と心配していたが、B先生に「大丈夫、とにかくいらっしゃい」と言われたという。そして、県民カレッジで気功の講座が開設された去年から始めることになった。

 

(2)お茶と俳句

 県民カレッジで受講しているのはこの気功の講座のみだが、以前から趣味でお茶と俳句をしているHさん。

 

お茶

 すでに40年近く続けているというお茶。退職後には自宅でお茶の教室を開こうと思っていたのだが、退職する2年ほど前に膝が悪くなったので断念したのだという。

 

H:(教室を開くことが)できるんだけど、正座できなくなったの。退職したら開こう思ってたの。自分で道具も買い集めていたの。でも正座できないから…。

G:椅子では駄目なんですか?

H:そういうのもあるんだけど、やっぱり事細かく生徒さんに教えるとなったら、それに家元にも通わなければいけないし。着物もちゃんとそういうとこへ着ていかないといけないし、だから。

 

 しかし、今も稽古に行ったり若い人に教えたりとお茶とは携わっているそうだ。

 

俳句

 俳句は今年で5年目。お茶の友達に誘われて始めたそうだ。俳句を作るのは大変、まだ少し苦しいとHさんは語る。次々といいものが湧いてくることもあるが、全く湧かないこともある。俳句を作るにはいろいろな言葉を知っていないといけないので、人が話すことや、テレビでアナウンサーが話すことをしっかり聞くようにしているのだという。句会にも参加する。このようなHさんを、同じ気功法講座の受講者Gさんは「すごくね、頭が働いていると思います。脳がね、ほんとに。」と誉めていた。

 

気功、お茶、俳句と様々なことに取り組んでいるということもあり、外に出掛けることが多いそうだ。何もないときは家でのんびりと花や植木の世話をし、制約を受けることもなく過ごしているのだという。

ちなみに現在、気功・お茶・俳句をしているMさんは、特にこれ以上何かしたいとは思わないそうだ。

 

(3)受講者との交流

 県民カレッジで気功の講座が開かれてまだ2年目ということもあるのだろうか、「(他の受講者とは)今んとこまだそこまでは親しくなってないね。」と言っている。また、このようなことも語っている。

 

H:でもなかなかこの年になって話の合う人もそう見つからないし。もう講座来れば、すること一生懸命でね、私的用語は一切しゃべらないから。終わればさよならだし、今んとこそういうあれ(交流)はないですね。

 

去年も今年も気功法講座を受講している人がわずかに3人ということもあり、講座ではとにかく少しでも膝を良くしたいという思いから気功に熱中するのかもしれない。

また、家族に病人を抱えたりして辞める人もいるというから、流動的なメンバーだとなかなかそこまで仲良くなることは難しいという現実があるのかもしれない。特に女性は自分が元気でもずっと続けられるとは限らないと語る姿が印象的だった。

 

(4)気功の効果

 「3年続けないと効果が出ない」という気功。2年目のHさんはまだ効果を感じることはないという。それでも、気功はどこでも気軽にできるので、見よう見まねでもとにかくやってみたり、歩きながら実践してみたり、家でテレビを見ながらでも気功をしているのだという。そういう意味ではB先生の気功はいいのだという。ちなみに、講座の受講者の中には1s痩せたという人もいるそうだ。

 そしてGさんと同様、いきいき長寿財団の気功サークルにも参加しており、B先生の開いている教室に通ってもいいかなと考えているそうなので、少しでも早く効果が現れることを期待しているのではないだろうか。もちろん、来年も講座が開かれるならば参加するつもりだという。この積極性は「やっぱし少しでも病気が軽くなればいっかな」という思いからだろう。

 

(5)単位のこと・お金のこと

 講座を受講すると単位になる、各講座で渡される出欠カードにはんこを押していくことで自分がどれくらい出席しているのか分かる…。こういったことは形式上のことに過ぎないようだ。

 少しでも膝を良くしようと気功に取り組むHさんだが、印象的な話があった。

 

H:やっぱり途中で挫折して、行かなくなるというのも自分としても悔しいから、申し込んだからにはやっぱり最後まで、自分が納得できるまで。途中で辞めるのは絶対嫌ですね。

 

 単位のことを気にするわけではない。しかし、一度始めたからには最後までやり続けたいという強い意志の存在は失礼かもしれないが、少し意外だった。私は正直言って、「もし辛くなったらそのときは辞めよう」というような感覚なのかなと思っていたのである。気功をずっと続けていくことで、自分の体に何らかの変化が現れるのをこの目で確かめたいのかもしれない。

 

 Hさんはそうではないが、「単位達成を目標として来ている人もいると思う、そういうのは自分が勉強した証にもなるから」と語っている。そういう形の人もいるが、とにかく自分は膝を良くしたいから来るというのが非常によく伝わってきた。

 

 また、金銭的なことに関しては、「全く関係ない」そうだ。それに、初回にお金を納めてしまえばいいから、安いと感じているようだ。無料でできるところを探す方が難しいとは思うが、お金を払って何かすることは「膝を良くしたい自分への投資」なのではないだろうか。