第3章 富山県生活協同組合 くらし助け合いの会「にこり〜な」
本章では、第1章第4節で調査対象として述べた富山県生協の中のくらし助け合いの会「にこり〜な」についての概要をまとめている。
第1節 設立経緯
「にこり〜な」が設立されたのは2001年で、比較的新しい組織だと言える。設立のきっかけは、生協の組合員の声によるものだった。生協では組合員自身が自分たちの生活を向上させるために、委員会などを設けて、食,環境,福祉などをテーマとした活動を行なっている。そのような活動を行なう組合員の中で「親と県が離れていてなかなか実家に帰れない」「親元を離れていると、初めての出産の時に困った」また逆に「息子や娘が県外に出てしまって、そんなにしょっちゅう呼ぶわけにはいかない」などといった意見が出ていたという。そのような声が生協の中にある福祉委員会に回ってきて、何かお互いちょっとした時に助け合えるような活動ができないかということで、「にこり〜な」が設立された。
第2節 活動内容
主な活動内容は、洗濯・買い物・掃除・食事作り・子供、お年寄りの見守りや話し相手などであるが、このようなサービスを一番多く利用するのは高齢者であり、次に障害者、子育て支援を必要とする人と続く。しかしこの他にも、様々な理由でサービスを利用している人がいる。例えば何日か家を空けるときに庭の水やりを頼む人がいたり、パソコン初心者の人がアドバイスを依頼したりと、会員であれば誰でも気軽に利用できることがうかがえる。
資格を必要とする介護や看護など専門職として行うことはしておらず、基本的には主婦が簡単にできることが原則となっている。資格を必要とすることは行わないということで、気軽に利用できたり、活動できたりということを目的としているそうだ。また、資格を持っているからといって、必ず優れているというわけではないという。長年主婦をやってきて料理がとても上手い人もいれば、子供の扱いがとても上手い人もいる。そのため、資格だけで援助活動会員を測ることはできないという。
第3節 会員について
「にこり〜な」は会員組織であり、会員は生協の組合員に限定されている。生協の組合員であれば誰でも年会費1000円を支払うことで会員になることができる。会員の種類は「利用会員」「援助活動会員」「賛助会員」の三つに分類される。利用会員は何か困ったときにサービスを依頼する立場であり、援助活動会員は実際に援助をする立場、賛助会員は直接の活動は行わず、財政面でのみ支援する立場である。賛助会員には生協の取引先など、法人会員も存在する。会員数は2004年11月の時点で、利用会員33人、援助活動会員50人、賛助会員159人、法人会員が14社となっている。利用会員は高齢者が大半であり、実際の活動も高齢者支援がほとんどだという。
このように分類されてはいるが、会員同士はあくまで同じ立場だというのが基本的な考え方だとされている。利用会員が援助活動会員と立場が逆になるということもあり得る。お互いに助け合うという考えがここに反映されている。
第4節 活動のしくみ
利用会員(援助を受けたい人)が「にこり〜な」の事務局に連絡し、事務局がコーディネーター(利用会員と援助活動会員の仲介役)といわれる人に連絡する。コーディネーターが利用会員の家を訪問し、具体的な援助内容の打ち合わせをし、地域や日時を検討した上で援助活動会員と具体的な打ち合わせをし、実際の援助が始まる。初回の活動にはコーディネーターが同行し、利用会員から聞いたことや物の置き場所などを援助活動会員に伝え、利用会員が二回説明しなければならないことがないようにしている。コーディネーターは会員の中での区分けとしては、賛助会員に入るという。料金は、利用会員が1時間につき700円と交通費を直接援助活動会員に支払うという仕組みになっている。
第5節 会議について
「にこり〜な」には3種類、主要な会議が存在する。定例会、コーディネーター会議、幹事会である。
定例会とは月に1回、援助活動会員とコーディネーターが参加し、1ヶ月の活動報告を行うものである。この会は、会員同士の親睦を深めることが一番の目的とされている。みんなが楽しむことができ、かつ何か身に付けるという心掛けがなされており、手話の講習会や調理実習、よさこいなども行なわれるそうだ。強制参加というわけではなく、参加人数は毎回10名ほどである。
「にこり〜な」の活動範囲は富山ブロック、東部ブロック、西部ブロックの3つのブロックに分けられている。そして、富山ブロックと西部ブロックに2人ずつコーディネーターが存在する。その4人のコーディネーターと助け合い事務局の森内さんとで行なわれる会議がコーディネーター会議である。ここでは、コーディネーターの活動について、良かった点や困った点、それに対するアドバイスなど、コーディネーター同士の交流が行なわれている。コーディネーター会議の頻度は、2ヶ月に1回である。
各ブロックごとには、一人ずつ幹事が在籍している。その各ブロックの幹事と、それとはまた別に各ブロックから一人ずつ代表として出席するのが、幹事会である。幹事会では、にこり〜なを運営していくにあたっての重要事項や、コーディネーター会議で決まらなかったことなどが話し合われる。頻度は年に4回と決まってはいるが、困難なことがあったりすると召集されるので、実際にはそれ以上開かれているという。
第6節 宣伝・広報活動
「にこり〜な」の宣伝、広報活動は主に生協の組合員に向けて行なわれている。あくまで、組合員の相互扶助を目的としているため、外部への宣伝よりも生協内で組合員に向けての宣伝が重視されているようである。
「にこり〜な」では、年に4回「にこり〜な通信」というお知らせを出すことになっている(巻末資料2参照)。この通信はコーディネーターが書いており、活動報告や、利用会員、援助活動会員の声などが紹介されている。その他にも全組合員に一枚、「にこり〜な」の活動を紹介するチラシを配ることもある。このような通信やチラシにおいて特徴的なのが、手書きで書かれているという点である。これは、少しでも多くの人に読んでもらうための配慮だという。パソコンで打ったものだとどうしても読み流されてしまうということで、イラスト集の絵を貼ったり、大きな字で見やすく書かれていたりといった工夫がされている。このような工夫は、読んでもらって少しでも多くの人に「にこり〜な」を知ってもらいたいという意志が感じられる点である。
第7節 コーディネーター制度
「にこり〜な」の活動は富山、東部、西部という3つのブロックに分けて行なわれている。そして、現在富山ブロックと西部ブロックにコーディネーターが二人ずつ存在している。コーディネーターは、例えば子供の見守りならアレルギーの有無やかかりつけ医、好きなおもちゃやビデオ、おやつなどをあらかじめ聞く。高齢者の場合は緊急連絡先やかかりつけ医、体の調子などを聞くなど、ます利用会員の状況を把握する。また、援助活動会員の特性もよく把握しているので、こういう依頼内容の場合はこの人がいいのではないかというような調整も行なっている。
また、突発的な依頼の場合でも、組合員同士声を掛け合ったり、コーディネーター自身が活動に入ったりと、融通をきかせて対応しているという。
「にこり〜な」では、コーディネーターは利用会員、援助活動会員の両方にとってなくてはならない存在だと言える。利用会員が遠慮してしまって直接援助会員に言えないようなことをコーディネーターになら話せたり、逆に援助会員はサービスをしていく上でストレスが溜まったり、どのようにサービスを提供していったらいいのか迷ったときはコーディネーターに相談したりするという。