第2章 スクールカウンセラー事業の概要
第1節 スクールカウンセラー事業の概要
スクールカウンセラー事業は、平成7年度(1995年)より、「文部省スクールカウンセラー活用調査研究委託事業(以下、委託事業)」として始まる。委託事業の概要については巻末資料1参照。委託事業の予算、および配置校数は年々増え続け、平成12年度までの委託事業が、平成13年度(2001年)からは「スクールカウンセラー活用事業(以下、活用事業)」となり、5カ年計画で制度化されることとなった。制度化の意義については、「現在のような『活用調査研究』から、法律で決定される『制度化』であること。これは、離島など全国どこへでも行くことを意味し、現在のような大都市に偏在したりしないことを意味する」(1)とされた。平成13年度の予算額は40億6百万円、配置校数は4千4百校であり、平成17年度までに約1万校へ拡充しようとしている。活用事業の意図、目的としては、委託事業とほぼ同様であり、児童生徒の問題行動への適切な対応が期待されている。スクールカウンセラー事業に関する流れは、巻末資料2を参照。
委託事業が活用事業となったことでの大きな変化は2点あり、1点目は予算面である。委託事業では全額国庫負担であったのが、活用事業では経費の2分の1を国庫補助とすることになったのだ。このことについて文部科学省は、「今まで、実施してきたスクールカウンセラーの配置は、調査研究委託事業であったことから、配置に関する経費は全額国庫負担であったが、これを地方公共団体の全額負担とすると、財政力の格差等から地域格差が生じ、全国的な教育水準の維持向上に重大な支障を来すおそれがある。このため、スクールカウンセラーの配置を補助事業(1/2)として実施することにより、各地方公共団体の財政力の格差に関わらず、スクールカウンセラーの配置を進めることが可能になり、全国的な教育水準の維持向上を図ることができる」(2)としている。
2点目は、「準ずる者」の採用開始である。大学院修士課程を修了した者で,心理臨床業務又は児童生徒を対象とした相談業務について,1年以上の経験を有するものなどを、全カウンセラーの30%以内で「スクールカウンセラーに準ずる者」として採用することになった。このことで、スクールカウンセラーには、様々な資格・経験の人が存在することになった。
本論では、臨床心理士以外の有資格者として主に教育カウンセラー、学校心理士が登場するが、臨床心理士資格を持ったスクールカウンセラーを「学校臨床心理士」(3)、臨床心理士以外の有資格者を「その他の資格集団」と表記する。各資格の概要は巻末資料3を参照。
スクールカウンセラーというひとつの職業に複数の資格が混在することになった経緯を詳しくみてみる。委託事業において、スクールカウンセラーの選考については「財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士等」となっていた。文面からは臨床心理士に限定されているわけではなく、精神科医や臨床心理を専門とする大学教員などもふくまれていた。ここで問題になるのは、数ある心理系の資格の中で、臨床心理士以外の位置付けがなんらなされていないことである。彼らの採用がなかったわけではないが、一般的には「スクールカウンセラー=臨床心理士」というイメージが強く、実際、臨床心理士以外の数は少なかった(4)。活用事業となってからは、準ずる者の採用が始まったわけだが、「教員研修事業費等補助金(スクールカウンセラー活用事業補助)取扱要領」の中では、スクールカウンセラーの選考について以下のようにされている(日野 2001: 41)。
第3条
要綱第2条及び要綱別表に規定するスクールカウンセラーは,次の各号のいずれか
に該当する者から,都道府県又は指定都市が選考し,スクールカウンセラーとして
認めたものとする。
(1)財団法人日本臨床心理士資格認定協会の認定に係る臨床心理士
(2)精神科医
(3)児童生徒の臨床心理に関して高度に専門的な知識及び経験を有し,学校教育
法第1条に規定する大学の学長,副学長,教授,助教授又は講師(常時勤務を
する者に限る)の職にある者
第4条
要綱第2条及び要綱別表に規定するスクールカウンセラーに準ずる者は,次の各号
のいずれかに該当する者から,都道府県又は指定都市が選考し,スクールカウンセ
ラーに準ずる者として認めたものとする。
(1)大学院修士課程を修了した者で,心理臨床業務又は児童生徒を対象とした相
談業務について,1年以上の経験を有するもの
(2)大学を卒業した者で,心理臨床業務又は児童生徒を対象とした相談業務につ
いて,5年以上の経験を有するもの
(3)医師で,心理臨床業務又は児童生徒を対象とした相談業務について,1年以
上の経験を有するもの
ただし,これらの者の活用は,3条に掲げる者の十分な活用ができない場合の経過
措置とし,原則として,補助事業の実施に係るスクールカウンセラー等の総数の
30%以内で,これらの者を活用する
つまり、臨床心理士、精神科医、大学教員のみがいわば正規のスクールカウンセラーであり、教育カウンセラーや学校心理士など、他の心理系資格保持者は「準ずる者」に該当するということになる。このことに対し、「精神科医と大学の臨床心理関係の常勤教員を除けば、臨床心理士のみが独占的に選考の対象となっている」(5)との批判もある。
そして制度化の翌年である2002年、スクールカウンセラー制度について、日本教育心理学会や日本教育カウンセラー協会など14団体が、「カウンセラーになる条件を『臨床心理士』以外の有資格者にも開放してほしい」とする要望書を文部科学省に提出した(6)。そこでは、スクールカウンセラーの資格として「臨床心理士」のみに限定しており、「準ずる者」も、第3条のスクールカウンセラーが十分活用できない場合の経過措置であること、人数比率に制約があること、時給の上限が低く設定されていること、などの不利な条件に押さえられていることが提訴されている。この要望書の提出後については、要望書提出を先導した教育カウンセラー協会によると、文部科学省からは準ずる者の採用を増やしているという報告書を受け、誠実な対応をしてもらったと感じてはいるが、人数制約や時給の上限の設定などに関しては改善がなく、不満だという。しかし、近年、財務省が行ったスクールカウンセラーの実態調査では、準ずる者のほうが成果をあげているという結果が出ており、文部科学省の方針とずれることになり、今後どうするかが論点だという(7)。