第二節 CM構成からみる分析
ここでは、CMデータの構成内容を一つずつ分析していく。第三章の「アンケートによる因子分析結果」と第四章第一節「CMコードチェック」では、CMデータでのスポーツイメージは二つのグループに分類された。その二つの分類の中でもより具体的なスポーツイメージをさらに類型化するために、CMの構成の仕方やそこでの人物像の描かれ方などの共通性を見つけたい。
類型化する上で、まずは第一節と同様にCM内でスポーツ選手はその競技性やユニフォームなどで「スポーツ選手」であることを表現しているかを見た。第一節でもグループ1と2では、スポーツの競技性の表現の有無が分類上のキーワードとされていた。
では競技性が表現されている場合、そのスポーツの描かれ方は登場人物それぞれの物語性を持って構成されているのか。例えば過去の成績や現在のスポーツ選手としての状況、将来への希望などである。物語において序盤から山場へと進行する上で、必然的にCM内の登場スポーツ選手には様々な人間的感情が付与され、よりオーディエンスが受け入れやすいキーワードが出現してくる。また競技性・物語性を持ったCMの中でも、どんなキーワードによって競技性を伴ったスポーツを表現しているかで、さらに分類することができる。
競技性は表現されているが物語性を持たない場合は、トップレベルのアスリートでなければ表現できないスポーツの特異性をもって、企業や商品のアピールをしていることになる。そこでは、スポーツ選手のアスリートとしての「身体」や「才能」の特異性のみが、分類上のキーワードとなっている。
以上をふまえてCMデータを分析、類型化した。それは4つの分類となったが、それぞれをいくつかのCM分析を例として挙げた上で以下に述べる。
【分類1】ヒーローイメージ(スポーツや競技イメージを一切表現していない)
【分類1】は松井秀喜(野球)5、イチロー(野球)1、松井稼頭央(野球)1、石井一久(野球)1、高橋尚子(マラソン)1、中田英寿(サッカー)3、丸山茂樹(ゴルフ)2、であり、第三章のアンケートによる因子分析の際に、第一因子としてあげられた人物(CMコードチェックではグループ1)が含まれている。因子分析での考察と同様に、ここは万人に広く好まれる国民的ヒーローの要素をもっている分類であるから、ヒーローイメージとした。
参考として「第三章アンケートの因子分析結果」の第一因子データを載せた。第一因子は、中田英寿・小野伸二のサッカー選手、野球選手である松井秀喜・星野仙一・イチローが含まれた国民的スポーツ選手とともに、タレント分野ではタモリや明石家さんま、木村拓哉といった好きなタレント上位に入る、国民的な人気男性タレントを含んでいる。つまり第一因子は「国民的ヒーロー」イメージを持つグループである。
(参考) 第一因子
0.0
0.5 0.6 0.7
中田英寿
小野伸二
松井秀喜
タモリ
明石家さんま
星野仙一
イチロー
木村拓哉
第三章「アンケートによる因子分析結果」より
今回の調査では、メディアによって表現されているスポーツを分析することで、現代スポーツイメージの形成過程を探ることが目的である。スポーツイメージが一切表現されていない【分類1】は、スポーツ選手がヒーロー化・タレント化されていく過程を知る上で重要かもしれないが、今回は言及しないでおくつもりである。
【分類1】においては、スポーツや競技イメージを一切表現していないことが絶対条件である。それに加えて、分類されたCMで特徴的だった表現のキーワードは
・ 世界を舞台に活躍しているライフスタイル
・ 教育的 模範的
・おしゃれ 新しい時代
であった。
【分類1】での登場スポーツ選手とそのCMを以下に記す。
松井秀喜 (2カゴメ「野菜生活100」 3サントリー「マグナムドライ」 4雪印「トル
コ風アイス」 5雪印「シェ・ミルク」)
イチロー (6日興コーディアル証券)
松井稼頭央(11アミノバリュー)
高橋尚子 (13キシリトールガム)
中田英寿 (15コカコーラ 22資生堂 32キャノン「IXY」)
石井一久 (18アサヒ「本生」)
丸山茂樹 (33トヨタ「T-UP」 37タケダ「アリナミンV」)
ここで実際のCMの中でどのように、分類される上でのキーワードが表現されているかをみていきたいと思う。
2,カゴメ「野菜生活100」:松井秀喜
ニューヨークの街中、人ごみをすり抜けながら歩く松井。英語でホットドックを注文し、商品を飲む。そしてまた街中を颯爽と歩き出す。
11,大塚製薬 「アミノバリュー」:松井稼頭央
仲間由紀恵とアミノバリューを持って、並んで立っている松井稼頭央。
仲間「アミノバリューを飲んでおくと昨日を引きずらない」
松井「実はアメリカに来る時にたくさん持って来たんですよ。
これは本当です。
嘘じゃないって!ほんま」
仲間「ほんまです」
⇒この二つのCMからは、彼らが世界を舞台に活躍しているライフスタイルであることを表現していることが読み取れる。あえてスポーツ選手であることや競技イメージを表現しなくても、国内で活躍する以上の能力を持っていることをアピールしているのである。スポーツ自体よりも、そのライフスタイルを描いていることで彼らの持つヒーロー性もうかがえる。
4,「雪印トルコ風アイス」:松井秀喜
暗い室内に一人で座っている。持っているスプーンを真剣な表情で見つめ、アイスをゆっくりとかき混ぜる。背景が青空に変わり、花が一面に舞い散る。涙を流すアップになり、「もっちりだー!」と叫ぶ。
5,「雪印 シェ・ミルク バニラビーンズ入り 濃厚バニラ」:松井秀喜
映像は白黒のモノトーン。髪形や服装もオシャレな雰囲気の松井が車の中で、金髪の外国人美女とアイスを食べさせ合う。二人は「つぶ つぶ」とフランス語風に会話をしている。
⇒この二つは【分類1】の他のCMに比べても、スポーツに関する手がかりが全くない。内容を見ても、松井でなければならない明確な理由は見当たらない。だからこそ松井個人のキャラクター性というものが、オーディエンスの中で確立されていることの表れではないだろうか。松井のキャラクターが一般的に確立しているために、そのギャップを利用した構成になっているのである。
13,ロッテ 「キシリトールガム+2」:高橋 尚子
部屋の中で、パジャマ姿で座っている高橋と女の子。高橋はモグモグとガムを噛んでいる。女の子が不思議そうに「Qちゃん寝る前にガム噛むの?」と尋ねる。高橋は「噛んでみる?」と聞き、「やってみよっかな」と女の子が答える。二人が並んでガムを噛んでいる。
テロップ「始めよう キシリトール習慣」
並んでぐっすり眠る二人。
⇒ここで少女と高橋はパジャマ姿になって室内でくつろいでおり、並んでぐっすり眠るということまでしている。少女は高橋のことを「Qちゃん」と愛称で呼んでいることから、身体的にも精神的にも近い距離にいるといえるだろう。そこで感じられるのは、高橋の女性的な母性である。子どもからもだれからも好かれるヒーローイメージに、唯一女性で分類されているのには、このようなイメージがあるからだろうか。また、高橋の言動を素直に受け入れ模倣するという少女の行動も、高橋がヒーロー・ヒロインの要素を持っていることの裏づけとなるだろう。
15,コカコーラ 「コカコーラC2」 中田英寿のマイ・コーク篇:中田 英寿
とある異国の地にて、スーツを着こなしてインテリアショップのショーウィンドウへ近づいていく中田。そのウィンドウに「1/2off」の文字。
明るい部屋の中で、仲間とともに楽しそうにピザを取り分ける。ピザが半分に切られ、「カロリー1/2」のテロップが出る。
木漏れ日の中、フリスビーやフーズボール(テーブルサッカー)で遊びながらコーラを飲む。
テロップ「おいしさキープ」
草原をスポーツウェアでジョギングしている中田。
スーツ姿に戻り、街の中でコーラを飲んで歩き出す。
テロップ「これからのマイ・コーク」
32,キャノン「IXY」:中田英寿
スーツ姿で街を歩いている。駅の構内をデジタルカメラ(商品)片手に走りまわって、外国人女優(ミラ・ジョボビッチ)を探す。階段を下り、エレベーターの前で彼女を見つけ、笑顔のアップ。そのままカメラをかまえる。後ろから彼女に目隠しされ、振り返るがそこには誰もいなかった。
⇒これらの中田のCMは、ファッションや映像の構成をみてもビジュアル面を重視して作られている。中田自身が語ったりする声は使用されず、音声も音楽のみがほとんどであることからも、映像を主体とした構成であるといえるだろう。中田はイタリアのプロリーグに所属していることや、サッカーという競技自体の持つファッショナブルなイメージから、スポーツとファッションの文化を融合させた人物ではないだろうか。
【分類2】近代的スポーツマンイメージ (日本の「モダンスポーツヒーロー」)
【分類2】では、競技性と物語性のどちらの要素も持っていることが条件である。ここでは「東京オリンピックのマラソン銅メダリストの円谷や力道山のように」、戦後「日本を近代化に推し進めてきた強力なエトス」を強調され、「努力すれば報われるという『努力神話』」を体現する存在(橋本,2002)となったスポーツヒーロー像が描かれていると思われる。日本人のスポーツ観において好まれていた「努力」「根性」「忍耐」などのスポーツイメージである。そこで【分類2】は近代的スポーツマンイメージとした。ここでは、松井秀喜(野球)1、田臥勇太(バスケットボール)1、があげられている。福原愛(卓球)のフジフィルムのCMも含めたが、ここでは「成長」や「応援」のイメージがより強いと思われる。
【分類2】でのキーワードは、「努力神話」をもとに、
・ 努力 汗 達成
・ 成長 応援
・ スポーツの厳しさ
とした。
ここでの登場スポーツ選手とそのCMを挙げる。
松井秀喜 (1「ライフアカウント L.Aダブル」)
福原愛 (8フジフィルム)
田臥勇太 (17アサヒ「スーパドライ」)
CMデータ上でのキーワードの表現方法を、具体的にみていく。
1,明治安田生命 「ライフアカウント L.Aダブル」:松井秀喜
薄暗い室内で、一人バッティング練習をする松井。汗まみれの顔がアップになる。松井 はコンクリート質の壁に向かってボールを打っており、壁から跳ね返ってくるボールを正確に同じ箇所に打ち返し続けている。
(ナレーション 声:松井)「人の二倍 考える」「人の二倍 汗をかく」
最後にはボールが壁にめり込み、松井は満足げな笑みを浮かべる。そして松井が正面を向いて仁王立ちする姿をバックに、会社のロゴが出る。
⇒ここでは華やかな世界の舞台で活躍している松井の、影の努力が表現されている。松井が世界で一流の選手になるためには、孤独で厳しい練習を人一倍積み重ねなければいけなかったのだ、というあまり語られることのない「努力神話」を表しているのである。そしてその結末は、ここではボールがコンクリートの壁にめり込むことで表現されているが、自己目的の達成が待っているのだ。スポーツの厳しさとそれによる達成の喜びが表されている。
この【分類2】で登場するスポーツCMの中で、第三章因子分析結果で第一因子グループに分類されたスポーツ選手は、この松井秀喜のみであった。ここで松井秀喜とイチローを、主に新聞に掲載された記事を中心に比較した岡本能里子氏の論文(2004)を参考に松井秀喜のヒーロー像をまとめてみたいと思う。岡本は松井秀喜のヒーロー像の特徴として、「『努力神話』の実践者である」「『たて社会』『師弟愛』『義理や恩義』をわきまえている」の二点を挙げている。そして「『生まれつきの才能はなくても、地道に努力し、批判や賞賛にも謙虚で常に前向きに挑戦し続けることで、夢を叶えることができる』という大リーガー松井秀喜のヒーロー像が構築されていった過程を可視化することができた」といっている。まさに松井秀喜こそが「努力神話」や「日本を近代化に推し進めた強力なエトス」を体現する存在なのであり、「日本人的」な近代的スポーツヒーローを代表とする存在なのである。【分類2】近代的スポーツマンイメージとは、この松井秀喜に代表されるイメージといってもよいだろう。
8,富士フィルム:福原 愛
福原の幼い頃の笑顔の写真。ラケットにボールをあてる程度であるが、卓球をしている幼い福原の映像。最初と同じ写真。それから少し大きくなって真剣なまなざしで試合をしている写真。試合中に母親のところへ泣きついていく映像。先の試合の写真。
ナレーション・テロップ「大切な時間は、写真の中で生きている」
「8月、15歳の笑顔を残したい」
⇒幼い頃からの姿を追っていくことによって、スポーツにおける「成長」を分かりやすく表現している。福原は幼い頃からメディアでの露出が多かったため、オーディエンスはその「成長」をより共感しやすく、福原をずっと見守っているような想いにかられて「応援」が必然的になされているといえる。勝つためには小さい時から厳しい練習を繰り返し行い、ときには涙を見せながらも必死に戦うことが必要である。
「涙」は「努力神話」において、重要な役割をもつ。高校野球やサッカーなど、一般のファンも多い学生スポーツでは特に、勝者でも敗者でも「涙」をもって物語が語られることがほとんどである。それは「涙」で「努力」のつらく厳しい部分を表現しているからだといえる。勝者が流す「涙」も、嬉しさだけではなく「努力」あっての勝利だからである。そこでオーディエンスが共感するのは、その物語に「涙」が描かれていることが影響している。オーディエンスは自分にはないスポーツ選手の特異性や輝かしい栄光よりも、彼らの人間的な弱さ、つまり「涙」によって連帯感を持ち、彼らを応援することに結びつくのである。それは自らの感情に重ね合わせ、スポーツ選手の「夢」をも自らの「夢」とすることもある。
この福原愛のCMでも、「努力神話」の向こうに夢・笑顔が待っていると、2004年に開催されたオリンピックに重ねて描かれている。
17,アサヒ「スーパードライ」:田臥勇太
テロップ「世界最高の舞台を目指して 田臥勇太“Challenge”」
ユニフォームを着てNBAのコートに立つ田臥の顔のアップ。
様々な筋力トレーニングやダッシュ、ボールを使っての個人練習をして汗を流す。
再びユニフォームを着て試合に出場。ドリブルで持ち込むが、相手選手と接触し壁に激突する。そのまま相手ともみ合う。
絶妙なアリウープパスを出し、(スロー映像)それを味方選手がダンク。田臥はがっちりガッツポーズをする。
⇒NBAという世界の頂点である舞台の身体的・精神的厳しさをリアルに表現している。バスケットボールで日本人がNBAの舞台に立つというのは、大変難しいといわれていた。
加えて田臥は、身体的に外国人選手と比べてかなり劣っている。それは外国人選手と競り合う試合の映像からも分かる。そのために「挑戦」のもと、自分との戦いとなる人一倍の「努力」が必要なのである。そして夢の舞台でガッツポーズをするという「努力神話」がここでも表現されている。
スポーツにおける「努力神話」とは、スポーツの身体的にも精神的にも孤独で過酷なイメージを表現しながら、その後には夢の実現や自己目的の達成、人生における成功が必然的に待っているものである。つまり厳しい「努力」と「夢」「達成」がセットで存在していなければならないのだ。どんなに人一倍がんばっても、「努力」だけでは神話になることはできないし、何の困難もなく「達成」することはここでは認められない。「スポーツマン」は夢に向かってがんばって「努力」をし、またそれが物語性を持って語られて初めて、「達成」というラストシーンまで含めたものをオーディエンスに認めてもらうことができるのである。
【分類3】現代的スポーツマンイメージ
【分類3】では【分類2】と対象的(?延長線上か)に、現代的スポーツマンイメージとした。つまり【分類2】近代的スポーツマンイメージでの「努力神話」が語られていないスポーツイメージである。スポーツの苦しい、辛いイメージよりもスポーツを楽しむことを笑顔で表現している。これに登場しているスポーツ選手は、彼らの日本を代表するプレーヤーという肩書きや知名度が一見利用されておらず、表現されている競技性から見るとトップレベルのスポーツ選手じゃなくても務まりそうな役であった。「まっすぐな気持ち」などと少年の純粋なイメージを強調してもいた。高原直泰(サッカー)1、小野伸二(サッカー)2、坪井慶介(サッカー)1、宮里藍(ゴルフ)1が挙げられた。
ここでのキーワードとしては、
・ スポーツを楽しむ
・ 少年のまま
・ 笑顔
を挙げた。スポーツの競技性が表現されていることは前提である。トップアスリートとしての技術や肉体を、特に表現していないことも分類上のキーワードとした。
【分類3】での登場スポーツ選手とそのCMは以下の通りである。
高原直泰 (7麒麟「淡麗生」)
小野伸二 (9コカコーラ「アクエリアス」 21MAXELL)
坪井慶介 (26花王「メンズビオレ」)
稲本潤一 (34スズキ「SWIFT」)
宮里藍 (28国民年金基金)
CMデータから、分類されたCMを説明とともに挙げてみる。
7,キリン 「麒麟淡麗〈生〉」:高原 直泰
夏の強い日差しの中、冷たい水がいっぱいに満たされたバケツを両手に持ったまま、楽しそうにリフティングをしている高原。重いバケツを持っているのにも関わらず、ボールを運ぶ。麒麟淡麗生がいっぱい入ったタライにバケツの水を流しこむ。
⇒夏の強い日差しが白い壁に反射し、上には青い空が広がっている、という風景で「さわやかな」イメージが全体的にある。高原の服装はTシャツにハーフパンツという軽装で、重いバケツを持ちながらも軽々とリフティングしており、肩に力の入っていない様子である。その表情も非常に楽しげな柔らかいものである。彼が海外でも活躍しているサッカー選手であることは、あまりアピールされていない。ただサッカーの楽しさ、気軽さがさりげなく表現されている。
9,コカコーラ 「アクエリアス」:小野伸二
体育館で対戦相手と向かい合う小野。最初の相手である幼稚園児たちとじゃれあうようにサッカーをする。次の相手である女子小学生にちょっとしたすきをついて、シュートを決められて悔しそうに笑う。パスワークで小野からシュートを決めて大喜びするシニアチーム。
ナレーション「一生スポーツ。アクエリアス」
最後はシュートを決めて笑顔でガッツポーズをする
⇒ここでは小野がサッカーを純粋に楽しんでいることが、主体的に表現されている。幼児からシニアまで年齢や性別に関係なく、小野を含めた登場人物たちは皆スポーツを楽しんでいるのだ。スポーツのもつ「平等」や「平和」のイメージが表れている。小野自身は日本を代表するほどのサッカー選手でありながらも、ここでは現代スポーツの側面で過熱し続ける競技性より、純粋な「ゲーム性」「娯楽性」を尊重したスポーツを求めている。
競技中に笑顔を見せることが認められていなかった日本のスポーツ文化に、笑顔をもたらしたのがこのようなサッカー選手に代表されるような現代的スポーツイメージなのではないか。
21,MAXELL「DVD」:小野伸二
テロップ「ずっと残したい映像は何ですか?」
水色の背景の室内で小野が私服で立っている。小野の子供の頃のサッカーの試合の映像が流れる。(ホームビデオのような荒い画質)
小野「ボールを蹴るのが、小さいときから本当に好きだった」
「勝ってるときでも。負けてるときでも。日が暮れるまで、夢中でボールを追いかけて」
先ほどの部屋で楽しそうにリフティングをし、額にボールを乗せる。
小野「サッカーができるだけで嬉しくてたまらなかった」
「あの頃のまっすぐな気持ち。僕は忘れずにいたい」
「ずっと、ずっと」
小野の上半身がアップになり、商品を胸にあてる。
⇒実際の幼少の頃の映像を使ったり、小野本人の語りを構成に使用したりと直接的にスポーツへの純粋な気持ちを表現している。小野は純粋な少年のイメージが強いのだろうか。技術や経済的なことを抜きにしてもサッカーそのものを愛好しているのだという意志がみられるので、アマチュアリズム=愛好精神をアピールしているといえる。現代のプロスポーツでは希少価値のある精神である。いb
26,花王「メンズビオレ」:坪井慶介
テロップ(画面の端に小さく)「浦和レッズ・坪井慶介」
青空の下、屋上で私服姿の坪井がリフティングしている。
洗面所にて、商品を使って顔を洗い、ひげを剃る顔のアップ。
さっぱりした表情でまた屋上でリフティングを開始する。
⇒【分類1】の中田英寿のCM(22資生堂)も同様であるが、このように男性用化粧品のCMにスポーツ選手を起用することは最近になってみられるようになった。映像の中でも顔がアップになったりと、商品の内容上スポーツ選手というイメージよりも彼ら個人のビジュアルを利用しているといえる。これは【分類3】の他のCMとはまた少し異なった要素を持っているCMである。
【分類2】にみられるような近代日本におけるスポーツイメージは、社会的地位を確立することや社会において立場を上昇させることと重ねて考えられることであった。何度も出てきている「努力神話」である。スポーツを一例として他人と競い合い、他人を上回る「努力」によって優位に立つことで、「夢」や「達成」がかなうという、オーディエンスにとって分かりやすい教訓となる。ましてスポーツヒーローとなると子どもにも人気があり、より受け入れられやすい教訓である。このような理由からスポーツの世界で語られてはいるが、自分の所属する社会の中で常に上昇志向を持って「努力」をすれば必ず「達成」されるという概念を形成しようとしているのだ。
一方【分類3】の現代的スポーツマンイメージでは、【分類2】のようにスポーツイメージを社会への教訓などの媒介とするようなことはしていない。スポーツという文化を確立させようとし、さらにそこからファッションや健康といった、より快適さを追求するオーディエンスのライフスタイルに密着した文化へと派生しているのではないだろうか。
28,国民年金基金:宮里 藍
宮里「練習プラス夢 それが私の力」
ゴルフ場でゴルフの練習をしている宮里。
宮里「わたしの未来は、自分でつくる」
夕暮れになるまで練習を続ける。笑顔でショットを打つ。
⇒このCMでは国民年金基金連合会が、年金未納に関する問題でついてしまった悪いイメージを払拭したいという目的で宮里藍を起用したそうである。そこからも、宮里の持つスポーツマン的なさわやかさや、19歳という若さでプロの舞台を対等に渡り歩いているという精神力の強さ・独立性を読み取ることができる。「わたしの未来は、自分でつくる」というセリフも、自らの人生を自分の力で切り開いていき、未来を見据えているイメージを形付けている。ここからは宮里の若者代表としてのメッセージ性がうかがえる。
【分類4】アスリート 〈身体〉・競技イメージ
【分類4】は、アスリートとしての〈身体〉・競技イメージとした。豪快なプレーシーンや鍛え上げられた肉体を表現しているものをあげている。高橋尚子(マラソン)1、北島康介(競泳)3、室伏広治(ハンマー投げ)2、稲本潤一(サッカー)1、玉田圭司(サッカー)1、田中達也(サッカー)1、浜口京子(レスリング)1、である。商品としてスポーツ飲料や補助食品のCMが含まれているので、考慮すべきかもしれない。ここでの共通点はアマチュアスポーツであること、サッカー選手でも国内の選手が多いことである。アスリートとしての〈身体〉を表現するのであれば、個人のキャラクター性よりもスポーツ自体がもつ特有のイメージ(鍛えられた肉体や精神など)を強調するのだろう。
ここでのキーワードは、
・ 力強い 豪快
・ 競技に一生懸命とりくむ
・ アスリートとしての〈身体〉
を挙げた。【分類2】とは、物語性を伴っていないことが異なる。
登場スポーツ選手とそのCMは以下の通りである。
高橋尚子 (12VAAM)
北島康介 (14アクエリアス 31ロッテ「キシリトールガム」 19「アミノバイタル」)
稲本潤一 (20SAVAS)
室伏広治 (24日清「スープの達人」 19「アミノバイタル)
玉田圭司 (27「Wooo」)
田中達也 (29「アクエリアス」)
浜口京子 (39TOYOTA)
CMデータから、分類されたCMを説明とともに挙げてみる。
12,VAAM:高橋尚子
テロップ・ナレーション「運動で体脂肪はすばやく燃やせ!」
未来的なトレーニング施設にて、ランニングマシーンで走っている高橋。その高橋の体が解析され、腹部がズームアップされる。その内部が映ると、群れとなっている高木ブー扮する脂肪が次々と燃えて消えていく。
高橋「飲まなきゃだめだこりゃ」商品を持った高橋の上半身アップ。横でブーがパッと燃えて消滅し、驚いた表情。
⇒ここでは高橋尚子のアスリートとしての身体が、高木ブーに象徴される一般の身体と比較され注目されている。高橋尚子というキャラクターは【分類1】タレントイメージでも登場していることから、オーディエンスの中には成立されたものだといえる。そのためこの【分類4】に属するCMの内容を見ても、「飲まなきゃだめだこりゃ」というセリフやある表情を演じることなど、高橋のキャラクター性を利用しているような構成になっている部分はある。しかしこのCMで最も注目されるべきは、高橋の身体である。腹部を露出したトレーニングウェアを着て、その鍛え上げられた見事な腹筋を見せている。彼女が日本の話題の的だったとき、その腹筋や筋肉は一時ワイドショーなどに取り上げられたことがあるほどである。普段は穏やかで人あたりのよいヒロインイメージだからこそ、そのアスリートの面を目の当りにすることで、さらにスポーツヒーロー(ヒロイン)イメージが強化されていくのではないか。
14,コカコーラ「アクエリアス」:北島 康介
北島康介というテロップをバックに北島のレース前の真剣な表情のアップ。勢いよく水に飛び込み、力強い泳ぎを見せる。白い水中の画面に、泳いでいる北島のみが映っている。
テロップ「カラダにスムーズな水分補給」
ゴクゴクとアクエリアスを飲む。
テロップ「次世代☆アイソトニック」
24,日清 「スープの達人」:室伏広治
黒いユニフォームを着た室伏がスーッと息を吐く。スモークの中、ハンマー投げのサークルの中で、手に巨大なレンゲを持ち足を踏み固める。ゆっくりとレンゲを回転させ、「スーーーープッ!」と叫びながらハンマー投げのようにレンゲを飛ばす。暗雲の中を飛んでいったレンゲはスープの中に着地する。
汗だくでラーメンをすする室伏。一気にスープを飲み干し、ふーっと息をついた。
19,アミノバイタル:北島康介・室伏広治
テロップ「日本代表選手団513名×アミノバイタル」
暗い室内で競泳用水着を着て、真剣な表情で立っている北島。
全身、上半身のアップ。
同じくユニフォームを着て、真剣な表情で立っている室伏。
全身、上半身のアップ。
プールで泳いでいる北島。ハンマー投げをしている室伏。
テロップ「Victory Project」
片手で商品を持って飲む、それぞれの映像。
テロップ「Victory Project」
⇒これらのCMでは、それぞれのスポーツ競技を行っている場面がほとんど構成上を占めている。「19アミノバイタル」ではテロップが「日本代表選手団513名」となっていることから、まさに2004年アテネオリンピックに向けての宣伝がその目的のほとんどであるといえるだろう。北島康介も室伏広治も、オリンピックの最有力金メダル候補であった。オリンピックへの盛り上がりを煽るために、彼らは日本代表であり、どの種目に出場するのかを多くのオーディエンスに宣伝する必要があったのだ。企業としてもオリンピックが盛り上がり、さらに起用した選手が期待通りのよい成績を残したならば、その選手を起用したCMは話題になり、経済的に大きな影響を受けることができる。
20,「SAVAS」:稲本潤一
薄暗い室内でサッカーボールを胸でトラップする稲本。そのままドリブルで進んでいく。様々な角度から真剣な表情とテクニックを見せる。華麗なリフティングをしている稲本を引いたところから見てみると、SAVASのマークであるメビウスの輪の形の上でドリブルをしていたのだった。
ラストは力強くヘディングする稲本の上半身のアップ。
27,「Wooo」:玉田圭司
テロップ(画面の端に小さく)「柏レイソル・玉田圭司」
天井のライトのみがついた暗いスタジアム。玉田がボールを持ち、ゴールの前にかまえる。真剣な表情でゴールを見据える顔のアップ。その顔から汗の滴が一粒流れ落ちる。
それを自分の部屋で椅子に座ってくつろぎながら見ている男性。その男性が持っているコップからも、水滴が同じように一粒落ちる。
玉田が正面からシュートを打つ。(スロー映像)
見ていた男性はそのボールが自分の方へ向かってくると思ったのか、大きく口を開けてその迫力に身動きができずにいる。 (実はテレビで見ているのでボールがくるはすはない)
ラストはふりむきざまの玉田の顔アップ。
⇒この二つはサッカー選手のCMであるが、サッカーの技術をアピールしたり映像構成を使って表現した迫力などで、スポーツ選手の身体能力の高さや特異性を主として表現している。登場人物の個人としてのイメージももちろん影響するが、それよりも「スポーツ選手」や「サッカー選手」といった大まかな範囲でのイメージが重視されていると思われる。個人のキャラクター性も多大な影響力をもってメディアに存在しているが、スポーツや競技そのもののイメージも重要なものである。そのイメージをプラスへと向かわせようとしているのが、この【分類4】のアスリートイメージなのだ。企業や商品をみても、スポーツ補助食品やスポーツ大会の協賛をしている、自社のスポーツチームがあるなど、スポーツと直接的に関わっているものがほとんどである。より全体としてのスポーツイメージを表現している分類であるといえる。
39,TOYOTA:浜口京子
ユニフォームを着て、コートに立っている浜口。次々に相手選手たちと組み合い、投げていく。何人目かで少し苦しそうな表情をし、見学していた少女の心配そうな顔がアップになる。それでも浜口は投げ続けていく。
ラストは見学していた少女や他の選手たちと横一列に並んで、「気合いだー!」と叫ぶ。
⇒これもオリンピックでの話題性が大きいといえる。さらに浜口京子は、父親であるアニマル浜口のメディアでの存在感が大きすぎたため、他の選手より明確なキャラクター性をもった選手である。ラストシーンで父親の口癖である「気合いだー」を叫んでいることからも、そのキャラクター性がうかがえる。
しかしアマチュアスポーツだからこそ、その身体や競技性が一層強い存在感をもって表現されることができるのである。