平成16年度

人文学部卒業論文

 

 

 

 

 

 

 

映像メディアにおける主夫の描写に関する考察

―テレビドラマ「アットホームダッド」を通して―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

富山大学人文学部人文学科

社会学コース

学籍番号 0110010836

氏名    板垣 貴紀

目次

 

第1章           問題関心 ―――――――――――――――― 1

第2章           男性問題に関する問題 ―――――――――― 2

第1節           男性問題 ―――――――――――――――― 2

第2節           主婦及び家事労働について ―――――――― 3

第3節           2章まとめ ―――――――――――――― 3

第3章           「アットホームダッド」あらすじ ――――― 5

第1節           1話〜最終話 ――――――――――――― 5

第2節           スペシャル ――――――――――――――― 6

第4章           主人公、山村和之に関する分析 ―――――― 7

第1節           「主夫」和之の誕生 ――――――――――― 7

第2節           「主夫」としての成長 ―――――――――― 9

第3節           「主夫」という選択 ――――――――――― 14

第4節           「主夫」和之、再び ――――――――――― 17

第5章           考察 ―――――――――――――――――― 19

 

参考文献 ―――――――――――――――――――― 21

参考URL  ――――――――――――――――――― 21

資料 ―――――――――――――――――――――― 22

 

 

 


1章 問題関心

 

近代産業社会形成後の日本社会において、様々なジェンダーに関する問題が論じられてきた。近年では男女共同参画基本法などの法整備が進み、より女性が公の場へと参加しやすく、男性も家庭・地域生活に取り組みやすい社会の形成に向けての動きが見られる。内閣府男女共同参画局(2004)は、男女共同参画社会の必要性のひとつとして「男性の家事や、子育てへの参画」を挙げている。近代から現代社会においては、夫が外で働き、妻が家事などを行なうというものが一般的な家庭(男女)の形とされている。しかし、内閣府の調査(20027月調査)によると、『夫は外で働き、妻は家庭を守るべきであるか聞いたところ、 「賛成」とする者の割合が47.0%,「反対」とする者の割合が47.0%となっている。平成9年9月の調査結果と比較して見ると、「賛成」(57.8%→47.0%)とする者の割合が低下し、「反対」(37.8%→47.0%)とする者の割合が上昇している。』となっている。性別・年代・職業などにより回答に差があり、比較的若い世代や女性に「反対」の意見が多く見られる。また、ライオン(東京)が2001年に主婦186人を対象として行った調査において、「夫は家事はしない」との回答は10%に満たなかった(読売新聞2004)。意識面においての変化は徐々にではあるが、着実に起こっているのである。

このような社会において、従来の「男性が外で働き、女性は家庭を守る」という形式とは違った新しいあり方として「主夫」という存在がスポットライトを浴びている。20044月からは「主夫」をメインテーマとしたテレビドラマ「アットホームダッド」がフジテレビにより放送され、反響を呼んだ。卒業論文においては、テレビドラマ「アットホームダッド」から、現代の映像メディアに描かれた新しい男性のあり方としての「主夫」について分析し、映像メディアに描かれた性別役割分業としての主夫について、読み取っていきたいと思う。


第2章 男性問題に関して

 

 この章では、「主夫」というものを分析するに当たって主要な観点となる「男性問題」及び、「主婦、家事労働」について述べたい。この二点の問題は、後にも述べる「男性受難時代」とも言われる現代においての「男性」や「主夫」というものに大きくかかわる問題である。そして、現実におけるこれらの問題が、テレビドラマというメディアにおいてはどのように描かれているか、ということを第4章の分析において捉えていきたいと思う。

 

1節 男性問題

 

 伊藤公雄は、「男性問題」は次の2つの意味を持ってくる、と述べている。以下に伊藤公雄が述べる男性問題についてまとめたい。1つは「男性問題が女性問題の裏表の関係にある」ことを理解すること。そして男性中心社会の変革は、女性がこの性による規制を変えようとしても、男性社会の中で利益を得、既得権を持っている男性の意識が変わらない限り、いくら制度や法律が変わっても根本的な解決は望めないということを認識し、「男らしさ」の古い鎧を積極的に脱ごうとして「自分らしさ」を追求する、という意味での男性問題である。2つめは、「男性受難時代」という言葉に示されているように、「男らしさ」のイデオロギーがゆらぎはじめたことに気づきながらも、「男性優位」の意識から脱出することができない不安を抱えた男性たちの時代という意味での問題である。伊藤はその指標として、1990年付近の中高年男性の自殺率の急増、強制猥褻事件の増加についても言及し、少年・青年たちのロリコン・コミックスブームや、1989年に発生した少年たちによる女子高生への監禁、レイプ、殺人、コンクリート詰めでの死体遺棄事件や、東京と埼玉をまたにかけた幼女連続誘拐殺人事件についても触れ、「男らしさ」のゆらぎがこうした現象として露出しているのではなかろうか、と述べている。また、どちらかといえば後者に属する男たちがまだ圧倒的であるといってよいだろう、とも述べているのである(伊藤公雄1993:171-174)。

 以上の二つの問題は、前者は現在の男性中心社会は男性の意識の変化がなければ社会体制の変化は望めない事、後者は変化を感じ取りながらも、依然として男性中心社会から脱却できない男性の迷いについてを表している。前者については、萩原(1997)は、「「主夫」や「育児」の体験記が本になったり(田尻1990など)、マスコミに取り上げられるくらいなのでまだまだ少数派である。例をあげれば、1991年に男性も取れる育児休業制度が成立したが、実際に制度を利用した男性は1%にも満たない。具体的な取り組みとしては遅々としているように思えるが、男らしさからの開放のためには、女性たちと同じように、この男性中心主義社会をいってみれば男性の視点で内側から批判的に検証する必要があるのだという気運は高まりつつあるといってもよいだろう。」と述べている。数字の多寡の差はあれ、現代においても当てはまることであろう。また後者についても萩原は、「1980年代後半の家族法の改正で男性による配偶者の扶養義務が廃止されたスウェーデンですでに社会問題化し、たとえば妻、子どもを養うことに男役割を見いだしていた男たちの中に役割喪失感がただよい、出口を見失ってアルコールや麻薬に走るケースが見られるという。救済センターとして「男性の役割を考える会」という組織も政府内にできている。」と述べている。

 

2節 主婦及び家事労働

 

農村などの社会においては、かつては男も女も生活するために働いていた。二世代ほど前の農村社会では女性も農業などの生産労働を行い、男性も垣根の修理や薪割りなど家事における出番は少なくなかった。近代以降は労働が職場と家庭に分化されることにより、職業と家事もまた分化されていった。萩原・国広は「主婦」という言葉が一般的に認知されるようになったのは、明治時代末期から大正時代において『主婦の友』(1917)や『婦人倶楽部』(1920)などのいわゆる婦人雑誌に登場するようになってからであり、それら婦人雑誌により「主婦」というものの役割が一般に意識されるようになった、としている(萩原・国広1997:7490

資本主義社会、高度経済成長期の到来により、いわゆるサラリーマン家庭が出現し始め、生産と消費の場が分離されるようになった。そして高度経済成長に伴い、総サラリーマン化、核家族化、電化製品や既製服による家事の合理化によって、主婦として女性自身が無償で家事をすることが一般的となった。無償で、と述べたが、大越(1996)は、イタリアのマルクス主義フェミニストのマリアローザ・ダラ・コスタは主著『家事労働に報酬を』(1972)を取り上げ、家事労働について以下のように言及している。ダラ・コスタは『家事労働に報酬を』において家事労働に焦点を絞り、女性労働の中心的搾取を論じた。従来のモノを生産し賃金を支払われる「生産労働」という可視的な労働の背後に、生命や生活の活性化に不可欠ではあるが、代償が支払われない「再生産労働」があること、そしてこの不可視の労働は、原則的にすべて女性に委ねられていたことを明らかにしたのである。さらに、資本主義の進展とともに、女性が市場へと参入すると、新たな問題も浮上するようになった。女性は再生産労働に加えて、生産労働にも行わねばならず、結果として二重搾取に陥ることとなるのである(大越1996:40-41)。NHKの国民生活時間調査(1995)によれば、主として家事をする女性の年間の家事時間は2,602時間であり、有職者の年間仕事時間2,193時間を上回った。国広(1997)は、「日本の男性は働きすぎだ」とよく批判されるが、家事労働も合算すると働きすぎているのはむしろ女性のほうだ、と述べている。

 

3節 第2章まとめ

 

 以上、「主夫」というものの分析において重要と思われる二点の問題について触れた。一つは男性自身の意識に関わる問題であり、もう一つはこれまでの社会において原則的に女性に課せられてきた家事労働についての問題である。第1章でも述べたとおりに現代社会においては「男性は外で働き、女性は家庭を守る」というこれまでの男女の形は、意識面での変化を迎えている。しかし、当の男性がその社会の変化に対して「男性中心社会」の中で築いてきた男性優位の意識のままであると、社会と意識のギャップにより、様々な問題を引き起こす可能性を内包している。また、近代社会において不可視の労働とされてきた家事労働も、その実情は、男性以上の労働を課せられる場合も存在するということが明らかになった。

 「アットホームダッド」においては、これら二点に関する主人公をめぐる状況は、エリートサラリーマンから主夫への転身と、まさに男性中心社会という状況からこれまでとは正反対の、家事労働中心の生活へ変化するのである。このような変化に伴う問題の表面化は、ドラマにおいてどのように描かれているのか、第4章で詳しく触れていきたいと思う。

 


3章 「アットホームダッド」あらすじ

 

 本章においては、420日〜629日及び、928日に放送されたテレビドラマ「アットホームダッド」の第1話〜第12話(最終話)、スペシャルのあらすじを載せたいと思う。

 

1節 第1話〜第12

 

 大手広告会社に勤める山村和之は、念願のマイホームを手に入れた。そのマイホームに入った和之は、満足そうに床に寝そべっていた。そこへ娘の理絵と妻の美紀が現れる。美紀が理絵と庭に出ると、お隣の杉尾家のご主人と目があった。杉尾家では、妻の笙子、夫の優介、理絵と同じ幼稚園に通う息子の亮介が一家団欒しながら、お隣さんについて会話していた。杉尾家は、笙子がキャリアウーマンとして稼いで、優介は家事をこなしている「専業主夫」、という家族であった。

 和之は会社の経営状況の悪化からリストラされ、美紀に再び雑誌編集の仕事をしないか、という話が舞い込む。再就職の見込みがない和之に、美紀は和之が家事をしてくれれば自分が働きに出ることができる、と切り出す。和之は「家事は女性がするものであり、男は働くべきだ」と考えているため、自分が主夫になることには抵抗があり、美紀とは口論になる。しかし、家族のことを考えた末、和之は一時的にではあるが、主夫になることを決意する。翌日から、和之の新米主夫としての生活が始まったのである。

 その後、和之はベテランの専業主夫である優介の手ほどきを受け、主夫を始めた当初は全く上手くいかなかった家事や育児が、日を追うごとに上達していく。なかなか決まらずにいる再就職や、妻の仕事、自分が主夫をやることによるこれまでの生活とのギャップなどに悩みつつも、それでも主夫としての生活を続け、主夫としての成長を遂げてゆくのである。

 そんな和之に再就職の話が舞い込む、仕事先は上海で、赴任期間は5年間である。時期を同じくして美紀には正社員契約の話が持ち上がっていたため、話を聞いた美紀は仕事を辞めたくない、理絵の世話はどうするの、と口論になる。しかし、家族全員がどうしたら幸せに過ごせるかと考えた美紀は、上海行きを決意する。残る理絵は、上海行きを告げても始めは理解できなかった。しかし、後に事の重大さを知ることとなり、亮太と二人で幼稚園を抜け出す。結局、警察に保護された二人であったが、父親たちから問われ、一緒に海に行けない、だから今のうちに行きたかった、と訳を話してくれた。理絵は和之と美紀が上海へ行くから自分も行く、と言う。その後、和之は美紀に誘われ、理絵と共に山村夫妻の思い出の海岸へと赴く。貝殻を自分の家族に見立て、「これから上海行くんだよ。」と海へ流す無邪気な理絵の姿を見て、和之は自分の中で家族が一番になっている、と言い、上海行きを断ることを決断したのだった。

2節 スペシャル

 

 和之が上海行きを諦めてから3ヶ月が過ぎたが、和之は未だに専業主夫を続けていた。お隣の優介はホームページを通してカリスマ主夫として人気を博しており、妻の笙子は出産の日が近づいていた。そんな中、美紀が雑誌の別冊号のチーフに大抜擢され、あわただしい日々をすごすこととなる。そしてその仕事が原因となって、美紀は理絵の運動会に出ることができなくなり、和之と口論となってしまう。

 沈んだ表情の理絵を連れて運動会の会場設営を行いに来た和之のもとに、優介から慌てた様子の電話がかかってくる。笙子が産気づいたため、自分が行く予定であった主夫をテーマとした講演会の講師を務めてほしいと言うのである。会場の壇上に立つ和之に、優介から無事出産したとの報告が入る。そして和之は、しどろもどろながらに自分の経験を語りはじめた。何を言っていいか分からなくなったとき、仕事に行っていたはずの美紀が講演会場へ駆け込んできた。理絵に必死で頼まれたのである。妻と理絵の姿に勇気付けられた和之は、主夫という経験を通して知ることのできた自分の気持ちを素直に言葉にする。

 翌日、運動会は雨天延期となり、美紀は来週の運動会に参加できるようになった。杉尾家の赤ちゃんを見に来た山村家。顔を合わせた和之と優介はいつもの調子で軽口を叩き合っていた。

 

 


4章 主人公、山村和之に関する分析

 

 ここでは、ドラマの主人公である山村和之がどのようにして主夫になるか、また、主夫に対してどのように考え方が変っていくか、という点についての描写をとりあげたい。ドラマにおける時系列順に、和之の主夫についての心境の変化に関する描写、また、それに関わる登場人物の言動などを中心に列挙する形で山村和之の変化を捉え、テレビで放送された全13話を大きく四つの節に分けてまとめたいと思う。

 

1節 「主夫」和之の誕生

 

山村和之が主夫になる以前のサラリーマン時代、そして主夫になった初日が描かれているのが、第1話及び第2話である。ここでは和之のサラリーマン時代の主夫(主婦)業に関する考え方、また実際に主夫になってからの微妙な心境の変化が描かれている。

山村和之は大手広告会社のサラリーマンであり、CM製作担当のチーフである。自分の仕事にプライドを持っており、家事は妻の美紀に任せっきりである。また、家事は女がやるものだ、と思っており、主夫なんてもってのほか、と考えている描写が目立つ。主な台詞などは以下のとおりである。

 

 ・部下とのやりとり

部下

「このCMだと、洗剤を買うのは女性だって決め付けてる感じになりませんかね?」

和之

「だって洗剤買うのは女だろ。」

「男が洗濯?男が掃除?男が料理?気持ち悪いだろ。」

 

 ・美紀に対して

和之

「(キッチンをいじる美紀に対し)いいよ、俺はそこ使わないんだから。」

「男子厨房に入らず。」

 

・優介について

和之

「(美紀からの電話に対し)仕事を辞めた?男のプライドはないのかね。」

 

一方、和之の隣人である杉尾優介は妻の笙子がキャリアウーマンとして稼いで、優介が家事をこなす、という「専業主夫」である。番組初登場時は、和之とは全く立場が異なる存在である。

 第1話で和之は失業することとなる。再就職先は無く、美紀はかつての友人から仕事があると誘われる。美紀からは言外に家事をやって欲しいと頼まれるが、口論となる。それを聞かれた優介にも事情を話すが、結局主夫について口論となる。主夫というものに対して非常に反発感を抱いている様子が見て取れるシーンである。

 

 ・和之と優介の口論

優介

「納得したつもりでも、時々嫌になりますよ。特に、昔の同僚が出世した出世したなんて聞いた時にはね。それに、隣に越してきた男がかっこよくバリバリ仕事してるのを見たときとか。あなたはかっこいいですよ。自分の才能で金稼いで…僕なんか劣等感ばしばし感じちゃいますよ。」

和之

「羨ましがられるような生活は終わったよ。これからはおたくも俺を馬鹿にできる。」

優介

「なんかむかつくんだよな。なんだかんだ言って、かっこつけてんだよあんた。」

和之

「かっこなんかつけてませんよ。」

優介

「クリエーターがそんなに偉いんですかね。」

和之

「別に。ただ、プライドは持ってますからね。」

優介

「プライドが邪魔して、主夫なんか出来ませんか。くだらない。」

和之

「くだらない…プライドを捨てたらね、男は終わりですよ。」

優介

「終わりなんかじゃないですよ。肩書きにくっついてるプライドなんて、そんなもん捨てたって、死にゃしませんからね。」

 

 和之は家に帰り、娘の理絵の寝顔を見ながら「誰がプライド捨てるか…俺には捨てられないよ。けどさ、少しの間だったら横においておくことは出来る。」と言い、家事は任せて働きに行けよ、と美紀に告げる。次の仕事が見つかるまでとは言ったが、主夫になることにした。この心境の変化の原因として、先述した優介の台詞と、理絵をはじめとする家族に対する愛情などが、番組の内容から見て取れる。

 第2話では和之は主夫としての初日を過ごすこととなる。ここでの和之の主夫に対する考え方は「ほんの骨休め」と甘く見ている。また、「家事は女性の仕事ですよね。」と家事についても述べている。第2話では和之の主夫に対する考え、態度の変化はほとんど描かれていない。

 第3話では、これまでの夫婦の立場である「和之(夫)が外で働き、美紀(妻)が家を守る」という立場の逆転の描写がなされている。この話では和之が優介に、自分が会社勤めであった頃と主夫という現状を比較して、心境を語っているシーンがある。

 

 ・優介との会話

和之

「俺も忘れてばっかりだったなぁ。」

優介

「なんすか?」

和之

「結婚記念日。」

優介

「あー…、それってひどいですよ。」

和之

「確かにそうだよね。毎年あいつも怒ってたよ。その気持ちがさ、ワインを選んでるお宅を見て分かった。きっとあいつもあんな幸せそうな顔で、結婚記念日の用意してたんだな。いや…毎日の食事も洗濯も、あまりにもささやかで、あまりにも当然だったから…俺、仕事に追われて気づかなかったんだ。誰にも褒められることの無い家事をさ、心を込めてやるあいつの気持ちも、寂しさもわかってなかったんだ。」

 

 仕事に生きていたエリートサラリーマンであったかつての和之は、家事の大変さを理解していなかったが、これまでと逆の立場になることによって初めて主婦の心情を身を持って知ることとなった。これ以降の話でも、夫婦の立場が逆転することによって、和之がかつての美紀の心情を知る、という描写が数多くなされることとなる。

 

2節 「主夫」としての成長

 

 和之も主夫としての生活が長引き、家事に慣れてくると、僅かながらではあるが変化がみられるようになる。第4話では、理絵に手作りの手提げ袋を作るため、ミシンと悪戦苦闘することとなり、自ら優介にミシンを習いに行っている。第2話では、優介に言われてから手助けを求めていたが、今度は自分でまず作ってから優介に教わりに行っている。優介の、「まーしかし、こういうことをやるようになっただけでも進歩なんですかねぇ。」という台詞にも、和之の主夫としての変化が見て取れる。また、自分が作った料理が原因で家出した美紀の母、光江に対して和之はこうも言っている。「33年間もお母さんが作って、33年間もお父さんが食べたんでしょ?素敵なことじゃないですか。」これは食べる側(働き手)の気持ちだけではなく作る側(主婦)の気持ちも理解しているということの表れであろう。翌日も理絵の弁当にりんごのうさぎやタコのウインナーをいれるなど、それまで「作るだけ」だったものから、理絵が喜ぶようにと(出来損ないではあるが)それらのおかずを入れているシーンが見られる。

 

 第5話ではしかし、雑誌に載った部下の記事に触発されて再び職探しに力を入れる。「いつまでもこんな事やってらんないよ。」と、美紀に言っている。クリーニング屋で店主に「旦那、今日はお休み?」と言われ、働き手としての気持ちを思い出したものと思われる。主夫としての腕は上達し、前回散々だった理絵の弁当は美紀に褒められるほどになっていた。また、冴子が家庭訪問で主夫について「女性は子供の世話をしたりするだけで十分幸せって思うかもしれませんけど、男性はそれだけじゃ物足りないんじゃないかな、と思って。」と質問されたが「男はいい仕事をしてこそですからね。」と答えている。

その夜、美紀が給料日ということで和之に包丁を買ってきたが、和之は微妙な表情を浮かべている。自分が主夫であることにまだ違和感を覚えているように見て取れるシーンである。そしてその後、笙子の妊娠を知った優介と二人で話している。

 

・和之と優介の会話:居酒屋にて

和之

「主夫なんてさ、男がいつまでもやってることじゃないでしょ。」

 

(中略)

和之

「稼いでるって、奥さんお腹ん中に子供がいるんでしょ?男として責任ってもんがあるでしょ。」

優介

「じゃあ俺が責任とってないっていうんすか。」

和之

「とってないでしょ。男には男の役割、女には女の役割ってもんがあんだよ。」

優介

「古くせ〜、明治時代じゃあるまいし。」

 

 また、和之の変化ではないが、幼稚園の母親参観日で理絵がプレゼントとして用意したエプロンには和之と美紀の絵が描かれていた。このエプロンは「家事をするものの象徴」的役割が込められているのではなかろうか。

また、参観日を終えた優介が和之に笙子に出産して欲しいと説得することを話すと、「すっげぇかっこいい。そんな生き方もあるんだな。」と優介に対して共感を示している。その夜、美紀に「私もなー、育ててくれる人がいたら子供産んでもいいんだけどな」と言われるが、「俺は出来ないからな、ああいうこと」と返している。共感を示した一方で、自分については積極的に主夫となることには抵抗を感じている面が伺える。

 

 第6話では理絵の幼稚園の劇、シンデレラを中心に物語が展開される。ここでも「早く仕事決めて、お前と代わるから」とあくまでも主夫という現状は臨時である、という自分のスタンスを美紀に示している。また、美紀の仕事について、女の仕事を結婚までの腰掛、女には結婚という逃げ道がある、と言っている。美紀が正社員になる、という話を打ち明けるが、理絵の世話はどうするのかという事について口論となる。その後、成り行きでシンデレラの台本の修正を行うことになった和之は、劇に自分の主夫に対する気持ち、家庭の事情についての考え方を、台詞と言う形で盛り込む。

 

 ・劇、シンデレラの台詞

1

「家の事はあなたに全部任せたわよ。」

2

「あー、女が外で働くってとっても大変。」

1

「あなたはうちにいるだけ。楽でいいわね。」

 

(中略)

シンデレラ1

「主婦の仕事だって大変なのよ。」

シンデレラ2

「誰もほめてくれないし。」

シンデレラ3

「やって当たり前だって顔されて。」

 

(中略)

シンデレラ1

「私、結婚したら外に働きに出たいの。」

王子

「えっ、何だって?いったいどうしてなんだい。」

シンデレラ1

「自分を大切にしなきゃ、家族は幸せに出来ない、私そう思うの。」

 

 帰宅後、美紀が劇の台詞について和之に「仕事を続けていいって意味なの?」と問いかけるが、和之は「ゆっくり話し合おうということだ」とやんわり否定する。第5話と同様に、自分から積極的に主夫になろう、という考え方ではない和之が伺える。

 

 第7話、和之は再び就職活動を行っていた。人事担当に対して、「男が主夫なんかやっても、一向に板につきませんね。」と苦笑しながら言っている。人事担当が給与実績を差し出し、和之はそれに対し、「女房の今の稼ぎより多くないと。」と言う。人事担当が共働きはどうか、と尋ねるが共働きはしたくない様子。未だ和之は、自分が働き美紀には家事をやってもらう、という考えを持っている。ここでは、夫婦の立場の逆転が経済面においても影響を及ぼしていることが見て取れ、夫は妻よりも金を稼いでいるべきだ、という「男らしさ」にとらわれている和之の心情が伺える。

また、雑誌に「主夫」ということで取材を受けることとなった優介から一緒に写真に写らないか、と誘われるが、そっけなく断っている。

 

 ・和之、優介、真理江の立ち話

優介

「せっかく雑誌に載るチャンス分けてやろうと思ったのに。」

和之

「主夫で紹介されたってな。」

優介

「だって主夫じゃん。」

和之

「臨時だよ、俺は。再確認しとくけど。」

優介

「ふーん…臨時の主夫にしちゃ手つきいいね。やっぱ体は嘘つけないっていうか。なんかこう主夫って感じになってきたよ。」

 

(中略)

真理江

「主婦になれてきたって言っても、まだまだ大変でしょ?」

和之

「主夫2ヶ月やってわかりましたけど…会社の仕事の大変さに比べたら、どうってことないですよ。」

真理江

「あら、そう。」

優介

「ちょっと出来るようになったくらいで、いい気になってるんですよ。」

和之

「主夫業出来たくらいで、いちいちいい気になるかよ。」

真理江

「そう。山村さんには主夫業なんて大したことないんだ。」

 

 このように、まだ主夫業を軽視した発言が見受けられる。また、再就職について切り出す美紀に対しても、自分が主夫をやることについてまだ納得していない様子を顕にしている。ここでは稼ぎ手=発言権があるという考え方についても触れられている。

その後、家を飛び出した和之はコンビニで優介と出くわす。美紀と笙子がワインを飲んでいる、と優介から聞き、怒った和之は「俺たちのありがたみを思い知らせてやりゃいいんだ。」と酒をカゴに入れる。山村家のリビングで和之と優介が現状について愚痴をこぼす一方、杉尾家の庭では同じように美紀と笙子が飲んでいた。夫の和之=働き手、妻の美紀=主婦という山村家のかつての図式が現実面でも心情面でも完全に逆転している。和之は、自分が働いて家族を養っているということに対して「男らしさ」を感じていたが、「主夫」という「男らしさ」を欠いた現状を受け入れられずにいる。以下の会話では、その逆転によって夫である和之、妻である美紀の両者にたまったストレスが表れている。

 

・和之と優介:山村家リビング

和之

「ちょっと稼いでいるからって偉そうに。」

優介

「お宅なんかまだいいよ。うちは稼いでる上に子供まで産むからね。もうこんな(手で天狗の鼻を作る)。」

和之

「仕込みをしたのは俺だって言ってやれ。」

優介

「他の男だったりして。ハハ。」

和之

「そういうこと言ってるからなめられるんだ。」

優介

「はーい。」

和之

「急に話し合おうなんてよく言うよ。いつも仕事から帰って来りゃ疲れた疲れたって。」

優介

「そうそう。こっちの言うことなんかろくに聞いてないくせに。そのくせ自分の言いたいことだけペラペラ喋るだろ。どっかの会社の偉いさんとランチ食ってうまかったとか。」

和之

「最初は感謝の気持ちもあったみたいだけど、どうも最近は怪しいな。」

優介

「そう。ありがとうとは言うけどさ。形骸化って奴?」

 

・美紀と笙子:杉尾家庭先

美紀

「人のことは偉そうって言うけどさ、自分だって散々偉そうにしてきたじゃないの、お金稼いでるってだけで。立場が逆になったから嫉妬してんのよ。嫌だね、男って。」

笙子

「男はね、自分の旗色悪くなると、すぐ卑屈になんのよ。」

美紀

「私なんか別に偉そうにしたいなんて思ってないわよ。でも百歩譲って私が偉そうだとしても…いいじゃない、ちょっとくらい偉そうにしたってー。」

 

 結局美紀と和之はフリーマーケットで出展することになったたこ焼き屋をきっかけに仲直りすることとなるが、そこでも主夫であることに対し、「今は主夫だよ…先のことはわからないけど。」と言っている。この時点でも、あくまでも主夫は臨時である、という考えは変わっていないことが見受けられる。

 

 第8話では理絵のお受験が主題となっている。冒頭では美紀と笙子の会話によって和之の現状が語られている。お受験に乗り気の和之に美紀が「お金かかるんじゃない?」と聞くと、「そのうち俺の就職も決まるし。」と見切り発車ぎみである。その後、杉尾家を交えて面接の練習をしたが、職業はCMディレクターと答える。本番は11月だから、自分が就職していることを仮定としている。美紀は和之がお受験に乗り気である理由として「私立は専業主婦の家庭を理想としている。だからお受験する気になったんでしょ。」と言っている。和之は美紀の言葉を否定していたが、「俺の就職も決まるし。」という台詞や、面接の練習のシーンなどから、和之が就職に対して意欲を示しているのは確かであり、台詞として明言していなくとも、心情としては「夫=働き手、妻=主婦」という形にとらわれていることが推察できる。結局口論となった和之は家を飛び出して、優介と出くわす。優介と話し合う和之は、このシーンで以下のように語っている。

 

 ・和之と優介:公園での会話

優介

「こないだ、面接の練習しているときに感じたんです。俺、亮太のためじゃなく、自分のためにお受験させようとしてたのかな、って。主夫やってるってことの誇りが足りないんすかね。だから、亮太を人にいばれるような子供にしたいっていうか。親のエゴだよなぁ。」

和之

「ねぇ、あの質問さぁ。」

優介

「はい?」

和之

「子供にとって父親と母親はそれぞれどういう存在であるべきか。」

優介

「あぁ。」

和之

「あれ模範解答じゃなくて、正直に答えるとしたら、何て答えたらいいのかな。」

優介

「じゃあお聞きします。あなたは父親と母親は、子供にとって、それぞれどういう存在であるべきなんだと考えますか。

和之

「夫婦は、平等だと思いますよ。ですから、父親だからどうとか、母親だからどうとか、とかいうより、それぞれがお互いの人生を真剣に生きて、真剣に家族を愛せれば、それでいいと思いますよ。」

 

 優介は和之の言葉に、「そういうのが出てくるようになっただけでも、進歩なんじゃないですかね」と言っている。和之は主夫を経験することにより、家族のことを考えるようになったのであろう。また、模擬面接では、父親が不在であったために会場から出て行ってしまった真理江に対し、「分かりますよ、逃げたい気持ちは。でも…ほら、お互いかっこつけたってどうせボロでるし、正直なほうが助け合えることもあるしね。」と第1話などで見られるようなプライドが高く、自分ひとりで物事をこなそうとする和之からは見られない発言をしている。

 

 第9話では節約を気にしない和之に対する優介の心配をよそに、「俺の仕事が決まれば、金の心配なくなるし。」と相変わらず就職を決めるつもりでいる。また、「早く主夫なんかやめて、自分で稼ぎたいな。」とも言っている。しかし第8話から和之が就職活動をしている場面は見受けられない。だが、現実に家計が苦しくなり、理絵の誕生日プレゼントを買えなくなると、途端に節約を始める。現実と理想のギャップは埋めがたく、当面は現実=主夫業にかかりっきりとなっている様子が見て取れる話である。結局家計は美紀のアルバイトによる臨時収入で解決する。その後は節約をしながらも、高価なプレゼントを買い与えず、家計の範囲内で出来ることをすることにした和之と美紀。真理江に手作りケーキの作り方を教わり、健児、優介と協力して部屋を飾り付けていた。和之はこれまで家計も美紀にまかせっきりであった事が伺え、この話では家計に対する意識も身につける結果となっている。

 

3節 「主夫」という選択

 

 第10話では家事に慣れた和之は優介とともにスポーツクラブで健児を相手に暇つぶしをしている。美紀には「いいじゃない、暇なんだからさ」とこれまで和之が美紀に対して言っていたようなことを言われるほど。優介に誘われてスーパーでパートをはじめる、と美紀に言うと、美紀には家事や理絵の世話、就職活動はどうするか、と反対される。第1話と立場を逆にして、同じような口論が展開されているのである。

 結局和之は忙しさのために理絵にかまってやれない、ということでパートを辞める。

 

 ・和之と美紀の会話

和之

「お前理絵が産まれる前、ずっと仕事と家事、両方やってたんだよな。」

美紀

「そうだよ。」

和之

「よくやってたよな、一人でさ。ちょっと尊敬する。俺には両方は無理だ。今は専業主夫で、いい。」

 

 ここになって和之の口から明確に、自分が専業主夫であることを受け入れる言葉が出る。和之にとって主夫を始めてからの一番の変化の表れといえる。しかし、かつて和之が制作したCMが権威ある賞を受賞することとなる。

 

 第11話では、受賞パーティに出席した和之。パーティにはCM業界の有力者たちが集い、再就職の道も開けそうである。しかし、美紀に再就職が決まれば共働き、と言われると話をはぐらかしている。第10話でも取り上げられたが、和之は共働きには消極的である。

 また、健児とけんかをして相談のために冴子に呼ばれた和之はこう語っている。

 

 ・冴子と和之

冴子

「どうしたら山村さんみたいに自分の道をみつけられるんですか?」

和之

「自分の道だって…。僕なんか別に。」

冴子

「そんなことないですよ。大きな賞を取って。」

和之

「賞を取ったのは、あれは会社にいた時作ったCMです。今の自分じゃないです。…妻の出張にやきもちやいて、仕事が決まらないんでイライラしている。それが今の自分だ。」

 

 このように、和之は「会社にいた頃の自分」と「今の自分(主夫としての自分)」をはっきりと区別した台詞を言っている。そしてこれは、今の主夫という現状に置かれている自分を認めている発言でもある。ストーリー序盤の社会人としての和之とは正反対である。また、理絵が風邪を引いたときもこれまでとは違い、素直に優介に助けを求めている。

 夫婦の立場の逆転がこの話でも見受けられる。美紀は仕事にかかりっきりで、風邪を引いた理絵にまで気持ちが回らない。和之は「仕事は大事にしろよ。こっちは俺に任せろ。」と応じている。

 そして、和之にかつての部下である加藤から再就職の話が舞い込むが、理絵の風邪を理由にその話を蹴る。「今はこっちのほうが大事だから。」和之の言葉に加藤は「山村さんがそんな事を言うなんて。」と驚く。かつての和之を知るものにとって、信じられない変化である。

 

 第12話では、和之に大手企業から就職の話が舞い込む。しかしビジネスの電話であるにもかかわらず、電話片手に理絵の相手をしている。上海への5年の海外赴任が決まる和之。しかし、美紀は和之と話し合い、正社員契約になることが決定し、理絵も今の幼稚園から離れるのは嫌がるだろう、と告げた。これまでは亭主関白で、家族に相談することなく事を進めがちだった和之がちゃんと家族と話し合いの場を持つようになっている。理絵は和之と美紀のために我慢して上海へ行くことを和之に告げる。

 ぬか床を作る和之を満足そうに見つめ、アドバイスをする優介。しかし海外赴任する和之は「まぁ、もういいや、いまさらね。」と一旦は断る。しかし再び優介を呼びとめ、ぬか床の作り方を教わる。ここでは優介から見た和之の主夫としての印象が語られており、優介からは、第1話で反感を覚えたようなプライドの高い和之の姿は見て取れないのである。

 

 ・和之と優介:山村家キッチンにて

和之

「やっぱり教えてくれるかな?ほら、最後ぐらいちゃんとやりたいし。」

 

(優介、和之にぬかどこの作り方を伝授する)

優介

「まぁ、しかし、この姿がもう見れないと思うと、何か惜しいっすね。」

和之

「そんなに笑えるかね。」

優介

「だってこの、肩から背中のラインにかけてが、どう見ても仕事が一番!って言ってるようには見えないっすからね。…冗談ですよ、冗談。」

和之

「まったく、くだらない事で。」

 

 山村家は和之が美紀にプロポーズした思い出の海岸へ行く。貝殻を山村家に見立て、「これから上海行くんだよ。」と海へ流す無邪気な理絵の姿を見て、和之はこぼした。

 

 ・山村家:思い出の海岸

和之

「ちくしょ〜…。どうしたんだろうな、俺は。」

美紀

「何が?」

和之

「順番が変わってる。」

美紀

「順番?」

和之

「俺は仕事が一番大切だと思ってた。でも、気が付いたら、お前と理絵とこうしてることが、お前たちの笑顔がさ、何か、一番大切になってる。ね、仕事続けたいんでしょ。」

美紀

「ううん、いいのあたしは。」

和之

「正直に言えよ。続けたいんでしょ。」

 

(うなずく美紀)

和之

「やっぱりやめるわ。断る。上海行きの話。」

 

(中略)

美紀

「でも後悔するよ。だって行きたいんでしょ。」

和之

「だから、もう順番が変わったんだよ。」

美紀

「主夫、続けることになるんだよ。」

和之

「主夫かぁ。ま、しょうがないよね。東京でいい仕事が見つかるまで我慢するよ。それまでお前もさ、俺の主夫で我慢してくれよ。」

 

 翌日からいつもどおりの生活に戻った山村家。理絵は「何かパパがママみたい」と言う。最終話クライマックスで、和之は仕事より家庭を選択することとなり、大団円で物語は終わる。しかし、山村和之はこれかもずっと専業主夫として生活していく、とは言っておらず、あくまでも再就職を目指している。

 

4節 「主夫」和之、再び

 

 山村一家が上海行きを諦めてから3カ月経つが、山村和之は専業主夫を続けていた。一方、杉尾家では、笙子は臨月を迎え、加えて自宅出産したいというので助産師の越川から説明を受けていた。

 片や美紀は、別冊号のチーフに抜擢されたが、ミスを挽回するため一人で仕事を続ける美紀は、娘の理絵の幼稚園の運動会にも出かけられなくなり、和之と美紀は口論になってしまった。

 

 ・和之と美紀の口論

和之

「これでお前共働きなんてできるの?」

美紀

「悪いけど、今そういう話してる余裕なんかないの。」

和之

「お前さ、お前子どもの頃お父さんが忙しくて、寂しい思いしたんだろ。」

美紀

「(溜息をつく)何よそれ。」

和之

「理絵に同じ思いをさせていいのか。」

美紀

「あなただってさんざんやってきたことじゃな、あたしばっかり責めないでよ!」

 

 和之がこれまで送ってきた仕事優先の生活が、第3話などで見られたように夫婦間で逆転して行われている。それに加え、今度は子どもである理絵にまで関わってきている。美紀がこれまで感じてきたことを、和之が身をもって感じている、というシーンである。

 運動会の準備に出かけた和之と理恵、その頃杉尾家では笙子が産気づいていた。しかし優介は頼まれていた講演の当日であった。困り果てた優介は和之に講演を依頼する。必死な様子の優介に、和之は講演をすることとなる。和之はしどろもどろながらに自分の経験を語る。

 

 ・和之の講演

和之

「ただ、今わかるのは、前よりも家族と、家族っていうのは妻や娘ですけど。妻や娘とより深く付き合えるようになったっていうか…。あぁ、それと、主夫をやって、これだけはよかったって自身をもって言えるのは、妻はずっとこんな大変なことをやっていたんだって、身をもってわかったことです。まぁ、感謝できるようになったのはほんとによかったっていうか…。美紀…ありがとう。そして、ごめん。不満ばっか言って、お前だって苦しんでいるのに。それと、主夫をやってもう一つわかったことは、俺はお前や理絵に支えられているんだって事。だから、俺も、もっとお前の力になってやれるはずで…。家族なんだしね、一人じゃないし、みんなで力を合わせてやれば…。」

 

 これは和之の本心の表れであり、スペシャル版でのクライマックスシーン、もっともアピールしたいポイントであろう。和之が主夫を経験することにより、家族の大切さを認識している様がうかがえる。

 しかしラストシーンではやはり再就職について優介に軽口を叩くように言っている。

 

 ・和之と優介:ラストシーン

和之

「今はいいけどさ、再就職するし、その内。」

優介

「なんだかんだ言って主夫続けたいんでしょ?」

和之

「全然。」

 

 この和之と優介の対話は、あくまで冗談めかして描かれているが、結局のところ、主夫というものを肯定的に受け入れ、自ら主夫になろう、という台詞は明言されていないのである。

 

5節 第4章のまとめ

 

 ここまで、ドラマ13話を通しての変化を見てきたが、大きな変化は「主夫」になるきっかけとなり、「主夫」を継続する要因となった家族の存在、それを意識することにある。また、「主夫」への転身を遂げたのちの和之に関わる描写として非常に多くみられるのが、夫婦の立場の逆転により家族を意識し、これまで不可視の労働を行ってきた美紀の心情を理解する、という描写である。これらの描写が和之の心情にどのような変化を与えたか、ということについては次章にて述べたいと思う。

 

 


5章 考察

 

 アットホームダッド第1話において、主人公の和之は家事労働は女性のすること、男がやることではないという考えを持つキャラクターとして描かれている。第12話では、和之は条件の良い再就職ではなく「主夫」を選択することとなる。この変化に至る原因として、「家族の存在」が大きなウェイトを占めている。ドラマでは描かれていないが、番組内で美紀との会話の台詞等から和之は主夫になる以前は家庭を顧みず、家族に関わる問題についても家族には相談せずに、自分で決定を下していたことがうかがえる。つまり和之は、第2章でも述べたように、「男らしさ」の枷に捕らわれた一人の男として描かれている。その和之が「主夫」になるというストーリーにより、一般的なサラリーマン家庭に見られる「和之が外で働き、美紀が家事を行う」という図式が逆転し、和之は家族と触れ合う機会が増えることとなる。その結果、自分の家を守る「主夫」としての現状と、男は働いて家族を養うべきであるという「男らしさ」の板挟みにあっており、そのジレンマが美紀との度々の夫婦喧嘩という形で描かれているのである。そして物語は、和之が「主夫」という視点から各話で取り上げられる家事、育児、仕事などの問題を通して家族の大切さを知る、というストーリー構成になっており、その結果が表れているのが、第12話における海岸での和之の台詞及び、スペシャルでの和之の講演内容である。これは、家族を大切に思うがゆえに「主夫」としての生活を送ることを選択した和之の、「主夫」としての成長が描かれているシーンである。しかし、第12話の海岸のシーンにおいては、主夫をすることについて、和之の台詞「東京でいい仕事が見つかるまで、我慢する。」とある。主夫業を積極的に行おうというわけではなく、今までどおり「再就職が決まるまでの暫定的立場」として、やや消極的ながら主夫を継続するのである。これは、主夫としての経験を経ながらも「男らしさ」の一つのステータスである「稼ぎ手、養い手」として就職にこだわり続ける和之の葛藤の表れ、そして、その「男らしさ」を意識しつつも家族のために「主夫」を継続し、男性問題にうまく折り合いをつけている様を描いているのである。

 第12話において和之が決断を下すシーンに至るまでの過程として、和之が「主夫」になることによって、家事、育児、仕事などの問題を通して家族の大切さを知ることが描かれている、と上記した。それらの問題は大きく夫婦間、家族間に分類して述べたいと思う。まず、夫婦間での問題について述べたいと思う。夫婦間問題については、「夫が働き妻が家事をする」という立場の逆転の描写が大きい。これは和之と美紀の夫婦喧嘩のシーンによく表れている。和之が主夫になることにより、家事労働の大変さと大切さに加えて妻であり、これまで主婦として家事を引き受けてきた美紀の心情を知ることとなり、結果として再就職よりも主夫を継続するというラストシーンへとつながっている。家族間問題には、夫婦間問題も含まれるが、そこへ娘である理絵も関わってくる。和之が主夫になった原因の一つとして理絵の世話をしなければならない、というものがある。そして、理絵の世話を通して、自分がサラリーマンであった頃はいかに理絵について知らなかったかを実感することとなる。第5話、母親参観日のシーンでは理絵がプレゼントのエプロンに美紀と和之の顔を描いている。理絵が「和之は家事を行う人である」と考えていることがはっきりと描かれている場面であり、和之が「主夫」である、ということが改めて認識される象徴的なシーンである。これら家族に関する問題を経て、家事を行うものとしての立場である「主夫」の視点を通すことにより、第2章で述べた「再生産労働」というものを身をもって知ることとなり、これまで「再生産労働」を行ってきた美紀がいかに重要な存在であったかを知ることとなるのである。この和之の心情が描かれている場面としては、第9話での美紀との会話シーンでの和之の台詞「今まで自分ひとりで稼いでこの家買ってたと思ってたんだよ。けど、ほんとは違うんだね。」や、第11話での美紀との対話「お前理絵が産まれる前、ずっと仕事と家事、両方やってたんだよな。(中略)よくやってたよな、一人でさ。ちょっと尊敬する。」が挙げられる。

このドラマは、エリートサラリーマンであった主人公である和之が「主夫になる」ことをメインテーマとして描いたドラマである。ドラマにおいて和之は、第3章のあらすじでも述べたように、第1話で主夫を始めた当初は、失業と美紀の就職、家事の必要性と理絵の世話に迫られたためにやむなく選択した、という描写がなされている。もちろんこの「主夫」という選択肢は和之が家庭内での発言力、主夫を軽視した態度の描写を鑑みると、強制的になされた決断ではない。しかしながら、その和之が「主夫」を選ぶこととなった原因としては「家族の大切さ」が大きく、前述したとおり、第1話での最初に主夫をやると決めたときから最終話において再就職を断るまで、番組内での描写も頻繁に行われている。また、主夫を継続していく上での「家族の大切さ」以外の要因として、美紀の就職による経済の安定、優介の助力による家事の上達が挙げられる。

現代においては、第1章でも述べたとおりに、女性の社会進出により、男性が家事を行うことに対する社会的な抵抗が薄れてきている。その結果として、「主夫」という存在も注目され、新聞やテレビなどで取り上げられるようになり、主夫の体験談などを書籍として出版したり、ドラマ内の優介のようにウェブサイトにおいて主夫が自身の日常を発信したりしている。現代日本において、「男も家事をしやすい」土壌ができつつあるのである。しかし繰り返し述べるが、ドラマにおいて和之は「主夫」という自分の現状を「一時的なもの」として捉え、あくまで再就職を目指すという描写がなされている。いくら「男も家事をしやすい」「主夫になりやすい」土壌ができつつあるとはいえ、当の男たちがいまだ「男らしさ」というものに捕らわれていれば、「恒久的な主夫になる」という結論は生じにくいのである。つまり和之は、主夫という立場にありながらも男性中心社会の中に意識を置く人物なのである。「男も家事をしやすい」土壌の形成など男性中心社会が崩壊しつつある中、それでもドラマの中での和之は再就職を目指し、主夫を「一時的な」立場であるととらえていた。「仕事」と「主夫」の間で板ばさみにあいながら、「主夫」という存在を認めつつも、自ら積極的にその「主夫」にはなろうとしない和之。その状態でドラマを完結させるということこそが、現代の男たちをめぐる世相を反映していると言えるのではなかろうか。


参考文献

 

伊藤公雄,1993,「<男らしさ>のゆくえ 男性文化の社会学」新曜社

萩原なつ子,1997,「8 「男らしさ」からの解放」岩男寿美子・加藤千恵『女性学キーワード』有斐閣,22-23

萩原なつ子,1997,「28専業主婦のゆくえ」岩男寿美子・加藤千恵『女性学キーワード』有斐閣,74-77

国広陽子,1997,「34家事労働」岩男寿美子・加藤千恵『女性学キーワード』有斐閣,90-91

大越愛子,1996 ,「フェミニズム入門」筑摩書房

高橋裕子,2002 ,「「女らしさ」の社会学―ゴフマンの視角を通して―」学文社

読売新聞,2004,「いきいき力セミナー」読売新聞

Claudia von WerlhofSchattenarbite oder Hausarbite? Zur Gegenwart und Zukunft von Arbite.(=丸山真人編訳,1986,『家事労働と資本主義』岩波現代選書)49-100

 

 

参考URL

 

フジテレビ,2004,「アットホームダッド公式サイト」(http://www.ktv.co.jp/dad/

フジテレビ,2004,「アットホーム・ダッド」(http://www.fujitv.co.jp/b_hp/dad/

フジテレビ,2004,「アットホーム・ダッド スペシャル」(http://www.fujitv.co.jp/b_hp/0928dad/

ビデオリサーチ,2004,「株式会社ビデオリサーチ ― Video Research Ltd.」(http://www.videor.co.jp/index.htm

内閣府男女共同参画局,2004,「内閣府男女共同参画局」(http://www.gender.go.jp/

厚生労働省,2004,「厚生労働省ホームページ」(http://www.mhlw.go.jp/index.html

 

 


巻末資料

 

「アットホームダッド」番組データ

 

脚本: 尾崎将也 旺季志ずか

制作: 関西テレビ MMJ

出演: 阿部寛 宮迫博之 篠原涼子 中島知子 ほか

放送期間: 420日〜629日  928日(スペシャル)

放送局: フジテレビ

最高視聴率: 19.1%(関東地区、ビデオリサーチ調べ)

 

「アットホームダッド」登場人物

 

山村和之(阿部寛)  主人公。退職を余儀なくされ、再就職までの間主夫をすることとなる。

山村美紀(篠原涼子) 和之の妻。かつての同僚に声をかけられ、雑誌編集者に復職。

山村理恵(安藤咲良) 和之と美紀の娘。

杉尾優介(宮迫博之) 以前は共働きであったが、笙子の経営する会社が成功。以後、専業主夫となる。

杉尾笙子(中島知子) 優介の妻。人材派遣会社の社長を務めるキャリアウーマン。

杉尾亮太(吉川史樹) 優介と笙子の息子。理恵と同じ幼稚園へ通っている。

大沢健児(永井大)  和之や優介が通うスポーツジムのスイミングインストラクター。冴子とは恋人同士。

倉本冴子(滝沢沙織) 理恵たちが通う幼稚園の保育士。

上田聡(中村繁之)  美紀の上司。雑誌の編集長。

岩崎真理江(川島なお美) 近所の主婦の女王的存在。彼女に睨まれては町内で生きていけないらしい。

 

「アットホームダッド」各話あらすじ

 

1話 「男子厨房に入る」

 大手広告会社に勤務する山村和之は、念願のマイホームを手に入れた。そのマイホームに入った和之は、満足そうに床に寝そべっていた。そこへ娘の理絵と妻の美紀が現れる。美紀が理絵と庭に出ると、隣りの杉尾家のご主人と目があった。杉尾家では、妻の笙子、夫の優介、理絵と同じ幼稚園に通う息子の亮介が一家団欒しながら、お隣さんについて会話していた。杉尾家は、笙子がキャリアウーマンとして稼いで、優介は家事をこなしている「専業主夫」という構成の家族であった。

 美紀は、優介から専業主夫になった経緯を聞いた。かつては共働きだったが、笙子の始めた人材派遣会社の成功をきっかけに、優介は仕事を辞めて家庭に入ったのだった。帰宅した和之は、無人の新居で引越しの途中に居なくなった美紀に対して抗議の電話をかけた。仕方なくスーパーに夕飯を買いに行くと、偶然優介と出くわした。優介がお隣りさんとは知らない和之は、美紀からの電話に思わず大声で答えた。「仕事やめた?男のプライドはないのかね」後ろに並んでいた優介は、気まずい表情。翌日、その優介が隣の主人と知った和之も気まずい表情になった。

 仕事に出た和之は上司から呼び出され、子会社への転籍を命じられた。しかし、出向先の子会社は、解散されることに決まっていた。和之は、会社を辞めることとなった。一方、美紀はかつての同僚に呼び出され、新創刊の雑誌を手伝ってほしいと頼まれた。仕事に復帰はしたいが、和之が美紀を主婦にしておきたいため、断ることとなった。編集長の上田聡からも、仕事についてゆっくり考えてくれるよう言われた。

 失業となった和之に対して、金銭面での不安を打ち明ける。すぐに就職先をあたる和之だったが、仕事は一向に見つからない。美紀が仕事を誘われた、と切りだすと、和之は自分に主夫をさせるのか、と怒り出す。主夫なんてまっぴらだと美紀と口論していたが、その会話を優介に聞かれてしまう。その後優介と話し合うことになったが、結局優介とも口論となってしまう。家に帰った和之は一時的にではあるが、主夫になることを決意する。翌日、主夫の仕事の多さに驚き、上手くいかず食事の片付けで食器を割ってしまう。

 

2話 「主夫は一日にして成らず」

 和之の主夫としての初日はおおわらわ。髪の毛を上手く結ってもらえずぐずる理絵を抱えて、バス乗り場へ急ぐ和之。しかし、バスに追いついたと思いきや、降りてきた担任の冴子に停留所を間違えたことを教えられた。走りすぎて、一つ手前の停留所まで遠回りしてしまった。次の停留所では、優介が息子の亮太を連れて、近所の主婦たちと立ち話をしていた。和之がバスから降りると、真理江が声をかけてきた。しかし主夫を「骨休め」という和之の一言が、真理江をカチンとさせていた。全然反省していない様子の和之に、優介がさらに困ったことがあったら言ってください、と申し出たが和之は「お気持ちだけもらっておきますよ」と一言。優介もこれにはご立腹の様子。

 帰宅した和之は掃除や洗濯、料理をするがどれも失敗してしまう。おまけに理絵の送迎バスの時間を忘れ、優介に注意される。和之は理絵を連れて家に戻っるも、濡れて洗剤がとけ残った洗濯物が山積み。テーブルの上にはオムライスの食材が放置されていた。そんな和之に追い打ちをかけたのは、応募していた会社からの不採用通知。 落ち込む和之をさすがに優介も見かねたのか、未だ社会人としてのプライドに拘る和之を諭す。ようやく和之も折れ、優介の手伝いを頼んだ。優介に手伝ってもらい、家事をこなす和之。それを見守る理絵。料理をつくり終えた和之の元へ美紀が帰宅する。美紀が理絵にこっそりお隣のご主人が来たの、と聞くが理絵は頑なに和之が一生懸命作った、と言う。 頑張った和之に対し、美紀はねぎらいの言葉をかける。しかし、自分が主婦だった時もほめて欲しかった、ともらす。

 

3話 「主夫の心 妻知らず」

 主夫を始めた和之の家事は、しかしながら一向に上達しない。皿洗いでキッチンはびしょ濡れ。おまけに誰に会うわけじゃない、と不精ひげが伸び放題となっていた。一方杉尾家では、優介が笙子の晩ごはんに付き合っていた。美紀のような女性が職場復帰すると、浮気の危険があると笙子は言う。主夫友達ができて嬉しそう、とも優介に言うが、優介は見てられないだけだよ、と言う。

 美紀は、仕事が遅くなり、編集長の上田に車で自宅前まで送ってもらった。たまたま通りかかった真理江は、車内の2人がキスしているように見えた。帰宅した美紀は、チラシの安売りをチェックしている和之の姿を見ると、苛立ってしまう。そして自分の下着を干そうそしている和之に対してつい声を荒らげてしまった。美紀はその苛立ちを笙子にこぼした。「男には、男らしくいてほしいんでしょ?」と、笙子にも覚えのある感情だった。美紀は今まで男らしく仕事をこなしていた和之に違和感を感じてしまったのである。

 翌日買い物に出かけた和之と優介。倹約が常の優介は、結婚記念日ということで高価なワインを買い込んでいた。昨夜の美紀の様子が気になった和之は優介にたずねてみた。「おいしいものでも作ってみれば?家族の健康管理も仕事のうち」と優介は助言をする。一緒についてきた健児も納得した顔で聞いていた。帰宅後、和之は辞めた会社の元部下から、知り合いの広告会社で即戦力の人材をさがしていると聞いて、すぐに面接に出かけた。面接の感触は上々であり、和之は美紀の会社まで出かけ、仕事が決まったらすぐ交代できるようにしとけ、と伝えた。しかし美紀は仕事でミスをしてしまい、その挽回に追われることになる。

 杉尾家では、結婚記念日を祝う豪華な料理をテーブルに並べた優介が笙子の帰りを待っていた。浮かれた優介がドアを開けると、妻が会社の部下を連れてきてしまった。一方、山村家でも美紀の好物であるビーフシチューを作って待っていた。しかし美紀は仕事のミスを挽回したことから、編集長にもんじゃ焼きをご馳走することになった。チャイムが鳴り、和之がドアを開けると真理江が玄関に立っていた。真理江は昨晩美紀が男とキスをしていたのを見た、という。その事で帰ってきた美紀と口論になってしまい、家を飛び出した和之は公園で優介と出くわす。優介も笙子が結婚記念日を忘れていたことに腹を立てていた。和之はかつての自分を思い出し、自分が美紀に対しても今日の美紀と同じ事をしてきた、と理解する。

 

4話 「老いては主夫に従え」

 美紀が帰宅すると和之がミシンと悪戦苦闘していた。理絵の手提げ袋を縫っていたのだ。しかし翌朝、そのひどい出来栄えに理絵は一目で嫌がったが、和之は無理に持っていかせた。和之にミシンを教えることになった優介も呆れていた。

 美紀は出勤途中の笙子からグチを聞かされた。夫婦共同で使っているパソコンのホームページの履歴が毎日全部消去されているのだ。美紀は苦笑すると、美紀の母親の光江から電話がかかってきた。美紀は光江には、和之が会社を辞めて、自分が働いていることをまだ伝えてなかった。美紀が事情を説明する前に、光江は和之と鉢合わせていた。しかし、たまたま現れた真理江に事情を話されてしまう。光江は和之につめ寄った。事情を知った光江は「みっともないわねえ、男の人が主夫やるなんて」と漏らした。

 その夜の山村家の食卓には光江の手料理が並んでいた。食事の場で光江は「今日から私がこの家の主婦になる」と言う。光江に引き取ってもらうには、新しい仕事を決めるのが先決だが、和之の条件にあう会社はなかなかない。そんな矢先、今度は美紀の父から連絡があり、光江は家出したということを知らされた。和之が家に戻る、和之は家出の訳を光江に聞いた。顔色の変わった光江だったが、気まずい空気を電話の呼び出し音が破った。

 和之と光江が幼稚園に駆けつけると、泣きべそかいた翼を真理江が抱きしめていた。理絵が突然、翼を泥の中に押し倒したという。理絵はそっぽを向いて黙ったきり。和之より前に出て光江が真理江、母親が働いて、父親が子供の世話をしているからいけない、と謝罪した。家に帰っても理絵は黙ったまま。厳しい表情で、和之は理絵に問いかけた。しかし怒った理絵はトイレに立てこもってしまう。その後、亮太によって理絵が翼を押し倒した理由が明らかにされた。翼が理絵に対して不憫だ、といったためである。そこへ美紀が帰宅し、コインであっさりとトイレを解錠する。そこでは理絵が和之の作った手提げ袋を抱えて眠っていた。

 その夜、光江は山村家の様子を見て、帰宅することとなる。光江が家出した理由は昼食の餃子が美味くない、といわれたことであった。一方杉尾家では、笙子が家計を見て優介を問い詰めていた。優介はネット株で損したことをあっさりと白状した。

 

5話 「産みの母より 育ての主夫」

 山村家、杉尾家では、妻が働いて疲れたから、と夫婦生活がおざなりになっていた。翌日、優介が新品の水着でスイミングプールに現れた。健児が値段をたずねると、笙子には安い値段だと嘘をついた、と優介の表情が曇った。自分のものを買うのが後ろめたい、とのことだ。和之も最近遠慮して自分のものを買っていない。

 美紀は、産婦人科から出てきた笙子と出くわした。笙子は妊娠していたが、表情は浮かない。会社の仕事が忙しく、悩んでいたため、しばらく優介に内緒にして欲しいといわれた。美紀は約束すると、笙子から「必要ないから」と妊娠判定薬をもらった。それが和之に見つかってしまい、誤解をとくため、笙子が妊娠していると伝えた。

 翌朝、笙子が通勤途中に腹部を押さえてうずくまった。美紀が産婦人科に付き添っていったが、大事には至らなかった。優介について笙子は「少しは自由にさせてあげないと」と美紀にもらした。優介は、会社に行ってない笙子を不信に思い、和之に探りをいれていた。優介は笙子の浮気を想像してしまった。笙子に離婚されては生きていけない、と優介は落ち込んでいたが、和之は真実を伝えることが出来なかった。山村家に冴子が家庭訪問にやって来た。まもなく母親参観日があるという。

 笙子が帰宅して、ご飯の匂いに吐き気をもよおしたので優介は妊娠に気づいた。一瞬たじろいだが、笙子の前で喜んで見せた優介は、和之を誘いだした。沈んだ表情の優介は「笙子におめでとうって言えなくてさ。俺、家事と子育てで一生終わっていいのかな」とこぼした。翌日、そろってハローワークに出かけたが、なかなか条件に見合う仕事はない。「家の家事ぜ〜んぶ替わってやれるのに、お産だけは替わってやれないからなぁ」和之はかける言葉が見つからない。

 和之は優介のために0歳児保育の出来る保育園を探すことにする。しかし訪ねた保育園は定員いっぱいであり、両親ともに働いている家庭しか受け入れが出来ないようだ。しかし諦めず、帰宅してからも理絵と一緒にネットで保育園探しを続けた。

 その夜、杉尾家では出産は無理だ、と笙子が優介に言った。仕事の予定から出産しても育児はすべて優介に任せることになってしまう。「優介に犠牲になってほしくないの。残念だけどあきらめよう。」優介は、笙子に安心して出産させてやれないため、一人泣いていた。

 母の日の参観日、理絵のプレゼントのエプロンには和之、美紀の二人が描いてあった。亮太のプレゼントのエプロンには、優介が描かれていた。亮太の優介に対する気持ちを感じて、優介は家族の大事さに気づき、笙子に出産して欲しいと説得することを決意する。和之は優介に「そんな生き方もあるんだな」と感心する。

 

6話 「苦しいときの主夫だのみ」

 幼稚園でシンデレラの劇をすることとなり、理絵がシンデレラ役に選ばれた。和之は家事そっちのけでつきあわされている。隣の家で洗濯物を取り込んでいた優介も練習に参加した。ちなみに亮太はネズミ役であった。

 美紀には正社員の話が持ち上がっていた。しかし家庭の事情を考えて少し悩む美紀。山村家、杉尾家の食卓では、劇についての話で盛り上がっていた。その頃、健児は冴子のアパートで、劇で使う小道具作りのお手伝い。そこへ真理江から電話がかかってきた。電話を切った冴子は暗い表情になっていた。

 「あの人は私を専業主婦に戻すって発想しかないみたい」と美紀は笙子に愚痴をこぼした。仕事と家庭について話し合う美紀と笙子。美紀は正社員の件について話し合うことを決意する。

 和之が理絵を幼稚園に送り届けると、冴子から真理江が劇の台本にクレームをつけてきた、と相談された。和之はその場かぎりの話だと思っていたら、優介と買い物から戻ってくると冴子が本当に自宅前で待っていた。真理江から再び台本にクレームが入ったのだ。冴子の頼みに、優介が自信たっぷりに約束してしまった。結局、成り行きで和之が手伝う羽目になった。

 しかし、冴子からは内緒で、と念を押されたのに一番知られたらまずい真理江の耳に入ってしまった。スイーツクラブで、二人は厳しい目で主婦たちに睨まれ、あれもこれもと台本に注文をつけられてしまい、結局は、和之が修正を入れることになってしまった。

 美紀は正社員についての話を切り出すが、和之は仕事が決まったら理絵の世話はどうするのか、自分が働けば生活の心配はない、と言う。「私はただ自分を大切にしなきゃ、家族も大切にはできないって思ってる」和之は物思いにふけっていたが、やがてパソコンに向かって、シンデレラ劇の原稿を打ち始めた。

 劇の発表会当日。仕事が入ったという美紀に、理絵は元気がない様子。美紀は理絵をとりなし、理絵は笑顔になったが、和之は面白くない。「劇には間に合わせるわ。仕事続けても、こういうことまで犠牲にするつもりないの」劇の開幕直前になって美紀は飛び込んできた。「でも私、やっぱり仕事続けるなんて無理かな。理絵を不安にさせてると思うと気が気じゃなくて。」美紀の言葉に和之が驚くと同時に、劇が始まった。途中でハプニングに見舞われるものの、亮太が機転を利かせて劇は無事終了。シンデレラのクライマックスの台詞「自分を大切にしなきゃ、家族は幸せに出来ない、そう思うの」それは美紀が和之に対して言ったものであった。

 帰宅後、美紀が和之に対して台詞にこめられた意味を聞くが、和之は、あれは「その件についてゆっくり話し合おうって意味だった」と言った。

 

7話 「出る主夫打たれる」

 和之が条件に合う会社が見つけられずに帰宅すると、お隣りの山村家では優介が主夫について雑誌の取材を受けていた。主夫同士一緒に取材を、と優介は言うが、和之はあくまでも自分の主夫業は臨時のつもり。それにしては家事の手つきがよくなった、と優介に指摘されて面白くないものだから、つい真理江の前で会社の仕事に比べたら、どうってことないと口走ってしまった。真理江がカチンときたことに和之は気づかなかった。そんな和之だから美紀が正社員になる相談を切り出しても「俺の仕事が決まってからにしてくれよ」とはぐらかした。「金稼いでいる方が強いから、今話すとそっちに有利だろ」と声を荒らげる始末。

 一方、お隣りの杉尾家も怪しい雲行き。原因は優介が選んだ取材写真に笙子がクレームをつけたこと。笙子のしわ取りクリームが写っていたためである。2人は顔をそむけあった。笙子は美紀を呼んで憂さ晴らしに杯を酌み交わしていた。

 美紀と笙子が出勤すると、和之と優介はわが子と送迎バスの停留所へ。すると真理江が和之に声をかけてきた。今度の土曜日に公園でフリーマーケットを開催するが、和之にたこ焼きの店をやってもらいたいという。優介が心配してくれたが、和之は美紀が幼稚園のバザーでたこ焼き屋をやったことを思い出し、美紀の会社まで出向いて謝った。そこに上司の上田が現れて空気が変わった。「奥さんには、いつもお世話になってます。貴重な戦力です。出来れば、手放したくないです」上田に他意はなかったが、和之はカチンときた。さっさと店を後にし、肝心のたこ焼きの作り方を聞きそびれてしまった。

 和之は、優介と2人でたこ焼きと格闘することになった。フリマは明日。粉の加減が分からないから、団子になったりドロドロになったり。試食を楽しみにしていた理絵と亮太の姿が見えないと思ったら、お隣りでは美紀、笙子と一緒に出前の寿司をおいしそうに食べているた。和之と優介は悔しそうに見てるだけ。テーブルの上はふぞろいなたこ焼きが山積み。「意地張らないで、奥さんに作り方聞きなよ」。しかし和之は聞こえなかったかのように黙々と後片づけを続けた。

 フリマ当日。和之は、朝早くからたこ焼きの道具を抱えて会場の公園へ。和之は客に声をかけるが、客はまったく寄りつかない。諦め気分で焼いていると、ふいに声をかけられた。「たこ焼きくださーい」。美紀と理絵が立っていた。「こんなの真剣にやることじゃないだろ」美紀のせっかくの言葉に、そう答える和之に、理絵がいきなり背を向けた。「パパかっこ悪い」理絵はプイと行ってしまった。昨夜の真剣にたこ焼きを作る和之が楽しそうだった、と美紀は言う。和之は考えこんだあげく、美紀にたこ焼きの作り方を尋ねた。美紀と理絵の手助けにより、その日、たこ焼きの露店は成功に終わった。

 

8話 「主夫老い易く 学成り難し」

 山村家の朝食。和之は美紀が仕事を続けることに同意した。「お受験したい」と理絵の突然の言葉に驚く和之と美紀。幼稚園で真理江の息子、翼が『お受験』すると聞いたらしい。山村家では夫婦ともに公立校で十分だと考えていたが、真理江から勧められたこともあり、和之の心は揺れはじめた。さらに、亮太は消極的だからと言っていた優介まで関心を示した。

 和之はお受験についてネットで色々調べていた。理絵が受験の問題例を解くと、「天才だ」と絶賛。和之はすっかり乗り気になっていた。その夜、美紀は笙子と杉尾家の庭先でお受験について話し合っていた。和之は本気の様子で、真理江に誘われて優介とともに受験のための学習塾の説明会に参加。父親が主夫、というのは前例がないらしい。真理江がお2人も模擬面接を受けてみれば、と言ってきた。親子3人で面接の予行演習をするとのこと。和之も優介も申し込んだ。もちろん真理江も受ける。

 和之は優介に面接官役を頼んで早速、練習につきあわせていた。ところが、その優介から真顔で「うちもやってくれる?」と返された。お互い、熱心に模擬面接の練習を始めた。父親だけは熱心である。

 和之と美紀は理絵の受験をめぐって言い争ってしまった。「私立は専業主婦の家庭を理想にしている。だからお受験する気になったんでしょ」和之が家を出て公園へ行くと優介がやって来た。優介はお受験をやめるらしい。主夫に対する引け目から、亮太に受験させようとしている自分に気づいたという。「子供にとって、両親はどういう存在であるべきなんだろう?」優介の問いに和之は自問自答した。「夫婦は平等です。だからそれぞれが自分の人生を真剣に生き、家族を愛していれば」それは、面接マニュアルの模範解答ではない、和之の本音だった。

 模擬面接当日。山村家が控室に入ると、真理江と翼が。「今杉尾さんたちが面接受けてるわ。」和之が首をかしげていると、杉尾家が出てきた。「お金払ったんだから面接受けないともったいないでしょ。」笙子が上機嫌で話していると係員が入ってきた。和之は緊張しながら面接室のドアを開けた。

 面接を始めるも、和之の頭は真っ白。練習したのに上手く言葉が出てこない。控室に戻ると、美紀は苦笑まじりで笙子に「本番に弱いタイプ」と報告。総評では絶対落ちると言われた。いよいよ真理江と翼の順番になった。しかし真理江の夫は連絡が付かない。青ざめた真理江は翼の手を引いて控室から駆け出していった。真理江は追ってきた和之たちに別居状態である、と告白する。しかし、翼の「僕がいるよ」との言葉に、涙とともに息子を抱きしめた。

 結局理絵はバレエを習いたいと、お受験はすっかり頭にないようだった。

 

9話 「金の切れ目が主夫の切れ目」

 安いからと大量に買い物をする和之に優介は呆れた。家計簿をつけているか優介が心配しても、和之は「俺の仕事さえ決まれば金の心配もなくなるし」と意に介さない。そんな調子で理絵の誕生日にも、高価な『おとぎハウス』をあっさり約束した。しかし今月の生活費の残りを確認して、驚いた和之は、パソコンの家計簿ソフトを開くが、上手くいかない。 美紀も理絵の誕生日プレゼントをOKしてくれた。5千円ぐらいと高をくくっていたが、パソコンで調べてみると29800円。和之は後悔していた。

 和之は優介に節約の方法を教わっていた。優介はまず山村家の冷蔵庫を細々とチェックし始めた。しかし、和之が知りたいのは、誕生日までに手っとり早くプレゼント代を捻出する方法なのだ。真理江にも相談したが、教えてくれたのは家事の裏技。「暇つぶし、だろ。早く自分で稼ぎたいよ」。優介には本音をもらした。

 「地道な節約をバカにするなんて」と優介は笙子にこぼした。和之も地道に節約を始めようと、先ずは自宅の電力を下げたが、美紀がドライヤーのスイッチを入れた途端、停電。美紀が口をとがらせると、隣の庭から笙子が手招きした。理絵のプレゼントを買えない、という事情について美紀に話した。

 美紀は同僚からアルバイト仕事をまわしてもらい、3万円を受け取った。「でも今のうちの家計じゃ、あのプレゼントは贅沢だ」どうやら和之には別の考えが出てきたらしい。「じゃ、そのお金は理絵のために貯金しようか」

 和之は理絵を幼稚園に送ると、真理江にバースデーケーキの作り方を教えてもらった。材料費が千五百円もかからず、理絵の似顔絵を描いた豪華なケーキが完成した。理絵が亮太と帰ってきた。理絵がこっそりリビングの様子をうかがうと、和之が優介と健児に飾りつけを手伝ってもらっていた。ところがお目当ての人形ハウスが見当たらない。「きっと後で買いに行くんだよ」と、理絵は心配そうに様子を見ていた。

 いよいよパーティーの始まりだ。早く帰宅した美紀が理絵を2階の子供部屋から連れておりてきた。ロウソクだけのリビングにお祝いの歌と拍手が響いた。帰宅した美紀と理絵がリビングに入ると、おとぎの国のように飾り付けされていた。お隣の3人の笑顔もあった。大喜びする理絵のご機嫌をうかがうように、和之は言いにくそうに切りだした。しかし、理絵はおとぎハウスはいらない、この部屋がおとぎハウスみたい、と言った。

 

10話 「主夫に暇なし」

 優介が近所のスーパーでパートをすると言い出して、和之も誘われた。確かに家事にも慣れてスポーツクラブで健児相手に暇つぶしをしていること多い。笙子に相談し、承諾を得たので優介は早速パートを始めた。しかし美紀は反対。家事や理絵の世話、それに就職活動はどうするのか。数カ月前とそっくりな口論だ。当時の夫婦の立場は反対だったが。杉尾家の庭先。ガス抜きにやらせてあげれば、という笙子のアドバイスで美紀は夫の気持ちを理解した。美紀と話し、和之は主夫業との両立を誓った。

 パート初日。和之の仕事は品出し。慣れない仕事で、初日のパートを終えた和之はお疲れの模様。しかも帰宅すれば家事が待っている。美紀も会社から持ち帰った仕事に掛かり切りだから、かまってもらえない理絵はご機嫌ななめである。

 優介はスーパーでの勤務が評価され、契約社員になってみないかと打診された。しかし、家庭の事情から浮かれぬ様子。片や和之は嫌気がさしていた。家事はは片付かないし、夕食は冷凍食品でごまかしている。美紀には冷凍食品だと気づかれていた。辞めようと思っていた矢先、和之は、店内の飾りつけに困っている村田を見かけた。飾り付けを手伝った和之に感心した村田は明日のディスプレイも頼んだ。明日は土曜日だから本来は休みだが、パートを辞めたい気持ちはどこへやら、和之は引き受けてしまった。

 ところが土曜日、真理江の自宅で親子参加のお好み焼きパーティーが開かれることになった。休みの美紀に理絵を連れていってもらえばいいと思っていたが、美紀も仕事だと言う。理絵を1人きりで行かせるわけにはいかない。言い争う二人の姿を理絵がこっそり見ていた。

 結局、優介に頼むこととなった。理絵は物分かりよく、両親を送りだしてくれた。しかしそんな理絵に思い悩む二人。人形を取りに家に戻った理絵は、床に美紀の仕事用のMOが落ちているのを見つけた。 パーティーには、健児も顔を見せた。お好み焼きを食べるとき、健児にMOに書いてある文字を読んでもらった理絵は、黙り込んでしまった。

 しばらくして優介は、理絵がいないことに気づいた。優介から連絡をもらった和之は、心配になり理絵を探しに出る。理絵は美紀の会社の場所を知るために、和之のスーパーに来ていた。理絵は和之が仕事であるため、一人で美紀にMOを届けるという。和之も理絵に同行し、MOを無事美紀に届けることが出来た。

 和之は仕事と家事を両立していた美紀の苦労を思い、今は専業主夫でいい、と美紀に言った。

翌日、和之はさぼっていた掃除をやりはじめる。そこへ美紀、理絵も加わり、一家での掃除となった。そこへかつての部下、加藤から電話がかかる。かつて和之が作ったCMが受賞した、との報せである。

 

11話 「良薬主夫に苦し」

 和之が受賞したCMの授賞パーティーにはCM業界の有力者たちが集まった。旧知の吉川専務にも声を掛けられ、再就職の話もありそうだ。しかし、正式に決まるまでは主夫業にかかりきり。今日は注射嫌いの理絵に予防接種を受けさせなければならない。和之は理絵に遊びにいくと偽って病院に連れこむつもりだったが、理絵は気づいていた。一緒に行く亮太は優介から口止めされていたが、理絵から迫られてあっさり白状してしまった。診察室に連れてこられた理絵はふてくされていた。注射の痛みに耐える理絵を和之は、大声で励ましていたが、医者にたしなめられていた。

 美紀が仕事で週末に一泊で熱海に出かけることになった。編集長の上田も同行すると聞かされて、和之は内心穏やかではない。仕事だから仕方ないが、週末は水族館に連れていくと理絵に約束していた。再就職のことも気になり、吉川に連絡を入れると「それなりに時間がかかりそうでね」と、社交辞令かと思わせる返事。そんな和之のもとへ冴子がやって来て、喧嘩をしてしまった健児のことで相談された。和之は、妻の出張のや仕事が見つからないことに苛立っている自分をさらけ出した。

 美紀を見送ると、和之は理絵と水族館へ。ところがあんなに楽しみにしていた理絵であったが、体調不良を訴えた。美紀がいなくて1人きりで看病できるか不安になる和之。心配した優介が様子を見にきてくれた。和之が優介を心強く思ったのも束の間、用事がある、と帰ってしまった。和之がしょうが湯を作っていると、かつての部下の加藤から再就職についての電話がかかってきた。相手は今すぐ会いたいようだ。しかし、理絵をほったらかしにはできず、その話を保留した。

 和之は美紀に電話をかけたが、美紀の返事はそっけなかった。上田が急用で帰ってしまい、美紀は1人で取材にかかりっきりであったのだ。「俺だって仕事の話を断ったんだ。自分だけ仕事してるみたいに言うな」。和之が理絵につきっきりで看病していると、美紀からお詫びの電話がかかってきた。「仕事、大事にしろよ。こっちは俺に任せて」と、和之は穏やかに応じた。再び加藤から電話があり、今夜中に先方が会いたいと伝える。「今はこっちが大事だ」と就職の話を蹴り、理絵の看病を続けた。

 優介は主夫の日常を綴ったホームページを作りはじめ、主夫の輪を広めようと考えていた。和之に庭先でその事を話すが、軽くあしらわれ、和之は洗濯物を干していた。

 

12話 「立つ主夫、後を濁す」

 和之に再就職の話が舞いこんだ。仕事内容、給与ともに申し分ない条件だ。先方の会社は真新しい超近代的なビル。和之は思わずガッツポーズ。その足でスポーツクラブに向かうと優介と健児にその話を伝えた。仕事は中国市場で日本製品を売るための現地CM制作部門のチーフで、上海へ5年間の赴任になる。しかし和之の表情は優介の言葉で曇った。「上海へ行くってことは奥さん、仕事辞るってことでしょ?」。

 その夜、美紀は正社員契約の話を持ち出した。なんとも複雑な心境で、とても言い出せない。ところが和之の知らないところで話は広がっていた。帰宅した美紀は、和之より先に夫の再就職を近所の奥さんから教えられて不機嫌になっていた。自分の仕事や、理絵の事を和之に話したが、和之の心情を知り、上海行きを決意する。美紀は早速笙子に伝えた。せっかく正社員になれたのに、と残念がってくれた笙子に美紀はこう言った。「大切なのは、家族みんなで幸せかどうかってことでしょ」。

 健児も大事な話を打ち明けられないでいた。冴子に急かされてバッグの中を探るも、お目当ての品の代わりに出てきたのは社員ローン20万円の書類。またまた冴子を怒らせてしまった。

 美紀は編集長の上田に報告し、単身赴任ということも考えられる、と言われた。笙子にも同じことを言われた美紀は気持ちが揺れ始めた。それを知らない和之は、あとは理絵を納得させるだけと思っていた。理絵に相談したが、理絵は首をかしげた。お隣と江ノ島に行く約束は、と聞かれ、「上海にだって海はあるよ」と答えると、あっさり賛成してくれた。

 優介は主夫生活を紹介する『アットホーム・ダッド』というホームページを作成。ホームページへの第一号の訪問者が来たと喜んだら和之であった。和之の悪戦苦闘の日々も紹介してあり、クレームの電話を掛けていたのだ。たわいもないやりとりをしていたが、冴子がうろたえた声で電話をかけてきた。「理絵ちゃんと亮太君の姿が見えないんです」。

 和之と優介は手分けをして探すことに。結局、理絵と亮太の2人はパトカーに乗って帰ってきた。街外れで座りこんでいるところを警官に保護されたのだ。父親たちから問われ、理絵と亮太は口を開いた。一緒に海に行けない、だから今のうちに行きたかった、と訳を話してくれた。理絵は和之と美紀が上海へ行くから自分も行く、と言う。

 その後、健児は真理江たち主婦に出くわしたことをきっかけに冴子にプロポーズをし、二人は結婚することとなる。

 その夜、和之と美紀は昼間の理絵のことについて話していた。美紀は単身赴任の話を切り出すが、落ち込んだ様子の和之を見ていて「3人一緒じゃなきゃやだ。」と家族が側にいることの大切さを感じていた。翌日、和之はぬか床を作っていた。そこへ優介が訪ねてきて、一緒にぬか床を作ることに。家に帰った優介は寂しそうな表情で和之からもらった漬物をかじっていた。

 一方、山村家は和之と美紀がよく来ていた思い出の海岸へ来ていた。貝殻を自分の家族に見立て、「これから上海行くんだよ。」と海へ流す無邪気な理絵の姿を見て、和之は「俺は仕事が一番大切だと思ってた。でも、気が付いたら、お前と理絵とこうしてることが、お前たちの笑顔がさ、何か、一番大切になってる。」とこぼし、上海行きを断ることにした。

 

スペシャル 「働けど、働けど、主夫の暮らし楽にならず…「妻の出世と自宅出産」」

 山村一家が上海行きを諦めてから3カ月経つが、山村和之は専業主夫を続けていた。一方、杉尾優介は、開設した主夫のホームページが好評で『カリスマ主夫』として人気である。笙子は臨月を迎え、加えて自宅出産したいというので助産師の越川から説明を受けた。当の笙子よりも優介の方が自分が出産するかのような気合の入れ具合であり、越川からも心配されていた。そこで出産以外のことも考えるように、と主夫についての講演での講師を頼まれることとなった。

 健児は冴子との新婚生活を満喫していた。出勤時間の都合から健児の家事分担が多くなり、健児は料理の腕を上げるために和之に料理を教わっていた。その様子は和之が主夫を始めたばかりの頃の和之と優介の様子にそっくりである。メニューもエビフライとハンバーグ、と一緒である。健児は和之の教え方に多少ふてくされながらも、尊敬のまなざしで和之を見ていた。

 片や美紀は、別冊号のチーフに抜擢された。しかし仕事の都合で早速土日に手伝うはずだった家事ができなくなってしまう。光江が山村家を訪ねても、仕事の都合で遅くまで帰ってこれずにいた。また、美紀が会社の部下を連れてきた。みんなが和之の事情について気を遣っていた事に気づき、再び就職先を探すことを決意する。

 翌日、出産の話のために越川が来た杉尾家。優介と笙子は出産の姿勢を真似るが、それが原因で優介がギックリ腰になってしまった。

 美紀の仕事のクライアントが大手広告会社の社長の息子で、和之が再就職の面接を受けた会社だったため再就職への便宜を頼み、快諾を得た。広告費のキックバックを要求されたのだ。不正を飲まなかったためタイアップ広告は破棄。和之の採用も白紙に戻された。和之はその一件に怒りを顕わにした。さらに美紀は、その一件により上司や部下からの信頼も失った。一人で仕事を続ける美紀は、娘の理絵の幼稚園の運動会にも出かけられなくなり、和之と美紀は口論になってしまった。

 運動会の準備に出かけた和之と理恵、その頃杉尾家では笙子が産気づいていた。しかし優介は頼まれていた講演の当日であった。困り果てた優介は和之に講演を依頼する。必死な様子の優介に、和之は講演をすることとなる。しかし何を喋ればいいかわからない和之の脳裏にこれまでの記憶が去来する。主夫を始めたきっかけ、妻の仕事、再就職、家族の大切さ…。講演会場に着いたものの、困り果てた和之。控え室に理絵を残し、タバコを吸いに出かける。その間に理絵は和之の携帯電話を使い、美紀に連絡を取っていた。「応援に来てあげて、明日の運動会理絵一人でがんばるから。」

 杉尾家では笙子が陣痛で、優介がぎっくり腰で、一様に苦悶の表情を浮かべていた。その頃、和之は講演会場の壇上に立っていた。そこへ優介から、無事出産したとの電話が入る。和之はしどろもどろながらに自分の経験を語る。言葉に詰まったとき、美紀が講演会場へ駆け込んできた。妻と理絵の姿に勇気付けられた和之は自分の気持ちを素直に言葉にする。

 翌日、運動会は雨天延期となり、美紀は来週の運動会に参加できるようになった。杉尾家の赤ちゃんを見に来た山村家。顔を合わせた和之と優介はいつもの調子で言い合いをしていた。