『メス化する自然』 デボラ・キャドバリィー 監修・解説=井口泰泉 訳=古草秀子 発行=集英社 1998初版

 本稿では 環境ホルモンの発生とその実体を 様々な学者の視点や分野を通じて述べられている。そしてこの環境ホルモンによって今後人類にどのような未来が待っているのかを強烈に警告している。
 プロローグでは フロリダ大のルイス・ジレット教授がアポプカ湖において起きているワニの不可解な現象を調査し、ある不可解なことを発見した事に始まる。 そこで彼は若い雄ワニの生殖器官に奇形なもの、もしくは全くそのものが見られないことを発見した。これはワニが何らかの影響よって雌化しているものとみられ、その原因はアポプカ湖の水質状況からはうかがいしれなかった。
 また1996年、スコットランドのエジンバラで臨床コンサルタントをしていたスチュワート・アービン博士は、1992年に発表されていた人間の精子減少の事実を再確認しまさに発表しようとしていた。
 第一章ではデンマークのニルス・スキャベク氏がある患者の精巣細胞に、これまでに見られたことのない異常な細胞を発見した。そして二年後その細胞を持った患者は精巣癌になって再び彼の前に現れたのである。この事がきっかけで彼は精巣癌の早期発見を可能にし、一躍時の人となった。しかし彼は その患者がそれまでほとんど発見されていないタイプのものであり、そんな患者が急激に増加し、彼のもとを訪れることに疑問を持った。
 第二章では前章で発見された現象の原因を解明しようと試みられている。そのプロセスの中で精子数などの男性の生殖および成長をを管理するセルトリ細胞が何らかの影響によって異常をきたしていると思われた。そしてその原因が女性ホルモン「エストロゲン」によるものではないかと思われた。この調査結果は、ある意味人体実験ともいえる悲惨な事件によって証明された。それは人口エストロゲン「DES]という薬品の流行であった。
 この薬品は当初神秘の薬として乳癌や前立腺癌の治療 育毛剤や精力増強剤などとして世界中に広まった。しかし最も多く使われた現場は妊婦に対するものであった。これは習慣性流産や切迫流産の治療薬としてだけでなく、子どもが大きく丈夫に産まれてくるとされたからであった。しかしこれが後の600万の妊婦に悲劇をもたらした。その妊婦が産んだ子らはこれまでにも類を見ないような生殖器官の癌にみまわれたのである。これはその子らが二次成長を迎える思春期に発病するため、それらの原因がDESにあることが分からないまま長期にわたって使用されつづけた。
 第三章ではDESによって発生した様々な病気の発生の経緯とその人類の未来に対する危険性が述べられている。またDESと共に世界中に広まったDDT、PCBの危険性や、その様エストロゲン性が生み出したさまざまの悲劇が述べられている。
 第四章ではそれらの様エストロゲンがどのようなルートをたどって我々の体内に入るのかを検証している。人類は食物連鎖の頂点にありそれらの様エストロゲンは自然濃縮され我々の体内に吸収される。そしてそれらは分解されることなく体内の脂肪と強力に結びつきこれまで述べたような影響を与えている。しかしリチャード・シャープ博士は、それ以外のルート、もしくは原因で体内に入る可能性を模索していた。そしてその調査によって意外な事実が判明してきた。それは女性は 体内で様エストロゲンが再利用され男性よりもその影響を受け易いのである。またその様エストロゲンは胎児のホルモンの分泌に大きく影響を与え生殖器にダメージを与えることが分かっていたため、この女性の特異体質は人間が胎児として女性の体内にいるとき、もっとも影響を受け易い時期にもっとも濃縮されたエストロゲンを受けることを意味していた。また様エストロゲンは化学物質としてこの地球上に存在するだけでなく、元来植物の中にも存在することが分かった。これはこれまで人間がその植物を口にして来て影響が無かったから大丈夫ということはなく、戦後の食生活の変容によって口に入れる植物自身の種の多様化とその取り入れかたの違いによっていつ影響が出るかわからないとしている。
 第五章では科学者のシーア・コルボーンが五大湖の生物の実態を調査するうちにその生殖や形態の奇妙な現象を発見し、各国各分野の専門家や学者に対してこの現象について原因を解明するための足がかりとして、それぞれホルモンの以上や雌性現象などの調査している人を招き会議を開いたことが述べられている。確かにこの会議によって各分野の調査を結びこれまで世界で起きて来た現象を説明することができた。しかしこれと同時に人々はこの問題の真の恐怖を知ることになった。
 第六章では エピローグで出たアポプカ湖のワニの異常な現象の解明がなされている。アポプカ湖の上流地域には殺虫剤の工場がありそこから流れ出たDDTやDDEが、ワニの生殖ホルモンに異状をきたしたものだと考えられた。しかしそのDDTやDDEが流出されたのは20年以上前の話であり、現在のアポプカ湖のそれらの濃度はそんなに高くはなくなっていた。これはエストロゲンの引き起こす現象は世代を超えて何世代も引き継がれることを表し、この問題の解決が容易なものでないことを示していた。
 第七章と八章ではその他の様エストロゲンの発生ルートの解明がなされている。その例としてプラスチックから染み出す物質があげられている。これらはまだ確かにエストロゲンのような働きをするとは言えないが、その殆どがかなり怪しいとしている。プラスチックは知ってのとうり現代人の生活に深く関係しており、その付き合いも長い。これから影響が現われる可能性も大きく危険な実態が述べられている。
 九、十、十一章はその他の様エストロゲン物質が書いてあるが省きます。
 十二章では、これらの問題に対する各機関、業界等の対応が書かれている。しかしこれらの業界の対応にしても政府などの対応にしても未だその全貌を知り得てない様エストロゲンの存在に全て対応できるわけではなく、後手後手にまわっているのが現状だと思える。これはある程度仕方ないのだろうと思う。DDTにしろDESにしろプラスチックにしろ悪影響だと知るまでにかなりの年月を要している。これからどんなものがそれらのような存在になるかはまるで分かってないのである。ある科学者は言っていましたエストロゲンを浄化するフィルターがいつエストロゲンの汚染物質でできているか判明するかもしれないのだと。
 長くなってしまいましたが この本を読んでみて思うことは「今世界は大変なことになろうとしているんだ」です。専門用語や化学薬品名が多用してあり、登場人物も多いため一貫しては読みづらいかもしれませんが、様々な分野による切迫した調査結果が報告されており、事実を的確に知るには良いと思いました。しかし、その事実を知った我々が決して喜べる内容ではないので今は結構辛い気分です。未来は暗いものにしか見えなくなるかもしれません。

(武内智宏)
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