安藤 喜久雄編 1993 『人生の社会学』 学文社


 この本は、乳幼児期から人生の終末に至るライフステージ(人生の段階)にあって、主要な段階で遭遇する諸問題を人々がどのように考えて対処しているか、という考え方に基づいて書かれており、社会学の入門書としての性格を持っているため社会学の基本的概念を知らなくても容易に読める本である。
 まず、第1章には「社会学の基礎概念」について書かれており、社会化や社会集団、準拠集団といった用語が分かりやすい例をあげて説明されていて、これからこの本を読んでいくのに知っておいたほうがよい社会学の基礎的な概念があげられている。
 第2章は「子どもの育児様式、しつけと人間関係」で、本題のライフステージの話になる。人間は誕生してすぐ集団生活をするために社会化が必要であり、そのためにしつけをすることが大事であり、人格形成の第一歩ともなる。しかし、過保護や子供への期待、また都市化や核家族化などにより人格形成がうまくいかず、いじめや登校拒否などの問題が起こると述べられている。
 第3章は「現代青年の意識と行動」で、他人の自信を不快に思う敗北主義により恋愛をファッションとして楽しむ若者が増えているなどの若者に関する問題について述べている。恋愛の問題以外には、ネットワーク型社会において自立と依存を両立するのに必要な基本的信頼形成の難しさなどを述べており、若者の社会性の欠如を指摘している。
 第4章は「職業生活とキャリア形成」で、社会的地位を規定する上で大きな要因となる職業について、職業志向より会社志向である傾向が強く、また若年層の専門職志向の強まりで仕事への満足度ややりがいに影響を与えていることを述べている。
 第5章は「配偶者選択と晩婚化、未婚化」で、戦前と戦後の結婚形式の違いを述べている。しかし、現在でも儒教的道徳観や家制度の影響を受けた結婚形式が残っていることを指摘している。また、女性の晩婚化、未婚化が増えたのは女性の社会進出と社会的地位の変化によるもので、「性」の解放を意味するものであると述べている。
 第6章は「多様な夫婦関係」で、核家族化や事実婚と関連づけた夫婦別姓の問題、共働き夫婦の増加による性別役割分担について述べている。また、離婚と再婚の増加で家族関係が変化することも考えられると指摘している。
 第7章は「中高年夫婦と家族危機」で、夫が会社人間のため仕事が生きがいとなり家族生活が犠牲になったり、また単身赴任や老親介護により家族内の問題が顕在化し、家族危機が訪れるということを述べている。
 第8章は「高年齢者と生きがい」で、定年退職後の生活について述べている。引退後「定年離婚」とならないよう新たな立場や役割をさがし、自らの生き方を見つめ直す必要性や、社会活動への参加が引退生活における生きがいに影響を与えることとしている。
 第9章は「人生の終末」で死をむかえるまでの諸問題、例えば経済的な問題や介護の問題をあげている。介護に関しては、家族内扶養機能の低下や居住環境の変化、介護意識の変化などをあげ、家族内での私的扶養、介護が難しくなっていることを指摘している。
 第10章は「ライフコース社会学の視点」で、人間の生活を社会の変動の中でとらえようとするライフコース・アプローチの基本的視点や考え方をあげて、ライリーやクローセン、エルダーなどの研究を紹介している。そして最後に、ライフコース社会学の現代における意義は斉一性と無歴史性の批判だと述べている。
 以上がおおまかな要約であるが、この本は全体的統一性に欠けていて、一つ一つにはそれほどつっこんでいないため、私にはものたりなさを感じた。しかし、この本は最初に述べたように社会学の入門書としての性格が強いので、初めての人には抵抗なく気軽に読めると思う。最後に一つだけ言わせてもらうと、一般社会の問題をあげてそれについて指摘するのはいいのだが、根拠がないというか、少し考えると本当にそうだろうか?と思う所があるように感じた。

(上林 万里子)

目次に戻る