授業内容

ここでは田村教官の行っている授業について紹介します。
演習形式で扱った作品

授業の中には学生の発表を中心とするもの(日本文学講読、日本文学演習)がありますが、そこで扱った主な作品を紹介します。

平成15年度
御伽草子『緑弥生』、他

平成16年度
御伽草子『今宵の少将』、他

平成17年度
『伊勢物語』、擬古物語『八重葎』、他

平成18年度
擬古物語『石清水物語』、他


講義形式の授業内容

実際に行われた授業のシラバスを一部掲載します。

平成16年度後期 日本文学史

【ポイント】

サブタイトル:万葉集古今集概説

 文学研究の目的は作品や作者のかけがいのない個性を浮かび上がらせることにあって、単一の基準で優劣をつけるのは望ましくない。受講者はその作品の文学史上のランクよりも他の作品とどう違うのかを学び、あらゆるタイプの存在意義を認識して欲しい。
 特に、万葉風(調)と古今風(調)の違いを理解するのが、本講義の第一の目標である。古今風が事物の名称、花や鳥で言えば、「をみなへし」、「かきつはた」、「都鳥」と言う名前を重視する。即ち、「をみなへし」なら「をみなへし」という名前、漢字表記される際にはその「女郎花」という漢字などに触発されて知的に一つの世界を構築して行くのに対し、『万葉集』所収歌の作者はその花や紅葉、鳥の声を実際に見たり聞いたりしており、それを感じたまま表現する。そして、『古今集』や『拾遺集』、『伊勢物語』の一部の章段、一部の段落の和歌に歌枕が詠み込まれていても本当に作者が足を運んだのか、地名や屏風に描かれた絵を見て着想を得たのではないのかと疑問が浮かぶのに対し、『万葉集』所収歌で、巻向山周辺、安騎野、石見の海や山(以上、作者:人麻呂)、かづらき山(人麻呂家集歌。作者は無名歌人)、難波(作者:志貴皇子)、若の浦(作者:赤人)、吉野(作者:人麻呂、赤人)や越中、因幡(以上、作者:家持)、筑波山麓、多摩川(以上、作者は無名歌人)が詠み込まれているとき、作者は本当にその地に立って感じた事を和歌にしていると思われるのである。

【授業計画】

1.〜2.『万葉集』の概説、第二期概説と人麻呂
『万葉集』第二期の授業では、長歌の形式を完成させ、皇室讃美など公的な歌、恋愛などを主題とした私的な歌にもすぐれていた柿本人麻呂に重点を置く。

3.〜4.『万葉集』第二期
2.の続き。第二期の歌人として、人麻呂のほか、持統天皇、大伯皇女・大津皇子姉弟、爽快な諧調と清新な感覚を持つ志貴皇子なども取り挙げる。

5.『万葉集』第三期
政情不安が影を落とす第三期、天皇の力よりも自然のすばらしさを謳い上げ、叙景歌を特色とする山部赤人を中心に授業を進める。その他、伝説歌人の異名を持つ高橋虫麻呂なども取り挙げる。

6.〜7.『万葉集』第四期
大伴家持を中心に授業を進める。越中時代の作品を取り挙げる際には、自然美と人工のものとの融合という歌風を、私見として呈示する。

8.東歌・防人歌

9.万葉調と古今調
『古今集』の授業に入る前に、万葉風(調)と古今風(調)の違いをまとめておきたい。
ポイントのところにも書いたように、『万葉集』所収歌は作者の実感が素朴に表現されているのに対し、『古今集』をはじめとする平安時代の歌集に収められた和歌は、言葉の世界を新たに構築しようとする姿勢が見られる。そうした点を、花を詠む短歌など例をいくつも挙げて、説明する。

10.〜11.『古今集』その他の勅撰和歌集(撰の「己」の字は、正しくは「巳」)概説

(以下略)

平成16年度後期 日本東洋言語文化講座特殊講義

【ポイント】

サブタイトル:漢詩文受容の諸相

 本講義では、日本古典文学の中から、外国文学や外国の口承文芸、外来の風習などの影響を受けているものを選んで、原則として古い順に並べ(但し、『土佐日記』より『竹取物語』のほうが古いか)、漢詩文を中心とする外国文学をどのように受容しているか、また、どのように変形させているかを考える。特に授業計画欄の2番、5番、6番、9番では外国のもの、外来のものとの違いを凝視することによって、日本民族独特の感受性、発想や行動が明らかになるはずであり、こうしたことを考えるのも、本講義の目的の一つに加えたい。
 以下、授業計画欄では、それぞれのテーマごとに、中心として考察する文学作品を、日本文学、外国文学の順に記していく。この他にも様々な作品を取り上げるが文学史上どうしても知っておきたい場面、若しくは一節が多いので、仮に漢詩文に興味がなくとも、古い時代の日本を勉強する学生には受講を勧めたい。

【授業計画】

1.大伴旅人と漢詩文 (第1週〜第2週)
日本…讃酒歌、亡妻歌群  外国…陶淵明 「飲酒」、杜甫 「春望」

2.菅原道真の漢詩引用(第3週〜第4週)
日本…「不出門」  外国…白居易の香炉峰下詩(炉は略字)

3.『土佐日記』の月――都の月から他郷の月へ―― (第5週)
日本…『土佐日記』承平五年一月二十日 外国…白居易「八月十五日夜禁中独直対月憶元九」

4.『竹取物語』の外国説話引用 (第6週)
日本…『竹取物語』  外国…チベットの口承文芸「班竹姑娘」

5.『枕草子』の漢詩引用 (第7週)
日本…『枕草子』、『紫式部日記』、斎藤孝『声に出し て読みたい日本語』 外国…五言律詩、七言律詩
この他、歌謡曲、寮歌などにも触れて、日本の音楽の音楽的効果として七音五音の繰り返しを多く指摘できるけれども、外国の詩や音楽にある押韻に似た効果は皆無であることを述べる。

6.須磨巻の漢詩引用 (第8週)
日本…『源氏物語』「須磨」、菅原道真「九月十日」

7.桐壺巻の漢詩引用 (第9週)
日本…『源氏物語』「桐壺」  外国…白居易「長恨歌」

8.柏木巻の漢詩引用 (第10週)
  日本…『源氏物語』「柏木」  外国…白居易「自嘲」

9.『今昔物語集』の外国説話引用(第11週)
  日本…『今昔物語集』巻五ノ第十三話、池上洵一『今昔物語集の世界』 外国…『大唐西域記』の説話

(以下略)

平成17年度前後期 日本文学特殊講義

【ポイント】

サブタイトル:『平家物語』『義経記』の世界

 「祇園精舎の鐘の声」「沙羅双樹の花の色」に始まる冒頭は余りにも有名である。しかし、諸行無常は、『万葉集』『伊勢物語』『源氏物語』『方丈記』をはじめとする多くの作品のいずれにも、多かれ少なかれ、共通する思想であって、『平家物語』を特徴づけ他の日本古典文学との違いを明らかにする美学は、もう少し別のところにあるのではなかろうか。本講義の第20週目までは、源平の盛衰を明らかにするとともに、様々な作中人物を通してその美学の美しさと悲しさを浮き彫りにして行きたい。
 又、第21週目から第25週目までは、「悲劇のヒーロー」というイメージが定着している義経に焦点を当て、そのイメージとは異なる、かけがえの無い魅力も考えて行きたい。
   【参考】として記しているのは、時代が違うものの、その週の中心テーマとして取り取上げる人物とよく似ていたり正反対であったりするため参考に供したい内容である。
 前後期連続した内容であるが、前期だけ、後期だけの受講者も歓迎する。筆記試験は、前期期末、後期期末の実施する。

授業計画

1.〜2.平忠盛の台頭
周りが敵だらけの中に一人で乗り込み、冷静沈着に対処し、なおかつ敵の要求にも屈しないたくましい男性像を明らかにする。尚、第一週の前半は、ガイダンスを行う。
【参考その1】平安時代中期に政権を握ったのは、藤原道長であった。周りが敵だらけの中に一人で乗り込み、冷静沈着に対処し、なおかつ敵の要求にも屈しないたくましい、道長の姿を明らかにする。

3.〜4.保元の乱・平治の乱
いざという時に肉親や上司を裏切る場面が特徴的であることを明らかにする。

5.〜6.清盛の横暴と祇王
祇王が同じ不幸(平清盛の愛を失うという不幸)を共有することによって、友情を感じるタイプであることも論じる。

7.清盛への謀反の計画
小見出しのテーマの他に、俊寛が同じ不幸(鬼界が島への流罪)を共有することによって、友情を感じるタイプであることにも触れる。

8.高倉院と清盛
心優しき高倉院は「恐妻家」というより、むしろ妻・徳子の父である平清盛を恐れ、窮屈な思いをして寿命を縮めた。小督との恋愛を通して、そのことを明らかにする。

9.重盛死去から清盛死去まで

10.〜11.源義仲の盛衰と頼朝軍に拠る義仲討伐
小見出しのテーマの他、義仲討伐の際の一つのエピソードを読み、頼朝の部下の一人である梶原景季が同じ不幸(上司である源頼朝の信頼が得られないという不幸)を共有することによって、友情を感じるタイプであることも論じる。

12.〜13.源義仲の死と「一所に死なむ」の美学
小見出しのテーマを通して、義仲が同じ不幸(死)を共有することによって、友情を感じるタイプであることを論じる。
【参考その2】自らの死に臨んで尚後進の健康と益々の活躍を願った『古事記』のヤマトタケルを、義仲と対照的な理想的男性像として紹介する。

14.〜15.壇の浦の合戦
小見出しのテーマの中でも、特に、清盛の未亡人である二位尼が、同じ不幸(死)を共有することによって、孫の安徳天皇との間に絆の強さを感じるタイプであることを論じる。

16.平維盛の生き様
「一人死なむ」の美学。

17.〜18.六代の生き様
「一人死なむ」の美学。

19.〜20.平維盛の死その他

21.〜27.源義経と弁慶
抜群の運動神経を活かして一の谷の戦いと屋島の戦いに勝利した義経、むしろ頭の運動神経が良い弁慶について述べる。
義経が足を踏み入れた各地を実地踏査することによって、新全集『平家』に無い情報を提供したり、『義経記』大系・新全集の頭注で不明とされている和歌に私見を提示したりすることが出来るよう努める。
 【詳細】
 21.幼少期。なお、この週の前半には、義経及び『義経記』の概説もする。
 22.合戦準備。弁慶とも出会い、平泉他奥州各地の急勾配の坂などで鍛錬する。【現地の映像あり】
 23.一の谷の合戦、屋島の合戦。義経の運動神経と軍事的才能。【現地の一つである福原の北部の映像あり】
 24.頼朝との不和。巻四の土佐坊の場面(〜120頁)など。
 25.近江から越中へ。巻七の愛発山の場面(242〜243頁)など。
 26.越後から東北地方へ。久我の姫君の和歌の素養と弁慶の臨機応変。【最上川の映像あり】
 27.弁慶の立ち往生と義経の自害。
その他、時間があれば、下記の【参考その3】も。
【参考その3】韓信と劉邦。軍事の天才であった義経と、その主君であった頼朝との関係を、韓信と劉邦との関係を紹介しつつ考察する。

平成18年度前期 日本文学特殊講義

【ポイント】

サブタイトル:長編純文学としての光源氏物語

 『源氏物語』は、授業計画欄に記すように、紫上系(正伝の一部と言える巻々)と玉鬘系(傍流)に分かれている。これを構造上の欠陥と見なし、玉鬘系は後から書かれ挿入されたと説くのが、ドイツ文学にも詳しかった武田宗俊である。しかし、フランスの『失われた時を求めて』やロシアの二大巨匠の長編などを通読すると、長編純文学のあり方として、二重構造は必ずしも欠陥ではなく、むしろ普通に行われていたことが明らかになろう。
 もう一つ、『源氏』前編の構造を議論する際忘れてはならないのは、『うつほ物語』である。玉上琢也や玉上を教条的に支持する学派が主張する『源氏』短編始発説は、ともすれば『うつほ』を失敗作とみなす。『源氏』の形態が短編か長編かという議論をする際、例えば『伊勢物語』ばかりを念頭に置けば、短編だという結論に落ち着くのは目に見えている。しかし、『うつほ』を愛読していた紫式部が短くとも『うつほ』と同じ位の長さの長編に仕立てるつもりで光源氏の一代記を構想していたと推定するのは決して不可能ではない。
 第11週目ぐらいまでは、以上の二つの観点から、『源氏』の二重構造を弁護したい。
 第12週目ぐらいからは、光源氏十二歳の後半〜十七歳の前半ぐらいの記事の省筆の技巧について、二十世紀の源氏研究では忘れられつつあった皇位継承の重要性という視点などから、考える。光源氏十二歳で終わる「桐壺」と十七歳で始まる「帚木」との間に「輝く日の宮」があって、そこには十六歳の光源氏の藤壺との初めての密通、朝顔との恋愛が描かれていたのに何等かに理由で脱落した、との仮説が大正十一年和辻哲郎論文らによって育まれ、二十世紀末には鈴木日出男らによって再び取り上げられたりしている。しかし、少なくとも『万葉集』第二期から中世の前半ぐらいまでの日本民族は、皇族への敬愛、皇位継承への関心は絶大なものがあったので、藤壺という一人の女性の神秘性を尊重するというより、皇統の乱れにつながりかねない密通はいくら虚構文学作品の上であるからといっても慎重な上にも慎重な扱いがされるのであり、それが十六歳以前の光と藤壺の一度目の逢瀬の省筆につながったということを説く。

【授業計画】

1.紫上系とは/玉鬘系とは
紫上系の巻々について、第一に藤壺への思慕に端を発する話、その思慕の情をきっかけに朧月夜との恋愛が起こり、やがて、須磨、明石流浪へとつながっていくのだが、第二には明石滞在に端を発する話、第三に葵上に端を発する話を概説する。又、第二週の前半になるかもしれないが、玉鬘系は帚木三帖(=「帚木」「空蝉」「夕顔」)の端を発する話としてまた別の統一を保っていることを明らかにする。
このような二重構造はロシアの二大巨匠の作品にも見られる事にも軽く触れる。ドストエフスキーで言えば、『白痴』は二重構造と言えるかどうかはっきりしないが、『カラマーゾフの兄弟』の場合、その兄弟のうちの長男と次男と私生児が主人公となる系列(正伝)と、三男が主人公となる系列(傍流)との二重構造である。トルストイで言えば、『アンナ・カレーニナ』は二重構造と言えるかどうかはっきりしないが、『戦争と平和』の場合、玉鬘系の巻から紫上系の巻へ、紫上系の巻から玉鬘系へ変わるとき読者が抱く違和感と同じ性質の違和感を読者に抱かせることがあるのである。

2.〜4.昭和25年武田論文の紹介

5.平成3年拙稿の紹介と葵巻当該段落に関する諸論文

6.〜7.全体の構造
ポイントのところにも記したように、『源氏』前編の構造を議論する際、ロシアの小説と並んで重要なのは、『うつほ物語』である。中世、特に中世の後半から二十世紀まで、失敗作(玉上琢也)としてほとんど顧みられなかったが、一読の際には稚拙に見えるこの作品も紫式部の時代には唯一の長編物語として尊重されていたのだから、その作品が音楽伝承を主題とした正伝の巻々と、恋愛、求婚・結婚を主題とする傍流の巻々とに分かれている事実は重いだろう。源氏物語前編41帖全体の枠組みが、紫式部にとって「最高の作り物語」であり「唯一の長編小説」であった『うつほ物語』を原型としていることを明らかにする。

8.〜9. 紫上系及び第二部の巻々
紫上系十七帖のうち「桐壺」前半を除いた部分と、「若菜上」から「幻」までのいわゆる第二部の巻々とを合わせて私は「勢語系」と呼んでいるが、これら勢語系の巻々全体の枠組みが、紫式部にとって「最高の歌物語」であった『伊勢物語』を原型としていることを明らかにする。

10.〜11.「5.〜9.」の補強
玉鬘系巻々が『うつほ物語』を原型、紫上系及び第二部の巻々が『伊勢物語』を原型としていることを、第一に女主人公達の身分、第二に和歌の詠まれ方、第三に季節に着目して、確認する。

12. 省筆の技巧、例えば「桐壺」と「帚木」の間
授業概要欄参照。

13.長編小説の二重構造
世界文学の最高峰とされるトルストイやドストエフスキーの長編小説を読んでみても、例えば「戦争」の章(若しくは節)と「平和」の章(若しくは節)という二つの系列が混在するという現象なら見られるから、紫上系と玉鬘系に分かれるのは長編小説によくある技巧であったことを言う。又、読者に想像の余地を与える技巧もあることを言う。

14.まとめと補足

15.筆記試験

平成18年度後期 日本文学史

【ポイント】

 サブタイトル:上代文学史

 文学研究の目的はそれぞれの作品をランク付けすることにはない。その作品でしか味わえないかけがえの無い魅力を明らかにすることにある。特に稚拙に見える表現、変な表現、例えば天地創造の場面の「成り成りて成り合はざる処」「……成り余れる処」や、所謂大国主命の受難の場面の一節に敢えて着目し、時間を掛けて考察し、「一見変なところにこそ実は文学的魅力が潜んでいる」ということを強調して行きたい。そして、最終的には、末子成功、死んだ子の年は数えない、女の争いが殺し合いへと発展する、油断・慢心が命取りなどなど、ひとえに強い子孫を次代に残そうとして必死であった、『古事記』とその周辺の特長を浮き彫りにしたい。

【授業計画】

1.『古事記』概説と国土創造
教科書21頁に基づき、小見出しのテーマを論じる。一見素朴で稚拙な表現に文学的価値を見出したい。

2.〜3.『古事記』に描かれた大国主物語
大国主の生涯を幾つかの時期に分けて、流離を経て人間的成長を遂げる様を明らかにする。

4.〜6.『古事記』に描かれた倭建物語
倭建の生涯を幾つかの時期に分けて、流離を経て人間的成長を遂げる様を明らかにする。
西日本(便宜上、奈良の都も含める)を舞台とする物語前半では、相手を奇襲攻撃する傾向が見られることを指摘する。東日本を舞台とする物語後半では、スピードの早さと言う西日本時代の長所は衰えず、それを活かし、敵の攻撃にとっさに対応し反撃・迎撃すると言う新しい傾向に注目したい。最後には自力の過信をきっかけに衰弱するが、死に臨んでなお後進の前途を祈るさわやかさは上代文学独特の魅力であって、『平家物語』の作中人物達が死に臨んで一緒に死んでくれる友人・肉親を求めたのと好対照をなす。

7.『日本書紀』概説と漢籍的な文学性
教科書27頁〜28頁12行目に基づく。

8.『日本書紀』の記録文学としてのおもしろさ
教科書28頁13行目以降に基づく。乙巳(いっし)の変とその前夜(17〜18行目)など「叙述が具体的で印象的な箇所」(16行目)を取り上げ、「記録文学としてのおもしろさ」(15〜16行目)を味わいたい。

9.『風土記』
主として教科書29頁〜31頁1行目に基づき、対句表現など文学的色彩を指摘する。

10.『万葉集』第一期
代表歌人として額田王を取り上げ、集団を代弁する場合と、個人的な感慨を読む場合と、歌風を上手に使い分けていること(教科書37頁5〜7行目)に注目する。

11.〜13.『万葉集』第二期
日本の歴史上最も天皇の権力が強大となった時期であり、代表歌人は柿本人麻呂ら宮廷歌人である。人麻呂は、大型の長歌を詠みその後に複数の短歌を置くという長歌の形式を完成させたこと、皇族を賛美する公的な歌にも私的な恋愛を主題とする歌にも優れていたこと(教科書38頁19頁〜39頁3行目)を明らかにする。
他に、清新な感覚の歌風、そして、内容がそうした諧調がふさわしい場合には爽快な諧調をもつ志貴皇子(教科書39頁下段)も取り上げる。

14.まとめと補足

15.筆記試験

平成18年度後期 日本文学特殊講義

【ポイント】

サブタイトル:説話集の諸相

 サブタイトルは「説話集」の諸相であって、「説話」の諸相ではない。従って、本講義では、各説話集の中から有名な説話も無名な説話も選び出して、それぞれの話の面白さにも言及するが、それ以上に、『今昔』、『日本霊異記』、『宇治拾遺』といった作品の話の集め方、話の進め方に着目して、その説話集にしか見られない、かけがえの無い個性を浮かび上がらせたい。

【授業計画】

1.〜4.『今昔物語集』
幾つかの説話を読み、読者の興味を途切れさせず、最後、若しくは後半で、意表をつく手法に着目する。
例えば、巻二十八ノ三十八「馬が橋を踏み折った。谷底に落ちた信濃守は、大丈夫か?」、巻二十七ノ二十四「昔の妻が懐かしくなって、数年ぶりに尋ねたところ、独りで自分を待っていてくれた。その夜、情愛深く共寝をしたのだが、翌朝……」、巻三十ノ一「色好みとして有名な平中は、果たして、侍従という若い美女を、口説き落とせるか?」などの説話を取り上げる。同様の手法が頻用されている作品として、ジャンルは随筆ではあるが『徒然草』にも触れ、『徒然草』の説話的章段のみを読む予定である。

5.〜6.『日本霊異記』
第七話「亀を買い取って命を助け放してやり、現世で報いを受け、亀に助けられた話」、第十話「常に鳥の卵を煮て食べて、現世で悪い死に方の報いを受けた話」、第十六話「慈悲の心がなく、生きている兎の皮をはいで、現世で悪い報いを受けた話」、第十一話「幼い時から網を用いて魚をとったために、現世で悪い報いを受けた話」、第二話「狐を妻にして子を産ませた話」などを取り上げ、各話の作者や編者には、動物に畏怖の気持ちのようなものを抱いていたことを明らかにする。

7.『十訓抄』
書名の示す通り、お説教じみた語り口が目立つが、道徳を説くという性格以上に強いのは、教養を豊かにするという目的であり、そのための書物であることを明らかにする。

8.〜12.『宇治拾遺物語』
その場に居合わせた人々が爆笑したという結末を持つ巻一ノ十五話「大童子が鮭を盗んだ事」、巻五ノ十話、巻十四ノ八の三つの説話を取り上げ、これらの共通点として、窮地に追い詰められた場面での、冗談若しくは興言利口という点を指摘する。これを足がかりにこの作品の特色を明らかにして行く。なお、時代を超えるだけの価値がある冗談という上記の特色に関連して、ジャンルは物語であるが『うつほ物語』「俊蔭」の俊蔭女の恋の場面も取り上げる。
巻一ノ十「秦兼久が通俊卿のもとに向かって悪口のこと」や前記の巻一ノ十五話については、従来の校注書に無い新説を発表する。
その他、巻九ノ六「歌詠みて罪を許さるる事」、巻三ノ十七「小野篁広才の事」、巻一ノ十六「尼、地蔵見奉る事」、巻十四ノ七「北面の女雑仕六が事」、巻七ノ一「五色の鹿の事」も読む。

13.〜14.まとめと補足
時間に余裕があれば、上記以外の作品も取り上げる。その場合、受講者の今までの履修を考慮してなるべく平成18年度前期以前の私の授業と重ならないように、作品や場面を選ぶ。

15.試験