平成17年度前後期 日本文学特殊講義
【ポイント】
サブタイトル:『平家物語』『義経記』の世界
「祇園精舎の鐘の声」「沙羅双樹の花の色」に始まる冒頭は余りにも有名である。しかし、諸行無常は、『万葉集』『伊勢物語』『源氏物語』『方丈記』をはじめとする多くの作品のいずれにも、多かれ少なかれ、共通する思想であって、『平家物語』を特徴づけ他の日本古典文学との違いを明らかにする美学は、もう少し別のところにあるのではなかろうか。本講義の第20週目までは、源平の盛衰を明らかにするとともに、様々な作中人物を通してその美学の美しさと悲しさを浮き彫りにして行きたい。
又、第21週目から第25週目までは、「悲劇のヒーロー」というイメージが定着している義経に焦点を当て、そのイメージとは異なる、かけがえの無い魅力も考えて行きたい。
【参考】として記しているのは、時代が違うものの、その週の中心テーマとして取り取上げる人物とよく似ていたり正反対であったりするため参考に供したい内容である。
前後期連続した内容であるが、前期だけ、後期だけの受講者も歓迎する。筆記試験は、前期期末、後期期末の実施する。
授業計画
1.〜2.平忠盛の台頭
周りが敵だらけの中に一人で乗り込み、冷静沈着に対処し、なおかつ敵の要求にも屈しないたくましい男性像を明らかにする。尚、第一週の前半は、ガイダンスを行う。
【参考その1】平安時代中期に政権を握ったのは、藤原道長であった。周りが敵だらけの中に一人で乗り込み、冷静沈着に対処し、なおかつ敵の要求にも屈しないたくましい、道長の姿を明らかにする。
3.〜4.保元の乱・平治の乱
いざという時に肉親や上司を裏切る場面が特徴的であることを明らかにする。
5.〜6.清盛の横暴と祇王
祇王が同じ不幸(平清盛の愛を失うという不幸)を共有することによって、友情を感じるタイプであることも論じる。
7.清盛への謀反の計画
小見出しのテーマの他に、俊寛が同じ不幸(鬼界が島への流罪)を共有することによって、友情を感じるタイプであることにも触れる。
8.高倉院と清盛
心優しき高倉院は「恐妻家」というより、むしろ妻・徳子の父である平清盛を恐れ、窮屈な思いをして寿命を縮めた。小督との恋愛を通して、そのことを明らかにする。
9.重盛死去から清盛死去まで
10.〜11.源義仲の盛衰と頼朝軍に拠る義仲討伐
小見出しのテーマの他、義仲討伐の際の一つのエピソードを読み、頼朝の部下の一人である梶原景季が同じ不幸(上司である源頼朝の信頼が得られないという不幸)を共有することによって、友情を感じるタイプであることも論じる。
12.〜13.源義仲の死と「一所に死なむ」の美学
小見出しのテーマを通して、義仲が同じ不幸(死)を共有することによって、友情を感じるタイプであることを論じる。
【参考その2】自らの死に臨んで尚後進の健康と益々の活躍を願った『古事記』のヤマトタケルを、義仲と対照的な理想的男性像として紹介する。
14.〜15.壇の浦の合戦
小見出しのテーマの中でも、特に、清盛の未亡人である二位尼が、同じ不幸(死)を共有することによって、孫の安徳天皇との間に絆の強さを感じるタイプであることを論じる。
16.平維盛の生き様
「一人死なむ」の美学。
17.〜18.六代の生き様
「一人死なむ」の美学。
19.〜20.平維盛の死その他
21.〜27.源義経と弁慶
抜群の運動神経を活かして一の谷の戦いと屋島の戦いに勝利した義経、むしろ頭の運動神経が良い弁慶について述べる。
義経が足を踏み入れた各地を実地踏査することによって、新全集『平家』に無い情報を提供したり、『義経記』大系・新全集の頭注で不明とされている和歌に私見を提示したりすることが出来るよう努める。
【詳細】
21.幼少期。なお、この週の前半には、義経及び『義経記』の概説もする。
22.合戦準備。弁慶とも出会い、平泉他奥州各地の急勾配の坂などで鍛錬する。【現地の映像あり】
23.一の谷の合戦、屋島の合戦。義経の運動神経と軍事的才能。【現地の一つである福原の北部の映像あり】
24.頼朝との不和。巻四の土佐坊の場面(〜120頁)など。
25.近江から越中へ。巻七の愛発山の場面(242〜243頁)など。
26.越後から東北地方へ。久我の姫君の和歌の素養と弁慶の臨機応変。【最上川の映像あり】
27.弁慶の立ち往生と義経の自害。
その他、時間があれば、下記の【参考その3】も。
【参考その3】韓信と劉邦。軍事の天才であった義経と、その主君であった頼朝との関係を、韓信と劉邦との関係を紹介しつつ考察する。
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