日本にも、子供たちに伝承されるものとして「わらべうた」がありますが、
日本のわらべうたとマザーグースの間にはいくつかの違いが見られます。
例えば、日本ではわらべうたが映画のタイトルに引用されている例はあまり見られませんが、
英米圏ではマザーグースは数多く映画のタイトルに引用されています。
映画での引用が多いということは、英米圏の人たちにとってマザーグースというものが
とても身近なものであるということを表していると言っても良いでしょう。
では、なぜこのようにマザーグースがたくさん引用され、わらべうたはあまり引用されていないかというと、
引用の目的がわらべうたとマザーグースで違っているからだと言えるでしょう。
まず、わらべうたの引用の目的から見てみることにしましょう。
映画『この子の七つのお祝いに』では恐怖感を高めるために、『花いちもんめ』では
痴呆症の老人が子供にかえるということを表すために、そして『うしろの正面だあれ』では
戦前の古き良き時代を表すために、わらべうたがタイトルとして使われています。
またこれらのわらべうたは、タイトルだけでなく、映画の中でも引用されています。
一方、映画おけるマザーグースの引用の目的は、大きく分けて8つに分類することが出来ます。
また、もう一つの大きな違いとして、「キャラクターの豊富さ」があります。
マザーグースには、Humpty DumptyをはじめとしてBo-peep、Georgie Porgie、JackとJill、
Simple Simonなど個性豊かな人物がたくさん登場します。
また、登場人物のイメージが人々に共有されているので、その人物名を出すだけで、
性格や様子、その場の状況などを端的に、かつ生き生きと表すことが出来るのです。
一方、日本のわらべうたにはあまり変わったキャラクターは登場しません。
どちらかというと、自然の風物を情感豊かに歌い込んだ唄が多いようです。
日本のわらべうたに比べてマザーグースの引用が多い理由としては、上記のもの以外にもいくつか考えられます。
「押韻効果による覚えやすさ、唱えやすさ」、
「シリアスな場面でもユーモアを楽しむ国民性」「引用を好む文化」などです。
とにかく、マザーグースは英米圏の人たちにとって「郷愁を感じさせる過去のもの」というよりは
「状況説明などで使える現在のもの」のようです。
「現在のもの」であるから、新聞や雑誌などの大人の世界にも頻繁に登場し、
映画でも数多く引用されるのでしょう。