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モダニズム文学 |
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モダニズムは前世紀の初め1910年頃に現れて、しだいに勢いを強めた文学運動である。第一次世界大戦後にジョイスの長編小説『ユリシーズ』や、エリオットの詩『荒地』などの代表作が出て、1920年代から40年あたり、第二次世界大戦前後にいたるまで、イギリス文学の主流を占めた。
モダニズムは文学の表現技法の面ではきわめて革新的であった。「意識の流れ」とか、「イメージの対置」とか、「神話的方法」など、多彩な表現法を案出して、文学的な革命を起こしたとさえ言われた。しかし、その基本的な理念、あるいは社会に対する姿勢という面から見れば、この運動はむしろ保守的であった。言いかえると、反時代的な一面をかかえていた。
この反時代的な立場を最初にはっきりと主張したのがT.E.ヒュームである。戦死した後で出版された批評集『思索集』には、「ヒューマニズムと宗教的な態度」、「ロマン主義と古典主義」その他の批評が収められている。
1919年に、ヴァージニア・ウルフは「現代のフィクション」という批評を書いて、当時の新しい作家たちの立場を明らかにした
ウルフの趣旨は、人間の精神の限界、認識力の限界を知れば、小説家の書き方は変わるはずであり、または変わらねばならない、ということである。ウルフが旧い作家たちの綿密な細部描写を攻撃するのは、リアリズム手法そのものを批判するからではない。彼らがいわば全知全能の立場に立って、ふつうの人間には到底うかがい知ることのできない細部の事実を描きだし、説明してしまう楽観的な態度を批判するのである。
エリオットは代表作の一つ『荒地』のなかで、「客観相関物」を徹底的に利用して、一種の神経症的な緊張感を作りだした。この詩の語り手は、文学者の引用を手がかりにしてヨーロッパ文学のなかに刻みこまれた時間と空間を自由に行きつ戻りつする。エリオットは引用をちりばめることによって、過去と現在という二種類の時間の同時性を作りだしたとも言えるのである。
イェイツは世紀末の唯美主義詩人の頃から、アイルランドの神話や伝説の世界に惹かれていたが、20世紀に入ってから、現代アイルランドの政治や社会のあり方に強い関心を持つようになった。初期の詩集『アシーンの放浪他の詩』などでは、憂いと嘆きの口調をもってひたすら夢幻の理想世界を追い求めたが、その後、演劇運動を通して、また、対英武力抗争や独立後の内乱を目のあたりにして、政治や実社会の苛酷な現実を詩の主題のなかに組み込まねばならなくなる。文体は厳しい調子に変わる。しかし、神話の世界や神話の人物に範を見る基本の姿勢は変わらない。したがって中期以後の詩集『塔』、『螺旋階段他の詩』ほかでは、神秘的な超自然と写実的な身辺の状況が融合して、独自の詩的世界をつくりだすことになった。ある意味で、彼の詩はモダニズムのそれと同種のものに変化したのである。