課題5を中心にロミオとジュリエットに対する私自身の自由な考察をしていく。
課題の内容を網羅しながら、今までに学んできた知識をもとに進めていく。

要約


Romeo and Juliet(以下、RJと略記)はShakespeareの悲劇の一つとしてよく知られている。
ヴェロナのモンタギューとキャピレットという二つの敵対する家にそれぞれ生まれたRomeoとJulietは仮面舞踏会で一目で激しい恋に落ちる。二人は神父ロレンスによって秘密に結婚をするが、ロミオがジュリエットの従兄を殺害してしまったことによって、二人の運命は急展開する。ロミオはマンチュアへと追放され、ジュリエットはパリス伯爵と結婚されそうになる。だが彼女は命を懸けてそれを阻み、仮死の状態となって墓地へと安置される。一方、ジュリエットの仮死の知らせを神父ロレンスではなく自分の召使から聞いたロミオは、それを信じ、ヴェロナへと戻り、彼女の側で毒を服用して果てる。仮死の状態から目覚めたジュリエットはロミオの死体を見つけると、神父ロレンスの言葉を聞かずに、彼の短剣で自害して果てる。

課題5ー考察

1. 宿命的な悲恋
From forth the fatal loins of these two foes
A pair of star‐cross'd lovers take their life;
Whose misadventur'd piteous overthrows
Doth with their death bury their parents' strife.
The fearful passage of their death‐mark'd love,
And the continuance of their parents' rage,
Which, but their children's end, nought could remove,
Is now the two hours' traffic of our stage; (The Prologue, 5‐12)

ロミオとジュリエットの恋が成就しないことは、プロローグで既に暗示されている。わずか数行の中に、fatal, star‐cross'd, death‐mark'd loveと三度もこの恋の悲劇性を宿命づけられている。劇の外枠だけが悲劇性を型どっているのではない。恋をするロミオ自身も自ら運命に左右されている自分を感じている。


ROMEO: I fear, too early, for my mind misgives
Some consequence yet hanging in the stars
Shall bitterly begin his fearful date
With this night's revels, and expire the term
Of a despised life clos'd in my breast
By some vile forfeit of untimely death. (I.iv.106‐11)


ROMEO: I fear, too early, for my mind misgives
Some consequence yet hanging in the stars
Shall bitterly begin his fearful date
With this night's revels, and expire the term
Of a despised life clos'd in my breast
By some vile forfeit of untimely death. (I.iv.106‐11)


宿敵であるキャピレット家の仮面舞踏会に出掛けたロミオは不吉な予感を感じて言う。「今のところ、まだ運命の星にかかっているある大事が(Some consequence yet hanging in the stars)今宵の宴をきっかけに、恐ろしい力を出し、忌まわしい生命の期限を不慮の死という形で清算することになるのではないか(despised life clos'd in my breast/ By some vile forfeit of untimely death)」運命の力を恐れる言葉はロミオだけでなく彼とジュリエットの結婚を執り行うロレンスにも見られる。「人間の力ではどうにもならない大きな力が、私たちの計画を阻んでしまった(A greater power than we can contradict/ Hath thwarted our intents.)」だが、ロミオとジュリエットの恋の悲劇性がはっきりと現れるのは、初めて二人が言葉を交わした巡礼の場面である。

ROMEO: If I profane with my unworthiest hand
This holy shrine, the gentle fine is this:
My lips, two blushing pilgrims, ready stand
To smooth that rough touch with a tender kiss.

JULIET: Good pilgrim, you do wrong your hand too much,
Which mannerly devotion shows in this;
For saints have hands thata pilgrims' hands do touch.
And palm to palm is holy palmers' kiss.

ROMEO: Have not saints lips, and holy palmers too?

JULIET: Ay, pilgrim, lips that they must use in prayer.

ROMEO: O. then, dear saint, let lips do what hands do;
They pray‐‐grant thou, lest faith turn to despair.

JULIET: Saints do not move, though grant for prayers' sake.

ROMEO: Then move not, while my prayer's effect I take.
Thus from my lips, by yours, my sin is purged. [kissing her]

JULIET: Then have my lips the sin that they have took.

ROMEO: Sin from thy lips? O trespass sweetly urged!
Give me my sin again. [kissing her again]

JULIET: You kiss by the book. (I.v.93‐110)


93行目から106行目までの二人が初めて出会う場面は、ロミオを聖地巡礼の使徒、そしてジュリエットを聖人像に見立てたソネット形式の会話になっている。
*ソネット=14行から成る近世ヨーロッパ文学の小押韻詩形。イタリアに起こり、ぺトラルカを始め、ロンサール・シェークスピアらが駆使した。14行詩。

巡礼たちの接吻は手のひらと手のひらを合わせることでなされるものだ、というジュリエットに対してロミオは唇にも接吻することを請う。それまでソネットを作り上げていた二人は口づけを交わした途端に、それをやめてしまう。

ジュリエットのsake (l.105)に対してロミオはtake(l.106)でカプレットで締めくくってはいる。だがその後に続くpurged, took, urged, bookはソネットを作り得ない。つまり、二人の言葉の掛け合いで作られてきたソネットは、二人が唇を合わせたときから中断されてしまう。これは二人の恋がこの世で成就しないことを暗示していると言えると思う。


 ではロミオとジュリエットの恋が悲劇に終わってしまうのは、彼らが運命という力に取りつかれていたという点に関しては、確かにロレンスは運命について「人間の力ではどうにもならない大きな力」と恐れを抱いていると思う。だが、彼がこういう言葉を言ったのは、彼自身が運命に対して闘ったからだ。それにもかかわらず、運命の力を変えることはできなかったとロレンスは言っていると考えられる。ロレンスの運命に対する闘いとは何か。そして、それもかかわらず、結局は運命の力に屈服せざるを得なかったのはなぜか。


2. 仲介者の存在 

ロミオとジュリエットの恋の運命を握るのは確かに運命であるが、二人に味方して、長年続いた両家の不和を解消しようとする人物がいる。A Midnight's Summer Dreamで言えば、恋人たちの仲を取り計らうよう精の王Oberonにあたる、ロレンス牧師である。オベロンと異なっているのはロレンスが人間であり、恋人たちの仲を取り持つためによう精が使った人間を眠らせるび薬ではなく、人間を仮死の状態へと導く薬である。

 ロレンスはロミオとジュリエットの恋を取り結ぶ人物であると同時に、この劇を進行させる人物でもある。このことはロミオが追放となってジュリエットの両親が娘をパリスと早急に結婚させようとするときにする傍白で分かる。

Fri. Lawrence: [Aside] I would I knew not why it should be slowed.‐‐

彼のこの言葉は、彼自身がシナリオを書いたという役割があることが分かる。「こちらの都合のためにもジュリエットとパリスの結婚を遅らせねばならない」というロレンスは、ロミオとジュリエットの運命を握る人物であるからだ。そのために、ロレンスとパリスの前でジュリエットが愛を誓う言葉‘I will confess to you that I love him' (IV.i.25)はロレンスにとってはジュリエットはロミオに対する愛を、パリスにとってはジュリエットは自分に愛を誓っていると二重に聞こえることになるととれる。RomeoとJulietの恋に関して、公にされてはいないが、ロレンスだけが知る事実が生じる。結婚はロレンスの元で秘密裏に行われている。二人の出会いから死までの4日半はこのロレンスという仲介者の存在なくして語られることは出来ない。モンタギューとキャピレットの不和は公の事実であり、だが、ロミオとジュリエットの出会いから結婚は本人とロレンス、乳母の四人しか知らない。ロミオがティボルトを殺害し、マンチュアへと追放になることは公のことだが、ロミオが仲介者の協力を経てジュリエットと一夜を過ごしたことは秘密裏に行われていたことである。ロミオが追放となると、物語りは急展開する。追放の後、ロミオは生きては二度とロレンスに出会うことなく死んで行く。Oberonが恋人たちの仲を見守るように、ロレンスはロミオとジュリエットの仲を最後まで見届けてやることはできないのだ。それはロミオがヴェロナから追放されたこと、そして時機のズレが各の人間に働いたためである。


3. 時間の影響


 時間がRJの登場人物に影響を与えること、そして時機のズレによって悲劇が生じるといえる。また、時間の言葉に関して若者と年者では使用する言葉が異なる。つまり、ロミオやジュリエットら若者は“slow"という語をめったに使わず、彼らの両親や神父ロレンスや乳母などはめったに“fast"という語を使わないためにこのことが言える。作品の中では確かにhasteは14回、earlyは15回、tonightは15回、という具合に「迅速さ」を表す言葉が多用されているが、ロミオやジュリエットの独白は長く、「迅速さ」を表す内容とは異なっているということが分かるからだ。


JULIET: It is too rash, too unadvis'd, too sudden,
Too like the lightning, which doth cease to be
Ere one can say it lightens. (II.ii.118‐20)


また、若者の“fast"で“passion"な行動に対して、神父ロレンスはロミオと次のような言葉を交わす。

ROMEO:but come what sorrow can,
It cannot countervail the exchange of joy
That one short minute gives me in her sight.
Fri. Lawrence: These violent delights have violent ends,
And in their triumph die, like fire and powder,
Which as they kiss consume. The sweetest honey
Is loathsome in his own deliciousness,
And in the taste confounds the appetite.
Therefore love moderately: long love doth so;
Too swift arrives as tary as too slow. (II.iv.3‐15)

ロミオは結果としてロレンスの説く「長く続く愛」ではなく、「初めて味わう激しい恋の喜びと苦しみを一瞬で感じる」ことになる。ロレンスという仲介者の存在があったときには不幸でありながら幸福を感じていたロミオとジュリエットの恋は、時機のズレによってロレンスの存在を失い行き急いだと捉えられる。

timingのズレはRJの中でプロットに影響を与えており、同時にhappy endingを妨げている。ヴェロナで起こったことは現実であった。二人の運命を握るのは神父ロレンスで、彼がジュリエットに与えたのは仮死の薬だった。ロミオとジュリエットに関しては、神父ロレンスは二人を最後まで見守ってやることができない。それは、この時間の持つ時機のズレが原因であり、その時機のズレが悲劇を引き起こしたと言えると思う。



このほかの時期のズレを挙げるならば、TybaltとMercutioのケンカの場面にRomeoが早く行きすぎたこと、CapuletはJulietとParisとの結婚を早く進め過ぎたこと、Romeoの召使のBalthasarがMantuaに早くつき過ぎたこと、また彼が早く毒を飲み過ぎたこと、一方でJulietが早く目を覚ましてしまったこと、Friar Lawlenceが早く墓地を去ってしまったこと、が挙げられる。これらの早すぎたことがもっと遅くされていたならば、RomeoがTybaltを殺すこともなく、追放になることも無かったと思われる。

他にはキャピレットがもっと早くジュリエットの結婚を勧めていたなら、彼女はロミオに出会うことはなかった。またロミオがティボルトとマーキューシオのケンカの場にもっと早く着いていればマーキューシオは死なず、ロミオもヴェロナから追放させられることもなかった。そして、追放されたロミオにロレンスは使いを出すのが遅すぎたこと、そして彼がジュリエットの墓地に行くのが遅すぎたことも挙げられる。もし彼がもっと早く着いていればロミオとパリスの争いを防ぐことができたと感じるからだ。ジュリエットが目覚めるのが遅かったこと、警官が彼女の命を救うにはやって来るのが遅かったこと、なども挙げられる。

そして、仮面舞踏会の日に、ロミオがジュリエットの家の召使と出くわしてしまったことも原因の1つであろう。。もし彼が召使に会わなければ、舞踏会のことも知ることはなく、出掛けなかったからだ。また、ロミオが、ジュリエットのバルコニーでロミオへの愛を語っている場面に巡り会わなければ、二人の愛はこれ程、急に燃え上がらなかったのではないかとも思われる。

 ロミオとジュリエットが初めて唇を交わした途端にソネット形式の会話が途切れてしまった点からは行き急いでいることが分かる。それまでの会話がソネット形式で展開していたのに急に変わったと言うことはこのように感じられる。また、彼らが結婚した途端に運命は急展開して行く。結婚後、一時間も経たないうちに、ロミオはティボルトを殺害してしまい、その後すぐに追放されてしまうからだ。


4. ロミオの追放

 若者の“fast"な時間に対して、それまでゆっくりと流れていたはずの老者達の時間もロミオ追放から早く流れ出す。それと同時に、ロミオとジュリエットは、ロレンスの手にも追えない程早く時間が流れだす。ジュリエットはパリスとの結婚の計画から、ロレンスの力を借り、命を懸けてロミオとの愛を守ろうとする。だが、ロミオはロレンス牧師の元から抜けてしまう。ロミオの時間は早く動き、彼はヴェロナを追放になってから二度と生きてジュリエットにもロレンス牧師にも会うことはない。ロミオがマンチュアにいた時間はわずかであり、彼の追放は残されたジュリエットが何をするのかを知らせないためである。もちろん、ロレンス牧師が知らせようとするが、時機のズレにより、ロミオが知ることは出来ない。ジュリエットが死亡したことは公にされるが、ロミオがヴェロナへ戻って来たことはロレンスすら知らないことであった。時機のズレによって、ロミオはロレンスの助けを借りられない。ロミオは追放された半日間、ヴェロナで起こった一切の出来事を知らされていないことになる。彼の半日間、ロレンスからの便りもなく、やって来たのはジュリエットが死亡した知らせであった。ロミオは「破壊の悪魔め、さすがに早いな」と言ってヴェロナへと戻る。だが、ロミオのほうがもう少し遅ければ、悲劇は起こり得なかったはずである。戻ったロミオはティボルトを殺害した後でが、もうロレンスにArt thou a man?と言われても屈しない。彼は生きることを選びマンチュアへと旅立った。しかし、今度は自害決心でヴェロナへと戻ってくる。

 彼は追放される直前、‘O, I am fortune's fool‘ (III.i.126)と言って運命から逃れられないことを悟っていると思われる。だが、再びヴェロナへと戻ったロミオは運命に対して闘いを試みている。

Will I set up my everlasting rest,
And shake the yoke of inauspicious stars
From this world‐wearied flesh. (V.iii.110‐12)


ここは、私にとって永遠休息の場であり
今こそこの暗い星の束縛を、この世に飽きた
肉体からふり捨ててやる。


ロミオはこう言い、自害する。これはロミオが自決した行動である。追放される前のロミオは、ロレンスの力を借りてジュリエットとの結婚をした。しかし、戻って来た彼は自分の力でジュリエットとの結婚を成立させた。ロミオの自殺は、結果としてジュリエットをも死なせてしまうが、宿敵の二つの家を和解に導き、死んでからではあるが、結婚を成就させることになった。