BOB DYLAN



60年代から70年代のフォークソングを語っていく上で、まず、ボブ・ディランは絶対欠かせない存在です。彼は1941年、アメリカミネソタ州に生まれのシンガー・ソングライターで、現在でも活動を続けています。1961年にはニューヨークに移り、フォーク・ブーム誕生の下地を作ったといわれているコーヒー・ハウスで演奏を始めました。ニューヨークでの初期の活動については、彼の尊敬するカントリー・シンガー、ウディ・ガスリーに捧げた曲 "Song to Woody" があります。そして1963年に出されたセカンドアルバムには、あの名曲 "Blowin' the Wind (風に吹かれて)" が含まれており、後にPeter Paul & Mary が録音してヒットさせることになります。皮肉なことにも、ディラン本人が歌ったこの曲はあまり売れなかったのです。また "Masters of War(戦争の親玉)" や "A Hard Rain's A-Gonna Fall(はげしい雨が降る)" など、反戦の声明が込められた曲が収録されています。ここでは、"Blowin' the Wind" をちょっと見ていこうと思います。この曲にはどんな思いが込められているのでしょうか?


Blowin' the Wind

How many roads must a man walk down
Before you call him a man?
Yes, 'n' how many seas must a white dove sail
Before she sleeps in the sand?
Yes, 'n' how many times must the cannon balls fly
Before they're forever banned?
The answer, my friend, is blowin' in the wind,
The answer is blowin' in the wind.

How many times must a man look up
Before he can see the sky?
Yes, 'n' how many ears must one man have
Before he can hear people cry?
Yes, 'n' how many deaths will it take till he knows
That too many people have died?
The answer, my friend, is blowin' in the wind,
The answer is blowin' in the wind.

How many years can a mountain exist
Before it's washed to the sea?
Yes, 'n' how many years can some people exist
Before they're allowed to be free?
Yes, 'n' how many times can a man turn his head,
Pretending he just doesn't see?
The answer, my friend, is blowin' in the wind,
The answer is blowin' in the wind.




どれだけの道のりを歩いたら“人間”と呼ばれるのだろうか。
どれだけ海を渡ったら鳩は砂場で休めるのだろうか。
どれだけ弾丸が飛んだら戦いは終わるのだろうか。

どれだけ見上げたら青空が見えるのだろうか。
どれだけ耳があったら人々の泣き声が聞こえるのだろうか。
どれだけ人が死んだらもう沢山だと分かるのだろうか。

どれだけ山は海に押し流されずにいられるのだろうか。
どれだけ人は自由を奪われたまま生きることができるのだろうか。
どれだけ人は見て見ぬ振りをして顔を背けることができるのだろうか。


この曲はプロテストソングとしても知られる名曲で、黒人差別に対する怒りや悲しみが歌われています。当時差別されていた黒人は "boy" と呼ばれ一人の人間として認められることはなかったのです。黒人たちは、"I am a MAN" という文字を掲げ、長い道のりを歩いて抗議しました。どれだけ歩いたら人間として呼ばれるのか、そんな黒人たちの思いからこの曲は始まります。そして様々な質問が投げかけられています。しかしその答えは“風に吹かれて”・・・。黒人たちがどれだけ苦しんで、どれだけ抗議をしても差別が完璧になくなることがない悲しい現実が見られます。
60年代半ばから、公民権運動は白人保守層から激しい抵抗にあいつづけ、平等権を求めてアメリカ黒人が暴力にうったえることが多くなりました。そうするとキング牧師は非暴力運動の先頭に立ち、平和で平等な社会を目指し活動しました。そして、人種差別撤廃の運動に共感する白人シンガーたちも公民権運動を支持するようになったのです。その中のひとりがボブ・ディランで、音楽を通して様々な政治的・社会的問題を訴えかけてきました。この曲は、当時の時代背景を知るには本当に欠かすことのできないものであり、現在でもその意味を十分に伝えてくれる名曲だと思います。