歴史の遺産

英国貴族の紋章の中に一角獣が多いのはなぜかご存じですか。

ライオンが百獣の王として王と関係するのは誰でもわかるでしょうけれど。もちろん一角獣がスコットランドを表し、ライオンがイングランドを表し、それぞれの王家を象徴するからという説明は出来ます。実際現在の英国女王エリザベス二世の紋章をみても、両側からライオンと一角獣が楯と王冠で出来た中央のものを支えています。けれど、ではなぜライオンと一角獣なのでしょうか。こういう問題は案外複雑です。

この問題について講義しろといわれたら、シェイクスピアばかりか、マードックの小説から心理学、科学史まで持ち出して・・・ということになります。そして、それが現代社会のひずみ(湾岸戦争からコソボ紛争まで)と直接関わっているのです。

一角獣とライオンと薔薇は英国の成立に深く関わっています。それはまさに歴史の遺産なのですが、歴史的に説明すれば事たれりというものではありません。英国人の心理の深層にあって、現代でもイギリス人が恋愛するときにも、ボランティアでコソボに出掛けてゆくときにも作用するものです。古英語で記述された文学から現代文学までを刺し貫き、高度な政治の問題であると同時に生活の問題でもあります。その意味で英国はとても古くてとても新しい国です。だから、その演劇、小説、詩に触れると面白いことにぶつかるのです。