★☆★作品について☆★☆ |
[著者(?)ガリヴァー] |
『ガリヴァー旅行記』は実在のレミュエル・ガリヴァー(Lemuel Gulliver, 1660-)という人物が書いたもの,という形式をとって出版された。 ガリヴァーは1660年にイギリスのノッティンガムシアに5人兄弟の三男として生まれ,14才でケンブリッジ大学に入学し,3年ほど学ぶが,学費の負担が大きく,医師のもとで見習いとして働きはじめる。ついで1681年から3年弱の間オランダのライデンで医学を学んだ後,船医として三年半過ごす。その後,独立して開業するが,まもなく経営が思わしくなくなり,再び船医として航海に加わる。ところが,船が難破したり,嵐で漂着したり,海賊に襲われたり,船員の反乱がおこったりした結果,見知らぬ世界での4度にわたる冒険に巻き込まれることとなる。1715年にフウイヌムから帰国後は,ノッチンガムシアのニューアーク近くに隠棲した,という設定になっている。『ガリヴァー旅行記』の巻末には,「ガリヴァー船長より従兄シンプソンへ宛てた手紙」「出版者(=シンプソン)より読者へ」が付け加えられている。 しかし,実は,これはすべてスウィフトのでっちあげなのである。「ガリヴァー」という名前も,「愚か者」の意味の造語である。スウィフトはかなり手の込んだ芝居を打って,いかにもガリヴァーという人物が実在するかのように装っている。 スウィフトはどうしてこんなことをしたのだろうか。一つには,『ガリヴァー旅行記』でスウィフトは当時の有力者たちを,明らかにそれと分かる形で登場させ,皮肉っているため、本名で公表するのは政治的にも宗教的にも危険すぎた。 もう一つには,このスタイルを他の人から真似たということもある。架空の著者による見知らぬ世界の冒険譚の形式をとって社会批判を行うというスタイルは,すでに『ガリヴァー旅行記』の200年ほど前に出版されたトマス・モアの『ユートピア』に見られる。これはスウィフトの愛読書でもあったといわれている。 |
[旅行記の構成] |
『ガリヴァー旅行記』は4部からなっている。「リリパット(Lilliput)国渡航記」,「ブロブディンナグ(Brobdingnag)国渡航記」,「ラピュータ(Laputa),バルニバービ(Barnibarbi),ラグナグ(Luggnagg),グラブダドリップ(Glubbdubdrib)および日本への渡航記」,「フウイヌム(Houyhnhnm)国渡航記」である。 リリパット国はいわゆる小人国。身長6インチ(15cm)ほどの人の住む国で,海を隔てたブレフスキュ(Blefuscu)国と,卵を食べるときとがった方から先に食べるか否かで,対立している。リリパット国はイギリス,ブレフスキュ国はフランスを暗に指しており,この部分では当時のイギリスの政治(特に戦争,奴隷制度,植民地主義など)を皮肉っている。 ブロブディンナグ国は巨人国。リリパットとは逆に,人間の12倍の身長の巨人の住む国である。この国は農業国で平和が保たれ,スウィフトはおおむね好意的に描いている。 ラピュータは空飛ぶ島。ラピュータには支配者が住み,その下の陸地がバルニバービと呼ばれている。この箇所では,科学者たちの奇妙な研究が揶揄され,科学技術とか進歩といった考え方(啓蒙主義)がやり玉に挙げられている。 フウイヌム国は理性を持ったフイヌムが支配する国で,人間によく似たヤフーと呼ばれる動物が登場する。ヤフーは人間に似た姿だが,野蛮で下品な下等動物として描かれている。一方,フイヌムは馬の姿をしており,この国におかれたガリヴァーは何が正常で,何が異常なのか,かなり混乱してしまう。 |